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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
幽霊船? そんなものは迷信に決まっとる! by船長
80/240

「ありあけ、つづき」

一、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 アリア家は大金持ちだ

 世界屈指の大富豪と言っても良い


 国民が汗水を垂らして稼いだお金は

 最終的に大貴族の懐におさまる

 王国とはそういう国だ


 快適さを追求したアンティークの数々……

 

 アリア家の人間は無駄を嫌うが

 様式美を解さないようでは

 貴族社会では無礼にあたる


 豪華な応接間だった


 ガラス張りのテーブルを挟んで

 一人の男が

 対面のソファに腰掛けている


 アリア家の首魁

 アリアパパこと

 アーライト・アジェステ・アリアだ


 鋭い眼光をしている


 王国のと連合国のの共謀により

 ソファの真ん中に座らされた

 おれ涙目


 アリアパパが言った


アリアパパ「あれの剣を打つと言うのか」


 低い声だった

 完全にラスボス級の威圧感がある

 どういうことなの


 おかしいよ、この家……

 どうかしてる


 アリアパパが

 静かに凄んだ


アリアパパ「魔物の、お前たちが」


 護衛はいない


 たびたび勇者さんがそうしてきたように

 アリア家の人間は

 まず自分たちを不利な立場に置く


 ひとの本質は

 優位に立ったときに表れると信じているからだ


 アリアパパも同様の手口で

 おれたちの命を値踏みしている

 命を……量っている


 バウマフ家の人間とは

 だから根本的に考え方が異なっている

 並び立たない


 アリアパパの問い掛けに 

 おれを生贄に差し出した王国のが

 代表して頷いた


王国「そうだ」


 自分はあーちゃんの凶眼に晒されないからと

 呑気なものである

 しねばいいのに


王国「悪い話ではないはずだ。お前たち人間が失った技術を、おれたちは保有している」


 連合のが追随した

 お前もしね


連合「お嬢さんの剣は見せてもらった。いい剣だ。使い手のことをよく考えてある。だが、シビアに見れば、まだまだ改良の余地はある」


 アリアパパは身じろぎ一つせず

 おれを凝視し続けている

 ……いや、睨んでいる

 なんなの、これ


アリアパパ「たしかにそのようだな」


 アリアパパは認めた


 訪問販売と称して

 おれたちが持参した剣は

 現行の技術を大きく凌駕している


 メイドさんにつかまって

 ある種の乗馬訓練を施されたのは想定外だったが

 一定の成果を発揮してくれたようだ


 いつか見ていろ

 おれの母国、帝国がいつの日か

 世界のてっぺんをとる


 続きます


 追伸

 子狸さん、留年おめでとうございます



二、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 なんでお前らは仲良くできないんだ


 母国でもねーし


 小人と言うわりにはでっかいのが

 アリア家の当主と面談している頃


 子狸留年確定の報が

 またたく間にこきゅーとすを席巻した


 激震、こきゅーとす


 本流が氾濫して使いものにならなくなったため

 おれたちは避難所の支流に逃れてきたところである 


 生贄として本流に置き去りにしてきた子狸は

 世界各地に散った分身たちの傀儡と化している


子狸「感謝だ。大切なのは感謝だと思う……ありがとう」


 感謝の精神に目覚めた子狸はともかくとして

 小さなポンポコに連行されてきた狐面の女の子が

 子狸の背中に隠れてもじもじしていた


狐面「…………」


 借りてきた猫のようである


 甲板に上がってきた二人を見て

 勇者さんが席を立った


勇者「コニタ」


 それが狐面の名前であるらしかった


 意地でも子狸の名前を呼ばない勇者さんが

 彼女の名を明かしたということは

 身内であることの証左のように思える

 あるいは……


 名前を呼ばれて感極まったか

 狐面が子狸の前足をひねり上げて

 勇者さんに近付いていく


子狸「なんだこれ、痛ぇ。でも感謝だ。感謝を忘れてはならない」


狐面「アレイシアンさま……」


 不安と期待に揺れる声が

 お面の中でくぐもって聞こえた


 構わず近寄る勇者さんが

 片手をかすかに揺らすと

 その手に光が灯って

 一瞬で刀身を形成した


 彼女は言った


勇者「仕事は見つかったの?」


 親の庇護が必要な年齢でもなく

 また学生でもなく

 そして定職に就かない人間を

 ひとは無職と呼ぶのだ


狐面「…………」


 狐面が沈黙した

 

