表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
おれたちと鞭の遭遇率はちょっと異常……by子狸&鬼のひとたち
69/240

「おれたちの船出」part1

四八七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 というわけで


 歩くひとの逆鱗に触れたコピーたちは

 四人つるんで王都に旅立って行ったとさ


 めでたしめでたし



四八八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 めでたくはねーな



四八九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 事情はわかった


 わかったが……


 ひとつだけ訊きたい


 どうして、鬼のひとたち救出部隊に選出されたのが

 おれたちなんだ?



四九0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 納得の行く説明をもらいたい



四九一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 まあ聞け


 この話には続きがあってだな……


 ひとしきり吠えたあと

 役目を終えた水の巨人は

 とぷんと海水に戻ったわけだが


 おれは少し勇者さんと話してみたかった

 せっかくの機会だったからな


 なかなか話しかけてくれなかったから

 スイングの調整をしたりして

 気さくな精霊を演出したわけよ


おれ「ふむ……ちとスライスしたか……」


 

四九二、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 嘘を吐けよ


 お前、ステルス解いてたの忘れてただけだろ


 さも忙しいふりして

 ときどき子狸で遊んでるの知ってんだぞ


 勇者さんの死角に回りこんで

 猛虎の構えとかするのやめろ



四九三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 必要ならそうするさ



四九四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 それも!


 受け答えよりも

 自分が言ってみたい台詞を優先するのやめろ!


 子狸か!



四九五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸じゃねーよ!



四九六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 その応酬やめろ!


 いつか子狸と同じこと言いそうで不安になるんだよ……



四九七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 うん。そうだね


 とにかく

 あきらかにひまを持て余してるふうの精霊に

 勇者さんは意を決して話しかけたのさ


勇者「……あなたは、もしかして海の精霊なの?」


王都「えっ……あ、うん」


 リアクションがおかしかったな

 確実に油断してた


 水の精霊とか言ってたのに

 認めちゃったし


 自分でも気付いたんだろうな

 すぐに訂正してた


王都「まあ、あれだ。あれ、うん。いまはそう、海の精霊」


勇者「…………」


妖精「水の精霊は流されやすいというか……けっこう適当なところがあるんです」


 羽のひとのフォローが光る


 この頃には、ジョーA改めノーマルジョーが展開し直した

 魔法の桟橋に黒雲号は復帰してた


 はしゃぎすぎて幽霊船の甲板から落っこちた子狸を

 ジョーたちが懸命に救出作業を行ってたな


 魔法の桟橋を

 とことことマイペースで歩きはじめた黒雲号の上で

 勇者さんは気を取り直して言った


勇者「あなたは、王種の庇護を受けているの?」


 自然と遠ざかる精霊


王都「あなたは宝剣の所持者ですね」


 黒妖精さんが最高位の存在とか言っていたので

 精霊は自らのディティールにこだわった


王都「答えましょう。そのとおりです、人間の子よ」


勇者「……そう。魔軍元帥は、光の精霊が人間の味方をしていると言ったわ。あなたは違うの?」


王都「光は二面性を持つもの。わたしはそうではない」


勇者「だから魔物たちの側につくと?」


王都「その質問には答えられない。あなたは、王種とは何なのか、その問いに対する答えを持たない」


 黒雲号が甲板に辿りついた


 ジョーたちに一本釣りされた子狸が

 うざったいテンションで勇者さんに駆け寄る


子狸「お嬢~!」


勇者「リン」


妖精「はい」


 羽のひとが子狸の迎撃にあたる


妖精「しぇあっ!」


子狸「ぬうっ……!」


 子狸のひざが揺れる


アイアン「ロー効いてるよ! ロー!」


シルバー「ガード、ガード! ガード下げんな! イイのもらったら終わるぞ!」


ゴールド「足使え! 足! インファイトに付き合うな!」


 勇者さんは続けた


勇者「では、人間に味方をすることはあり得る?」


 精霊は答えた


王都「わからない。あなたたちは、自分たちよりも高位の存在と手を取り合うことができない。おそらくできないと……わたしは考えている」


 これは王都のの本音だろう……


勇者「…………」


 勇者さんは答えられなかった



四九八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや。状況しだいじゃねーか?



四九九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 ちょっ……


 ひでえ! お前、勇者さんめちゃくちゃ悩んでたぞ!?


 じゃあ、これもそうなの!?


王都「あなたたちの本質は停滞にある。文明の先に、生物としての発展はない。衰えるばかりだ」


 ちょっと感心したんだけど! まじで!



五00、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 まじで?


 ごめん。たんなる思いつきだわ


 もう勇者さんに警戒されちゃってるから

 おれも次善策を練らねーとな


 お前らは協力してくれないし


 勇者さんの意識を改革しようかと思ってんのよ、いま



五0一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 おお、前向きだな


 具体的な案はあるのか?



五0二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 猫耳とか?



五0三、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 意識は?


