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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
ふむふむ……ほほう……by大きいひと
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「豊穣の巫女」part3

二七九、管理人だよ


 バレた……!


 ……とでも言うと思ったか?



二八0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんぞ?



二八一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんぞ?



二八二、管理人だよ


 以前のおれとは違うということだ……


 この程度のことは想定内さ


 とっておきの秘策があるんだ



二八三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 おお……



二八四、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 おお……



二八五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 とうとう子狸が本気を出す日がやって来たのか……?


 勇者さんに指摘されて

 いったんは驚いてみせた子狸だが

 すぐにおちつきを取り戻して

 ふっ……と鼻で笑った


子狸「ふふ……ふははははっ!」


 高笑いがさまになっている

 いつでも悪の幹部になれるよう特訓した成果だった


妖精「の、ノロくん……?」


 哄笑を上げる子狸に

 羽のひとは戸惑いを隠せない


勇者「…………」


 心なし目元を険しくした勇者さんに

 子狸は言った

 勝利を確信した笑みだった


子狸「証拠は? おれが土魔法を使えるという証拠はあるのか?」


 証拠の提示を求める時点で……


 秘策とは何だったのか



二八六、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 残念。これは残念



二八七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 じつに残念……



二八八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 残念だなぁ……



二八九、管理人だよ


 お前らは、そうやってしょっちゅう残念がるけど

 おれの深遠な……


 ……深遠?


 深遠だよ



二九0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 もう深遠が残念……


 深遠。形容動詞。奥深くて簡単には理解できないこと。“深遠な~”という使い方をする


 勝ち誇る子狸


 勇者さんは提案した


勇者「……ドミニオンって十回言ってみて」


子狸「ドミニオンドミニオンドミニオン(以下略)」


勇者「土魔法のスペルは?」


子狸「ドミニオン!」


勇者「これあげる」


 そう言って勇者さんが差し出したのは

 非常食の魔どんぐりだった


 受け取った子狸が魔どんぐりを掲げる


子狸「ドミニオン!」


 巫女さんは土魔法で魔改造の実を兵器みたいにしてしまうが

 おれたちの子狸さんはそんなことしない


 みなぎる魔どんぐり


 子狸の手を離れて

 ふわりと浮遊すると

 一度、かすかに揺れて

 柔らかな光があふれだした


 秘薬の原材料にもなる魔改造の実は

 未解明な部分も多いが

 抽出できる成分は種によって異なる


子狸「嗚呼……」

 

 虹どんぐりの威光に打たれて

 子狸がせつなく鳴いた


子狸「あなたが、神か」


勇者&妖精&狐娘「…………」



二九一、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 魔どんぐりの中に神を見た子狸

 一方その頃……


 第一ゲート付近の森の中で

 倒れ伏した騎士たちが苦しそうにうめいていた


 かろうじて意識を保っている騎士Aに

 おれは歩み寄り

 足で背中を踏みつけにした


おれ「弱すぎる。騎士の質もだいぶ落ちたな」


 天才的な魔法使いと言えば

 知名度も手伝って豊穣の巫女が有名だが


 本来的に連結魔法は大人になれば

 たいていの人間が同じ頂に到達できる


 そこから、さらに先

 魔法をいかに効果的に運用していくかを追求していったのが

 特装騎士と呼ばれる人間たちだ


 同じ騎士ではあるが

 チェンジリング☆ハイパーを修めた純正の騎士とは

 まったく方向性が異なり

 いかなる状況にも対応できるよう訓練された

 個人技のスペシャリストたちである

 

おれ「この程度の人間がトクソウとは」


 おれB~Dも嘆いている


おれB「おぉ……おぉ……」


 頭を抱えて苦悶のうめき声を漏らすばかりだ

 丸まった背がびくびくと蠕動していた


 あれ、なんか違うな、これ


 折り畳み式ヘルの後遺症に苦しむ同胞たちを

 いまはそっとしておこうと思う

 

