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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
死霊魔哭斬だと……? byアリアパパ
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「王種降臨」part8

一八七、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 巫女さんの危機に颯爽と駆けつけた子狸さん

 火口アナザーも一緒だ


 胡散臭そうな目で見ている羽のひととは対照的に

 ずいぶんと親密な様子である


 火口Bの登場に

 火口Aは驚きを隠せなかった……


火口A「お、親父――!?」



一八八、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん


 パパだよ



一八九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 むしろコピーなんだけどな……


 硬直した火口A

 訪れた絶好の機会に、勇者さんですら動けなかった


 火口Aが毒持ちなら

 その血縁者も毒持ちである可能性が高い

 いまだ状況は予断を許されない


 一方で、火口Bが原種という可能性は否定された

 原種は見た目でそれとわかるようになっているからだ

 

 なまじ状況を把握している勇者さんだから、うかつには動けなかった

 動いたのは巫女さんだ


 火口のんは彼女と因縁があると言った

 つまり巫女さんにとっても、火口のんは因縁の相手なのだ


 火口Bの登場に気を取られた生贄さんを押しのけて

 巫女さんが足を踏み鳴らした


巫女「グノ!」


生贄「まっ……」


 生贄さんが気付いたときには遅い

 長い袖で目尻をぬぐいながら、正面に片腕を突き出した


巫女「エリア・ドミニオン!」


 人間に座標起点は扱えないが

 土魔法なら似たような結果を導き出せる


 操作の対象となる土は足元にふんだんにあり

 地続きになっているからだ


 火口Aがぶら下がっている木の根元が盛り上がり

 そこから土の腕が飛び出した


火口A「!」


 樹上にいたのが幸いした

 下方から掴みかかってくる腕を

 我に返った火口Aが触手の伸縮を利用して避ける


 追尾してくる腕を掻い潜りながら

 火口Aが触手で反撃した


生贄「っ……!」

 

 反撃を見越していたのだろう

 生贄さんが巫女さんの袖を引っ張る


巫女「ちょっ!?」


 引っ張りやすさに定評がある袖である

 露出の危機ふたたび


勇者「リン!」


 勇者さんは状況がよく見えている


 この場面で火口Aが狙うとしたら、それは子狸だ

 空中で直角にカーブした触手が、高速で子狸に迫る

 先の一撃で、子狸は生まれたての子鹿みたいになってる


子狸「おお……」


 とうてい避けれない


 ところが、火口Bが可愛いおれの出番を奪った


火口B「喝ッ!」


 本来、座標起点を扱えるおれたちに処理速度の限界はない


 完全に出遅れた筈のレクイエム毒針Bが

 目にも止まらない速度で火口Aを打った


火口A「おふっ!」


 火口Aは、踏みとどまることさえ叶わず、触手ごと吹っ飛んだ

 子狸だけでなく、結果的に火口Aも救ったことになる

 火口Aが視界から消えたことで、巫女さんの土魔法が無力化したのだ

 

子狸「は、疾い……」


 思わぬ実力者であることがわかって、子狸がうめいた

 おれもびっくりだ

 目を丸くして火口Bを見てみる


おれ「あなたは……まさか……紅蓮将軍?」



一九0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ちょっ、六魔天……



一九一、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん


 おれ!? おれが六魔天なの!?



一九二、管理人だよ


 六魔天か……


 おれは?



一九三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前は、どちらかと言うと……ところてんだな



一九四、管理人だよ


 ふむ……?

