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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
おれたちは牛に屈さない……by骨のひとたち
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「都市級が港町を襲撃するようです」part10

二九五、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 え? いや、空のひとは何しに来たの? まじで



二九六、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 え? いや、だってラストダンジョンに戻ったら

 誰もいなかったから……

 子狸バスターも気になったし


 あ! やっぱり足回りがイカれてるじゃんか!


 丁寧に扱えって言ったでしょ! もー!


 言っとくけど素材を提供したのはおれだよ?


 壊したら本気で怒るからな



二九七、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 うーん……

 どうしたって関節部に負担が集中するんだよなー……


 たとえばの話だけど、もう一人いてくれたら……(ちらっ



二九八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 くどい


 おれは忙しいの


 お前らがハッスルしてるときに供給が止まったら

 勘のいい人間は気付くぞ



二九九、管理人だよ


 わかる


 お前らは海底のひとに頼りすぎてる



三00、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 おい。子狸


 おれの肩を持っても

 お前の初恋は実りませんよ



三0一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 あざとい


 この子狸あざとい



三0二、管理人だよ


 将を欲すれば魔人をおれアローという言葉もある



三0三、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 魔人は無関係だろ。そっとしておいてやれよ



三0四、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 しかも認めるのかよ


 勇者さんはどうした。諦めるのか?



三0五、管理人だよ


 え? なにが?



三0六、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さ(出張中


 覚えたてのことわざをニュアンスでねじ込むのやめなさいって言ってるでしょ!


 将を射んと欲すればまず馬を射よ


 目的を達成しようとするなら

 しかるべき手順を踏みなさいってことだ



三0七、管理人だよ


 それでおれに勝ったつもりか



三0八、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 あ?



三0九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 本当にコイツはどんどん生意気になるな……



三一0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 何やら盛り上がっているみたいですけど


 そろそろ話を先に進めてもよろしいか?