 その間も、感謝を叫び続ける子狸を

 ぐいぐいと後ろから押している


狐面「……波の音でなにを言ったのかよく……」


 彼女は聞こえなかったふりをした


 勇者さんが繰り返した


勇者「仕事は」


狐面「……マフマフ。わたしは忍だとアレイシアンさまに伝えて」


子狸「しのびか。それもまた感謝だ」


 無職が高じると忍になれるらしかった


 何者かの指示によるものだろう

 子狸が勇者さんに言った


子狸「お嬢」


勇者「なに」


子狸「職業に貴賎はない」


勇者「無職でしょ」


子狸「笑顔だよ」


 前足を極められながら

 子狸がにっこりと笑った


 だから何だというのか


子狸「感謝だ」


 けっきょくそれか


 だめだ、このポンポコは使いものにならない


 狐面もそれを察したか

 子狸を甲板に組み伏せて言う


狐面「余計なことを言うな。わたしのことはお頭と呼べ」


子狸「ふっ、それは出来ない相談だな」


 勇者さんの目の前で

 二人は密談をはじめた


狐面「あなどるな。わたしはお前よりもずっとアレイシアンさまのことを知っている」


子狸「なんだと……?」


狐面「これを見ろ。パル」


 狐面が発光魔法で再現したのは

 年端も行かない小さな女の子が

 きちんと椅子に座っている画像だった


 面影がある

 勇者さんのメモリアルに違いなかった 


勇者「…………」


 しかし子狸は不敵に笑った


子狸「その程度か」


狐面「なに……?」


子狸「つたない魔法だ。学ぶべきことは多いぞ……手本を見せてやる。パル・シエル・ブラウド!」


 子狸の魔法の腕は

 いつまで経っても

 どれだけ鍛えても二流の域を出ない


 だが、それはおれたちの勘違いだったらしい


 子狸が空間に投影したのは

 勇者さんの立体映像だった

 実物の五分の一ほどの大きさだ


 二人の見ている前で

 映像化した勇者さんが

 くるりとターンして

 おはよう、と言った


 おそろしく高度な魔法だった


 どうだ? と得意満面の笑みでポンポコ


子狸「目覚ましお嬢だ」


 時限式の魔法は

 減衰の対象になる


 人間が扱える魔法は開放レベル3が限度だから

 この目覚まし勇者さんとやらを

 子狸は定刻に起床して詠唱せねばならない


 つまり無意味な

 それでいて高難度という

 こけの一念を要する技術だった


 狐面が悔しげに言う


狐面「なんというクォリティ……」


 それはつまり負けを認めたということだ


勇者「…………」


 勇者さんは無言で二人を見下ろしている



三、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 目覚まし勇者さんが

 本人の手で灰燼に帰した

 一方その頃……


 応接間に立ちこめた重苦しい沈黙を切り裂いて

 あーちゃんが不意に言った


アリアパパ「五分やる」


帝国「……ん?」


 母国と同じで

 なにかと因果を背負う宿命にある帝国のが

 にぶい反応を返した


 アリアパパは

 帝国のんの挙動をつぶさに観察し続けている


アリアパパ「五分だ。俺の目の届く範囲でなら何をしても構わん」


 自分を説得してみろということなのか?


 ……おれたちは

 さもアリア家にメリットしかないと聞こえるよう話したが

 当然ながらリスクはある


アリアパパ「お前たちの要望どおり、あれが使っていた剣は破片に至るまで回収してある」


 そう言ってアリアパパは

 犬歯を剥き出しにして笑った


 飢えた獣を思わせる

 獰猛な笑みだった


 ぐっと身を乗り出して

 囁くように言う


アリアパパ「だが、こうしてお前たちとの会談の場を設けたことで、俺が背負ったリスクは決して低くない……。わかるな?」


 かつて勇者さんは

 アリア家の感情制御を評して

 健全な感情の働きを損なうものだと言った


 しかし極限まで突き詰めれば

 嬉しいという感情や

 楽しいと感じる気持ちも

 自在にコントロールできる


 それがアリア家に伝わる異能だ


 脅しともとれるアリアパパの発言を受けて

 王国のが言った


王国「……見返りか?」


 しかしアリアパパは

 にやっと笑っただけで

 矛をおさめた


アリアパパ「わかっているならいい。その点に関しては、お前たちが考えることではない。だから五分やると……こう言っている」


 おれたちの情熱が

 どれほどのものか知りたいということなのか?


 だが……


おれ「待て。一つだけはっきりさせたい。お前は、おれたちの善意を疑っているのか?」


アリアパパ「善意など」


 アリアパパが喉の奥で低く笑った


アリアパパ「いいや、信じている。どちらでもいいことだ……。十秒、無駄にしたな」


 ! こいつ、まさか……

 こきゅーとすの存在に勘付いているのか!?


 いや、たとえそうだったとしても……



四、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 勇者さんが親衛隊を名乗る少女と再会し

 鬼のひとたちが宴会芸を強要されている

 一方その頃


 五人の騎馬隊が

 ひそかに王都を発った


 そして早くもおれに絡まれていた


 ちーっす


おれ「騎士どもが雁首そろえてお出掛けですか、そうですか。どちらへ?」


 騎士たちが騒然とした


騎士A「ご、五秒だと……?」


騎士B「まさか、こんなことが……」


 全身を覆う白銀の甲冑は

 王国騎士団の代名詞でもある


 どの国でもそうだが

 騎士たちは状況に応じて武装を変えるものだ


 彼らが身にまとっている重武装は

 騎馬戦を想定した制式の装備だった


 四人の騎士がお馬さんの手綱を操り

 一人の騎士の四方を固めた


 中央の騎士が言った

 老人の、しわがれた声だった


老騎士「だから言っただろ。おれ言ったよな? 影武者とか意味ねーんだよ」


 手馴れた仕草で

 兜の留め具を外した老騎士が

 他の騎士たちの制止を無視し

 素顔を晒してお馬さんを降りる


 長い年月を生きた戦士の顔だった


老騎士「おれがいて、お前がいる。それだけだ。そうだろうがよ、違うかよ。違わねーだろ……なあ、青いの」


 大隊長

 ジョン・ネウシス・ジョンコネリの出陣だった


おれ「いちだんと老けたね、お前さん」


大将「うるさいよ、ばか!」


おれ「ばかと言うほうがばかなんだよ」


大将「ばーか、ばーか!」


 この語彙が少ないおじいちゃんを


 敬意をこめて

 おれたちは大将と

 そう呼んでいる



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