人間
気が気でなかった。
あのあと、ゆっくり休めと言われたが、いつ取って食われるか分からない現状では眠れなかった。
というか、もう既にかなり眠りについていたようだ。
ふと、気付く。
俺は奴の住みかにつれられてきたようだ。
窓を見れば、木々が生い茂っているのが見えるので、先ほどの森は抜けていないようだ。
中は、ここ、そして三つの扉と申し訳ない程度の流し台だけだった。
方角は分からないが、窓を中心とすると、窓の左側に二部屋、右側に一部屋と流し台、そしてソファーの後ろに出入口だ。
そして、俺が今かけているソファーは窓側を向いていた。
ちなみに、左の二部屋のドアは色が違う。
片方は、この家の材質に合わせた、木目柄だったが。
もう片方は、どことなく血液を思わせる、くどい赤色だった。
不気味で気味が悪い。
一息着くと、ソファーにごろんと横になる。
部屋は空いていた、木目柄の部屋だ。
しかし、あまりその部屋に泊まるのはいただけない。
なんせ許可をとったわけでも無しに使うのは気が引けるし。
奴を信頼したわけではないのだ。
気休めでも出口に近いほうで寝ることにした。
「能力、か」
天井を見つめながら、呟いた。
それはそれは惨めな気分だった、なんだか自分をその能力とやらに、全て持っていかれたような気分だ。
「チッ」
小さく舌打ちをした、横目で赤のドアを見ながら。
眠れない、苛立ちが募る。
無駄で憂鬱なことが考えをよぎる。
人間というものを手に入れた、それは素晴らしい事だ。
ただ、その人間というものが、ここまでの体験をしなければ手に入れることが出来ないのかは、はだはだ疑問だ。
確かに、外の世界というのか、そちらでは持っていなかったような気がする。
どうにかなる、どうなっても大丈夫だ、最後はなるようになる。
そう言う考えも人間らしいといえばらしい。
だが、それしか無かったのだ、それ以外が無かったのだ。
泥をすすってでも生きる、大切なものを守りたい、欲しいものが欲しい。
それらの人間らしさを追い求めてはいなかったのだ。
それでは、面白くも無いことなど当然だった。
ああ、今考えればとても馬鹿らしい、いやになる。
明日にでも、外へ帰ろう。
ここが一寸の狂いもなく、幻想郷ならば、博麗神社から外へ出るのも可能なのではないか。
それにはまず、奴を巻かなくては。
また違う、人間というものを手に入れ、ほくそ笑むのであった。