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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
おれたちは牛に屈さない……by骨のひとたち
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「都市級が港町を襲撃するようです」part3

五六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 闇雲に突っ込んでも勝ち目はない

 宿屋の一室で作戦会議をはじめる勇者一行


 気持ちばかりが先走っている子狸がおちつくのを待ってから

 勇者さんは切り出した


勇者「まず、これだけは覚えておいて。勇者ではなく、一人の人間として動けるうちに試しておきたいことがあるの。失敗する公算は高い。そのときは」


 彼女は皆まで言わなかった。ただ、逃げ道をふさぐ


勇者「あなたたちの命をわたしに預けなさい。うまくいったら褒めてあげる」


 とうてい受け入れられる提案ではなかったが

 羽のひとは神妙な顔つきで頷いた


 しかし子狸は首を縦に振らない


子狸「だめだ。お嬢はリンを連れて逃げるんだ」


妖精「さんを付けろよ」


子狸「リンさん」


勇者「わがまま言わないで。あなた一人に何ができるというの?」


子狸「ドミノ倒しとか」


妖精「よせ。悲しくなる」


子狸「おれの力作を見れば考えが変わるよ」


 子狸の返答は自信に満ちあふれている


 たしかに考えは変わるだろうよ

 途中からボードゲームの要素が混ざるからな



五七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ああ、子狸がちっちゃかった頃のあれか


 いや、あれは王都のが延々と罰ゲームを受けるっていう

 ただそれだけの……遊びじゃないな……


 なにか邪悪な儀式だよ



五八、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 王都のの悲しい過去があきらかになった一方その頃


 まっすぐ大通りを行く子狸バスターの前に

 騎士たちが立ちふさがる

 退路を断ったのは、先ほど魔☆力に呑まれた門番の騎士たちだ


 逆算能力か?



五九、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 ああ。チェンジリングでキャンセルされた

 魔☆力で先手を取られるのは想定内ってことだな……


 感動的ですらあるよ

 一人はおとりで、残った三人で変則のチェンジリング☆ハイパー

 ……と見せかけて最初からチェンジリングの仕込みだったわけか


 だが、ふつうに考えたら分の悪い賭けではある

 完全に読まれてたな

 レベル4の行動はパターン化されすぎてるのかもしれん



六0、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 それは仕方ない

 住民たちにパニックを起こされても困る


 おれたちにレベル4のひとたちみたいなバランス感覚はないから

 まとめて縛るしかない



六一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 もっと褒めてくれ



六二、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 えらいえらい



六三、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 そうだね。偉いね



六四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ちょっと待て


 なんでお前ら上から目線なの?


 お前らがそんなんだから

 子狸が真似して勇者さんにタメ口なんじゃねーか?

 どうなの? そのへん



六五、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 え? じゃあ……

 おれたちのことお兄ちゃんって呼ぶ?

 おれはべつに構わないけど……



六六、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 その発想がもう子狸



六七、管理人だよ


 え? じゃあ……

 羽のひとはおれの妹なの?



六八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 じゃあって何だよ

 百歩譲ってもおれが姉だろ

 いや、ねーわ


 お屋形さまには申し訳ないが

 お前との血縁関係はごめんこうむる



六九、管理人だよ


 つまり生き別れの妹というわけか



七0、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 つまってないだろ!


 いや、つまるって何だよ……

 やばいな……

 既存の言語で対応できないとこまで来たか……


 子狸は自分が育てたと豪語する

 王都のひとはどう思いますか?



七一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そのような事実はありません


 大自然が子狸さんを育んだのです



七二、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中

 

 おい。やめろ


 もうおれの中のイメージ画像

 取り返しがつかないほどTANUKIなんだよ……



七三、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 なにそれ。ウケる


 バスターを取り囲んだのは二個小隊の総勢十六名

 予想よりも少ないな


 ああ、レベル3のひとたちの攻略に回されたのか

 無駄だと思うがね


 せめて国内の意思を統一してからでないと

 中隊規模の作戦行動は無理だろうに


 子狸さんの出席日数がレッドゾーンに達して以来

 レベル4のひとたちは活動を自粛している


 とつぜんの襲来に騎士たちは驚きを隠せないようだ


騎士E「つの付き……つの付きだと?」


騎士F「生きていたのか……!?」


 え?



七四、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 生きて……


 え?



七五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ、もしかして……


 前回の旅シリーズの四天王と勘違いしてるんじゃないか?



七六、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 え~……


 つのが生えてて鎧を着てるってだけじゃん……


 まず色が違うだろ……


 人間たちの感覚は理解できん


 どうする? 乗っとく?



七七、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 え~……


 なんか見えるひとの手柄を奪うみたいで嫌だなぁ……


 あのひと、たまにツッコミ待ちみたいな顔でこっちを見るけど

 歩くひとが睨みをきかせてるから

 あんまり構ってやれなくて良心が痛むんだよ


 なんなの? あのいびつな友情



七八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 わかる


 レベル2のひとたちの結束力は

 ちょっと異常だよな


 骨のひとと見えるひとが結託すると

 手がつけられなくなるから

 歩くひとが手綱を握るんだけど

 あくまでもリーダーは骨のひとみたいな……


 もう歩くひとがリーダーでいいじゃんって

 おれは思うんだけど……

 それはなんか違うらしい



七九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ひとのこと言えた義理かよ


 お前らなんてリーダーがいないじゃねーか



八0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 え?