三一一、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 いつもすまないね……



三一二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 それは言わないって約束でしょ、おとっつぁん……


 巨体に見合わない静かな着陸は

 あたかも風を支配しているかのようだった


 赤く輝いた輪郭が

 目に差すほど強い


 優雅に降り立った巨鳥の背後

 肩の向こうに夕日が沈み

 色濃く落ちた影の中


 勇者の手でふたたび芽吹いた希望の

 なんと頼りないことか


 足元で灯った聖☆剣に

 一度は視線を移した空のひとだったが

 すぐに興味を失った


 上司に当たるはずの黒騎士を不遜に見下ろして


ひよこ「だから魔都を離れるなと言うたのに。物見遊山もけっこうだが……ああ、今年は梅雨の入りが遅いな。秋頃に響かねばいいが……」


 世間話をはじめた


 人間たちの評価はどうあれ

 レベル4……生粋の魔獣種は

 驚くほど人間に対して無関心だ


 都市級を撃退した勇者の偉業も

 人間たちからすれば語り草になる英雄譚だが

 魔物たちからすれば

 百年に一度、あるかないかの不運な事故だ


 魔王に忠誠を誓う都市級というのは

 じつは珍しい


 魔王軍に属してはいるが

 彼ら魔獣種をはじめとする最高峰の実力者たちは

 子供の授業参観に出席する保護者のようなもので


 どちらかと言えば

 同等の実力を持つ魔軍☆元帥にこそ敬意を払う


 魔王は必ずしも最強の兵ではない


 ひとは王よりも英雄に仕えたがる


 求められる資質が違うと知っていてもだ


 当の本人は面白くない


庭園「戦場で話すことではない」


ひよこ「戦場?」


 憮然として言い返した黒騎士に

 魔獣が首を傾げた


 その拍子に舞った羽毛が

 まぼろしみたいに

 薄く

 日差しに混ざって

 人の目には映らなくなる


ひよこ「戦場……まあ良い。良い、良い……。ここさいきんは、とんと王も見かけぬし、気晴らしにはな……」


庭園「見かけぬ、ではない。眠りについたのだと何度も言っているだろう」


ひよこ「ん? では……いつ起きる? おれは……少しひまだ」


 要領を得ない怪鳥に

 黒騎士は降参した


 この場で話すことではない


庭園「もういい。行くぞ」


ひよこ「行く……どこへ行かれる。ここは戦場だと、お前は言うたのに」


 思いのほか鋭い声だった


 空のひとが巨体をねじって

 つ、と勇者さんを見つめた


ひよこ「決着はついていないように……見えるが」


 かすかに目を細めると

 空のひとの瞳が怪しくきらめき

 聖☆剣を支える勇者さんの腕が

 ひとりでに持ち上がった


 魔☆力だ


 勇者さんの退魔性は相当なものだ

 しかし空のひとの魔☆力は

 黒騎士のそれとは性質が異なる


 人体ではなく

 物体に作用するのだ


勇者「っ……」


 服の袖に働きかけた魔☆力を

 勇者さんは即座に焼き切った


 魔獣の濃厚な気配にのまれて

 羽のひとは動けないでいた


ひよこ「ふうん……。これはまた、随分といびつな……。まあ……こういう人間は、たまにいる」


 空のひとが珍しく興味を惹かれた様子で

 巨躯を屈めた


ひよこ「珍しいと言えば……まあ珍しい。連れて帰ったら、ひまつぶしにはなるか……のぅ?」


 歴戦の勇士も震え上がるほどのプレッシャーだ


 都市級という組分けは

 人間たちから見た脅威の度合いを示したものだ


 魔軍☆元帥には、単独で騎士団を壊滅できるほどの魔法力がある

 しかし、かつて勇者との一騎討ちに敗れたように

 対個人に注げる力の上限は超人の域を出ない


 空のひとは、圧倒的大多数の人間を同時に制圧できる手段を持たないが

 一対一で勝てるかと問われれば……

 このひとの特性はスターズのそれに近い



三一三、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 あの……放置ですか?


 おれ、そろそろつらいんですけど。何キャラなの、これ?



三一四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや……


 もうてっきり今回はそういうキャラで行くのかと……


 

三一五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 せめて口調を統一してくれないか


 絡みづらい


 もう帰れよ



三一六、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 ていうか、どうしてわざわざ自分でハードル上げるの?


 これはもう……


 あとで羽毛布団を進呈してもらうしかないな……



三一七、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 やだ、毒舌が二倍増しになってる……


 子狸さん子狸さん


 お前だけが頼りです。ヘルプ!



三一八、管理人だよ


 その言葉を待っていた



三一九、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 子狸劇場の幕開けか……


 見下ろす魔獣に

 万に一つも勝ち目がないと悟っているのか

 勇者さんの手元で聖☆剣が不安定に揺れている


 退路は完全に絶たれた


 自在に空を駆ける魔獣から

 逃れるすべはない


子狸「お嬢! だめだ!」


 いつしか発光のおさまった子狸が

 勇者さんに駆け寄り

 彼女の腕を引っ張る


勇者「離しなさい」

 

 魔☆力を防げば戦えるという相手ではないからか

 勇者さんは子狸の手を振り払おうとする


 おれたちの子狸さんも

 たいがい貧弱なほうだが

 さすがに年下の女の子(インドア派)に負けるほどじゃない


 勇者さんを引っ張って

 お馬さんたちのほうに押しやる


ひよこ「ん~……?」


 小さな人間たちのやりとりを

 つまらなそうに見つめる空のひと


 子狸は言った


子狸「戦っても勝てない。こういうときは……頭を使うんだ」


 自信満々だった


 見上げるほどの巨体をびしっと指差し


子狸「料理対決だ!」


ひよこ「バウマフ家か」


 一瞬で看破された



三二0、管理人だよ


 くっ……こうなったら脱ぐしか



三二一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 アウトぉー!


 だめ! 絶対に脱いじゃだめ!


 たしかに根本的な解決になるけれども!


 命とハダカどっちみたいなところあるけれども!


 それでも! ひとには! 踏み越えちゃいけない一線ってあるんだよ!


 

三二0、管理人だよ


 命だろ!



三二一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 命だけど!


 てっ、庭園のぉー!



三二二、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 仕方ねーな……


おれ「勝手なことをするな」


ひよこ「そうさな……バウマフ家となると……いささか面倒ではある。……どうされる?」


 打てば響く


 まさしく阿吽の呼吸だ


おれ「お前はようはひまなのだろう? ならば、ひとつゲームをするというのはどうだ」


ひよこ「ふむ……内容によるな」



三二三、管理人だよ


 おれの言ったことと


 どう違うというのか



三二四、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 人徳かなぁ……



三二五、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 いや、人徳じゃないか?



三二六、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 あるいは……人徳かもしれない



三二七、管理人だよ


 なるほど……


 つまり?



三二八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 おれたちは、いったいどこへ向かってるんだろうか……



三二九、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 子狸を乗せてな……



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