3話
2014 6/11 大幅改稿というより2000字くらい追加しました。
どうしたものかなと考えていると頭に直接響く声が。
人類に損害を与えたことにより【全知無能な女神】の祝福が与えられました、情報が開示されます。これからも人類に恐怖と混沌を与える魔物の救世主たらんことを―――――。
『この世界は八割が人類によって支配されています。多くの魔物は殺され、隷属され日々酷い仕打ちを受けています。このままでは人類によって魔族は絶滅させられてしまうでしょう。
だから貴方という魔物の救世主が必要なのです。どうか人間を滅ぼし、魔物を救って下さい』
よくわからんアナウンス流れた。
エ~、つまりどういうこと?幼女を救った俺に人類を滅ぼせと?
人選ミスにも程がある。
そもそも、小鬼達に訓練をつけてやっただけで、俺が殺したわけでは無いのだが……
ヒーラーが間接的に経験値を貰うようなものか?
何はともかく、【全知無能な女神】の加護を受けたおかげでこの世界の事が少しわかった。
昔はもっと魔族とか亜人とかたくさんいたらしい。
人間も多くの種族の中の一種族に過ぎず、あまり力の強い種族ではなかったらしい。端的に言えば、弱かった。
弱かったからこそ頭を使い、武器を使い、技術を深めていった。
人間だけが貪欲に力を求めた。
そうして人間だけが日進月歩して徐々に力をつけ、魔族の半数は根絶やしにされ、亜人や一部の魔族は奴隷にされてるのだと。
正直、胸くその悪い話だと俺も思う。同時によくある話だとも思う。
地球でも似たような話はいくらでもある。インディアンとか平家とか。
誤解を恐れず言ってしまえば魔族も亜人も悪い。
いくら強くても何もしなっかたらそりゃあいつかは抜かれるわ。
そんなものとっくにウサギと亀が証明している。
今回は勝った亀がウサギを奴隷にした。それだけだ。
違う世界から来た俺から見れば、どっちもどっちな気がする。ドライって気がしなくもないけど。魔物の危機とかどうでもいいっす。
問題は俺もその魔物側だって事だ。非常に不味い。何が不味いって奴隷ってのが非常に不味い。死ぬのはもっと嫌だ。
第二の人生をもっと謳歌したい。もっと世界を見てみたいし、俗な事を言えば、童貞のまま死ぬのは二度とごめんだ。
対策をとかつてないほど頭をフル回転させる。
だけど、異世界に来たばかりの凡人の俺にはどうしようもない。
まあいい。凡人の俺でも時間で補えば、それなりの案が出てくるだろう。
それよりも目先のことに集中せねば、殺してしまった人間の処理をどうにかしなければ。
もし、世界が本当に魔物に厳しい社会だというのなら、人間を殺してしまった俺達の立場は非常に厳しいものとなる。
よく分からないけど、危険動物扱いとか受けそう。きっとそうに違いない。
だから俺は慎重に死体の処理を考えねばならない。
まず、この青年の同行者か知人かが捜索しに来るかもしれない可能性をほとんど切り捨てていいだろう。
森の中で一人の人間の行方を探すというのは至難の業である。
現代日本なら捜索もあり得ただろうが、この青年の格好を見る限り文明はそう発達したものではないだろう。狩人ならば弓矢ではなく猟銃をもっているはずだ。文明レベルもそう高くはないだろう。
ファンタジーにありがちな中世レベルの文明しか持ち合わせていないはずだ。
だろうだろうと推測ばかりだけど、こればっかりは仕方がない。情報が足りんのだから。そもそも食ってしまったものは仕方がないし……
まあ、ほんのわずかな可能性ではあるが、捜索する可能性もありうるので念のため兄弟達に骨も残さず、食べてもらうことにした。遺骨すら見つからなければ、捜索隊も諦めるだろう。
流石に同族を食うなんて言うことは俺にはできそうにないので仕方なく俺は同族である小鬼の死骸を食べることにした。
どっちにしろ同族を食うはめになった俺は辟易するはめになったのだが。
小鬼の味は今までで一番不味かったが、ある意味ほっとした兄弟達を食材に向ける目で見てしまうのはさすがに悪い。
ちなみに狩人の青年の服と弓矢は俺が拝借させて貰った。ちょっとブカブカだけどまだ成長期なのですぐにちょうどよくなるだろう。
着心地を確認して、その日の活動を終えた。
【特殊才能】《タレント》【■■■■】が開花しました。
ん?