 というか、やめて。おれとキャラがかぶる



五0四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 かぶってもないだろ


 王都のひとの薄っぺらい質問に

 勇者さんは答えるすべを持たなかった


 いやらしい質問をさせたら

 この青いのの右に出るものはいない


 ひざに来ている子狸が

 二人の会話に割りこんだ


子狸「ちがう! そんなことない!」


 子狸は人間の可能性を信じているようだった


子狸「学年一の美少女に、ちょっと冴えない男の子が好かれることだってあるはずだッ!」


 もうちょっとましな比喩はなかったものか……


おれ「ねーよ。夢見んな」


 もう眠れ


 おれの右が一閃し……


 子狸の手のひらから乾いた音がした


おれ「なっ……!?」


 う、受け止めやがった……


金&銀&鉄「肉球ガードだ!?」


子狸「え!?」


金&銀&鉄「え!?」


子狸「いや、うん。……え?」


金&銀&鉄「え? ああ……」


子狸「うむ……」


金&銀&鉄「うむ……」


 あいまいな同意に至る子狸と骨


 精霊が見上げると

 夜の帳が落ちた海上で

 おれの輝く燐粉がひときわ目を引いた


 つまり、おれシャイニング


 ほのかに照らされた子狸が

 一縷の希望のようにも見えた


王都「ちがう……と。どのように証明しますか?」


子狸「……え?」


 気のせいだった


子狸「あ、うん。つまり……悪魔の証明というやつだな……」


 合っているような合っていないような……


勇者「悪魔の証明?」


 勇者さんが食いついた


 子狸が受けた教育は

 現代の水準を完全に飛び越えたものだ


 子狸は、ふっと微笑した


子狸「つのかな」


 ぜんぜん違った


 悪魔の証明

 悪魔の実在を否定することはできないように

 存在しないということを証明するのは困難を極めるということだ


 つのは関係ない


勇者「……そう」


 勇者さんは納得していないようだったが

 意識の片隅には留めておこうという感じの反応だった


 彼女の未来ある知性が

 子狸ライブラリーに毒されないことを祈るばかりだ


王都「!」


 最初に気が付いたのは精霊だった


 水の巨人がそうしたように

 とぷんと海中に潜る


 次に反応したのがジョーたち


 豆芝さんが甲板に辿りつくと同時に

 ノーマルジョーが鞍から飛び降りて

 幽霊船の船首にこん棒を向けた


 三種のジョーと共に子狸の前後左右を固める


 舳先の向こう

 暗闇の先に

 黒騎士が立っていた


 盾魔法を足場にしている

 その肩に黒妖精が舞い降りたことで

 くっきりと輪郭が浮かび上がる


 緊迫が走った


 遠目に見える

 海面にぷかりと浮かぶ

 巨大ひよこの腹が……丸い


 肥えている


 予想以上だ!



五0五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 放っておいてくれ


 むかしは、もっとしゅっとしてたんだけどな……


 二番の影響なんかな? よくわからん……



五0六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや、むかしからそうだったと思う……


 でも、たまに……


 正直。……あれ? って思うことはある


 空のひとと言えば、速い! っていう印象があるから

 たぶんそのせいじゃないかと……



五0七、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 いや、そんなはずはない


 本当のおれは長身痩躯なんだ


 ひよこと言うよりは、かもめ


 かもめと言うよりは、うみねこ

 

 からあげと言うよりは……しめさば



五0八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 そのこだわり、ちょっとおれにはわからないな……


 ふたたび対峙する

 勇者一行と黒騎士


 ジョーたちに詠唱破棄は通用しない


 だが、魔王軍最高峰の魔法使いに対して

 その特性がどこまで信頼に値するものなのか……


 無言の応酬が一分ほど続いたあと

 

 やがて黒騎士が重々しく口を開いた


庭園B「詫びんぞ」


 ジョーたちに向けられた言葉だった


庭園B「敵対するなら容赦はしない……が、気が済んだら戻ってこい」


 とっさにノーマルジョーが言った


ノーマル「元帥殿は……どうされるのですか?」


 問われて、黒騎士は波間に揺れる毛玉を見下ろした


庭園B「あれが目覚めたら帰るとしよう。ゲームは……お前たちの勝ちだ」


 そう言って、水平線の向こうに浮かぶ月を眺める


庭園B「……力の一端を引き出したのは見事だった。次に会うときは……」


 右手に魔火の剣が燃える


 それを握りつぶすような仕草をすると

 宙を舞った火の粉が十数本の剣となって

 黒騎士を守護するように囲った


庭園B「この程度のことは、こなせるようになっておけ」


子狸「……ああ」


 いや、お前には言ってないよ?


勇者「…………」


 台詞をとられた勇者さんが

 子狸の頬をつまんで引っ張った


 じつによく伸びる


 ……というわけだ



五0八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 はいはい、何の説明にもなってませんね



五0九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さしたる理由はないんだろ?


 もう言っちゃえよ



五一0、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 お前らが泣き叫ぶ姿を見たい



五一一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ありがとう、お前ら

 気を遣ってくれたんだね……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