意外性
早速、この札を使うことにした。
何を思ったか、テーブルとソファーを壁際によせる。
まぁ、この家の周りは森なので、チョークでモノをかけるところが少ないというのもあるのだが。
一番は何かを残していきたいという気持ちだったのかもしれない。
"あの時"と全く同じ手順を踏む。
「やっぱり、繋がるんだな」
そこにはぽっかりと穴が空いていた、あの時とは違う雰囲気で。
少し残念な気もする、がここで入らないという術は無いだろう。
「さようなら」
そして、ありがとう。
俺はその穴に足を踏み入れた。
「っつ、って」
足を踏み入れた、のだが。
俺は簡単にいうと倒れていた。
何処で、と言われるとさっきまでの場所で。
何故と言われると全く持ってわからない。
混乱しつつもある事に気がついた。
ソファーもテーブルも存在しないことに。
人間というものは嫌に頭が回るものである、無いということは俺はいまソファーもテーブルもないココに倒れているわけだ。
しかし、あの時その両方を自分で触ってある事を確認している。
まさかと思い、窓を見た。
そこには小川とその先に村があった、その村はまるで歴史の教科書の弥生時代を切り取ったかのようだった。
「タイムスリップ…」
場所ではなく、時間を移動してしまったのかもしれない。
SF映画でしか見たことのないそれを成し遂げた喜びはなく、ただ小川の先で煙をゆらゆら吐き出している村を眺める他なかった。
「何をすればいいんだろう」
一時間ほど、感傷に浸っていただろう。
右左もわからぬ今、何を成し遂げれば正解なのかは皆目見当もつかない。
「あの村へ、行ってみようか」
人間、着ているものや見た目が違っていても通じ会える物だ。
少しでも情報が欲しいわけであり。
家を出て、多少踏み固められた道を歩き、小川に沿って下っていくと、村はあった。
別に柵が周りに立っているわけでもなく、そこに住む場所が集まっているだけだった。
ひときわ目立つのは、まるで神社のような出で立ちで村の真ん中に立っている建物だ。
と、ここで困ったことがひとつ出てきた。
それは、真ん中の建物に興味を持ち近づいていこうとしたときだった。
一人の男性に声をかけられた、初老で愛想のよさそうな人だった。
声をかけられたのはいいものを、如何せん意味が伝わらないのだ。
どのような言葉を発しているかはわかるが、どうしてもピンと来ない。
こちらの言葉も相手にとってはピンと来ていないみたいで、困った顔をしながらその大きな建物に入っていった。
また、待ちぼうけを食らってしまった。
あの男性について行っていいものかと考えていたら、大きな建物の扉が開く、中からあの男性が手招きしていた。
お言葉に甘えて、余程気になっていた建物の中へと入っていく。
中は普通の家と大差がなかった、畳やフローリングなどでは無かったが、床は木で出来ていてその上に大雑把に整えられた毛皮が置いてあった。
囲炉裏のような物もあり、昔話の家を思い出す。
初老の男性が、俺の肩を叩く、男性の目線を追ってみると、一区切りされ一段床板の上がった部屋でくつろぐ金髪で不思議な帽子をかぶった少女…洩矢 諏訪子の姿があった。
主人公が原作知識を持っている事を忘れてしまいそうでしたね。