何か聞こえた気が……ねむーzzZ。
目覚めると小鬼達の様子がおかしい。
槍の穂先を削り直したり、粗末ではあるが毛皮で出来た腰巻きや巻頭衣を作る個体までいた。それだけなら俺の真似をしたのかなと思わなくもなかったが、群れで円陣を組んだかと思うとその中で一対一の模擬戦を行ったり、さらにその結果でヒエラルキーを自分達で決めたりと。
……なんか妙に知的な行動をとるようになっていた。
変化はそれだけじゃない。シワだらけの老人のように醜かった顔が、少し人間らしくなった気がする。
まあ、それでもかろうじて人間かなあって判断できるブス、ブ男集団なのは変わらないが。
推測でしかないが、昨日食べた人間の影響かと思う。
本当に仮説でしかないのだけれど、昨日の狩人をより食べていた小鬼が一番人間らしい行動をとるようになっているのが、仮説を裏付けているようにも思える。
考察を続けているとまたしても脳内にアナウンスが流れた。
【小鬼】《ゴブリン》。鬼種小鬼科。生まれたて弱く醜い種族ではあるが食べることによってより強靭に美しく変化変体する魔物。しかし、生態系最弱な魔物のため魔物のみならず、普通の動植物にもやられてしまうため成長できる個体は非常に稀である。そのためたまに売り出される美形な個体は非常に高価で性奴隷にされることが多い。また、力も強いため労働力としても使われている。
備考:取り込んだ生物によって成長速度や成長後の変化が異なる。育成には注意してください。
女神ぺディアマジ便利だわー。と感心。
……誰かの爪を煎じて飲めとはいうけど、実際効果が出るのってどうよ…。
小鬼の生態の異常さに半ば呆れながらも驚く。
ファンタジー生物の構造にドン引きだよ。
変化したのは兄弟だけでなく俺にも変化があった。
『ニいニイ、ごはンにするそれとも…ワたシ?』
『かいタい、おシえてくダさい、兄様』
『そンなことヨり、アニキ、バトろうゼ!!』
兄弟の言葉が少しではあるが聴きとれるようになったのだ。
それにしても、意外と個性的な兄弟だったようだ。今までどんなこと言われてたんだ
、俺?
この突然の変化は俺が小鬼を食べたのが原因なのか?
小鬼と同じ種族である俺にもそういう特性があってもおかしくはないのだけど。
なんだかしっくり来ないンだよなあー。
自分でも分からない感覚に首を傾げる。
まあ、いいか。ただ自分がそんな面白体質になったのを認めたくないだけかもしれないし。
頼まれた通りに、兄弟達のご飯を調達して、簡単な講義を開いてそれから小鬼達が音を上げるまで絞り上げた。
兄弟達よ。何故そんな目で睨み付けてくる?
余談ではあるが、ヒエラルキーのトップスリーは全員妹だった。妹ツエー。
弟たちは涙目だったのと鬼父を彷彿させて哀れだったので、その日の晩飯は弟達にお肉を少し多目に分けてあげた。
鬼父は今日も山菜とりに精を出していたようだが、今日は芋虫型の魔物ーーモス(俺命名)に糸で簀巻きにされていたのを保護した。後、もう少しで芋虫の栄養になっていただろう。
鬼父もガクブルしてた。
その後遺症で、鬼父はその後一週間引きこもることになるが鬼母に蹴り出されて再び、山菜とりに出掛けるようになる。その半分は毒草なのだったけどな。
親父よマーブル色のキノコとかマジやめてくれ。食ったら死ぬ。
今日も兄弟と俺とで別れて狩猟。俺の方は探索が主にではあるが、獲物もついでにとってくるという流れに稲作が加わった。
正確には稲であるかどうか知らん。色は紫してるし形状は丸いし、俺が知っている稲とは程遠いが【全知無能の女神】に確認をとってみたところ、炭水化物であることは間違いないらしい。
【全知無能の女神】も俺の疑問に全て応えてくれるわけではないが、指差して問いかければ応えてくれる。
そこそこに便利すぎるな。一家に一台女神様だな、うん。
実家が農家だったため、一応のノウハウがあったし、森から採取した種を植えて俺は畑を作ってみた。森の空白地帯につくった小さな畑ではあるが、繁殖力の強い植物を選んで植えただけあって、成長が早い…らしい。
らしいというのも…まだ植えたばっかだし。芽も出てないし。ファンタジー植物だし、まるで予測がたてられんのだ。
肥料も畑面積も稼げない現在、農作物そのものの繁殖力に期待するしかない現状。せめて、鋸でもあれば伐採して開拓出来るのだが。
兄弟達の反応はというと、俺が何をしてるのかさえ理解してないようだ。不思議そうにこちらを窺って様子見。たぶん、狩猟以外の食糧確保の仕方を知らないのだろう。
縄文人に見られる弥生人とはこのような気分だったのだろうかと考えながら畑を耕した。