騎士A「っ……!」


 罵倒を浴びせるおれを

 騎士Aが首をひねって肩越しに睨んだ


 義憤に燃える目をしている


 自分たちが正しいと

 盲目的に信じきっている人間の目だ


おれ「いい目だ」


 おれは騎士Aの頭を掴んで

 乱暴に地面に押しつけた


おれ「ここはおれらの庭みたいなもんだ。裏を掻けると思ってんじゃねーぞ……」


 騎士たちの戦士としての全盛期は

 二十代後半から三十代半ばと言われている


 物事に例外はつきものだから

 中には早熟な者もいるが……


 この騎士たちはそうではない

 まだ駆け出しの若い騎士ばかりだ


おれ「誰に言われて……と訊いたところで無駄だろうな」


騎士A「なに……?」


 ここ一年ほど騎士団の暴走が相次いでいる

 裏で糸を引いているのは、おそらく王国貴族だろう


 帝国、連合国と連動していることから

 もしかしたらアリア家以外の大貴族かもしれない

 

 彼らはバウマフ家ほどではないにせよ

 おれたちの事情に通じている


 最終的に自分たちが勝つとわかっているから

 無謀な作戦を実行に移せるのだ


 何かを試しているのか? それとも……


 現時点では何とも言えない


おれ「……いずれにせよ、一歩遅かったな。おら、見ろ」


 子狸さんが眠っている間に

 すっかり日が暮れてしまった


 腐っても特装騎士ということか

 だいぶ手こずった


 やぶの向こうには大きな沼地がある


 ぽっかりと浮かんだ月の下

 点々とした林の一つが

 ざわざわと揺れた


 静かだ

 

 先ほどまで

 ひっきりなしに飛んでいた砲火と怒号が

 ぴたりとやんでいた


騎士A「……!」


 騎士Aの目が見開いた


 黒々とした人影が

 林を突き破って立ち上がるさまを見たのだ


 今しがた、ひと仕事終えたかのような仕草だった


 細長い手足に長大な尾……

 人間のシルエットに近いが

 その全身は強靭な鱗で覆われている


 月明かりに照らされて

 鱗のひとが勝利の雄叫びを上げた


 おーん……


 狼さんの遠吠えに似ていた


 騎士Aの身体がわなわなと震えている

 それは恐怖だ

 

騎士A「全、滅……」


 信じられない

 信じたくないといった様子である


 だが事実だ


 先行した実働部隊は

 鱗のひとの手によって全滅した


 どれだけ頭数を揃えようと

 中隊長がいなければ話にならない


 おれはあざ笑った


おれ「出直してこい。何度でも。そのたびに叩きつぶしてやる」


 騎士Aの首筋に手刀を落として

 おれは夜空に浮かぶ月を眺めた


 あの月に、いつか……



二九二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 相変わらず、いい鱗してやがる



二九三、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 よせよ、照れるだろ……


 お前の鱗もなかなかのもんだぜ



二九四、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 鱗トークやめろ



二九五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 じゃあ骨について語ろうぜ



二九六、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん


 おい。なにをこそこそと一服してんだ。働け


 

二九七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 牛さん牛さん



二九八、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん


 なんだよ。忙しいんだよ。いいから働け



二九九、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 あのね、おれたちが忙しいのは

 牛さんが人間と似てるからだと思うの


 ためしに牛さんの比率をぐぐっと上げてみたらどうかな?


 牛魔人だモゥ~みたいな☆


 

三00、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん


 あ?



三0一、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 いえ、何でもないっす。忘れてください



三0二、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 抵抗もむなしく連れ去られていく骨であった

 子牛みたいに



三0三、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 ちょっと~。牛のひと、あんまり骨っちを手荒に扱わないでよね


 鎖骨とか案外もろいんだから



三0四、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん


 わかったよ。気をつける


 鎖骨ね……



三0五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 子狸、がんばれよ


 おれもがんばる


 お互い……強く生きような



三0六、管理人だよ


 おう!


 あれ? もうひとりは?



