2話
小鬼の成長は速い。たった一ヶ月で100センチ程の身長が130センチにまで成長した。俺も小鬼ほどではないけど成長が速い。10センチ程伸びた。
いよいよ、兄弟たちの初狩猟。鬼いちゃんが影から応援してるから頑張れ。
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1時間後
結果は惨敗。狩猟数0。捕獲数0。良いとこもないし見るとこもなし。鹿には蹴られるわ、俺が割って入らなかったら臭豚鬼に殺されかけるわ危なっかしくて見ておれんわ。
えっ?親父が特別弱いんじゃなくて小鬼っていう種族が弱いの?
そんなことに俺はようやく気付いた。
兄弟と言うか小鬼という種族は馬鹿だ。数が多いけど馬鹿だからパーティーなんて組まないし。武器も使おうとしない。徒手空拳というか主に爪。徒手空爪だ。
そして弱い。緑、赤、青、茶と色分けされてるけどにこれといって個体差はない、皆平等に弱っちい。
だが、偉大なる姉の言いつけを守らなければならない俺としては堕落しきった兄弟を調きょ…強くする義務があると思うんだ。いや、ホントはないかもしれないけど見てられないし心臓に悪いし。
兄弟たちもなんか途方に暮れちゃってるし。
明日から俺たちどうしようって目で俺を見てるし。
哀れだ。
俺が面倒見なくてどうするよ。
それに姉に頼られたことなど一度もなかった俺としては誰かに頼られるというのは割と嬉しい。
よーし、頼れる鬼いちゃんがその悩みズバッと解決してやろう。
そんな訳で木を削って兄弟の武器と防具を作ってあげようかと武器を持つと三倍強くなれるっていうし。
やっぱり基本槍だよね。剣の三倍強いんだぜ。つまり、徒手空爪の兄弟たちに持たせれば九倍強くなれる計算。そんな計算通りいくわけないとか資質がどうのこうのあるかもだけどはっきり言ってそんなもの統率された集団行動の前ではゴミだ。
突出した才能も数には勝てない。なかには例外もいるけどおおよその真理だと思うよ。
因にだが突出した例として偉大なる姉がそれに該当する。この前のアレもおそらくその一端をになっているだろう。姉には劣るだろうけど。
姉には決して誰も勝てない。
今の俺が超人的というなら姉は怪物的だ。
少し私事の話をしよう。
俺はそこそこ格闘技を使える。『姉を守れ』と父に頼まれたからだ。偉大なる姉にはあまりに先進的でエキセントリックなために姉の深遠なる考えを理解できない輩も多く対立する人間は後を絶たなかった。
姉を守るために身に付けた手技は客観的に判断してなかなかだと思う。
中学生の全国総合格闘技で地区優勝を果たす程度の実力はあった。
ちなみに県の大会は出なかった。父に言われていた目標である地区優勝を果たしたからいいかなと、それに同年代の実力にこの程度か、と失望と脱力感を感じたからだ。
俺の習っていた武術は通信空手という触れ込みだったのだが投げ技は有るわタックルは有るわプロレス技までついてるのだから正直自分が何を習っていたのか解らなくなるような通信空手だったがそれでも強くなれたのだ文句は言うまい。ただ、武術は当初の目的である姉を守ることに十二分に役立ちは……しなかった。
文武両道を地でいく偉大なる姉は学問、スポーツ、芸術問わず圧倒的の成績を残していた。そんな姉が俺と同じ武術を始めた。
三日後、姉と仕合ったらボコボコにのされた。
試合で投げ技を仕掛けようとした俺の手を合気道によく似た投げ技で返され、俺はいつの間にか天井を仰いでいた。
というか、投げられた事すら気づかなかった。
姉のきれいな顔で「まだやる?」と聞かれてようやく、自分が手も脚も出ずに負けたことに気づかされた。
正直、この時ほど姉に劣等感を覚えたことはなかった。
同時に自分が限りなく凡人なのだと悟った。同年代で負けなしだったことくらいで天狗になっていた自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
俺はそれから格闘技を辞めた。
天才は凡人が何十年と積み重ねた研鑽をたった数日で飛び越えていくことを言うのだなとこの時、実感した。
