友達でも遠慮は必要です。
お母さんに流藍さんを見られるといろいろと気まずいので、私の部屋に移ってもらうことにした。
自分の部屋に人だろうと神様だろうと異性を入れたことが無いので、とても落ち着かない気分になった。めっちゃ気恥ずかしい。
当の流藍さんは興味津々で本棚のマンガとか、ベッド脇のぬいぐるみとかを見つめている。
全然遠慮ねーな!!
一人で意識してる私がアホみたいじゃん!
うろうろしている流藍さんを捕まえて勉強机の椅子に座らせると、私はベッドに膝を抱えて座った。
すると、いきなり流藍さんが頬を赤くして立ち上がった。
何事?
「き、君には恥じらいというものは無いのか!?スカートのままそのような恰好をしたら、見えてしまうではないか!!」
「下に短めのスパッツを穿いてるから大丈夫ですよ。」
「そういう問題ではない!!友達とはいえ、異性の前で隙のある振る舞いをすることが問題なのだ!」
「………はい。」
また、怒られてしまった…。
しかし、私が素直に頷いて座り方を直すと怒りを収めてくれた。
まだ顔は赤いけど。
どうやら流藍さんは礼儀に厳しい人なんだろう。もうちょっと気を付けよう。
流藍さんは守り神だというが、私にはあんまり神様のようには見えない。そもそも、守り神様って何なのか今ひとつ分からないな。
「流藍さん、もう少し訊きたいことがあるんですけど、――」
「俺に敬語は使わなくていい。」
「でも、神様ですし、多分年上ですし――」
「俺と君は友達になったのだ。敬語は不要だ。」
神様にタメ口っていいのか?
まぁ、神様自身が言ってるならいいよね。
「じゃあ、遠慮なく。流藍さんが守り神様ってのは分かったけど、その守り神様ってどういう存在なの?」
「うーん、どういう存在と言われてもな……。簡単に言えば、君たちが考えている土地神に近いものだな。俺たち土地神は山や川、湖などの自然にそれぞれ一柱ずついて、それぞれの領域に住み着いている。それが結果的にその領域を守ることになるから“守り神”と呼ばれている。基本的に俺たち守り神は人間には無関心だから、こっちから進んで恩恵を与えることはほとんどない。守り神の声は普通の人間には届かないし、姿も見えないからな。」
「えーと、私は流藍さんと普通に会話できるし、姿もばっちり見えてるんだけど…。」
「それはお前が特殊な人間だからだ。」
「えぇ!?私にはそんな電波ちゃん属性ないよっ!!」
「電波ちゃんというのはよく分からないが、君は強い霊力を持っているぞ。」
れいりょく?
また何か新しい単語が出てきたよ。もう、訳分からん。
「君の髪や瞳は他の人間とは変わっているな。」
私は目をぱちくりさせた。
いきなり話が変わったな……。
「強い霊力を持った人間は他の人間とは違う身体的特徴を持つと聞いたことがあるが、君の場合はどうやら髪と瞳の色のようだな。」
「よく分からないけど、私は違うよ。私のおじいちゃんも私と同じように髪と瞳の色が薄かったし、私の場合は隔世遺伝だよ。」
「確か君のお祖父さんは浄だったな。浄も君と同じように強い霊力を持っていた。君は瞳や髪色と一緒に霊力もお祖父さんから遺伝したのだ。」
「そんなこと……。一度もおじいちゃんから聞いたことなかった……。おじいちゃんは気付いてなかったのかな……。」
「浄はおそらく君の霊力に気付いてたはずだが……。でも、あいつが何を考えていたのかよく分からなかったからな…。」
そう言って流藍さんは小さくため息をついた。
おじいちゃん…。
神様に呆れられてるよ。流藍さんと何があったのさ……。
「しかし、浄は今春死んでしまったしな。訊ねることもできないな。」
「そうですね。本当に………って、何で流藍さんがおじいちゃんのこと知ってんの!?」
「だから言っただろう。霧野のことで俺が知らないことはない。」
そう言って流藍さんは小さく笑った。
いやいや、論点がずれてるよ!!
それは私のことじゃなくて、おじいちゃんのことだから!!
しかし、流藍さんが笑ったのは初めて見た。通常の真面目そうな顔を見ていると年上に見えるけど、笑うといつもより幼く見えて何だかカワイイな。
――いったい何歳なんだろう。ぶっ飛んだ数字を言われそうで、訊けないけど。
この十六年間特に変わったことはなかったから、いきなり霊力があるとか言われても全然実感がわかないなぁ。
流藍さんが他の人に見えないとか言われても、そもそも私自身が今日流藍さんと会ったばかりだし、流藍さんといる時に他の人と会ったことがないからそれもよく分からない。
流藍さんとおじいちゃんはどうやら知り合いっぽいけど、おじいちゃんはそんなこと一度も言ってなかったし……。
ああ!!もう、おじいちゃんが生きてたらいろいろ訊けたのにな。
初めて知ったことだらけで頭の中がぐちゃぐちゃだ。
頭を抱えてしまった私を見て、流藍さんが立ち上がった。
「君は今日初めて知ったことだらけで混乱しているようだから、俺は今日はもう帰ることにするが、一つ聞いてもらいたい。俺が君を想う気持ちは本物だ。今は友達止まりだが、友達で終わる気はない。覚悟してくれ。」
「――私が他の人を好きになったら?」
「そうさせるつもりはない。」
流藍さんは不敵に笑うと、窓から帰って行った。
私は流藍さんの言葉の意味を飲み込むと、真っ赤になってしまった。
部屋はクーラーが効いているはずなのに、やけに暑かった。