三0七、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 おじいちゃんと決闘してるよ



三0八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ただでさえ忙しいのに

 グランド狸が足を引っ張るのか……



三0九、管理人だよ


 きっと、おじいちゃんには何か考えがあるんだよ



三一0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ポンポコどもの庇い合いほど

 見ていて虚しいものはないな……


 さて、勇者さんの追及は

 巫女さんが戻ってきたことで打ち切りになった


 本日の晩ごはんはなべである


 隙をついてテントを抜け出そうとする子狸を

 巫女さんが押しとどめた


巫女「じっとしてて。馬の世話はわたしたちがやるから」


子狸「黒雲号は人見知りするんだよ。豆芝はそうでもないけど……」


勇者「でも暴れたりはしないわ。魔物たちも動物を襲うことはしない」

 

 反論する子狸に、勇者さんが冷静な意見を述べた

 巫女さんも同意する


巫女「だよね~。この中にいれば安全だし、わざわざ出て行くことないよ」


 あきらかに口裏を合わせている


 巫女さんの主張に共鳴した人々は

 彼女の命で世界各地に散っているが

 この島には五人の側近を連れてきている

 その全てが女性だ


 男女間のいさかいを避けるためだろう


 勇者一行が羽を休めているテントは

 遮光性の盾魔法で構築された開放レベル3の堅陣だ


 つまりレベル2以下の魔物が

 これを突破するのは容易ではない


 巫女さんは勇者一行と一緒になべを囲んだ


 子狸は、まだ納得していないようだったが

 明日からは馬小屋で一緒に寝ればいいと説得されて

 いちおうは納得した


子狸「豆芝はね、友情の証として託されたんだ」


 記憶が美化されていた


 久しぶりの再会だったので

 子狸と巫女さんは盛り上がっている


巫女「学校は辞めたの? 退学?」


子狸「まさか。世界を見て回ろうと思って」


巫女「そうなの? リシアちゃんはディンゴに会いに来たって言ってたけど」


 ディンゴというのは緑のひとのことだ


 もともとは悪魔の化身とされていたので

 ディーンとか呼ばれていたのだが

 社会への貢献を認められて呼称が変更したのである


 勇者さんの目的を聞いて

 子狸は意外に思ったようだ


子狸「そうなの?」


勇者「…………」


 勇者さんは黙々となべをつついている


 代わりに狐娘が口を開いた


狐娘「ごはんを食べてるときくらい黙れないのか」


子狸「ごはんは楽しく食べるものだよ」


 反抗期の娘さんがいる食事風景のようだった


 食後も勇者さんは口を閉ざしたままである


 子狸はぴんと来ていないようだが

 勇者さんは自分の身分を隠していて

 緑のひとに会いに行くというのも

 勇者として用事があるからだろう


 話せるわけがない


 日が落ちてから外を出歩くのは危険だ

 食後、勇者一行は明日に備えて早めに寝る……べきなのだが


妖精「もっと早く!」


 少し目を離した隙に

 羽のひとがトレーニングを開始していた


狐娘「こう?」


妖精「遅い! 反応を上げて!」


 狐娘が生成した人型の標的を

 羽のひとのこぶしが次々と粉砕していく


 変化魔法で動かしているようだが

 いま一つ反応がにぶい


子狸「下がれ。お前のテクニックで彼女を満足させることはできない」


 狐娘を押しのけて

 子狸が羽のひとと向かい合った


妖精「選手交代ですか。……ちょうど身体が温まってきたところです」


子狸「おれはコニタほど甘くはないぞ」


狐娘「呼び捨てにするな」


勇者「…………」


 勇者さんは少し離れたところで三人を眺めている


 一方、巫女さんの子狸規制は徹底していた

 お風呂はどうするのかと思って見ていたら

 水を張った手桶を持ってきて


巫女「これで」


子狸「なんと……」


 女性陣がお風呂に行っている間に

 テントの中で何とかしろということである


子狸「うおおおおっ! ポーラレイいぃぃっ!」


 何とかしました 



 登場人物紹介


・トカゲさん


 人間が徒党を組んで倒せる限界と言われる、レベル3の一人。獣人種。

 骨格は人間に近しいものの、は虫類を彷彿とさせる外観をしている。空のひとに匹敵する巨体の持ち主だ。

 他の魔物たちからは「鱗のひと」と呼ばれる。

 人間たちからは「メノッドロコ」と呼ばれることが多い。

 強靭な鱗で全身を覆っていて、魔物たちの中でも屈指のタフネスぶりを誇る。

 硬い、速い、強いと三拍子揃っていて、およそ非の打ちどころがない正統派のファイターである。

 泥の上に寝転んでごろごろするのが好き。

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