「都市級が港町を襲撃するようです」part13
四0六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
お勤めご苦労さまです
四0七、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
お勤めご苦労さまです
四0八、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
お勤めご苦労さまです
四0九、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
おう。お前ら、ちょっと見ない間に……
あれ? おい。お前らコピーか?
なんだ? どうなってる?
四一0、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
上流から出直してこい
四一一、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん
そしてそのまま河底に沈め
四一二、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
おれは前から疑問に感じていた
あなたたち人型のひとたちは
なんでそう例外なく毒舌なのですか
四一三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
お前には、おれの優しさが伝わっていないようだな……
四一四、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん
悪いことは言わん
牛のひとのところに帰れ
さもなくば、尾頭つきの鯛みたいにされるぞ
四一五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
なにそれ。想像を絶してる……
いやいや、おれはべつに牛さんとか怖くないからね?
だけど、羽のひとがおれを心配してくれてるのはよくわかった
その心意気を汲んで、おれのことは海燕のジョーと呼んでくれ
四一六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おい、ジョー
今回は子狸の味方をするのか?
いったいどういう風の吹き回しだ?
四一七、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
おい、ジョー
出て来ちまったものは仕方ない
うまく合わせろよ?
四一八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
振り返った子狸が、ぱっと喜色を浮かべた
子狸「……! 骨のひと!」
骸骨「お前の声が聞こえた」
夕陽を背に
砂地を踏むジョーの足取りに迷いはない
海燕のジョーは魔軍☆元帥の部下ということになっている
空のひとが首をねじって
背中の黒騎士を非難の眼差しで見た
黒騎士が言う
庭園B「なんのつもりだ」
決して大きな声ではなかった
しかし押し殺した感情が
抑えきれなかった怒気が
うねりを帯びて大気を震わせた
魔物たちの鋭敏な感覚は
人間よりも野生動物のそれに近い
ジョーが言った
骸骨「戦いに殉じるならそれもいい」
歩きながら
腰につり下げたこん棒を手に取り
感触を確かめるように
一度、虚空を薙いだ
骸骨「けど、捨て駒にされたとあっちゃあ、散っていった連中が浮かばれんでしょうよ!」
こん棒を強く握りしめ、かすかに上半身を倒す
たわんだひざに力がこもる
足元の砂が後方に弾けた
骸骨「小僧! 波打ち際まで走れ!」
低く
水面を切るように駆けるジョー
まさしく飛燕だ
子狸「おう!」
応じた子狸が、空のひとに背を向けて駆け出す
ひよこ「逃がすと思うてか!」
魔獣の眼力が子狸をとらえようとした
まさにそのとき
妖精「二度目は! ない!」
馬上の勇者さんを追い抜いて猛進した羽のひとが
マジカル☆ミサイルを空のひとの足元に撃ち込んだ
高速で撃ち込まれた光弾が大量の砂を巻き上げる
視界を塞がれて機を逸した空のひとの目が怒りに染まった
上空の妖精を睨む
ひよこ「愚か者め!」
羽のひとは10ポイントだ
たしかに軽率な行動だったかもしれない
だが、理屈ではなかった
目には見えない魔☆力の波動は
ときおり亡者の手にたとえられることもある
地獄へといざなう冥界の招き手だ
地上から押し寄せる魔☆力の網に
羽のひとは急降下して自ら距離を詰める
瞬く間の出来事だった
妖精「ッ……!」
空のひとの魔☆力には一定の指向性がある
視界に入れることが前提条件なのだ
魔法の最高速は処理速度の限界でもある
魔☆力とて例外ではない
急速で旋回した羽のひとが
魔☆力を振りきって空のひとに肉薄する
妖精「シューティング☆スター!」
いや、それおれボムだよね?
