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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
おれたちは牛に屈さない……by骨のひとたち
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「都市級が港町を襲撃するようです」part8

二三九、管理人だよ


 お前ら、心配かけてすまなかった……

 もうだいじょうぶ


 いま、すべての謎がとけた


 チェケラっ



二四0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 いかん! 庭園の! 魔☆力で口をふさげ!



二四一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや、待て

 言わせてやってくれ

 このままだと魔軍☆元帥とポンポコ母は面識があるということに……


 ただでさえ、うちのポンポコ(大)に人生を狂わされてるのに

 それはあまりにも……あまりにも……



二四二、管理人だよ


 でも母さんは……笑ってたよ



二四三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前はだまってろ



二四四、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 そしてお茶を淹れろ

 うんと熱いやつをだ



二四五、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


子狸「父さん? 父さんなの……?」


 パパだよ


 おい。王都の

 この始末はどうつけてくれるんだ?



二四六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 案ずるな。おれたちには心理操作という切り札がある



二四七、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 さっきと言ってることが違うじゃねーか……


 バレるよ。バレるバレる


 アリア家の感情制御がどれほどのものかは知らないけど

 ある程度まで感情をコントロールできるような人間に

 外から誘導を仕掛けたら、まずバレる



二四八、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 そうだな

 子狸には魔王の腹心ルートがあるからべつにいいけど

 おれたちのスペックを知られるのはまずい

 取り返しがつかなくなる恐れがある



二四九、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 そうだな……


 ところで、ごめん

 さっきから気になってたんだけどさ


 火の剣をかまくらのが使ってるのはおかしくない?


 いや、べつにおれがどうとかじゃなくてさ……

 なんていうか……

 まあ……


 おれのメインウェポンだよね



二五0、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 わかる


 火といえばおれらみたいな


 だってほら、おれ火トカゲって言っちゃってるからね


 赤いのはさぁ、光属性の担当でいいんじゃん?



二五一、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 あ、ごめん。それは無理


 おれらの中で、子狸バスターは空中回廊を制覇した猛者ってことになってるから


 

二五二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 それは……いまからでもじゅうぶん変更可能な要素じゃないのかい


 だいたい土魔法って何なんですか

 定義があいまいだし

 原理もいまいち……


 そんなわけのわからない属性の担当にされて

 おれにいったいどうしろと?



二五三、管理人だよ


 土魔法……だと……?



二五四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 黒騎士に父の面影を見る子狸さん


 体格からして別物なのだが

 どうやら脳内で実父の肉体改造計画が進んでいるらしい


 いまにはじまった話ではないが

 子狸が当てにならない以上

 庭園のは急ごしらえのシナリオをたった一人でも推し進めるしかない


庭園「バウマフだと……? マッコール……このおれをたばかったのか……!」


子狸「! クリスくんを知ってるのか!?」


 歌の人に関してはきちんと反応するらしい


 子狸に説明しても理解してくれないことは実証済みである

 黒騎士は渦巻く業火の矛先を子狸に向ける


庭園「……お前に兄弟はいるのか?」


子狸「ブラザーなら」


庭園「……いるの?」


 何かしらの事情でバウマフさんちのひとを保護条約の対象にしたかったらしい

 自分で自分をどんどん追い詰める子狸に

 黒騎士も崖っぷちに追い込まれていく


 破滅のチキンレースを仕掛けた子狸は

 黒騎士のつのを凝視していた

 かぶと虫を連想しているのだろうか?


 子狸さんのかぶと虫への執着心は並々ならぬものがある……


 ちっちゃい頃にかぶと虫の人気にあやかろうとしたものの

 待ち構えていた羽のひとに没収された過去がそうさせるのだ


 ちっ、余計なことを思い出させやがって……

 古傷がうずくぜ



二五五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 余計な入れ知恵するからだろ


 お前がバウマフさんちのひとに妙なことを吹き込むたびに

 おれたちのヒエラルキーはどんどん下がってる気がする……


 むかしはおれたちのこと青いひと青いひとって

 慕ってくれてたのに……



二五六、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 そんな過去はねーよ


 いかがわしい軟体生物どもめ……



二五七、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 むかしのお前らはそんなんじゃなかった


 魔王軍にそのひとありと謳われた六魔天はどこ行ったんだよ……



二五八、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 やめて。死にたくなる


 おれたちも大概だよな……

 なんだったんだろう、あのテンション……


 微妙にテンションが高いときの勇者さんを見てると

 いたたまれない気持ちになるよ……

 これ、完全に黒歴史だよね


 障壁の亀裂が広がると共に光が内部に差し込む

 やがて自壊した障壁が枯葉のように舞う

 それらは空中で散り散りになって

 ぱっと目を開けた勇者さんの眼前で

 粉雪みたいに溶けた


 何かコツを掴んだらしい

 駆け出した勇者さんが片手を差し出しただけで

 彼女の指先に触れた五重の障壁が次々と砕け散った


 振り抜いた左手の先に

 子狸の喉元に聖☆剣……いや、魔☆剣か?

