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飛べない鳥  作者: 槻乃
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飛び立つ鳥

業者の人が来て、すぐに目の前の扉がこじ開けられた。


「まぶしい…」

「そうだな」

ずっと暗闇の中で話していたのだ。

おかげで、進藤くんの顔をみるのも久しぶりに感じた。

「ねぇ、私飛べるかな」

ゆっくりと立ち上がって彼を背に扉の外をみた。

「そりゃ、お前次第だよ」

絶対に飛べる、と言わないところに思わず泣きそうになった。

頑張れとも、無理するなとも、言わない。

それがどうしても嬉しく感じてしまった。

「ありがと」

そして、私はエレベーターの中から飛び出した。




それから私は会社をやめた。

全部をリセットしてみたくなったのだ。

今までの私ならこんなことしなかった…いや、出来なかった。

最初はごろごろ無駄に過ごした。

そして、隣の県へ、またその隣へと小さな旅にでた。

日本のあちこちを何の予定も組まずにただ適当に、自由に訪れた。

それから3年がたった。



「久しぶりだなぁ」

私は3年ぶりに会社のあのエレベーターに乗った。

「かごの中…か」

そして、お目当ての部署に行く。

「千沙!?」

「山神さん…」

顔見知りの元同僚たちが驚いていた。

「今度、この会社の…」

と、そこの部長が私の隣にきた。

「国際開発部で通訳をしてくれることになったんだ」

部長は皆に私を紹介した。

「普段は絵本の翻訳の仕事なんで、通訳は初めてですがどうぞよろしくお願いします」

驚きを隠せない元同僚ににっこりと笑いかけた。



そして、その日、仕事が終わるととある公園で1人でベンチに座っていた。

満月が綺麗で、私の周りを照らしていた。

「今まで連絡1つつかないんだ、心配したよ」

懐かしい声がして、隣に座った。

「あはは、久しぶり」

ベンチに乗っている私の手の上に彼の手が被さった。

「いい顔になったじゃん」

「どーも」

「飛べたんだな。どうだ?」

私は手を裏返して、彼の手を握りしめた。

「あんたのせいで、何度墜落したことか」

だけど、それでも飛ぼうと思えたのは彼の言葉があったから。

「日本の中を旅してさ、外国に行ったの。これまた何の予定もたてずに」

「うん」

「英語苦手だし、日本語しか喋れなかったけどとっても楽しかったんだ」

「それで、翻訳?」

「そ。昔から本は好きだったし、絵本とか大好きだった。だから、やってみようって」

そして、会社で通訳を探していることを聞いた。

「だから会社に来たんだ」

「うん」

今でも不安は一杯だけど少なくとも生きているという実感はある。

それも、これも彼のおかげだ。

唯一の逃げ道を残してくれたから、逆に頑張れた。

きっと逃げ道なければ諦めていた。

「ねぇ、進藤くん」

「何だ?千沙」

私は言う。

逃げ道はもう大丈夫。

きっと大丈夫だから、ずっと考えていた伝えたかったことを言う。

「ありがとう」

「俺は何もしてないよ」

そんなことない。

彼のメールに、電話に返事をしなかったのは甘えに走るとおもったから。

でも、その返事をできない相手からの連絡を心の支えにしていた。

「あのね…」

私は初めて彼の方を見た。

「また私と付き合ってくれませんか?」

結婚はもう少し先でいい。

彼ともう一度恋人をしてみたい。

「よろこんで」

握っていた手をひき、私の体を引き寄せた。

「千沙、お帰り」

「…ただいま」

彼の胸に顔を埋める。

「翼、ただいまっ」

彼の様に飛んでみよう。

鳥のように飛んで飛んで、疲れたら休んで、それでも飛んでみよう。

きっと何か見えるから。

夢とかいらない。

ただ、前を向いて飛び立とう。

たまには逃げてもいい。

それでも飛ぶことをやめなければきっと「私」になれるのだ。


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