全方位に放たれる光のつぶてだ
羽のひと最強の手札であり、至近距離で撃つと多段ヒットする
光の散弾をまともに浴びて、空のひとがのけぞった
妖精「これならっ……!」
ひよこ「これなら?」
にやりと口元をひん曲げた空のひとが
ぐんと首を前方に突き出した
ひよこ「これなら……どうだというのだ? こそばゆいぞ、虫けらが」
間近に迫った巨鳥のつぶらな瞳は
身体の小さな羽のひとにとって姿見の鏡ほどもある
ひよこ「追い払ってくれようか。人間が……羽虫にそうするように」
びくりと震えて硬直した羽のひとに
黒妖精の叱咤が飛んだ
コアラ「しっかりなさい、リンカー・ベル!」
妖精「っ……」
我に返った羽のひとが
素早く身をひるがえして子狸を追う
ふたたび首をねじった空のひとが
気だるそうに口を開いた
ひよこ「……お前はどちらの味方なのだ……。まあ良い」
正面を向く
遠ざかる羽のひとを見つめる瞳が
驚くほど慈愛に満ちていた
ひよこ「まとめて18ポイントというのも……。悪くない、な……」
四一九、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
唐突なジョーの登場に
勇者さんは察するところがあったらしい
手綱を操り、黒雲号の進路をわずかにずらしていた
逸早く子狸と合流した豆芝さんに
子狸が飛びつくのが見えた
子狸「豆芝!」
羽のひとは値千金の時間を稼いでくれた
同時に流れ弾が何発か子狸に直撃していた
波打ち際へ向かって先行する勇者さんが
指笛を鳴らした
その音に反応した豆芝さんが
黒雲号のあとを追う
離脱してきた羽のひとが
子狸の肩にとまった
ざんざんと砂を蹴って駆け寄る海燕のジョーと
豆芝さんの首につかまった子狸がすれ違う
その間際
子狸「エラルド!」
子狸の詠唱と
ひよこ「ケェッ!」
空のひとの咆哮は
ほとんど同時だった
四二0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
風の壁が
高速で迫って来る
これも圧縮弾だ
魔物が魔物を撃つとき
魔法の応酬はもっとも実現性を帯びる
質量をともなった突風が
海燕のジョーを一瞬で粉砕した
サイドステップを踏んだジョーが
豆芝さんと子狸をかばったのだ
子狸は振り返らなかった
投げ出されたこん棒を
身を乗り出して拾い上げる
そして後方に投げた
こん棒は無傷だった
52年モデルだ
海燕のジョーの
駆ける足が
躍動する胴が
振り上げた腕が
明日を夢見る頭蓋が
ばらばらと音を立てて再生する
ひよこ「なん……だと?」
空のひとが目を剥いた
詠唱破棄された魔法は
実質的なレベルを剥ぎ取られる
開放レベル4の魔法ならば
レベル1と同じ扱いになる
設定上、開放レベル1の魔法で
レベル2の魔物を倒すことはできない
とりわけ海燕のジョーは
詠唱破棄がまったく通用しない存在なのだ
放物線を描いて舞う52年モデルを
天に届けと突き出された指が
はっしと掴んだ
骸骨「おれは自由だぁぁーっ!」
魂の叫びであった……
四二一、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
ときに、空のひとの圧縮弾は
海燕のジョー、渾身のトリックを打ち破ることに成功していた
波打ち際に
忽然とジョーの集団が現れた
波間に揺れる
年代物の帆船は
つい先ほどまで見られなかった光景だった
ぼろぼろの帆に
いまにも沈みそうな外観の船体
幽霊船だ
闇魔法で光の屈折を操作して
風景に溶け込ませていたらしい
発光魔法と遮光魔法は
本質的に同じものだから
こうした芸当もできる
一足先に波打ち際に到着した勇者さんと
ジョーたちの目があった
骸骨B「よう、嬢ちゃん! 乗ってくか?」
勇者「わたし、どこで道を踏み外したのかしら……」
他に道がないとはいえ、勇者さんは忸怩たる思いだろう
ジョーたちが一斉にこん棒を装備した
骸骨C「碇を上げろ! 出航だ!」
骸骨D「海だ!」
骸骨E「自由だ!」
盛り上がるジョーたち
四二二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
一方その頃、子狸は珍しく活躍していた。地味に
子狸「チク・タク・ディグ!」
いま、子狸は直前に詠唱した深化魔法の影響下にある
暴れ狂う圧縮弾が、砂地を抉って飛翔していく
巻き込んだ砂が渦を巻き
まるで砂嵐のような有様だった
空のひとは迫る砂嵐を
苛立たしげに翼でひと打ち
力尽くで叩きつぶした
魔法の働きは消せても
舞い上がった砂を消すことはできない
遠く、先ほどの子供たちが船に駆け込むのが見えた
子狸「骨のひと!」
骸骨A「おう! 後退するぞ!」
空のひとは当てずっぽうに投射魔法を撃つが
砂塵を貫いて飛来した浸食魔法を
海燕のジョーが華麗に52年モデルで打ち落とす
骸骨A「……? ちっ、やられた。上だ!」
視界が悪くて狙いが定まらないなら
先ほどのように突風でまとめて吹き飛ばしてしまえばいいのだ
それをしないということは
視界の悪さを逆に利用しているということだ
ジョーの足止めをしている投射魔法は
角度を捻じ曲げて発射地点を錯覚させるためのものだった
砂塵が届かない澄みきった上空を
空のひとが悠々と羽ばたいている
立派なたてがみが風にそよいでいた
四二三、管理人だよ
おれにもいつか生えるのかな
四二四、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
いや、ありえないだろ
将来、お屋形さまみたいになるんじゃなかったのか
四二五、管理人だよ
え?
四二六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
え?
四二七、管理人だよ
あ、うん
四二八、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
え? なんなの、いまの納得するまでの時間差……
と、とにかくだな……
子狸! 急げ! やつはジェット・ボーン号を沈める気だ!
四二九、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
沈めさせて頂きます
注釈
・幽霊船
魔物たちが駆る船。メインクルーは骨のひとと見えるひと。
骨のひとは「ジェット・ボーン号」と呼ぶが、見えるひとは「ジェット・ゲイザー号」と呼ぶ。
呼ぶひとによって名前が変わるという先進的なシステムを採用。
古式ゆかしい帆船だが、見た目を重視しているため帆は機能していない。
船底部に大きな歯車が横倒しに設置してあり、これを数人がかりで回すのだが、それ自体に意味はない。
では、どうやって動くのかというと、ステルスして巨大化した骨のひとが船を手の上に乗せて海底を歩いている。
この幽霊船の主な役割は海の監視である。
人間たちの船が沈んだりすると、海洋生物にとって迷惑なので、難破船の救助等を率先して行う。
繰り返すが、メインクルーは骨のひとと見えるひとである。