ふっかつのじゅもんがちがいます
この城に来るのは何回目になるだろうか? 両手の指では数え切れまい。
「魔王城」
初めてこの城挑んだ時、私はまだ子どもだった。そのときから、幾度となく一緒にこの城に挑んできた弟たちは今はもういない。そのかわりに私の隣に立つのはまだ幼い私の息子だ。
残念ながら、今回が私にとって最後の冒険になるだろう。私はついに魔王を倒すことができなかったのだ。
感慨深げに城内を眺める。
魔王の間は近い。それは最後の時が近付いていることを意味している。私にとっての、そして魔王にとっての最後の時。
そう、私の息子は魔王を倒すだろう。
彼は、剣に選ばれたのだから。
◆◇◆◇◆◇
ここ『なろうランド』は、ファンタジーをテーマにしたアミューズメントパークだ。
魔王を倒す「魔王城」は、私が子供のころにできた非常に人気のあるアトラクションだった。しかし、時は流れ、ついにここも今週一杯で撤去されるというニュースが流れた。
そんなニュースに懐かしさを覚えた私は家族を連れて久しぶりに遊びにやってきた。今週で撤去されるのがわかっているからなのか、客の並びはそんなに悪くない。ただし、子供向けのアトラクションにも関わらず、子供の姿はあまりない。子供たちは最新のアトラクションのほうがいいのだろう。いやそれとも私のような懐古的な客が多いのだろうか。
このアトラクションの見せ場はなんといっても魔王との対決だ。最後に剣を振って魔王を倒す勇者役が、参加する子供たちの中から選ばれる。私は昔、この役に選ばれたくて仕方がなかった。
だが、私は残念ながら選ばれることはなかった。いや、選ばれるはずがなかったのだ。なぜなら、今思えばその選考基準は一番幼い子供だったのだから。いつも弟たちと一緒に入ってた私が選ばれるはずはなかった。大人になってしまった今はいうまでもない。
古くなった城をみながら、そんな昔のことを思い出す。おじさんになるとすぐ感傷的になってしまうものだ。そんな自分に苦笑してしまう。そんなとき、盗賊風の服を着た案内係の姉ちゃんが「そろそろ魔王の間が近付いてきたようですよ」と、お決まりの文句を告げた。さて、そろそろ勇者役の決定だな。
そこまで考えたところで、私は今頃になって大事なことに気付いた。
そう、今回のグループには私の息子以外子どもが居ないのだ。
良い思い出が出来るな。私は撮影可能かどうかパンフレットを見直すことにした。