「都市級が港町を襲撃するようです」part11
三三0、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
なるほど
魔軍☆元帥は勇者さんを泳がせておきたい
空のひとはせっかくのおもちゃを手放したくない
悪くない流れだ
三三一、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
だが、具体的な案はあるのか?
三三二、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
なに言ってんだ
それをいまからお前らが考えるんだよ
三三三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
出たとこ勝負かよ!
あ~……念のために確認するんだが
お前らは勇者さんをいったいどうしたいんだ?
着地はどう考えてる?
三三四、管理人だよ
しあわせな家庭を築けたらと
三三五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
お前はだまってろ
三三六、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん
煮込むぞ
三三七、管理人だよ
望むところだ
三三八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
そこの青いの~
ちょっとなべ持ってきて、なべ
三三九、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん
今夜はごちそうだな
三四0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
こらこら
喧嘩するのはやめなさい
まったくもう……いつまで経っても子供なんだから……
三四一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
はっはっは。まあまあ母さん
喧嘩するほど仲が良いと言うじゃないか
三四二、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
ばぶー
三四三、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
お前も乗っかるの!?
お前が乗っかっちゃだめでしょ!
というか子狸が混ざると……
おい、変な間が空いてる!
三四四、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
子狸におれたちのような高速レスポンスは望むべくもない
だが、千年だ
千年の月日が
バウマフ家と共に歩んだ
果てしないツッコミの毎日が
おれたちを強くした
影に扮した火口のとかまくらのが
空白を埋めるように
さりげなく
本体の黒騎士にすり寄る
もともと魔軍☆元帥とは赤の他人の予定だったから
かつてはなかった能力に整合性を与える必要があった
空のひとが感嘆の吐息を漏らした
ひよこ「だいぶ魔界で力をつけたようだな」
庭園「いいや、地上で学んだことだ。少しコツがあってな」
べつだん誇るでもない黒騎士に
空のひとはさも愉快そうに巨躯を揺すった
ひよこ「技……か? 変わらぬな。たまに人間じみたところがある」
二人のやりとりを
勇者さんは無言で見守る
魔物同士の意見が対立しているなら
それを利用しない手はない
空のひとの物言いに
むっとした様子で黒妖精が口を挟む
コアラ「あなたはジェルの部下なんでしょう? 言うに事欠いて人間じみたとは……」
ひよこ「妖精ごときが、このおれに指図をするのか。焼き鳥になりたいか」
コアラ「焼き鳥にはなれないだろ。共食いか」
ひよこ「だが……思い上がるな。お前にはその資格すらない」
コアラ「なに言ってんだ、このトリ……」
まったく噛み合わない二人が
言い争いをはじめる
お前ら、いまだ!
三四五、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
うむ、さすが司令
まずはあれだ、勇者さんには当初の予定通り
港町を脱出してもらわないと困る
子狸バスターは今回のノルマをすでに達成した
ここはシンプルに鬼ごっこというのはどうか
三四六、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
逃がすだけならそれで構わんが……
問題は空のひとをどう絡ませるかだな
バスターと勇者さんの利害は一致している
ここまではいい
だが、単純な追いかけっこで空のひとが負けるのは不自然だ
何かしらの縛りは必要だろうな
子狸を使うか?
三四七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸がレベル4にいったい何をできるっていうんだ
いや、そうか
ポイント制だ
子狸を捕獲したら3……いや5ポイント獲得できることにしよう
勇者さんよりも高得点なら
空のひとは子狸を追わざるを得ない
どうだ?
三四八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
言うまでもないことだが……
もちろんおれは子狸よりも高得点なんだろうな?
三四九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
もちろんですよ
じゃあ、羽のひとは10ポイントということで……
三五0、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
10ポイント!?
おい。それ、たとえばおれが羽のひとをつかまえても適用されるのか?
三五一、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
そう。そこ大事よ
三五二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
当たり前だろ?
なんのためのポイント制だと思ってるんだ?
公平を期すためだろうが
三五三、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
10ポイントと聞いては黙ってられないな……
おれも参加するぜ
三五四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
なんでだよ。だめに決まってるだろ
三五五、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん
じゃあおれは?
三五六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
いや、逆に訊きてーよ
緑のひとがだめで
自分は参加できると思った根拠はなんなの?
三五七、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん
ちっ……
三五八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
ちっ……
三五九、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
おれは……
勇者さんが逃げきったら5ポイント獲得ということでいいんだな?
三六0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
当たり前のように水増しすんな
1ポイントはやる。それで我慢しろ
三六一、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
ちっ……しみったれてやがる
三六二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
あ?
ちっ……まあいい
子狸は空のひとに魔法を当てたら
一発につき1ポイントくれてやる
寛大なおれに感謝しろ
三六三、管理人だよ
ボーナスステージというわけか
よかろう……!
勝負だ、お前ら!
三六四、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
おい。待て、お前ら
そのルールだと、おれはどうやってポイントを獲得するんだ?
歩くのもきついんだぞ
三六五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
そうじゃねーだろ
どう考えても勇者さんと子狸は逃げきれない
スタートには時間差を設ける。それでいいな?
停泊所までお馬さんの脚なら6、7分といったところか……
時間差は5分でいいか?
三六六、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
異議なし
三六七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
異議なし
三六八、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん
異議なし
三六九、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
よし。じゃあ勇者さんにルール説明するわ
三七0、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
説明中……
三七一、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
説明中……
三七二、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
説明終了
じゅうぶんに吟味してから
勇者さんは言った
勇者「まったく意味がわからない」
ですよね
さもあらんと頷く子狸さん
子狸「やはりね……」
靴のつまさきで地面を擦るように
勢いよく振り返り
空のひとを見つめる
真剣な眼差しだった
子狸「お嬢は3ポイントにしよう。どうだ?」
ひよこ「ふん、吠えよるわ、こわっぱが……」
空のひとの眼光が
ぎらりと鋭さを増した
ぐっと前のめりになって
威圧するように子狸を睨みつける
ひよこ「いいだろう……」
その瞳には
絶対の自信が宿っていた
両者の視線が
複雑に絡み合った糸のように交錯し
やがて、どちらからともなくほつれた
互いに背を向けた二人が
同時に吠えた
子狸&ひよこ「勝つのはおれだ」
かくして港町を舞台に
苛烈なポイント争奪戦が
いま、幕を開けようとしていた……
注釈
・ポイント
魔物たちがよく口にする謎の得点。累積するらしい。
この「ポイント」とやらを交換し合うことで、魔物たちは互いに交渉を有利に運ぶことができる。
でもべつにポイントがなくてもお願いすれば聞いてくれる。
もともとはバウマフ家の人間をうまくコントロールするための方便だったが、いつしか魔物たち自身も真剣に高得点を目指すようになった。
100ポイントたまると、達成者を称えるお祭りが開催される。
基本的には1ポイントずつしか入らないため、5ポイントというのは垂涎のまとである。
10ポイントともなれば……これはもう歴史的な偉業に匹敵する。