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飛べない鳥  作者: 槻乃
3/5

閉じ込められた鳥

まだまだ助けは来ないようだ。

だから、私は話を続けた。

「私は単純だよ…自分のことしか考えてないんだから」

「?」

「自分が傷つかない方法がね、全てを受け入れることなんだ」

私の性格はこれで説明できる。

「フラれた時だって…本当は嫌だよ、悔しいよ、なんで?って思ったよ。でもね、それがずっと続くのはもっと苦しいよ。だから、納得させるの。そうするしかないって思い込めば…私は傷つかないですむ」

好きな人にフラれてショックを受けないわけがない。

「私は優しくなんかない。本当に優しい人間は人のためになにかをできる人だよ。自分が傷ついてもそれを受け入れて強くなる人が本当に優しい人だよ。だからね…私は進藤くんみたいな人に憧れてた」

強くて、優しくて、素直で、純粋な人。

だから大好きだったんだ。

「フラれてショックだけど、受け入れれば全て上手くいく。なにもなかったように友達に戻りたかった。理由を聞かなかったのはそういうことだよ」

ただ、怖いのは全てをなくしてしまうこと。

友達でもいい。今までの環境を変える方が怖いのだ。

「なんだよ、それ!」

進藤くんが声をあげた。

「そんな理由で一線引いてたのかよ。俺はお前ともっと本音でぶつかりたかったんだよ」

「本音を言うことが怖いのよ」

「なんで!」

「自分の性格の悪さは自覚してるから」

結構悪いと思う。

「ほら、さっき私は愚痴を言わないっていってたじゃない?人の悪口を言わないって」

「ああ。それがすごいって思ってたんだ」

「違うの。そりゃ人間だもん。嫌いな人はいるよ。大嫌いな人もいる。それでも言わないのは、もっと嫌いになってしまうから」

「は?」

「悪口言うとね、その人のことを存在抹消したくなるくらい嫌いになるの。昔…友達の悪口言って口聞くのも嫌になったことあるし。そしてその嫌いだと感じてる自分がもっと気持ち悪い。だから、言わない、言えないんだよ」

苦笑いをする。

「そんなのあたり前だろ」

「え?」

「悪口言って気分がいいのは本当に性格悪いやつだ。人の気持ちがわかってないやつだ。それでも、少し吐き出したくて、同意してほしくて言うんだ」

「………」

「多分、お前が今言っていることは本音だと思う。今までで一番の本音だと思う。だけど、そんなものか?もっと、なにか隠してる」

「隠してないわよ」

「隠してるって」

視線を感じる。

「青いインコどうなったんだっけ?」

急に話を変えてきた。

「チルのこと?」

「そう。いつからいつまで飼ってたんだ?」

なんでそんなことを気にするのだろう。

「小学生低学年の頃よ。一年から三年くらい」

「どうして飼ったんだ?」

「兄弟いなかったからさ、親が買って来たの。共働きだったから寂しくないようにって」

学校から帰ると必ず待っていてくれたチルのことは大好きだった。

「何度もかごから出そうとして怒られたっけ」

くすくす、と笑いが込み上げる。

「青くて綺麗な羽してた。かごのなかで羽を広げる姿がかわいくてさ、羽ばたく音がするたびに見に行ってたの」

そして同時に感じていたことがある。

「今にも飛び立ちそうなチル見てたら、窮屈そうにみえた。こんな狭いところに閉じ込められて、飛べる翼を持っているのに飛べないなんてって」

幼心に思ったことだった。

「……だからね、かごから出したの。逃がしちゃったんだ」

覚えてないなんて嘘。私が外に出してしまったことだ。

「逃がした?」

「うん。家の庭から」

飛び立ったチルは青い空に吸い込まれるように見えなくなった。

「……飛べたんだよ。チルは」

私とは違う。

「千沙はチルが羨ましかったんだ」

今までとは違う優しい声で言った。

「だから、いつも気にしてる。いつも千沙との会話にはチルが出てくる」

「え…?」

「無意識だった?千沙、寝言でもチルって呼んでたことあったんだぞ」

そんなの…知るわけない。

「で、でもいきなりなんでチルの話が出てくるのよ」

「そこに千沙の性格のルーツがある気がしたから」

ドキッとした。

まさかそんなこと思われてるなんて。

「千沙は何が怖い?環境が変わること?人が変わること?嫌われること?」

「…っ」

「目標を作らず適当に、だけど上手く生きてるから気づかれにくいけど千沙には何もないよね」

「…だから…そういってるじゃん…」

「チルだって飛べたんだ。自分の意思で飛んだんだろ。なぜ、千沙は飛ばない?」

進藤くんはまだ続ける。

「かごの中にいたのは千沙の方だ。飛ばずに、飛べずに進もうとしないかごの中に閉じ込められているのは千沙じゃないのか」

わかってる…わかってる…

「1人で生きていけると虚勢をはって、誰にも頼らず弱音をはかず仮面をかぶってる。だから、もう一度聞くよ。お前は、千沙はどこにいるんだ?」

口調がきつい。

今までの思いを、ぶつけられて私にも限界が来ていた。

「あんたに…何がわかるのよ!」

私は…そんなことずっと前からしってるんだから。

「何でそんなことをいわれなきゃいけないの?いいじゃない、それで平和を保てるならいいじゃない!」

「よくない」

「何で進藤くんが決めるのよ。私はこの性格わかってるわよ。どこにいるって!?ここにいるわよ。どこにもいないけれど、今、ここにいるわよ」

「ここってどこだよ」

「ここよ。この閉じ込められたエレベーターの中!会社の中!皆の中で過ごしてるじゃない!」

「物理的にはな。だけど、その輪の中にいても心は離れてる。さっきからいってるだろ。一線引いてるって」

「それの何が悪いの?上手くいってればいいじゃない」

これ以上は言わせないで…!!

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