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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
死霊魔哭斬だと……? byアリアパパ
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「王種降臨」part2

三五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 でっかいのが遠ざかっていき

 豆粒みたいになっても

 子狸以外の人たちは息を殺して

 無事を祈り続けることしかできない


 完全に見えなくなるまでは安心できないからだ


 その理由を端的に述べるならば

 開放レベル5の魔法を詠唱破棄した場合

 実質的なレベルは2になる


 つまりチェンジリングで対抗することは不可能なのだ


 いや、理由は別にあるのかもしれない……

 街をつぶしてリフレッシュを促すのはレベル4のひとたちの仕事だ

 レベル5のひとたちが人里を襲撃することはない

 だから魔☆力は、都市級と呼ばれる魔王軍幹部の固有スキルということになっている


 では、ここでお前らに問題です


 人間たちは、どうあがいても王種には敵わないと認識しています

 それは、いったいどうしてなのか?


 回答者は挙手を願います


 はい! 緑のん! 緑のん早かった! さすが本人ですね



三六、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 ……今朝、出勤するとき、やたらと犬が吠えてたから?



三七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 うーん……


 お犬さんは関係ないですね~


 そもそも、われわれは基本的に無味無臭なので

 動物たちからしてみると動くオブジェという扱いなんですね 


 残念。外れです


 はい、次に早かったのは火口のん! チームブルーを代表してお願いします!



三八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 ……猫? ふだんは愛想のないにゃんこが、その日に限っては甘えてきた?



三九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 アニマルは関係ねえっつう話ですよ


 動物たちからは離れて下さい


 おっと、管理人さんが何か言いたそうにしてますね

 少し意見をうかがってみましょう


 子狸さん、どうでしょう? ばしっと答えてやって下さい



四0、管理人だよ


 猫さんは犬さんみたいに吠えないよね。不思議なんだぜ



四一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 あ、ふつうに会話するのやめてもらえます?


 猫さんは群れを作らないので

 大声で鳴く必要はあんまりないのですよ


 ……てっふぃー? てっふぃーは、こういうとき参加して来ないね

 なに? 恥ずかしいの? どうなの?



四二、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 開放レベル5なら、広域殲滅魔法の詠唱をスキップできるからな

 そりゃ無理だろ


 おれガイガーは去っていった


 しかし子狸の横にはステルスした青いのが常時張り付いていて

 ときどき、いらんちょっかいを出してくる

 手拭いで絞られて漉されればいいのに

 あんこみたいに


勇者「…………」


 勇者さんは何か考え事をしているようだ


巫女「ええと……」


 王種登場の衝撃から逸早く立ち直った巫女さんが

 硬直している面々をきょろきょろと見回している

 そして彼女は見た


巫女「……あ!」


 子狸のフードが脱げていた


 巫女さんが振り返る前に

 彼女の袖を引っ張った側近の一人が叫んだ


??「同志シャルロット、離れて!」


 敵意に燃える瞳が子狸を見据えていた


??「まさか生きていたなんて……ポンポコデーモン!」


子狸「おれをその名で呼ぶのは誰だ!?」


 子狸の反応は素早かった


 かすかに腰をひねり

 その反動でぐるりと上体をひねる

 わずかに開き、腰の高さでキープした前足がポイントだ


 子狸の目が見開いた


子狸「げえっ!? お、お前は……!」


 洗練されたリアクションである


 巫女さんを庇うように踏み出した人物は

 かつて緑のひとが実施した生贄☆大作戦で

 完璧な生贄っぷりと評された少女であった


 われわれが子狸を隔離していたのは

 彼女と子狸を遭遇させないよう気を遣っていたからだ


 元生贄の少女が子狸に言葉の矢を突き立てる


生贄「あなただけは許さない! ここで決着をつける!」


 もともと子狸が生贄☆大作戦に投下されたのは

 彼女に緑のひとの家から脱出してもらうためである


 一度は心を許しただけに

 じつは黒幕だったポンポコデーモンへの隔意は大きい

 裏切り者と罵られた子狸は三日ほど立ち直れなかった


 しかし、それも過去の話だ


 子狸は猫背になると

 前足を上下に開いて大蛇の構えをとった


 さんざん勇者さんの剣術がどうこうと文句を垂れていた骨どもは

 けっきょく余計なものしか残していかなかったようである


 子狸があざ笑った


子狸「はっはァーッ! ディンゴに助けを請うだけの娘が、よくぞ吠えたものだな!」


生贄「言いましたね……! あのときのわたしとは違いますよ!」


 子狸さんが止まらない

 このポンポコには、他人の空似でしらを切ろうという発想がないのか


 このまま放っておいたらどうなるのか見ものではあるが……


子狸&生贄「…………」


 距離が――


 距離が半端だ。余っている


 これを狙ってやったとすれば

 たしかに生贄さんは以前の彼女とは違う


 絶妙の間合いだった


 魔法には詠唱が必須だから

 接近戦に持ち込むか否かが個人の感性に委ねられる距離というものがある


 これがそうだ


 上がるか下がるか……

 おそらく、最初の一歩で、雌雄が決する

 挽回はないだろう


 いまにもファイナルバトルへと突入しそうな二人に

 巫女さんが仲裁に入った

 生贄さんの肩に手を置いて


巫女「おちついて」


生贄「!」


 生贄さんが気を取られた一瞬を子狸は見逃さなかった

 とん、と地面を蹴ってひと息で距離を詰める


子狸「アバドン!」


 迫る前足を巫女さんが左腕で払った


子狸「ぬっ!?」


巫女「ドミニオン!」


 子狸の服の袖を右手で掴み

 勢いよく引き下げると同時に腰を落として反転する


 とっさに踏ん張ろうとする子狸の後ろ足を

 跳ね上がった巫女さんの足が刈り取った


 ――狸車だと!?