だから俺は姉のような極端な例外が存在することを知っているし、同時にそんな相手の対策をたてることの無意味さもよく知っている。
災害に対して人間にできることはただ一つ。立去るのを待ってそのあとの補修作業。それだけだ。
二時間後、ようやく兄弟たちの武器が出来上がった。
つっても木を削っただけだけどな。
ナイフなんてないから自分の爪で削ったりして作ったから思ったより時間がかかった。
所詮木だからな攻撃力なんて期待できないけど遠くから攻撃できるってのはいいことだ。上手く使えば、一方的に攻撃できる。
小鬼はどうだか知らないけど人間だったら恐怖心とか罪悪感も薄まるし。
続いて、チームワークの指導をしてあげた。
チームワークといっても一人が囮になって引き込んでから槍でブスッっていう至極単純なものだけど。
言葉通じないし、小鬼達は馬鹿だから一時間くらいかかった。
うん、これだけやればオークごときに敗走なんて惨めな結果にはなるまい。
今日は小鬼達も限界そうなのでこれくらいにしとこう。
明日は今日の動きを確認してリベンジといこう。
昨日の特訓の成果か、小鬼達の動きは明らかに機敏になった。
自分達であのあと練習したらしい。ハードワークは逆効果なのだが、やる気があるのはいいことだ。
俺もそういうのあまり嫌いではない。
これならイケるだろうということでゴーサインを出す。
俺は俺で言葉が通じる人間もしくは他種族を探すために辺りの調査をしてこようと思う。正直、この前みたいなことがないか不安だがいつまでもこのままというのは俺の本意ではない。この前のアレはなかったことにして再度森の奥深くに行ってみる事にした。
前は東へと探索を進めたから今度は西へ探索範囲を広げてみる。どうも俺の家、森のちょうど中央にあるみたい。森は行けど終わりが見えず、万遍なく探索しようと思ったら結構大変。
森の茂みから俺のコミュニティとは別の小鬼コミュニティを発見した。
一応、挨拶がてら話をしようかと接近してみる。
俺もこんななりしてはいるけれど、小鬼だからな。挨拶はしておくに越したことはないだろう。
『どうも~お隣の者です~あっこれつまらない物ですが~』みたいなノリで先程狩った蝙蝠肉を手に持ちながら近づくと。
襲われた。
小鬼集団が一斉に飛び掛かってきた。
咄嗟の事で反応が遅れたが、所詮は小鬼。一発いいのを貰ったが戦闘不能には程遠い。襲いかかる小鬼を両手で右から左へと捌いていく。
数分後、鎮圧完了。
一応、同族ということで手加減しながら捌いたが、同士討ちがあったのか当りどころが悪かったのか一匹死んでしまった。
何故、襲い掛かって来たのか聞こうにも全員気絶していてそれもできない。
小鬼弱過ぎ。
というか、今更ながら俺の言葉通じないから事情を聞こうにも聞けない事に気づいた。
アホか、俺。
まあいい、これからは気を付けよう。
今回はアレだ。お互い不幸だったということで。
帰ろうかと考えた時、先程まで手にあった蝙蝠肉がないことに気づく。
戦闘中落としてしまったのだろう。
さすがに死んでることは無いだろうが兄弟達は今日も手ぶらかも知れない。
俺も手ぶらで帰れば、今日のご飯がない、
どうするかと思案に暮れていると、殺してしまった小鬼が目にはいる。
同族喰いはまずいだろうと考えたが背に腹は変えられない。
子供に苦手な物を食べさせるように小さく砕いて丸めて見た目分かんなくしてから兄弟達に食べさせればいいかと思い死んだ小鬼を担いでその場を後にした。
アレだ。好き嫌い良くない。
兄弟達は俺の予想に反しちゃんと獲物を狩ることに成功していた。
軽く驚いて目を見開いた。兄弟達は思ったより素養があったみたいだな。少なくとも今日相手した小鬼達よりは全然強い。
ふむふむ、よくやったぞ兄弟よ、と誉めたたえながら獲物を横目で見るとさらに驚いた。
というのも兄弟達が狩ってきたものが想像の斜め上を行っていたからだ。
身長は160センチ前半。獲物には毛皮がなく、肉を切り裂く鋭い爪も牙もない。その代わりに手にはしなやかな木に弦が張られた物が握られていた。性別は雄。
胴体にはいくつもの槍が突き立てられているが、間違いない。これは――――
――――人間だ。