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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
死霊魔哭斬だと……? byアリアパパ
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「王種降臨」part5

一0六、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 おれと勇者さんがまじめに話し合い

 子狸が女の子たちに囲まれて調子に乗っている頃


 生贄さんは発光魔法で地図を作っていた


 いくら生まれ育った故郷とはいえ、さすがに島の地形を全て把握しているわけではないから

 上空から俯瞰した全体図の、ところどころに注釈を加えたものだ

 変わった形の枝や大きな木、印象に残っているものを書き込んでいるようである

 地図と言うよりは案内図に近い


 それを巫女さんがチェックし、写しとった案内図に自分なりの解釈を加えていく


子狸「月の輪ぐまぁ……」


 子狸がボケた頃には、生贄さんは周囲の警戒にあたっている

 まじめな人だ


 歩み寄ってきた巫女さんが、完成した案内図を勇者さんに見せた


巫女「だいたいこんな感じかな。役に立てばいいけど」


勇者「ありがとう」


 光の加減で見にくかったのか、礼を述べた勇者さんが黒雲号から降りる


 森の案内図に目を通しながら、勇者さんは作戦の内容を巫女さんに告げた


 子狸に絡んでいた側近たちが、生贄さんに見張りの交替を申し出た

 生贄さんはいったん休憩


 避難してきた子狸が、黒雲号と豆芝さんに絡まれる


子狸「なんだこれ、おれサンドイッチ!? すごい圧力だ……! ハッ、夏の新作が思い浮かんだ。これは売れる……!」


 子狸の新作パンはお屋形さまのそれよりもおいしいのだが

 なぜかメニューに定着しない


 一説によると、あのポンポコ(大)が焼いたパンのまずさは

 食べる人間が食べると癖になるらしい


 おれと子狸のツートップ案を聞いた巫女さんが

 お馬さんたちの圧力に屈しそうになっている子狸の前足を掴んで引っ張る


巫女「だってさ。聞いてた?」


 救出された子狸は、名残り惜しそうにお馬さんたちを見ている


子狸「ああ。少し脈拍が高いな」


 巫女さんが残念そうな顔をしているのを見て

 選択肢を誤ったと知ったらしい


子狸「……とある筋からの情報で、だいたいのことはわかってる」


 こきゅーとすのことだろうか

 もう少し子狸さんには自覚というものを持ってもらいたい


 もちろんバウマフ家の人間にしか通じない言いぶんだが

 しかし、そもそも子狸に詳しく説明したところで理解できるかどうか……


 巫女さんは時間の無駄を省いた


巫女「わたしも一緒について行ってあげよっか?」


 この人も、たいがいひとの話を聞いていない


 さしものおれもツッコまざるを得なかった


おれ「いや、ですから、あんまり原種を刺激したくないんです。行くとしたら、わたしとノロくんの二人って言ったじゃないですか」


巫女「わたしも原種に会ってみたいなぁ……」


狐娘「…………」


 狐娘は、巫女さんのことが苦手のようだ


 巫女さんが近づいてくると、勇者さんの陰に隠れる


 勇者さんが心なし片手を浮かすと、その手を狐娘がぎゅっと握った


 勇者さんが巫女さんに言う


勇者「代案がないなら、決まりでいいかしら?」


巫女「うーん……あのね、原種と会える機会なんてそうそうないよ?」


 巫女さんは折れない


勇者「原種と決まったわけじゃないわ。王種かもしれない。本当に妖精が一人もいないとも限らないし、あるいは完全な新種という可能性もある」


 魔軍☆元帥のパートナーはおれの分身だ

 妖精が敵に回っても不思議ではないのだと、勇者さんは港町で学んでいた


勇者「いずれにせよ、逃げることを前提に分隊したいの。……この子は、ずいぶんと森の中を走り慣れてるみたいだから」


 昨日、子狸に撒かれかけたことを言っているのだろう


 もともと勇者さんよりも子狸のほうが健脚だが

 この小さなポンポコが真価を発揮するのは悪路である

 いつ野生に還っても問題なく暮らしていけるよう鍛えられているのだ


 青いのんの襲撃を警戒しながら走って、まったく勇者さんを寄せ付けないのだから

 森を駆ける子狸にとって、訓練を受けていない人間など足手まといにしかならない


子狸「本ばかり読んでるからだよ。お嬢は人生を損してると思う」


 人生を消費し尽くす勢いで連日ポンポコオリンピックの子狸には言われたくない


 よっぽどツッコんでやろうかと思ったが

 子狸との付き合いも長い巫女さんが代弁してくれた


巫女「言えた義理か。同志ポンポコは、会うたびに追いかけられてるか気絶してるかの二択じゃないか」


子狸「おれはやってない」


 身の潔白を訴える子狸であった



一0七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 とりあえず、このまま話がまとまりそうだな


 羽のひとが勇者さんと別行動をとるなら

 代わりに誰かについて欲しいんだが……


 山腹の、息してる?


 なんか今日、ひとっことも喋ってないよな



一0八、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ああ、山腹のは戦場に旅立った

 

 大将が本隊と合流したらしい

 おそらく今日中に動くだろうな

 

 戦況がおちついたら戻ってくるってさ

 それまでは、おれが代理を務めよう


 というわけで、現地にやって来ました

 実況のおれです



一0九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 実況の庭園さん

 現地の様子はいかがですか?



一一0、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 みなぎってきました



一一一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 早いよ。早い早い

 フルスロットル抑えて


 人選が不安だなぁ……


 正直、お前は実況に向いてねえよ……

 テンション上がりすぎて、変なところで暴走するし……


 かまくらの、チェンジできる?