 魔☆剣の切っ先をあてがう黒騎士の姿が見えた


 彼女は叫んだ


勇者「ノロ!」


子狸「お嬢!」


 勇者さんは子狸を名前では呼ばない


 通りの角から、ひそかに待機していた黒雲号が飛び出した

 豆芝さんもあとを追って駆け寄ってくる


 宿屋で羽のひとと別れた勇者さんは

 真っ先にお馬さんを連れ出して死角に配置していたのだ


 勇者さんは聖☆剣を構えて黒騎士に突進する


 お馬さんとの合流まで五秒といったところか?


 それまでに決着をつけるつもりだ


 先手は黒騎士。とっさに魔☆力で子狸を縛る。逃走防止の一手だ 

 硬直した子狸を地面におろし、その左腕を振り上げる

 豪腕から放たれた圧縮弾は風圧と見紛うばかりだ

 

勇者「リン!」


 詠唱破棄は最速の手札だ。勇者さんは後手に回らざるを得ない


妖精「はい!」


 手筈通りに羽のひとが結界を張る

 その目的は黒妖精ことコアラさんの隔離だ


 逸早く失策に気が付いたコアラさんが黒騎士を呼ばわる


コアラ「ジェル!」


 勇者さんは、かつて子狸の影にひそんでいた魔物が

 港町を襲撃した都市級の手駒の一つだと予測していた


 仮に都市級が不完全な状態にあるなら

 追っ手に差し向けるのは俊敏な手下だろうとも


 逃走するときに邪魔になるのは

 むしろそちらのほうだ


 そして都市級の手下が同等の魔物とは考えにくいから

 結界による隔離は可能という結論を出していた

 

庭園「ユーリカ! 妖精を押さえろ!」 

 

 だが、さすがに妖精が敵に回ることまでは予想できなかった

 結界は妖精さんたちの標準装備なので

 二人の空間干渉は一進一退の攻防になる


 勇者さんは子狸のアドバイスを噛み砕いてものにしたらしい

 彼女の身体に触れた圧縮弾がことごとく散る


 詠唱破棄は強力な魔法だが

 二つの大きな欠点がある


 一つは減衰のペナルティ


 もう一つは指示との両立はできないということだ

 れっきとした詠唱は存在するため

 言葉を口にしているとき、詠唱破棄はできない


 一足一刀の間合いに踏み込んだ勇者さんが

 聖☆剣の切っ先を跳ね上げた


 子狸バスターの剣術は

 海のひとが秘密裏に回収した

 勇者さんの剣術をベースにしている


 同じ技量なら膂力に勝るほうが有利だ


 ふたたび噛み合った聖☆剣と魔☆剣が

 激しい火花を散らせた


 そのまま押し切ろうとする黒騎士を

 勇者さんは身体ごと旋回していなした


 小刻みなステップを踏んで黒騎士の側面に回りこむ



二五九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おお



二六0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 おお



二六一、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 うん? うん



二六二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ん? ああ、そうか。お前らはリアルタイムで見てないからな


 いまのは歩くひとの技だ


 最短の距離を行って、最短の軌道で剣を振る

 言ってみれば愚直な勇者さんの剣術に

 わずかな変化が生じている


 くるりと回った勢いで叩きつけた刃は

 しかし別の生き物のように動いた黒騎士の左手に受け止められる

 いや、正確には左手から伸びた魔☆剣だ


 とっさに右手の魔☆剣を散らせた黒騎士が

 即座に左手で再起動したのだ


 魔法の剣は物質的なものではないから

 既存の概念に囚われない使い方もできる

 これは、その一つだ


 身体を目いっぱい使った勇者さんの一撃を

 黒騎士は純粋な腕力だけで押さえることができる


 体勢を崩したかに見えた勇者さんが

 尻もちをついた姿勢で硬直している子狸の手を掴んだ


 口ではどうのこうの言っても

 子狸にとって勇者さんの存在は大きい


 少しおちつきを取り戻したなら

 攻めるべき箇所も見えてくる


 怒りに任せて突撃するだけが能ではない


 跳ね起きた子狸が

 手のひらを地面に叩きつけた

 念のために言っておくが肉球はない


子狸「アバドン・ラルド!」


 詠唱破棄で子狸の詠唱をつぶそうとした黒騎士の前に

 勇者さんが立ちふさがる


 叩きこまれた重力場が地盤を揺るがし

 黒騎士が自重で沈む


 足をとられた黒騎士に

 手をつないだままの二人が

 至近距離から怒涛の連撃を浴びせる

 

