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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
死霊魔哭斬だと……? byアリアパパ
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「王種降臨」part3

五0、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 ちょっと待ったぁ!



五一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 なんだよ。毎度のことながら、ふわっとしてんな、お前は



五二、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 てっふぃー!?


 てっふぃーは、どうしておれたちに冷たいの?


 ふだんは、もっと優しいのに……



五三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前らのテンションがうざったい


 さっさと用件を言えよ



五四、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 あ、はい


 お前らスルーしてるけど、大きいひとのあれはいいの? 許されるの?


 おれ、かなり自重してたんだけど

 あれが容認されるなら今後の対応は変わってくるよ?

 具体的には、ちょっと本気出す



五五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 それは構わんが……

 一歩、出遅れたみたいだな


 一行の進行方向に

 歩くひとと骨のひとがひそかにスタンバイしてる


 言うまでもなく森の中だ


 歩くひとの指導のもと

 骨のひとがパン生地を練っている


 早くも旅シリーズの末期症状に突入したらしい

 どいつもこいつも、好き勝手に動きはじめやがった……



五六、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 おい! どうしておれを誘ってくれないんだ!?



五七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 え、だってお前、忙しそうだったし……


 牛さんが寝てる間しか自由に動けないんだよ、おれ



五八、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 言ってくれればスケジュールなんてどうにでもするよ!


 おれも混ぜて下さい!



五九、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 うん、わかった


 次はお前も一緒にこねてあげる



六0、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 いや、パン生地になりたいと言ってるわけじゃないんだ


 仕方ない、魔人のところに遊びに行くか……



六一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 魔人はそっとしておいてやれよ


 なんていうか、レベル4でまともなのはおれくらいだよな……



六二、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 え?



六三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 え?



六四、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 レベル4のひとたちは登場のタイミングを間違えると

 大変なことになるからなぁ……


 ラストダンジョンにどちらを配置するか

 それだけで、だいぶ状況が変わってくる……


 あとは大隊長しだいか

 山腹のが動いて少し予定が狂った

 前途多難で嫌になる


 まあ、何はともあれ……

 骨のひと、歩くひと、わかってるよな?


 狐娘は勘がいい。くれぐれも気をつけてくれ



六五、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 抜かりはない



六六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 こねこね



六七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸がそっち行ったぞ


しかばね「おれグライダー!」


骸骨「おれグライダー!」


 跳躍した歩くひとが、同じく跳躍した骨のひとの両手を掴んで投げる

 空中で歩くひとを追い越した骨のひとが、歩くひとの両手を掴んで投げる

 その繰り返しで、理論上どこまでも飛んで行けるというわけだな


 まずありえないが


 ぶんぶんと尋常ではない風切り音を立てて遠ざかっていく骨と怪力娘


 本当にやりたい放題だな……


 現場に到着した子狸が首を傾げる


子狸「……? 気のせいか」


 いや、絶対に聞こえてたでしょ


生贄「何か気になることでも?」


 生贄さんが、光の鎌で草刈りしながら追いついてきた

 まだ子狸を警戒しているようで、一定の距離を保ったまま返事を待っている


 子狸は言った


子狸「騎士はずるい」


 とつぜん騎士をディスりはじめた


子狸「チェンジリング☆ハイパーとか反則だろ……」


 どうやら、ずっと気になっていたらしい


 おれたちも大概だが

 ふとした会話で時空を超えるポンポコに生贄さんが絶句している


生贄「…………」


 でも、なんていうか、そういう自分を飾らない子狸さんと話したことで

 彼女はきっと言葉では言い表せない懐かしさみたいなのを感じてくれたと思うんだ


 生贄さんの表情は微妙だ


 同じ場所に二人で固まっているのも効率が悪い

 足早に立ち去ろうとする生贄さんだったが

 最後に一度だけ足を止めて、小さな声で呟いた


生贄「……あのときは、ありがとうございました」


 緑のひとの家に単身で赴き

 死を覚悟していた少女にとって

 投下された子狸はどんなに勇気づけられる存在だったことか


 暗く冷たい洞窟の中で

 気丈に振る舞っていた小さな女の子の姿がだぶって見えた

  

 ここは聞こえないふりをするのがマナーである


子狸「礼には及ばない」


 ただ、子狸の研ぎ澄まされた聴力が

 彼女の言い逃げを許さなかった

 それだけのことなのだ


 お前もう隠す気ないだろ


生贄「…………」


 二人がわかり合える日はやって来るのだろうか……?



