1話
とりあえずありのままの事実を話すぜ!
い…いや… 体験したというよりは まったく理解を 超えていたのだが……
車にひかれて死んだかと思ったら俺こと人喰一は鬼に転生していた。
な、何言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされたか分かってねえ
頭がどうにかなりそうだ、勇者召喚とかデスゲームとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
今から実況するからよく聞いてくれ!
学校の帰り道なんとなく道路を眺めていたら信号を渡ろうとしていた幼女がいた。微笑ましいなと思っていたら居眠り運転のトラックが猛スピードで突っ込んできていた。
俺は偉大なる姉に「困ってる女の子を見つけたらすぐに助けなさい……でも、助けた女の子が弟に惚れるかもしれないわね、なんたって私の弟なんだし。うーん……今の取り消し。弟の守備範囲外の年齢の女の子がピンチだったらすぐ助けなさい。それ以外の女は寧ろ積極的に見捨てなさい。いいわね」と言われていたのを思い出していた。
俺は幼女を守備範囲にするようなロリータコンプレックスでもペドフィリアの変態でもない。ただの姉好きの高校生だ。よって助けることに躊躇などあろうはずもなく、勢いよく飛び出していった。
車の前に飛び出したら自分がどうなるかなどそれこそ子供でも幼女でもわかるような事すら理解せずに。
それから起こった出来事をまとめるとこんな感じ。
1.かっこよく幼女かばってキランッてしていたら車に轢かれた。
2.マジ主人公かと思った次の瞬間ミンチにされていた。
3.幼女をかばって道路のシミになる!
4.次、目覚めたら鬼になっていた。←今ココッ!
3と4の間ぁ?ねえよそんなもん。
目覚めたら母親と思しき面が目の前に鎮座していたそれだけだ。
目の前の化け物がどうやら俺の母親のようだ。顔はというと家畜のそれで酷く醜い。肌の色からして緑色でキモい。腹はみっともなく膨れ上がり粗末な布から肥え太った脂肪がはみ出している。これが母親とか生理的に無理。
俺の容姿も押して知るべしと思いきや近くにある池でで確認してみると意外と人間らしい面構えをしていた。つりぎみだが切れ長の瞳、 筋のとおった鼻筋、肌は燃えるような赤銅色、唇は薄く隙間から犬歯が見える。身長は150センチ程だがしなやかな体つきはどこかチーターのような素早い肉食獣を彷彿させる。少し野性味が強いがなかなかの男前と言ってもいいかもしれない。
人間にはない部位―――捻れた角が額から一本生えていたことを抜かしたらの話だが。
正直、最初見たとき俺かっけえー、人間でいた頃の俺よりカッケーと思ったがどう見ても悪人顔――――悪鬼顔です。ありがとうございます。
角が生えてたから目の前の母親と同種なんだなと認識。それがなかったらこんな特殊メイク顔、誰が母親と認識するか!
赤子時代の記憶は俺にはないからそこら辺はどうも判断に困る。正確には今自分が何歳なのかすら解っていないのだから。
周りには母親によく似た特殊メイク顔の小鬼がいる。それはもう、うじゃうじゃと50匹くらいいる。見た目は違うけど多分俺と同種つまり兄妹、俺の一家は大家族だ。俺醜いアヒルの子状態。
そして小鬼たちが住んでいるのは建物の中ではなかった。 木々が青々としげる森の中、文明らしきものはない。そんな場所に俺はいた。
周囲は木だらけ、三本以上あるから森と言ってもいい。あと近くに洞窟あった。あそこに住んでるっぽい。夢の竪穴式住居。文明が縄文時代レベルでマジ泣ける。
現状確認終了。
で?何したらいいと思う?
うん?母ゴブが何か言っている。
「■■■■■■」
言葉わかんねえ。が、この表情見たことあるぞ!
現代風に訳すなら「もうあんたもいい年なんだから親のスネかじってばかりいないで家にお金入れてよね!」という目だ。
スイマセン、働きます。そんな目で見られるとめっちゃ心苦しいです。
働くといってもお金を稼いで来いというわけではないだろう、多分。獲物、餌とかそういう類の物を獲ってくればいいはず。
という訳で初狩にレッツゴー!
森の中を駆け巡って獲物を探す。大地を踏みしめる足は想像以上に力強く、速い。想像以上に自由に動く体に驚嘆する。
子供みたいな身体のくせしてすごい身体能力だ。
50メートル5秒台とか人間業じゃねえ。いや、ホントに人間やめてるけどさ…
そんな超人じみた身体能力もあり、結構簡単に獲物がとれた。内訳、兎二羽、鹿一頭。兎と鹿と言ったものの地球に似た生き物で称しているだけだ。俺の知っている兎に目は三つもないし、鹿の背に鱗なんか生えていない。
分かってはいたけど本当異世界なんだなココ。
家族たちのもとに戻ってみんなで晩餐。塩もこしょう無いので生でばりばりと食べました。違和感なく食べられる自分に違和感を感じつつも美味しく頂いた。
ご飯を捕って来たのは俺だけ、どうやら他の兄弟はまだ狩りに行けるほど育ってないみたいだ。うん?父親は?え?端に縮こまっているあの小鬼?