 そのすべてを黒騎士は

 重厚な装甲で

 あるいは魔☆剣で受けきってみせた


 傍目から見ると追い詰められているように見えるが

 実質はまったくの逆だった


 戦闘経験のケタが違いすぎる


 ほんの少し虚実を織り交ぜるだけで

 黒騎士は勇者さんの行動を誘導できた


 手を離したら魔☆力に囚われるだけだから

 子狸は勇者さんに合わせるしかない 


 たんに勇者さんの手の感触に酔いしれているだけという説もある


 羽のひとを振りきったコアラさんが

 空中でスピンしながら子狸の手首に痛烈なかかと落としを浴びせた


子狸「ぬうっ……!」


 意地でも勇者さんの手を離そうとしない子狸に

 あとを追ってきた羽のひとはどん引きしている


 さすがにこの場面でのツッコミは自粛するようだ



二六三、管理人だよ


 羽のひとが……ふたり!?


 おれの妄想がとうとう現実になっ



二六四、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


妖精「マジカル☆ミサイル!」


コアラ「ダークネス☆スフィア!」


子狸「おれメイン! 二倍増しで痛い!」


 光弾と黒球が乱舞する中

 勇者さんが子狸を引きずって

 黒騎士の顔面に突きを繰り出す

 外したのはわざとだろう

 手首を返して首をなぎに行く


 これは視線で読まれた


 聖☆剣と魔☆剣が何度目かの邂逅を果たす


子狸「ちょっ、なに!? おれ、いま忙しっ……」


 無事に合流したお馬さんたちに子狸がもみくちゃにされる中

 黒騎士の低い声が鎧の中を反響して不協和音を奏でた


庭園「素質は悪くない。二年後、三年後にはわからんかもしれんな……」


 黒騎士が遊んでいるのは明白だった

 子狸と勇者さん、二人をもろとも討ち取る機会は何度もあった


 このままでは勝ち目はないと察したから

 勇者さんは言葉で揺さぶりをかける


勇者「動きがにぶいわ。本調子じゃないんでしょ? 使えない部下を持つと大変ね」


 早くも勇者さんの息は上がっている

 本当にこの子は体力がない


 ちなみに勇者さんの下僕は、いま

 お馬さんたちにブラシを強要されている


 ここに来て、港町の平和を優先したのが裏目に出ていた


子狸「お前たち……仕方ない。チク・タク・エリア・グノ! 波ーっ!」


 子狸さん渾身のブラシ掛けが駆け抜ける中

 魔☆剣から放たれる熱波が勇者さんの髪をなびかせる


庭園「まったくだ。つくづく……地上の空気はなじまない。じつはこうしているのも億劫でな」


 勇者と思しき人物を魔王軍が放置するのは不自然だから

 勇者一行にはいくつかの救済策が施されている


 その一つが、魔界から出てきたばかりの魔物は全力を発揮できないという縛りだ


 まびさしの奥で、黒騎士の眼光が不気味に明滅した


庭園「そのおれが、部下どもを差し置いて、わざわざ出向いたのは何故だと思う……?」


 はっとした勇者さんが刃を引いた


 しかし、すでに遅かった


 勇者さんの意思に反して聖☆剣が散る


 武器を失った勇者さんを斬り伏せるのは

 黒騎士にとってたやすかった


 だが、実行には移さなかった


 もはや黒騎士にとって

 彼女は無価値な存在だったからだ

 

 かつては魔王の右腕として辣腕を振るった魔王軍最高幹部の手に

 いま、二振りの宝剣が握られていた


 黒騎士が体躯を揺すって歓喜をあらわにした


庭園「千年だ……。千年かけて、ようやく……。とうとう手に入れたぞ……」


 驚くほど隙だらけだった


 それでも構わなかった


 もはや黒騎士に対抗しうる唯一の手立ては失われたのだ

 


庭園「レプリカなどではない、本物の鍵を!」



 紅に燃える空の下


 魔軍☆元帥の手で掲げられた聖☆剣が


 王の帰還を祝福するように


 燦然と輝いた…… 



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