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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
おれたちは牛に屈さない……by骨のひとたち
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「都市級が港町を襲撃するようです」part1

一、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 というわけで

 ここから先はおれたちのターンです



 魔王討伐

    の

    旅シリーズ~子狸編~


 都市級が

    港町を

      襲撃するようです



二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 というわけでじゃない


 お前らに制限解除は出来ないんだ


 旅シリーズにはオリジナルがつく

 お前らも納得していた筈のことだろ

 それをいまさら……なんのつもりだ? 



三、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 それすら欺瞞だな


 けっきょくのところ

 お前らは自分の心と向き合うのが怖いんだろう?


 とくにお前は……

 おれは、お前が分身魔法を使っているのを見たことがない


 自分の中で意見の対立が起こっているからだ

 自分の心に嘘をついているという自覚があるからだ


 

四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 知ったふうな口を叩くな


 誰しもがままならないことを抱えて生きていくんだよ

 そこを履き違えたら、おれたちは身も心も怪物になるぞ



五、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 その言いよう、子狸にそっくりだぜ



六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 訂正しろ! いくらお前でも、その侮辱は許さんぞ……!



七、管理人だよ


 事情は知らないが、あまりいい意味ではなさそうだな……



八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 沈黙は金なりという言葉があってだな……



九、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 お前らが高度な手法で子狸をばかにしている一方その頃……


 火口のと山腹のは互いのオリジナル互いのコピーと対峙していた

 怒りも悲しみも憎しみも、自分自身にぶつけるなら躊躇いはいらない


 この場は任せるか……

 庭園の、行くぞ



一0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ! 待てっ! かまくらの……!



一一、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 お前の相手はおれだ


 レクイエム毒針!



一二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 くっ……邪魔をするな!


 レクイエム毒針!



一三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 鉄板をも貫く火口ののレクイエム毒針が正面からぶつかり合う

 衝突した瞬間に火口Bの触手が抉るようにAの触手を弾き飛ばした


火口A「!」


 勢いは衰えたものの、レクイエム毒針Bの直撃を受ける火口の


火口A「ぐふうっ……!」


 衝撃で砲弾のように吹っ飛ぶ火口Aを追って、Bが高速で跳ねる

 瞬時に追いつき、レクイエム毒針の乱れ撃ちでAを地面に叩きつけた


 刹那の判断で攻勢に転じようとしたAのカウンターを

 Bが上回った結果だった



一四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 こいつ……!



一五、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 オリジナルはコピーには勝てんよ


 お前にはおれの動きが読めるだろうが

 おれたちは、その更に先を考えて技を練っている


 

一六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 それもそうだな


 とはいえ、数の上で逆転を許してるし

 火口のには踏ん張ってもらいたいところである


 一方、山腹ズは冷静にお互いの挙動を観察している

 山育ちの山腹のは罠を使った魔法合戦が得意だから

 自然と睨み合いになるんだな


 負けることはまずないと踏んだか 

 かまくらのを右腕に宿したバスターが港町へ向かって出陣する

 一歩進むごとに、森の動物たちが踏み固めた土壌にくっきりと足跡が刻まれる

 微細な振動が木々を伝い、樹上で羽を休めていた鳥たちが不思議そうに下界を見下ろした


 後顧の憂いを断つ意味でも

 かまくらのは残って参戦したほうがいいんじゃないか?



一七、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 お前は昔から得体の知れないところがあるな……


 子狸バスターにはサポートが必要だ

 機体制御は庭園のが担当してるけど

 二足歩行なんてめったにしないし

 さすがに触手と同じ感覚で両腕を動かすわけにはいかん



一八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 風雲急を告げてるお前らには申し訳ないんだけど

 いまお風呂を上がって着替え終わりました


 子狸を解き放ってだいじょうぶ?

 暴走しない?



一九、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 だいじょうぶだろう


 というか、たぶん子狸さんは事態を理解してない



二0、管理人だよ


 そう思うなら試してみるといい



二一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 出たよ謎の自信


おれ「上がったぞ、おらー」


子狸「もごっ」


 手足を縄で縛られてベッドの上に転がされていた子狸が自己主張した


 おれに続いて浴室から出てきた勇者さんが同情的な意見を述べる


勇者「……猿ぐつわまで噛ませることなかったんじゃないかしら?」


 水気を含んだ髪がふわふわと浮いている

 おれ手製のあったか気泡の周回運動によるものだ


 くすぐったそうに髪を遊ばせている彼女に

 おれは反論した


おれ「甘いですよっ。こいつの魔法はふつうじゃないですから、詠唱をかんぺきに封じないと。猿ぐつわがなんですか、手ぬるいくらいですっ」


子狸「……もごっ」


勇者「照れてるみたい」


おれ「いっぺんしねっ」


 大気を蹴って跳躍したおれのギロチンドロップが子狸に炸裂した



二二、管理人だよ


 またそうやってすぐに暴力に訴える……

 ぜんぜん痛くないけど……それよりもっと大事なことだ


 癖になったらどうしてくれるの?