 悪くない、な……

 ……悪くない



一九五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お気に召したようである


 それにしても、視界の端でちらつく黒いのがうざいな……



一九六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おれのことじゃないよね? 信じてる


 出番を奪われた羽のひとの鬱憤が炸裂した

 妖精さんの口から出たキーワードに勇者さんが反応する


勇者「紅蓮?」


 口にするのも憚られる六魔天

 その活動時期は、およそ千年前である

 まず人間たちには伝わっていないだろう


 せっかく歴史に埋もれたのだから

 そっとしておいてもらいたい


 でも羽のひとは止まらなかった


妖精「はい。最初の討伐戦争で魔物たちを率いた将軍の一角です。まさか生き残りがいたなんて……」


 どうするの、これ

 とんでもない大物だよ

 原種どころの騒ぎじゃねーぞ……


火口B「……むかしの話じゃよ」


 むかしの話にする火口B改め紅蓮将軍

 かつての魔将は、子狸の背からずり落ちそうになっている


勇者「…………」


 勇者さんはどう出るのか



一九七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 勇者さんが何か言う前に

 肩を怒らせた巫女さんが子狸に近付いてきた


子狸「おっとっとっと~……」


 足元がおぼつかないポンポコの前に立つ

 紅蓮さんを指差して、彼女は言った


巫女「どこで拾ってきたの!? 捨ててきなさい!」


 お母さんか


子狸「ん?」


 子狸が肩越しに振り返って、ぎょっとした

 どうやら何も考えずに拾ってきたらしい


子狸「しまった……!」


 慌てて周囲の面々を見渡し

 よりによって側近Dが汗をぬぐっている布に目をつけた


子狸「あ、それ貸して!」


 前足を差し出した子狸に

 側近Dはきょとんとする


側近D「えっ、変態?」


子狸「ちがうよ! 顔に巻くんだ」


側近D「断固拒否する」


側近C「予想以上の変態だった……」


 歴代バウマフ家の中でも

 わりとまともな方の子狸は

 管理人としての立場をわきまえている


 布を顔に巻いて謎の覆面戦士になろうとしたらしい

 謎の戦士ならば、魔物と一緒にいても問題ないのである


 このポンポコ賢いぞ……

 じつに賢い


 しかし謎の覆面戦士が誕生することはなかった

 側近CとDは子狸の要請を頑なに拒んだ


 おののく部下たちに、憤慨した巫女さんが

 子狸の顔に自分の袖を押しつける


巫女「これでいいのか!? 満足か、この野郎!」


子狸「違うんだよな。おれの求めてるものはこれじゃないんだよ……もがっ」 


 子狸さんが窒息しちゃう



一九八、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸が袖責めされている一方その頃

 勇者さんは側近AとB、および生贄さんに周囲の警戒を怠らないよう指示をしていた


 その際、手元の聖☆剣に問いたげな視線を向けられていたが


勇者「お願いね」


 勇者さんは、きっぱり無視した

 策敵を三人に託して、子狸のほうに歩いていく


 歩きながら指笛を吹くと、避難していた黒雲号と豆芝さんが追いかけてくる

 狐娘とお馬さんたちを従えた勇者さんは、真っ先に紅蓮さんとの交渉を試みた


勇者「あなたは、わたしたちの味方と捉えていいのかしら?」


 子狸の背から降りた紅蓮さんは、聖☆剣の輝きに目を奪われている


紅蓮「レプリカではない……? そうか、とうとうはじまったのか……」


 呆然とつぶやく昔日の将軍に、勇者さんはかすかに語調を強めた


勇者「質問に答えなさい。あなたは、わたしたちの敵なの? もしもそうなら……」


 初代魔王を頂点とする六魔天は、旅シリーズの概要が固まる以前の存在だ

 現在の基準に当てはめれば、都市級に匹敵する実力者ということになろうか

 最終的には南極で勃発した一大決戦に赴き、そこで消息を絶ったことになっている


 勇者さんの不遜な物言いに、羽のひとが慌てて取りなした


妖精「っ……将軍! こちらの方は今代の勇者さまです! 王国大貴族のっ……ええと……」


勇者「アレイシアン・アジェステ・アリアよ」


 言い淀んだ羽のひとに代わって、勇者さんが自己紹介した

 本名を明かしたのは、もう隠す意味がないからだ


 となりで子狸をおしおきしている巫女さんがぽかんとしている


 勇者さんの称号名と家名に

 紅蓮さんは反応を示さなかった


紅蓮「ああ、いや……失礼した。苦労を掛けたの、お嬢ちゃん。息子の不始末は、わしがつける」


 やはり親子という設定で行くらしい



一九九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ……なんでグランド狸と同じ口調なの?



二00、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん


 グランド狸が若かりし頃は、学生運動が盛んだったから

 脅しを込めて、こういう話し方をしたらしいぞ


 ……説得力を増すために真似てるだけだから

 あんまりツッコまないでくれる?



二0一、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 ああ、つまり緑のひとの負担を減らすために出てきたのか



二0二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 痛てて……


 そう! そうなの。さすがにゃんこ、わかってる


 つーか、まじで痛かったんですけど!



二0三、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん


 仕方ないだろ


 お前、イイのが入ったからって子狸に固執しすぎなんだよ


 さっさと撤退してれば、おれが六魔天を演じる必要もなかったのに……


 ちくしょう、なんで千年前の魔王軍幹部がグランド狸と同じ世代の話し方なんだよ

 勇者さんにツッコまれなければいいが……



二0四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 へんに色気を出そうとするから

 そういう目に遭うんだよ


 大人しく無個性にしとけば良かったのに

 これだから火口シリーズは……



二0五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ?



二0六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ?



二0七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 喧嘩するな


 ……庭園の、しばらく勇者さんにつくのか?



二0八、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや……


 いや、そうだな


 たぶん、緑のひととの接触が最後の分岐点になる


 しばらく同行するよ


 

二0九、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 どっ、どどっ、どういうこと?