四三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 注釈


・狸車


 土魔法で土壌を操作し、相手の重心を崩すことで成立する投げ技


 座標起点という縛りがあるため、身体を密着させた状態からでしか優位を発揮できないという特徴がある


 土魔法の平和利用を目指して羽のひとが考案し、子狸に伝授したポンポコ格闘術の一つである



四四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


巫女「さあっ!」


 身体ごと巻き込んだ狸車が炸裂した


子狸「おふっ!」


 地面に叩きつけられた子狸に巫女さんの体重がのしかかる


 土魔法で土壌を柔らかくしていたようで

 さほど深刻なダメージでもない


 しかし子狸は澄みきった眼差しで青空を見つめて


子狸「……強ぇな」


 敗北を認めた


 巫女さんは子狸を投げ飛ばした姿勢のまま

 ちょっと引いている生贄さんに言った


巫女「確証はないけど、別人だと思うんだ。だって、ほら、羽が生えてないだろ?」


 あらかじめ生贄さんから話を聞いていたのだろう


 ポンポコデーモンには漆黒の翼とふさふさの尻尾が生えていたのである

 もちろん、おれたちからの贈り物だ


生贄「でも……」


 生贄さんは納得していないようだが

 わずかに自信が揺らいでいる様子である

 あとひと押し


巫女「リシアちゃんもそう思うよね?」


 離れたところで見学している勇者さんが頷いた


勇者「仮に本人だったとしても、悪気はなかったと思うわ。手口が稚拙すぎるもの」


 なんてことを言うんだ


 おれたちの苦労を知らないから

 勇者さんはそんなことを言えるんだ…… 



四五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 だから、あのとき心理操作しとけって言ったじゃねーか


 子狸=ポンポコデーモンという図式がバレると

 おれたちの関与が疑われるぞ



四六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 そんなこと言ったって仕方ないだろーが


 子狸さんが失恋してブロークンハートしてたから

 それどころじゃなかったんだよ



四七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 仕方ねーなぁ……


 ちょっとフォローしてやるよ


おれ「あのぉ……」


巫女「なんだい、可愛い妖精さん」


 相変わらずキャラが定まらない子だな……


 なんだかジゴロっぽいことを口走る巫女さんに

 おれは生返事をしてから続けた


おれ「魔物がノロくんに化けても不自然じゃないと思いますよ。なんだか魔物たちと縁があるらしいので」


生贄「……そうですか」


 ふらふらと歩み寄ってきた生贄さんが

 おれの頬を人差し指でつついた


 ちょっ、やめれ


生贄「……同志シャルロット。なんですか、この生き物は。可愛いです」


 くそが、巨大生物め

 お前らが思ってるよりも、お前らに触られるのは怖いんだぞ……


巫女「ああ、この島には妖精がいないからね」


生贄「妖精ですか……」


おれ「リンカー・ベルと言います。つっつかないで」


 とりあえず、子狸と生贄さんの確執については

 おれの可愛らしさに免じて

 いったん水に流してもらった


 お前らは、おれを褒め称えろ

 とくに子狸

 


四八、管理人だよ


 嫌がるお前も可愛いぜ



四九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 しね


 とにかく出発することになった


 巫女一味は定期的に緑のひとの家に通っているらしく

 道案内はお手のものだ


 このあたりの森には

 魔物以外にも猛獣たちが暮らしているから

 同行者が増えるのは双方にとっても悪い話ではない


 豆芝さんに歩み寄ろうとする子狸を

 ふたたび勇者さんが制止した


勇者「待って。あなたは先頭に立って敵襲に備えてもらいたいの」


子狸「おれもそうしようと思っていたところだ」


 同様に、巫女一味からは生贄さんが露払いを務めることになった

 この島で生まれ育った彼女には土地勘があるし

 森の動物たちにも詳しい

 当然の判断であると言えた


 しいて苦言を呈すなら

 ツートップの人間関係が出発前から軋轢を生じている点だろうか


 巫女さんが小声で勇者さんに意見を求めた


巫女「どうする? 隊列を変える?」


勇者「いいえ、予定通り……このまま行きましょう。大人数で移動するとき怖いのは安心感よ。自分は安全だと思う……それがいちばん怖い。心配なくらいでちょうどいいわ」


 おれは統率が乱れるほうが怖いと思うが……

 勇者さんの考えは異なるようだ


 彼女は、おそらく巫女一味を信用していない


 反対に巫女さんはどうだろうか?

 彼女は、勇者さんのことを気に入っているように見える

 表面上なものかもしれないが……


巫女「みんな、危なくなったら同志ポンポコに頼るんだよ! 男の子ですし! よろしく」


 朗らかに笑うこの少女が豊穣の巫女だ


 公然と貴族社会に反発し

 家々を焼く

 リンドール・テイマアの再来とも言われる女の子は

 愛嬌たっぷりに微笑んだ


子狸「クリスくん……まわりは女の子ばっかりだよ……こんなときに君がいてくれたら……」


 子狸は異常な男女比率を嘆いていた


 十人中じつに九人が女子である

 

 ここまで来ると、さすがに喜びよりも孤独感が先立つらしかった



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