もう少し賢くなれば、兄弟達にも手伝わせて、農村を作るのも悪くないかも。
ニードルラビット(女神ぺディアより)目掛けてキリキリと限界まで絞っていた矢を放つ。ズドンッ、弓矢の着弾音と言うより銃声に近い激しい音をたてたが。
「また、外れか…」
目測三〇センチ上にずれ、木に深々と突き刺さっていた。
ニードルラビットは当然、音と共に逃げ出していた。
最近、狩人から追い剥ぎした弓矢の射的練習をしているのだが、成長の見込みがない。自分でも向いていないのではと内心思ってはいる。それでもここ数日、飽きずに特訓しているのは自衛のための選択肢を増やすためである。魔法があるかどうかは知らんが、遠くから一方的になぶられるのはゴメンだ。増やせる選択肢は増やすべきだろう。
そんな訳で才能がなかろうが、構わず打ち続ける。努力は裏切らないらしいからな。信じてないけど。
でも……
「いちいち、矢を取りに行くのは手間だよなあ」
たまに折れることもあるから、矢の製作にも着手しなければならないようだ。
正直、面倒過ぎるな。
まあ、我慢のしどころだろうな。
森を探索していると、またしても人間を見つけてしまった。しかも、今回は複数だ。三人…いや後ろから一人ついてきているので四人が集団となって、森を歩いている。三人は武器を所持しており、一人は大きな鞄を背負っている。
相手は木の上にいるこちらに気づいていない。奇襲するならば、一人は簡単に殺せるだろう。
さて、どうするか……。
頭の中で選択肢を並べる。そのなかには当然のように皆殺しというカードも並んでいた。
人を殺すことはいけないことだ。この言葉は正確ではない。人を殺すことは基本いけないことだ。
ここ二ヶ月、醜豚鬼や小鬼のような人型の魔物を狩っていくうちに構成された俺の持論である。
人間は必ずしも殺してはいけない生き物ではないのだと俺は知っている。
特にこの世界の命の重さはやけに軽い。自動販売機で気軽に買える程度の価値しかないのだから。
「一人ラチるか」
この先、奇襲できるチャンスなんて来るか、どうかも分からない上、倒して、兄弟達に食べさせれば、飛躍的な知識の向上を望めるだろう。相手の実力は未知数ではあるが、見返りはかなり美味しい。このまま見送ってしまうにはあまりに惜しい相手なのだ、人間って。
色々と食べさせてみたはものの知恵を上昇させる獲物って人間だけなんだよね。
というわけでいただきまーす。
彼等が丁度、真下に通りかかるのを待ち、奇襲をかける。
木に足を引っ掛け、一番後ろの荷物持ち掴むと腹筋だけの力で持ち上げ、音もなく拐う。
完璧だ。おそらく、前の連中は誰一人気づかなかっただろう。
そのまま担いで、住処へ戻ることにした。
荷物持ちの男を兄弟たちに渡すと妹鬼の一人が率先してサドい笑を浮かべながら解体して《ばらして》いた。
どこで性格が歪んだのかお兄ちゃんわからん。
肉塊になった荷物持ちを兄弟たちに分け与えると荷物を漁ることにした。
わくてかわくてか。
荷物の中身は食糧、水から始まり、よくわからん紅く輝く石ころ(後で女神ぺディアで確認したところ火精石と呼ばれる物らしい)解体用ナイフ、緑色の液体(女神ぺry…)ポーションらしい等中々便利アイテムが多数出てきて、嬉しい戦果である。
無茶をおかした甲斐があったというものだ。
あと、私物か本が数冊あった。
【初級魔導書】【アスラ流剣術初心編】
何故荷物持ちがこんなの持っていたのかは謎だが、これはかなり有用だ。幸い女神ぺディアの影響か文字を読むのに苦労はない。
今の俺には間違いなく主人公補正がついてる。
俺は実験的にバトルジャンキーな妹鬼と灰色の身体の大きい弟鬼にアスラ流剣術を教えてみることにした。弟鬼を入れたのはあれだ。男の子への温情?女だけ強くなってもいつか歪みとかできそうだし、バトジャン妹鬼も同じくらいの力量の対戦相手とか欲しいだろうし。
まあ、最初は辛いだろうが弟鬼。男子の地位向上のためにも是非頑張って欲しいものだ。
【初級魔道書】の方だが、導入編から挫折気味。どうも魔力だか、オーラだかが見えないと話にならないらしい。あいにく俺にはそんな幻覚症状が見えたためしがない。
ん?サド妹鬼どうした?え?見えるのマジで?
というわけでサド妹鬼には初級魔術を教えることにした。
なんつーか鬼に金棒というよりヤンデレに包丁ですね。それよりも拷問官にアイアインメイデンかもしれんが……
魔法使えないのはそれなりに残念だが、俺が使える必要は全くないし、必要もしていない。
その日は本の読み聞かせと実践を行い、その日は終了となった。