二一0、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 おちつけ


 だから言ったじゃん


 勇者さんは聖☆剣を持ってるんだよ

 わざわざお前に会いに来る動機がねーんだよ


 なんかあるぞ、これ



二一一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 まあ、そのへんは緑のひととの接触ではっきりするだろ


 巫女さんと押し問答を続けていた子狸が

 不意に前足を押さえてうなった


子狸「くっ、右腕が……」


巫女「それ自業自得だからね。言っとくけど」


 とか何とか言いながら、巫女さんは患部を診てやっている


巫女「ああ、ちょっと腫れてるね。ひょろい腕だなぁ……」


子狸「……脱ぐと凄いんだぜ?」


巫女「続きは署で聞こうか」


 子狸がよく連行されるので、巫女さんは騎士ネタに通じている


勇者「うるさい。少し黙ってて」


 二人そろって勇者さんに叱られた


 巫女さんが子狸に耳打ちする


巫女「……嫉妬してるのかな?」


子狸「……? 青みが足りない?」


 子狸が焦がれてやまない青さを、紅蓮さんは持ち合わせている


 二人を無視して、勇者さんが言う


勇者「あなたは、原種ではないのね」


紅蓮「原種? ああ、息子の友人じゃな。わしは、あまり好かん」


 紅蓮さんは、息子の交友関係に不満があるようだった


紅蓮「息子が魔王軍への士官を志すようになったのは、あれの入れ知恵によるものじゃろう」


勇者「……あなたは、魔王軍に仕えることをよしとしないの?」


紅蓮「お前さんの言いたいことはわかるが……いまの魔王軍は別物じゃよ。わかっておるじゃろう、魔界は王種を育んだ土地。生きるには厳しい。わしらは新天地を求めて地上へと渡って来た……かれこれ千年前の出来事じゃ」


 困ったときの魔界である


紅蓮「お前さんたちの言う“魔王”は、地上で生まれた魔物じゃ。わしらが義理を尽くす理由はないのぅ……」


 ある時期を境に、魔王が入れ替わっているということだ


 歴史の生き証人は遠くを見つめる目をしていた


紅蓮「小さな幼子じゃった……よく笑う子でな。ひどく弱い……あれは魔界では生きられん。きっと不幸になる。だから、わしらは反対したんじゃ」


 話の着地点が見えてきて、羽のひとが震える声で言った


妖精「そんなの……聞いたことがありません。嘘……」


 設定そのものは昔からあった

 いや、人間たちも薄々は勘付いていたのではないか……?


 魔王の容姿について、歴代の勇者たちは例外なく口を噤んできた

 そして例外なく人々の前から姿を消すことになる……

 旅路の果てに待ち受けていたものが、目を覆わんばかりの真相だったからだ


 魔都の玉座は……人ひとり座るのがやっとの、小さなものだ

 

紅蓮「……つの付きというのがおるじゃろう。いまは魔軍☆元帥か。偉くなったもんじゃ、あの洟垂れが」


 勇者さんは、何も言わなかった


紅蓮「あれの目的は、魔王を魔界に連れて行くことじゃろう。そのためには、とくべつな鍵がいる。なぜなら――」


 あるいは言えなかったのか



紅蓮「魔王は“人間”じゃ。お前さんたちとは少し違うがの……」




 注釈


・六魔天


 初代魔王を頂点とする青いひと六人衆。活動時期は、およそ千年前。

 魔物たちの役割が明確になっていなかった当時、魔王軍の幹部は青いひとたち(おそらくオリジナル)が務めていたらしい。

 後述の討伐戦争、その第一次を通して魔物たちの役割が決まっていったという側面がある。

 なお、初代勇者が初代魔王を討伐したあと、残りの五名は消息を絶っている。

 思ったよりも人間たちが弱かった(魔法の適正が低かった)ため、六魔天の存在そのものをなかったことにしたのだと思われる。

 初代魔王の崩御により、空中分解した魔王軍を再建したのが現在の都市級の魔物であるらしい。



・討伐戦争


 魔王討伐の旅シリーズの別名。正確には、勇者と魔王を頂点とする、人類と魔物の戦争を指して言う。

 およそ百年に一度の割合で勃発し、今回の旅シリーズは第十次討伐戦争にあたる。

 魔物による侵略戦争と伝えられているが、第二次討伐戦争以降は目的が異なっていた。

 その目的は、魔王(初代とは異なる)を魔界に連れて行くこと、であるらしい。


 もちろん魔物たちがねつ造した事実である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自作自演どころか劇中の作り話なのに熱くなってる…やはりテンプレは良いものなのだなぁ
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