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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
死霊魔哭斬だと……? byアリアパパ
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「王種降臨」part1

一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おはようございます、お前ら


 朝ですよ~



二、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 久しぶりにまじ説教されたわ


 おれ、そういうキャラじゃねーのに……



三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 子狸があんなんなったのは誰のせいとか言われても知らねーよ……


 気付いたらこうなってたんだよ……



四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 だったらそう言ってやればよかったじゃねーか……


 だいたい、お屋形さまの血を引いてるんだから大丈夫とか

 強硬に主張してたのは人型のひとたちなんだけどな……


 おれは、なんかおかしいなと思ってたんだよ

 はいはい一つ取っても

 お屋形さまはもっと知性にあふれてたもん……



五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 嘘を吐けよ


 お前、人型のひとたちと一緒に動画を比較検証して

 将来有望だ~とか騒いでたじゃねーか……


 いまだから言うけど

 はいはいなんざ、どこの子も一緒だよ……

 変わんねーって……



六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中

 

 朝からぐだぐだしてんなぁ……


 ほら、しゃきっとして!


 われらが勇者一行は、いよいよ緑のひとの家に向けて出発するみたいだぞ!



七、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 まじでぇ~?


 なんかもうだるいわぁ……


 明日にしてくんない?



八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なんでわざわざ軟禁生活続行だよ!?


 もう決まったことなの! うだうだ言わない!



九、管理人だよ


 お前ら、おはよう


 あのさ、なんか勇者さんがまたおかしなことを……



一0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 え? そういう認識?



一一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 まあ、勇者さんがいつも正しいとも限らん


 ……そうだな。たまにはいいだろう

 ちょっとお前、おれたちに状況を説明してみろ



一二、管理人だよ


 おう!


 いや、コニタがさぁ……

 いつも同じ服を着てるわけよ


 そりゃあ、バリエってやればすぐに乾くけど

 ……ん? なんでだ? いや、よくわからんが

 おれが乾かしてるのね


 仕方ないから予定変更して

 おニューの服を作ってあげようと思ったのさ

 決意したと言ってもいい

 決意を秘めたね。固く

 

 で、せっかくだから驚かせてやろうと思って

 どんな服が欲しいか訊いたのよ


 いや、違うな。違った

 身体測定しようって言ったんだ

 王都のひとが服をNGワードにしてたからさ

 他に言いようがなかったのね

 

 あれ、違うな。なんか違う……

 あ、思い出した

 身体測定はあれだわ

 コニタがどれくらい走れるのか知りたくて

 おれ、師匠だからね


 そしたら羽のひとに殴られた


 事情を話したら

 勇者さんが、それは身体測定じゃないって言うの

 不思議だよなぁ……


 おしまい



一三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 ……え?



一四、管理人だよ


 え?



一五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ……無理か



一六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 ああ、無理だな



一七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 いささか子狸には荷が重かったか……


 王都の、頼むわ



一八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おう


 まず、子狸が言ってたのは一週間前の出来事だ


 言い聞かせても無駄だと思って

 物理的に禁句を拘束したんだけど

 意地でも服って言おうとするもんだから

 しんじゃいそうで怖くなって解禁したのね


 狐娘はいらないって言ったんだけど

 もう本人の意思とか無関係になってたから

 子狸さんは夜なべして

 寝間着バージョンの黒装束をプレゼントしました


 これで、この件はおしまい


 ちなみに身体測定な

 子狸の中で、体力検定とごっちゃになってるみたいだ

 

 まあ、子狸の場合は

 年間を通して教官がちまちまと測ってたから

 知らなくても無理はないね


 測れるときに測るのが鉄則だから

 バウマフ家の場合


 まず趣旨を理解してねーし

 異種格闘技戦か何かと勘違いしてる


 さて、話を戻すが

 勇者さんは緑のひとに何か用事があるご様子……


 日帰りすることを考えたら

 早朝に出発したほうがいい


 さすがに昨夜は夜間特訓を自重したもんだから

 子狸は夜も明けないうちに活動をはじめて

 テントの中で踊ってた


 放っておくと夜行性になるから

 今後とも夜間特訓は実施していきたいと思う


 踊るポンポコはいったん放置して

 巫女さん含む四人娘はテントの外へ


 朝の身支度を済ませた四人が戻り

 ダンシング子狸にエサを与える


 昨晩のなべの残り物を簡単に調理したものだった


 食後、勇者さんは子狸を呼び寄せた

 これから出発するにあたって

 諸注意事項を言い含めておく必要があったからだ


 彼女は言った


勇者「まず、勝手にどこか行かないこと」

 

子狸「そんな、幼児じゃあるまいし……」


 鋭い見識を述べる子狸さんに

 勇者さんが続けて言う


勇者「わたしの言うことをきちんと聞いて、わからないことがあったら言いなさい」

 