二三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 そのときがお前の最期だろうよ


 

二四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸さんの変態がどんどん加速する


 見かねた勇者さんが子狸の縄を解きはじめる


勇者「ちゃっちゃとお風呂に入ってしまいなさい」


 いましめから解き放たれた子狸は

 しかしまったくべつのことを考えていた


 縄のあとが残る手首をさすりながら

 あさっての方向を見つめる


子狸「行かなくちゃ。黒雲号と豆芝がおれを待ってる」


 子狸の一日はお馬さんたちを中心に回っているのだ


勇者「わたしの言うことが聞けないというの?」


 勇者さんと子狸は下らないことで反発することが多い

 根本的な価値観が異なるからだ


子狸「いくらお嬢でも……おれの走り出した情熱は止められないんだよ」


勇者「晩ごはんを抜きにされても?」


子狸「…………」


 子狸は躊躇ったすえに頷いた


子狸「そうだ」



二五、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 子狸の晩ごはん抜きが決定した一方その頃……


 港町を目前に控えた我らが子狸バスターは

 門番の騎士たちに職務質問を受けていた


騎士A「止まれ! 動くなと言っている!」


騎士B「そこからでいい! 身分を証明できるものを提示しなさい!」


 完全に不審者の扱いだ

 なにがいけないのか。まったく失礼な連中である


 検問の順番待ちをしている商人たちが

 列を維持したまま距離をとる


 本当に強力な魔物は策を弄さないと知っているからだ


 騎士たちも薄々は勘付いている

 ただ、鎧を着てきてはいけないという法はなかった

 とうに伝令は走っていることだろう


 再三の警告にも黒騎士さんは応えない

 地を踏みしめるたびに重々しく具足が揺れた


騎士C「警告はしたぞ!」


 必要なのは証拠だった


 単独で飛び出した騎士Cがバスターに迫る


 バスターが片手を上げて制した


庭園「勘違いさせてしまったか? それはすまないことをしたな」


 ヘルムの奥から不吉な重低音が響いた

 


二六、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 不吉って言うな


 門番の騎士は四人

 一人はおとりで、残る三人で変則のチェンジリング☆ハイパーか


 乗ってやってもいいが、それも失礼な話だろうからな……


おれ「そうだな、たしかに……紛らわしかったかもしれない。これまで、あまり意識したことはなかったが……」


 この街の規模なら

 駐在の騎士は三個小隊といったところか

 ふむ……少し物足りんな


おれ「安心しろ。人間ではない。おれは、お前たち人間が“都市級”と呼ぶ存在だ……」


 さあ、はじめるぞ


 まずは手はじめに……この街を陥とすとしよう



二七、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 庭園のの宣言に対し、人間たちは悲鳴ひとつ上げなかった

 まるで時間が止まったかのように立ち尽くすばかりだ


 バスターが脇を通り抜けると、騎士Cは目線だけでそれを追った

 どうと噴き出した汗が、彼の頬を伝って落ちた


 散歩でもしているかのような気軽さで庭園のが告げる


庭園「お前たち人間は、おれたちを“軍団級”とは呼ばずに“都市級”と呼ぶ。数ではどうにもならないと知っているからだ」


 無人の荒野を行くがごとくバスターは進む


庭園「じっさいに体験するのははじめてか? 心に刻んでおくといい。いま、お前たちの身動きを封じ、詠唱さえ許さない……この力を“魔☆力”と呼ぶのだ」


 いいえ。たんなる魔法の一種です



二八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 伝播魔法ですね。わかります



 注釈


・魔☆力


 レベル4以上の魔物が使う、詠唱破棄と伝播魔法、浸食魔法のハイブリッド。

 妖精たちが使うとされる「念動力」の範囲拡大版である。

伝播魔法ブラウド」というのは感染魔法とも呼ばれる、共通点を媒介として範囲拡大するための魔法。

 たとえば「人間」の「男」の「騎士」に撃ちこんだなら、同じ騎士に最大の効果を発揮する。

 女性の民間人に感染したなら、それ以降は「男」の「騎士」という感染経路が潰れるためだ。

 あくまでも術者の認識している圏内に作用する(射程超過の制限が開放されていない)ため、人間たちが使った場合は目に見える範囲に効果が限られる。

 レベル4の魔物たちが「都市級」と呼ばれるのは、無詠唱で放たれる「魔☆力」を前にしては数が意味を成さなかったからである。

 なお、ごく小規模な「魔☆力」を人間たちは「呪術」と呼んでいる。

 魔物たちを前にして足がすくんだり、心が萎えたりするのは魔物たちのせいにされている。

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