思想
「ふざけんな! 能力如きが何だって言うんだ! なんで、なんでだよ……」
誰に向かってでもなく、怒鳴り付ける。
流石の博麗霊夢も気の毒な顔をしている、彼女はいつも通り薄ら笑いだった。
嫌になったので自分を隠すようにうずくまる。
「さあ、行きましょう」
俺は何も喋らない、具体的には何を話せば良いのか分からない。
「フフ、それじゃあ巫女さん。お邪魔したわ」
うずくまっているので周りの状況は分からないが、きっと彼女の家にいるのだろう。
そう思い、ふと顔をあげた。
つい前まで世話になっていたソファーが俺を迎えた。
しかし、何かが足りない。
「で、彼だけ帰して。どういう腹積もりなのかしら」
博麗霊夢は不機嫌であった。
別にお茶を啜るためだけの休憩時間を邪魔されたからではない。
あの禍々しい、無意識に嫌悪を感じる能力を神社の境界内で、二回も使われたからだ。
「少し邪魔が入りそうなのよねぇ。ね、禍々しい能力持ち(同業者)さん」
ずろろ、と鳴るわけではないが、見るからにそんな音が似合いそうな現象が起こる。
博麗霊夢はよく知っている、風景がまるで切れ味がいい刃物で切られたように裂ける。
「あら、やっぱり貴女には隠せないのかしら。似ている能力というのも厄介ね」
八雲紫だった、博麗霊夢とは知り合いだ。
博麗の巫女という役職上、この幻想郷を管理している妖怪の賢者とは接点がある。
そんな彼女にもわからない事がある。
何故、今、八雲紫がこの場にあわられたのかだ。
確かにアイツはよく外来人を囲うが、その外来人達は何故か幻想郷に残り、外の世界の知識を生かして人里を少なからず活気づけた。
妖怪や幽霊への過剰な反応も何故か少なく、こちらとしては余り害はないように思える。
……よくよく考えると"何故"が目立つ。
しかし、博麗霊夢は自分が困らない限り動くことはない。
そもそもアイツの考えている事などわからないし、わかりたくもない。
今は、神社が壊されぬよう良く、事の経緯を見極めるだけだ。
そう思いながら、博麗霊夢は茶を啜る。
裂けた空間に腰を下ろしている、綺麗な金髪で特徴的な帽子を被った女性。
八雲紫は、忌々しい事をしでかそうとしている目の前の妖怪を見据えた。
自画自賛を交えるが、少なからず妖怪の賢者と言われた自分でさえ、アイツと化かし合いをして勝つ余裕はない。
いくら、その場を歪ませる能力を持っていても元から歪んでいる者を相手にするのは分が悪いのだ。
「で、貴女は何がしたいのかしら。今更、腹の探り合いなんてしたくはないでしょう?」
こちらの用件と気持ちを相手に伝える。
アイツはかなりの古参妖怪、昔から何処かしら可笑しいところはあったが、毎回いいようにはぐらかされる。
正直、八雲紫はここでハッキリとさせたかった、彼女は敵なのか、味方なのか、それとも。
そんな最中、彼女は薄ら笑いを落とすことは無かった。