プロローグ&おわりのはじまり
皆さんは東方プロジェクトと言う物を知っているだろうか。 縦スクロールの弾幕系シューティングゲーム、ボスはスペルカードと いう技を使い、自機を堕とす事を主軸としない、形の美しさを突き 詰めた珍しい同人ゲームだ。 様々な物はあるが、大雑把に説明するという事ならばこれ位で丁度 良いだろう。
大事なのはここからだ、ゲームの舞台となる世界「幻想郷」は色々な 比喩に溢れている。 日本昔話に出て来た妖怪が出て来たり、本当にあった信仰の神様が 出て来たりと。 勿論、これは創作物なので元になる物があっても何ら不思議ではな い。 そう、本当にただの妄想から生まれた、ただの同人ゲームならば。
さて、そろそろ御託を並べるのは終わりにしよう。 俺は見てしまった、否見つけてしまった。
幻想郷を、見つけてしまった。
細かい事は俺に残された時間と、この掲示板の文字数制限で説明は できないが、幻想郷がある事は確かだ。
これを言える事が出来て良かった、そろそろ俺は行ってくる事にす る。 幻想の中へ。
「…と、これが息子さんが残した最後の書き込みですね」 鑑識の堅辺は苦い顔をしながら言う。
「ふん…前からゲームが好きな奴だったが、ここまでとは…な」
「幻想の中へ。 最近の事件と同じですね、やはり関係があるので しょうか」
ごく最近の事だが、失踪事件が多発している。 失踪者は全員あるメッセージを残していた、そのメッセージが「幻想 の中へ」だ。 残し方は様々で、メモに書き留めてあったり、机に彫り込まれていた り、今回の様にネットへの書き込みも多々あった。
「そうなるな。 …はぁ、面倒な事が増えるよ」 仮にも息子が失踪したのに、そう堅辺は思ったが直ぐに考えを改め る。
「でも信じてるのでしょう? 息子さんは生きてるし、困ってもいな いと」 堅辺は少しクサイかなと肩をすぼめる。
「あいつの事だ、どうせ馬鹿みたいに元気だろ。 俺の息子なんだか ら」
歯車は廻っている、幻想へ。
ープロローグ 完ー
「くそっ…」
男は、何を目指すでも無く走っている。 走って、少し休み。 明らか に消耗している、そんな不安定な 走り方を続けていると。
「ッ!?」
木の根に足を引っ掛け、草の疎らな地面 に叩き付けられる。 鈍い痛 みが全身をノロノロと駆け回る。 男は、その痛みの原因となった木 にもた れ掛かり状況整理と休憩をすることにし た。
「どうしてこうなっちまったんだよ…」
汗を拭う為に額を手の甲で擦る。 ぬるりとした感触が伝わる、男の 額から は血が出ていた。
何のあても無く走る、もとい何かから逃 げていた理由とは。 それは 少し時間を遡る。
「ここか、なかなかの雰囲気だな」
男の手には、雨降宮嶺方諏訪神社(アメ フリノミヤミネカタスワジ ンジャ)と銘 打たれた地図らしき物がなびいている。
神社の立地としては、山に面していて北 側に山を背にして建ってい る。 神社の標高は850mほどだろうか。
男は周りを見回し、人が居ないことを確 認するとポケットから チョークを取り出 す。
「えっと… まずは星型に…」
適当に一筆描きの要領で星を書いていく 。
「んで、上の角に博。 下の角の間に麗」
余り綺麗ではない字であったが、気にし ないことにした。 何だか子 供の落書きのようだと、男は自 分を嘲笑う。
「で最後に。 これを燃やす」
男は、幻想行きと書かれた紙をマッチで 燃やした。 舞い上がった灰 を見て、急に虚無感が沸 いて来る。
「こんなことしても、なんにもならない のにな」
短く、細く、小さく呟くが、その言葉は 自分に鋭く突き刺さってい る。
舞い上がった灰は、急に流れ出した空気 に吹き飛ばされて行った。
「…? っあ!」
男が描いたラクガキは渦を巻いてうごめ いている。 その渦は、男に 入れ入れと手招きをして いるようだった。
「もしかして、成功なのか?」
子供騙しの様な物、ネットに落ちていた 方法で成功するとは思いも していなかっ た。 【幻想郷】への道を開く、ただ一つの方 法。
気晴らしの悪戯が思いのほか大事になっ たような感覚が男を襲っ た。 嫌な汗がしっとりと体を包む。
「…何をビビってる、俺」
パチンと自分の頬を叩き、そのラクガキ に一歩踏み入れる。
下から風が吹いてくる、その風は今まで 浪費していた空気とは違う 味だった。
「本当に、繋がってるんだなコレ」
入り口と言うものを実感した瞬間、景色 が変わった。
「…うおっ」
案外淡泊なリアクションだった事にまた 驚きながらも、足元を確認 する。 足元にはもうラクガキも渦も入り口も無 く、ましてや出口も 無かった。
周りを見遣ると森の様な林の様な、とに かく木に囲まれた広場にい るらしい。
注意深く観察していると、近くの木の後 ろから物音がした。