六八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ぎゃあぎゃあと喚いているツートップの声が聞こえてくる


生贄「なんなんですか、あなたは!? もっとまじめにやって下さい!」


子狸「でも、このきのこは食べられるんだよ! 目を逸らしちゃだめなんだ。何よりも生きることから!」


 人選を誤ったことは明白だった


勇者「…………」


 黒雲号の背で、勇者さんは素知らぬ顔をしている


 同乗している狐娘が、勇者さんにしがみ付きながら子狸の仕事ぶりを批評した


狐娘「しょせん素人。なってない」


 子狸を貶めることで

 相対的に自分の地位を向上しようとしているのだ


 勇者さんは気のない素振りをしているが

 狐娘の教育には熱心である


勇者「コニタ、みっともないわよ。あなたは、あなたに出来ることを誇りなさい」


狐娘「うぅ~……」


勇者「あら、反抗的ね。良いことだわ」


 狐娘はお面をかぶっているから

 頬をつまむ代わりに耳をつまんだ


 傍目からだと、いちゃついているようにしか見えない


 さて、ここで一行の隊列を解説しておこう


 まず黒雲号に乗った勇者さんと狐娘

 豆芝さんは黒雲号のとなりを歩いている


 足元に不安があるため

 黒雲号の横を歩いている巫女さんが

 土魔法で一帯の土壌を支配


 本人は何の気なしにこなしているが

 子狸に同じことをやれと言っても知恵熱で倒れること請け合いだ

 さして消耗している様子もないし

 おれは真剣に巫女さんをスカウトしようかと思っている

 具体的には子狸の二軍落ちを検討中だ


 子狸と生贄さんには先行してもらい

 一行の進路を確保してもらっている


 これまで勇者一行が踏破してきた道のりは

 ある程度、先行きが保証されたものだったが

 今回は違う


 ふだんは人が立ち入らない領域だ


 行き止まりにぶつかって

 出戻りになる事態だけは避けたい


 体力の消耗もさることながら

 動物たちをいたずらに刺激してしまう


 とくに勇者さんはアニマル的な観点から言って

 おいしそうな人なので注意を要するだろう

 自然界は厳しいのだ


 したがって、生贄さんを除いた巫女班の側近4名は

 巫女さんと勇者さんを中心に前後左右を固めている

 正確には卍の陣ということになる


 盾魔法で鉄壁の陣を敷きながら進むという案もあったが

 そんなものはどうにでもなるという意見があったため却下された


 じっさい、ほぼ例外なく開放レベル3を修めている特装騎士が

 レベル2のひとたちに敗れ去ったという事例は多い


 ……最初に異変に気付いたのは、やはり生贄さんだった

 子狸を連れて本隊に戻ってきた彼女が、巫女さんに報告する


生贄「いつもの道を進んでいるはずなのですが……見覚えのない光景です」

 

巫女「……闇魔法か」


 発光魔法で出来ることは

 たいてい遮光魔法で再現できる

 もちろん風景を差し替えることも可能だ


 ところが子狸は違うのだと言う


 お馬さんたちを撫でながらポンポコは語った


子狸「いいや、結界だね。おれの鼻は誤魔化せないぜ」


 つまり匂いに不自然な点はないと言いたいらしい


 こう言っては何だが、じつに二軍っぽい特技である


 嗅覚の鋭さをアピールする子狸に

 さりげなく年頃の女の子たちが距離を置いた


 子狸の貴重な意見に、巫女さんがしかめっ面でうなった


巫女「うむむ……結界か。王種の付近には原種がいるという話を聞いたことがある……」


 結界と言えばおれだが、可愛い可愛い妖精以外にも結界を使える魔物はいる

 有名どころを挙げるとすれば、空中回廊に出没する“原種”と呼ばれるお前らだ


 ひとことで言えば、隠しダンジョンの猛者である


 悩む巫女さんに、勇者さんが提案した


勇者「わたしなら結界を破れるかもしれないわ」


 しかし巫女さんは首を横に振った


巫女「魔法もそうだけど、認識できないものに退魔性は働かないよ。……リンちゃん、どうかな? 継ぎ目とかわからない?」


おれ「うーん……やってみます! ノロくん、手伝って下さい」


子狸「よしきた」


 悪いが、この程度の結界は造作もなく突破できる


 おれは空間支配のプロフェッショナルだからな


 おい。青いの。なんで邪魔するんだ?



六九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 そうだな、包み隠さず話すなら……


 緑のひとの挙動が不審すぎて不安になってきた



七0、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 そっ、そんなことねーよ!



七一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 そわそわしてんじゃねーよ!


 ちょっ、手! 手が震えてる!

 ティーカップに紅茶っていうか、それもうテーブルに注いでるから!


 おちつけ! おれが時間稼ぎしてくるから!



七二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 う、うん……



七三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 やはりこうなったか……



七四、管理人だよ


 緑のひとは緊張しぃだなぁ……


 おれを見習ってはどうかね?



七五、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 お前は全編を通してアドリブでしょ!?


 おれには立場ってものがあるの!


 ああ、どうしよう……


 責任が重くのしかかってくるよ



七六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 責任? 少し勇者さんとお喋りしてもらうだけじゃないか


 おれたちもフォローするし、何を恐れることがあるんだ?



七七、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 え? だって、大きいのが……



七八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ま た お 前 か


 こら! でっかいの! なんで緑のひとをいじめるんだ!



七九、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 おれよりも人気があるっぽいのが気に入らない



八0、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん

 

 だめだな。更正の余地がないっぽい


 そんなお前も嫌いじゃないけど……



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