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探索者は  作者: 小町通
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第二の故郷

つんつん、つんつん。

快適とは言わないが深い眠りに、何か違和感を感じ始める、その違和感を頼りに少しづつ上に意識を上らせていった。気がつけばそこは俺が考え耽っていた部屋だ、当たり前だが寝る前と少し違うところがある。

ご先祖さまなぞは枕元にたつと言うが、まさか小さい神様が枕元にたっていようとは。


「……」

俺を起こしたというのは想像がつくが、何のために? 気まずい空気が間をそよそよ流れていく。しかし、その静寂は嬉しい誤算で崩される。


「コトバ、ワかるか?」

なんということだ、洩矢諏訪子から接触してくる上に問題まで解決してくれるとは。流石は神様だと思いながらも返事をする。


「驚きました、もう少し時間がかかるかと思っていたので」

たいしたことは返ってこないとは思うが質問してみる。


「どうして、こんなにも早く言葉を?」

「なんとなく、ではワからないか?」

どうせ曖昧な返事だろうと思っていたがこれほどまでとは、きっとこの社もなんとなくで作ってしまったのだろう、そのことをやんわりと聞いてみる。


「それじゃあ、この社も貴女が作ったのですか?」

「ヤシロというものが、ここをイっているのならそうだが」

ところどころ片言でたまに通じないこともあるが、日常会話に支障はない程度らしい。最後に一番疑問に残っていることを聞くことにする。


「じゃあ、なぜこの時間に知らせに来たのですか?」

「なんとなくだ」

少しこの神様の性格を垣間見たようだ、苦笑いしながらももう一眠りすることを伝えるとしぶしぶ帰った。言葉が通じるということはいいことだが、余計なものまで伝わってしまうようだ。

*

ぷつり、切れるように眠りがさめる。とても歯切れのよいそれはよく睡眠をとったことを知らせてくれた。今は何時だろうか、少し背中が痛い。

「メがサめたか」

さっきまでは居なかった神様。俺は若干驚きながら振り向いた、何かを見据えたような、見下すような目で洩矢諏訪子は立っている。


「おはようございます。昨日は聞いてばかりで申し訳ない」

「ベツにいい、ヒトはシらないことにキョウフする」

その言葉はいろいろな小説やドラマや映画で使いまわされたものだ、しかし、彼女のそれはまるで別の言語で語られたかのように違和感を感じた。雨の音が足音に聞こえたり、風の音が話し声に聞こえたりするような、そんな違和感。


「そう、ですね。ところでわざわざ起こしに来てくれたのですか?珍しい体験ができました」

「そういうわけじゃない。ただヒトつキきたいコトがある」

ましても使いまわされた言葉だったが、俺は耳を疑うことになった。いや、耳をふさぎたくなったと言った方がいいかもしれない。


「オマエはヒトなのか?」


なぜか動揺が隠せなかった、こんな簡単でわかりきった質問の答えを見出すことができなかった。

俺は、今、人間なのか。

「人間でなかったら、どうしますか」


「どうされたい?」

ケタケタと、まるでガラスでできた鈴のように、笑う。


「人間だと思います。いいえ、人間です」

人間とは、欲のままに探し求める生き物だ。その末が悲惨だとしても、明るいものだとしても。

言うなれば探索者、今俺は、探索者。


「そうか、それならしばらくここにいるといい」


ケタケタとした笑いは、いつの間にか柔らかい木漏れ日のような笑顔になっていた。

「オモシロい、あれでもヒトだというのだから。しばらく、ミマモることにしよう」


どたどたと足音が聞こえてきた。何事かと、部屋の入り口を見ると、初老の男があきれた様子で部屋をのぞく。

二、三回。洩矢諏訪子と男がやり取りを交わしたと思うと、苦笑いでこちらを向く。

「カンジンなヨウジをワスれていた。アサごハンができているぞ」

ドジな神様ではなく、この時代でも三食食べるのかと少しずれたところに関心を抱いた。

あれから数年だろうか、いや十数年かもしれない。ありきたりだが、和やかな日常を過ごしていると時の流れは速くなるようだ。

「今日は久しぶりに酒盛りでもしようじゃないか」

諏訪子もだいぶこちらの言葉に慣れてきた、というかここら辺の領地でもこの話し方が浸透している。

タイムパラドックスといっても過言ではないかもしれない。


「いいですね、諏訪子様。何か嬉しいことでもあったのですか?」

そういうと、諏訪子はすぐにジト目になってこういう。

「また硬いしゃべり方をする。もうお前とは親友なのだからもっと普通に接してくれないか?」


「そういわれましても、神様だということは変わりありませんし……。それほど長い付き合いでもありませんよ」

このやり取りも何回目だろうか、次に諏訪子はこういうだろう。


またそうやって卑屈になる、何時まで人間の真似をしているんだ。

「またそうやって卑屈になる、何時まで人間の真似をしているんだ」

そうして俺もこう返すのだ。


「人間の真似ではなくて、正真正銘の人間ですよ。俺は」

ため息をついて、酒をこちらに寄せてくる。

「今日は特別な話があるんだ、いつもの与太話はもういいだろう」

二人はちびちびとだが、呑み始めた。

「与太話などではありませんよ。俺にとっては重要な言い分です」

諏訪子は何回もやったやり取りを無視しながら話を続ける。


「こんど、大きな戦いがあるんだ」

二人の酌が止まる。


「…どことやるんですか」


「大和の神たちが、ここらの領地を奪いにくるだろう」

俺はおもむろに立ち上がる。


「何でそんなに大事なことを言ってくれなかったんですか。戦いになる前に言ってもらえば俺が使者として話をしてくることもできたでしょう!?」

くすり、と諏訪子は笑う。



「お前は、人間みたいにもろくて卑屈で、だけど人間じゃないみたいな雰囲気で。けどそういう突拍子もないところはどちらでもない、お前自身だよ」


「そんなことは今どうでもいいじゃないですか!どうするんですか?それほど大きくなるのなら村への被害を小さくする策も立てなければいけないし」


「お前の心配するようなことは全部済ませてあるよ。広い平原で戦うつもりだし、その周りの村へも伝えてある」


とりあえず、座ることにした。


「そうじゃないです、こちらの準備をしたって向こうがどういう動きをするかなんてわかったものじゃないですよ」

ちらりとこちらを見る。


「心配するところも人間みたいだよ、これは神と神の戦いだよ。卑怯な戦いはいいことなんてひとつもないんだ」

ちびっと酒を飲む。

「大きい戦いだ誰かしらそれを見ているだろう。その場でそんなことをしてみろ、信仰なんて形だけでずるずるとその地での威厳は消えてなくなってしまう」

「それに」

今日は満月だった、諏訪子につられて空を見上げてわかったことだ。


「神様はみんな、戦いを好いているもんだよ。私を含めてね」

そのときの顔は、駄々をこねるときでもなく、酒を飲んでいるときでもなく、心からこれからのことに期待をよせている無邪気な顔だった。


「じゃあ、俺にその話をしたということは。その戦いを見ていて欲しい。ってことですか」

大きくうなずく。


「ずーっとこの先、語り継げるような戦いにしてやるんだからね。誰かに見てもらわないと、やる意味ないでしょ」

「なんだか、心配して損した」

にやっとこちらを向く。


「そうそう、そういう話し方だよ。やればできるじゃん」


その後は、惰性のまま酒を飲み明かし、くだらないことや、まじめなことを話していた。

いつもと変わらない、そんな夜だった。

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