子狸「大丈夫だ。やれる」


 謎の信頼は健在だ。絶対の自信をにじませる子狸

 対する、勇者さんの決意は悲壮ですらあった


勇者「最悪の場合……首輪をつけることになるわ。覚悟だけはしておいて頂戴」


子狸「時代の波には、抗えんか……」


 どんなにそれが悲しいことでも

 受け入れなければならない日が、きっと来る


 いかにも無念そうに天井を仰ぐ子狸であった……


勇者「…………」


 珍しく会話が成立している

 欲が出たか? 勇者さんは一つ予定を繰り上げた


 丸めた布を子狸に差し出して


勇者「はい、あげる」


子狸「……?」


 受け取る子狸


 広げてみると

 フード付きのマントだった


勇者「着てみて」


子狸「…………」


 着てみた


 大きなマントだ

 ためしにフードをかぶってみると

 なんだか王室直属の暗殺部隊みたいになってる

 いや、知らんけど


子狸「…………」


 無言で佇むアサシンポンポコ


妖精「怖っ」


 羽のひとが率直な感想を述べた


 巫女さんもあとに続く


巫女「……思ったよりもひでぇな……」


子狸「…………」


 すっ、と子狸が巫女さんのほうを向いて

 心ないコメンテーターを

 フードの奥からじっと見つめる


 謎に包まれている子狸の生態だが

 長年の調査が実を結び

 幾つかの習性は判明している


 フードをかぶると大人しくなるのだ


 すっかり大人しくなった子狸に

 勇者さんが事務的に質問を浴びせていく


勇者「気分はどう?」


子狸「……静かだな、ここは」


勇者「しばらくの間、その格好でいてね。忘れ物はない?」


 子狸は少し悩んでから

 ためらいがちに言った


子狸「過去を」


 いつものことじゃねーか……


 まあ、たしかに子狸からしてみると

 不思議に思えるかもしれない


 おれたちがポンポコ相談教室を内々で推し進めているうちに

 勇者さんは巫女さんとの打ち合わせを終えたようだ


 ……狐娘が妙に大人しい


 なんだ? 何かあるのか?

 耳に手を当てて、うんうんと頷いている


狐娘「! アレイシアンさま!」


 狐娘が勇者さんに飛びついた


 テントの外が騒がしい


 巫女さんが叫んだ


巫女「伏せて!」


 その直後、一瞬でテントが決壊した


 野外に晒された面々を

 びゅうと突風が叩いた

 

子狸「……来たか」


 知ったかぶる子狸が

 フードを前足で押さえて

 かすかに上を向く

 

 その視線の先に、巨大な人影が浮かび上がっていた


 やりやがった……



一九、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 き、貴様……


 まさか!?



二0、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 そのまさかだよ


 緑のぉ……


 おめーの出番、ねーから!



二一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 まさかの王種出張である


 周辺の大気全体が

 静電気を帯びていた


 勇者一行と巫女一味が

 上空の巨影を唖然と見上げる……

 それ以外に何ができよう


 見てくれは泥人形だが

 本性というものがなく

 近場の土砂で巨体を形成したものだ


 舞い上がった砂が

 徐々に手足を成していく


 それらが派手な音を立てて

 胴体とドッキングしはじめた


 要所で変形する意味がわからない

 

 不必要なまでに腰をひねり

 こぶしを突き上げる

 無駄に躍動感あふれたアクションだ


 垂れ流しのエネルギーが

 雷光と化して全身をほとばしっている

 

 主題歌まで流れはじめた

 やりたい放題である

 


二二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 熱く~燃える~♪



二三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 命の~たぎり~♪



二四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 悪を~砕けと~♪



二五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 心が~吠える~♪



二六、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 おれたちの~愛と勇気の~♪



二七、管理人だよ


 の、の、の~♪



二八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


(溜め)



二九、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 魔 装 合 体 !


おれ「お れ ガ イ ガ ー !」


 ぱおーん



三0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前、そんな名前じゃねーだろ


 頭上で輝く光の輪っかが

 一定の周期でつま先まで降りて

 また戻ってくる

 そのたびに耳障りな音を立てている


 合体して見得を切ったガイガーとか言うひとに

 子狸と羽のひとが喝采を上げた


子狸&妖精「おれガイガー! おれガイガー!」


 それ以外の人たちは

 無言で見上げるばかりだ 


 ふわふわと空中を浮遊しているガイガーとやらが

 突き出したこぶしをゆっくりとおろした



三一、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 ふう……


 じゃ、帰るわ



三二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 え、帰るの?



三三、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 うん



三四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 反転して飛び去っていくおれガイガーに

 子狸が大きく前足を振った


子狸「ありがとう! おれガイガー!」


 おれガイガーは振り返らない


 誰かに感謝されることを望んでしまったら

 心に刻んだあの日の正義が

 色褪せてしまうとわかっているからだ


 彼が振り返るとしたら

 それは

 果てなき戦いが終わりを告げた日なのだろう

 

ガイガー「さらばだ、子供たちよ!」


 かくして、おれガイガーは去っていった


 何をしに来たのかはさっぱりわからないが

 なんだか清々しい気分だ


 ありがとう、おれガイガー



 登場人物紹介


・巨人兵さん


 緑のひとを差し置いて登場したレベル5。王種と呼ばれる最高峰の魔物、ファイブスターズの一角である。古代遺跡在住。

 他の魔物たちからは「大きいひと」「でっかいの」と呼ばれることが多い。

 設定上、魔獣種が束になっても敵わないとされる存在だ。

 これという決まった形態を持たず、水と土を自在に操ることで巨体を維持する。そのため破損してもすぐに再生できるし、同レベル以上の魔法でしかダメージを与えられない。

 お洒落ポイントは頭上の輪っか。譲れない部分であるらしい。

 さいきん人間たちに人気がある緑のひとをライバル視しているふしがあり、人前に姿を現しては、真・おれレボリューション(可変合体機構)を披露して去っていくという地道な活動を行っているようだ。

 しかし時代を先取りしすぎた感があり、人間たちにはいっさい理解を示してもらえない悲劇の戦士。その名も「おれガイガー」。

 たまに謎の覆面戦士の愛機として登場することがある。一方で復活した古代文明の超兵器であったりもするので、両者があいまみえた場合は一人二役をこなす器用なひとである。

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