一一二、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい。聞き捨てならねーぞ


 たしかに、おれは人前だと興奮するところがある

 それは認める


 近頃は、空中回廊に挑んでくるような気骨のある人間がいないからな

 おれの果てしないサービス精神が渇きを訴えるんだよ


 だが、いや、だからこそ

 ここはおれに任せてもらおうか


 困難は乗り越えることで、はじめて意味を持つんだ



一一三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 と言っておりますが



一一四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ……まあ、能力的には信頼してるよ


 ただLuk値がな……



一一五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 Luk値!? いまLuk値って言った!?


 おい! なんだそれ! 運か!? 運勢のこと言ってんのか!?


 そんなもん信じてるの? ばかじゃねーの!?


 言っとくけど、今日のおれは運勢ばつぐんだからね!


 立ったからね! 茶柱! 残念でしたぁーっ!



一一六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前が残念だよ……


 まあいいや。そうまで言うなら、任せるわ


 勇者さんの説得に、しぶしぶと頷く巫女さん

 話はまとまったようだ


 勇者さんに見送られて

 ててっと駆け出した子狸が

 振り返って前足の先端をくわえる


 勇者さんの真似をして指笛を吹こうとしたらしいが

 空気が抜ける音しか聞こえなかった


 察した豆芝さんがとことこと歩み寄ってくる


勇者「…………」


 勇者さんも今度は止めなかった


 ひらりと豆芝さんにまたがる子狸


 とうとう特訓の成果を発揮するときが来たのか


 羽のひとも固唾をのんで見守っている


 よし、と子狸はひとつ頷いて馬上の感覚をたしかめる


子狸「豆芝、行こう!」


 生物の限界を超えた機動の三角木馬を乗りこなした子狸だ

 いまの子狸にとって乗馬など、ままごとに等しい


 子狸と豆芝さんの呼吸がぴたりと一致した


 まさしく人馬一体だ


 豆芝さんの足が大地を踏みしめ

 螺旋を描いて伝わってきた星のパワーが子狸の中で二倍にも三倍にも跳ね上がる


子狸「ほうっ」


 子狸は舞った

 常軌を逸した運動だった


 ……ま、そりゃそうだよね。豆芝さん、べつに暴れ馬じゃねーし


巫女「うおっ!?」


 落馬と呼ぶには生易しすぎるポンポコシュナイダーに

 巫女さんが驚きの声を上げた

 とっさに土魔法で土壌をクッションにしようと片腕を突き出す


 子狸もそうだが、人間たちは魔法を使おうとするとき、何かしらのアクションを交えることが多い

 イメージを補強する意味があるのだろう


 しかし、それよりも早く子狸の土魔法が炸裂した


子狸「ドミニオン!」


 間の悪いことに、羽のひとの念動力が子狸を絡めとる


 結果として、顔面から着地した子狸が

 そのまま数メートルほど地表を滑った

 壮絶な光景だった


巫女「なんでそうなる!?」


 土魔法の原理はよくわかっていないのだ

 術者が極端に少ないし

 歴史が浅い魔法なので

 常に定義が揺れ動いていて掴まらない


 だから、とくに土魔法同士の衝突は貴重な資料になる


 巫女さんの魔法が良い方向に作用したのだろう

 子狸は無傷だった


 しかし、よほど衝撃的な体験だったらしく

 がくがくと後ろ足が震えている

 まるで生まれたての子鹿だ


 安否を気遣って駆け寄ってきた豆芝さんに

 心配はいらないと微笑みかける


子狸「おれたち、きっと相性が良すぎるんだね……」


 それは一面の真実なのかもしれない


 いったい何をしたら、馬上で鞭を打たれたみたいに跳ねるのか



一一七、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 ……トラウマになってるんじゃねーのか?



一一八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 愛馬との親交を深める子狸に

 勇者さんが慰めの言葉をかけた


勇者「おいおい慣れていくと思うの。焦ってはいけないわ」


 でも視線はあさっての方向を向いていた


子狸「わかるよ。急がばバックスタブってやつだよね」


狐娘「……急がば回れ?」


子狸「そうとも言うな」


 そうとしか言わねーんだよ



一一九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ガーッてなった子狸


 あまりにも身体を張りすぎて

 生贄さんを含む側近たちも笑うに笑えないといった様子だ


 久しぶりに勇者さんを間近で見たけど

 なんだか無機質な印象が少し薄れてる

 子狸の影響を受けてるのかもしれない


 いちいちオーバーリアクションだからね、このポンポコは


 子狸がふたたび駆け出す前にと思ったのだろう

 勇者さんが口早に今後の予定を説明する


勇者「では、部隊を二つに分けます。二人は先行して、結界の処理にあたって頂戴。うまくいくとも限らないから、わたしたちは地図を頼りに進んでみる」


妖精「合流の合図はどうしますか?」


勇者「照明弾を上げて頂戴。敵に勘付かれる可能性が高いから、すぐに身を隠すこと。危険を感じたら移動しなさい」


 子狸が志願した


子狸「おれも行くよ!」


勇者「そうね。あなたが行くの」


 おれたちの子狸さんは今日も通常運行である



一二0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 このまま素直に行かせるのか?



一二一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや、動くよ

 おれは、勇者一行に羽のひとがいることを知ってるからな

 結界に結界をぶつけるのは予測の範囲内だから

 座して待つことはしない


 ここで、豊穣の巫女をしとめる


 やつとは、ちょいと因縁があるんでな……



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