 おれがリーダーですけど……



八一、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 え?


 いや、自分から言い出すのは違うだろ

 

 おれは本当は嫌なんだけどさ

 まあ、他に適任者もいないしな……



八二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 え?


 いや、ごめん。言ってる意味がわからない


 スターズのボスが緑のひとなんだから

 必然的におれがリーダーだろ


 べつにリーダーの座には興味ないけどさ……

 厳然とした事実だからな

 


八三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 やめろよ、お前ら

 見てて悲しくなるわ……


 どいつもこいつも

 おれがおれがって……


 ひとを引っ張る資質ってのはさ

 黙ってても醸し出されるもんだよ

   


八四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 え?


 なにそのいいひとアピール……


 いや、わかってるよ

 お前は本心で言ってるんだろうけどさ


 なんか釈然としないんだよな……



八五、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 おい。お前らがねちねちと言い合ってるうちに

 勝手に決め付けられて話が進んでる 


騎士C「貴様のあるじは自ら眠りについたのではないのか!? いまさら現れて、何が狙いだ!」


 おい。どうするんだ


 何気にこれ重要な局面だぞ

 きちんと相談して決めないと……



八六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そうだな


 これはリーダーとしての意見だが

 他人の空似で通すべき



八七、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 いや

 リーダーのおれとしては

 乗っておくべきだと思う


 わざわざ訂正して騎士たちの勢いを削いでもつまらん



八八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 だったら双子の兄とかどうよ?


 弟のかたきをとるために出てきたとか

 なかなか胸が熱くなる展開だぞ


 おっと、ついリーダーとしての片鱗を見せつけちまったな


 

八九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いやいや、ねーよ

 当時の関係者はとっくに天寿をまっとうしてるから


 逆恨みとか、どんだけ器が小さいんだよ



九0、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 だめだ、こいつら……


 王都のに至っては、まったく無関心だし……


 あ

 いや、オリジナルの言うことなど当てにならん


 おれは同胞の意見に従うぜ


おれ「百年ぶりになるか……悲しいぞ……先の大戦からお前たちは何も学ばなかったらしいな。それしきの人数で、このおれに太刀打ちできるとでも思っているのか?」



九一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 あってなんだ


 こいつ、自分の立場を忘れてたな……



九二、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


庭園「惰弱だ、貧弱だ。お前たち人間ごときに何が出来る? 足止めにもならん」


 踏み出すバスターに騎士たちは気圧される


 だが、いつの時代も人間たちは決断を迫られてきた


 いまもそうだ


騎士J「っ……かかれ!」


 連綿と受け継がれてきた騎士たちの技は、歴史の結晶と言ってもいいだろう

 詠唱とイメージの規格を統一するというのは口で言うほど容易いことではない

 まして実戦ともなれば臨機応変に陣形を組み替える必要がある

 いったいどれほどの修練を積んだのか……


騎士C「パル!」B「グレイル!」


 その歴史さえ、レベル4の前では紙くずに等しい


騎士A「がっ……!」


 抜き打ちで放たれた魔☆力が、騎士たちを絡めとった


 途絶した詠唱が虚しく響く……


 子狸バスターは歩みを止めない


庭園「無駄だ。おれに戦歌は通用しない。いっときは魔☆力を払えても、完全に克服はできない。さあ、どうする……」


 王都襲撃より二年余……


 誰しもが今日という日の訪れを予感していた


 人類史上かつてない規模の大戦


 その幕開けとなる


 魔軍☆元帥の再臨だった



 注釈


・魔軍☆元帥


 先代の旅シリーズにおいて魔王軍四天王の一角を担ったフルアーマー見えるひと。

 四天王というのは、レベル2のひとたち、レベル3のひとたち、レベル4のひとたちが各々で夜なべして作り上げたニューウェイブの魔物たち。

 それらにバウマフさんちのひと扮する邪神教徒を加えた四人で魔王軍のてっぺんを目指して出世競争を行ったのが前回の旅シリーズだった。

 最終的には邪神教徒が薄汚い手段で他を出し抜いたものの、正当なレース覇者は見えるひと扮する騎士(通称、つの付き)であり、魔物たちの祝福を浴びて魔王軍元帥に就任した。

 勢いに乗った魔物たちは各国首都の喉元に迫る怒涛の進軍を開始するも、突如として反旗をひるがえした邪神教徒の逆心により作戦が瓦解し、人類の巻き返しを許してしまった。

 魔軍☆元帥は最後まで勇猛果敢に戦ったが、聖☆剣の真の力を開放した勇者との一騎打ちに敗れて志半ばに散る。

 一方その頃、地下に潜った邪神教徒は良からぬ企みを水面下で着々と進めていた……。

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