狩りに行ったけど兎に逃げられ、鹿には蹴られ、醜豚鬼に追いかけられ命からがら逃げてきただって?
ちなみに今の会話、俺の想像だ。だって見るからにぼろぼろなんですもの。精神的にも肉体的にも。燃え尽きて、灰になってる。
(つまり、俺が一家の稼ぎ頭ってことか!)
鬼いさんになって一ヶ月が経った。
一ヶ月もたてば愛着が湧くもんですっかり兄弟になっていた。
俺が鬼いさんって教えたらにぃにぃとか言ってくるんだぜ!手握ってくるんだぜ!なんというかブサカワイイ!!
父親とはなんか微妙な関係。まるで母ゴブの連れ子のように接してくる。なまじ、俺の方が稼ぎが多いだけに変に遠慮してる。
俺も父ゴブを立てようとわざと獲物を獲ってくる数を減らしたりしてるんだけど、なにせ父親が獲ってくるのは植物系ばっかりだ。立てるどころかもたれかかってくるのだから救えない。そのせいで俺の家族内地位が上がって相対的に父ゴブマジ底辺。最近、背中が煤けてる。
挙げ句、見るからに毒草まで採取してくるから俺がそれとなく避けてあげてる。
母ゴブは他の兄弟にかかりきり将来立派なモンスターペアレントになりそうな溺愛っぷりだ。長男だからか俺のことは放置。ちょい寂しい。
まあ偉大なる姉には兄妹とは仲良くしろとは言われていたが家族と仲良くしろとは言われていないので何の問題もない。
俺がそのあいだにしていたこと。辺りの調査だ。
魔物とはいえ、第二の人生―――もとい鬼生を送れるのだ。この世界で生きていくことに前向きだ。こんなチャンスそうはないだろう。
いや、転生のチャンスなんてそこらじゅうに転がってるかもしれないけど確認しようがないしね。
自分の面を拝んだ時からここ地球じゃないんだろうなってのは確信したけどじゃあここどんな世界?って興味が湧くわけよ!
何ココ!ゴブリンいるってことはドラゴンとかお姫様とか合法ロリエルフとか魔物っ子とかありありの世界!?って想像膨らませちゃうわけだ俺としては。
まあ、兄弟達の面倒は見るからすぐに出ていくなんてことはないけどみんなが独り立できるようになったらチョイと冒険してみてえなとは考えている。
まあ、それも当分後の話だろうがな。
今日も食糧捕獲を兼ねた身辺調査、せめて話の通じるやつに出会わんとこの世界の事がまるでわからん。
ウサギ捕獲、食べる。まあ、普通に美味しい。
醜豚鬼と戦闘、そこそこ力が強かったけど関節技に持ち込んで圧勝。食べる→あまりの生臭さにゲロる。でも、兄弟達には好評だったので見つけたら捕ってこよ。
植物採取、食べる→毒草だったのか苦痛でからのたうちまわる、挙げ句の果てに嘔吐。
ゲテモノならどうだとワームを食べる、ダメだった。なにがとは言わん。あえていうならヴィジュアル?味はそこそこ。
俺はさらに探索範囲を広げることにした。
森の奥へ奥へいくと明らかにこれまでと違う風景に出くわした。
木々がなぎ倒されているのだ。
ここだけ暴風が通り過ぎたような有様だ。
林を抜けた先にみたのは――――――――
――――怪物だった。
それは2メートルを越す巨躯を存分に震わせ、これまた常識離れした大きさの額に十字の傷が刻まれたいかにも百戦錬磨の熊型の魔物と対峙し、戦っていた。
どちらも等しく怪物だ。
俺から見たらマジ怪獣決戦。
体格的には流石に熊のほうが大きい。爪のひと振りにひと振りはどこにあたっても致命傷になりうる力を秘めていた。
だけど俺には何故か熊型の魔物が勝つヴィジョンが見えない。
その間も熊の猛攻は止まらない。大男は防戦一方のように見えた。
しかし。
ズパッ。
一瞬だった。
熊のおお振りの一撃を選び、躱し様にカウンターを叩き込んだのだ。
一撃だった。
叩き込まれた斬撃は熊を上半身と下半身を等しく分離させ、上半身は勢いそのままに岸壁に叩きつけられた。
結局、俺の予感通り、大男の勝利に終わった。
俺はそさくさと隠れるように来た道を全速力でただし音を立てぬように駆け抜けた。
あれはヤバイ。話通じる通じない以前に関わりあいたくない。
今日の探索は終了。
感想。外の世界マジ怖い。