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「子狸がレベル2に挑むようです」part1

一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 からくも騎士たちの妨害(善意)を突破した

 子狸と歌人


 ひとけのない街道は寒々しく

 上空の暗雲を見つめる子狸の目には憂いがある……


子狸「問題は、巣穴がどこにあるのかだ……」


 問題なのはお前の記憶力


歌人「いや、どう見ても、森の奥が怪しいから。暗雲が渦巻いてるから」


子狸「……渦巻いてるのが、期待と不安だったとしたら?」


歌人「……その質問に、ボクは答えなくちゃだめなの?」


 久しぶりに

 タイトルコール行きます


 王

 伐

 旅シリーズ


狸迷走編

レベル2に挑むようです



二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 じっさいどうなの?


 子狸はレベル2のひとに勝てるの?



三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 難しいだろうなぁ……

 レベル2のひとたちは

 騎士とタメ張れる程度のパラメーター設定だからさ



四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや

 おれは、けっこうイイ線いくと思うぞ

 騎士が真価を発揮するのは集団戦だからな

 その点、子狸は個人戦仕様だ


 ふつうの人間とは魔法に対する

 アプローチの方向性からして違う



五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ん?


 でも、おれ

 子狸が素でレベル3の魔法を使ってるの

 見たことないぞ

 じつは使えるの?



六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや、使えない


 ある一定以上の規模になると

 ごく一部の数値が突出して、レベル4になっちゃう


 なまじレベル4以上の知識があるから

 構成がおかしくなるんだろうな


 無意識のうちに最適解に引っ張られてる


 結果、器用貧乏というか

 まあ、子狸と同年代でレベル3の魔法を扱える人間は

 ひと握りの天才だけだから

 べつにいいんでない?



七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 そもそも、子狸にとって火力とか属性は

 たんなる数値の違いだからね


 お屋形さまと同じ高みを目指したら

 途中で休憩所があって

 あれ? ここ山頂じゃね? みたいな……


 あとは、スコップで地道に土を盛るだけっていうか……



八、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 虚しい作業だな……


 まあ、そこでトンネルを掘って山を改造しはじめるのが

 子狸なんだけどな……



九、管理人だよ


 良いことだよ


 この前、全身全霊をこめて砂山をカスタマイズしてあげたら

 尊敬の目で見られたし



一0、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 砂山っていう時点で……



一一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そのあと調子に乗って魔物ごっこやってたら

 親御さんに通報されたけどな


 さて、霊界のひとたちの出張先に到着したぞ


 改めて見ると立派な屋敷だな


 いかにも不気味な外観に

 歌の人は怖気ついてる


歌人「本気で入るの……?」


子狸「? 怖いの? それなら、クリスくんはここで……」


歌人「こ、怖くなんてないよ!」


 子狸に、この手のこけおどしは意味をなさない

 じつに可愛げのない子供である


 けっきょく歌の人は同行するらしい

 甘いというか、なんというか……


 豆芝さんは屋外で待機


 子狸が突入役を買って出ようとするも

 のっけからクライマックスの作戦に

 歌人が異をとなえる


歌人「そんなことしたら、本気で帰るからねっ……!」


子狸「こういう場合、奇襲して一気に制圧するのがセオリーなんだけど……」


歌人「発生源があるっていう話だったでしょ! まずはそれは探るの!」


 発生源か……

 骨のひと、そのへんはどうなの?



一二、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 無論、ある


 地下に魔界からつながるゲートがな……



一三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 魔界のポテンシャルに

 すべてを賭けるぜ……!



一四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 困ったときの魔界だな

 闇の魔法で、それっぽく仕上げると……


 後始末はどうするんだ?



一五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 勇者さんに聖☆剣で閉ざしてもらうつもりだったんだけど……


 まあ、光の精霊がいるからだいじょうぶだろう



一六、管理人だよ


 精霊


 精霊か……


 いよいよ、おれの前にも姿を現すのか……!


おれ「……よし、二階の窓を叩き割って入ろう」


歌人「なんでそう発想が犯罪じみてるの? バレるよ、バレる」


おれ「ふふふ」


歌人「……なに?」


おれ「ドアには鍵が掛かってるもんだよ。ためしに、ほら……」


 開いてた


歌人「…………」


おれ「これは罠に違いない……」


歌人「ごめんなさいは?」


おれ「ごめんなさい」


 裏の裏か……

 どうやら骨のひとの方が一枚上手だったようだな……



一七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 つまり表です……


 ああ、ついでに言っておくけど

 牛のひとの家とは

 内部の構造がぜんぜん違うから


 子狸は、進行方向を申告しなくてもいいぞ



一八、管理人だよ


 え? そうなの?

 じゃあ、ランダム構築?



一九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 そんなマイホームは嫌だ……


 この屋敷な

 もともと人間が建てたんだよ


 地下の空間は多少いじったけど

 それ以外はまともな造りになってる


 勇者さんのマッピング能力も未知数だし

 あんまり複雑にしても仕方ないだろ



二0、管理人だよ


 後悔しても知らないよ?


 おれ、ダンジョンに関してはプロフェッショナルだから



二一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ちなみに、お前の先祖でもあるなんちゃって古代の民は

 似たようなシチュエーションで


古代「ふひひ、楽勝ですよ~♪」


 とか言って落とし穴にダイブした


 なんていうか

 なんだろう……

 べつだんそういうキャラでもないのにお色気担当みたいになってて

 意味不明だったぞ


 お前は、そうならないといいな……



二二、管理人だよ


 いえ、おれ男ですし……

 落とし穴とか、そんな古典的な……


 とりあえず行きますね

 てくてく


歌人「床! 床が抜けてる!」


おれ「おぉう!?」


 あぶなかった……

 落とし穴と見せかけて、ただの穴とは……


 さすがはレベル2ということか……



二三、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 そうだね

 さすが、おれ


 というか玄関先で騒ぐなよ……

 おれ、すごく出て行きづらい……



二四、管理人だよ


 上で待ってて

 探検してみる



二五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おう

 気をつけてな


 けっこう老朽化してるんだ


 おれはリフォームしようって言ったんだけど

 とあるカルシウムの化身がね……



二六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 おい


 おい。おれのことか


 言っとくけどカルシウムは偉大だぞ

 カルシウムなめんな


 とくに子狸

 お前、牛乳を飲めって言ってるだろ

 なぜ飲まない……



二七、管理人だよ


 飲んでるし!

 お前ら、いちいち極端だから!


 過ぎたるは……

 飲み過ぎは良くないのさ



二八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 過ぎたるは及ばざるがごとし


 何事もほどほどがいちばんってことだ



二九、管理人だよ


 では、動かざるは?



三0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 山のごとし!



三一、管理人だよ


 ひゅー♪



三二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ひゅー♪



三三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 緊迫感のかけらもねえ……

 少しは歌の人を見習ってはどうか


歌人「あ、ドア閉めちゃうの? く、暗くない?」


子狸「得意な魔法は発光です」


 子狸さんの

 アピールタイム

 スタート


歌人「いや、それだと居場所がバレるよね?」


子狸「バレないかもしれない」


歌人「バレるよね?」


子狸「うむ……」


 アピールタイム

 終了


歌人「う~……。いいよ、このまま進もう。足元に気をつけて……」


子狸「メルシー」


勇者さん不在につき

メルシー禁止の状態異常が解除されたもよう


ドアを閉める


一階は大広間だな

言うほど真っ暗闇でもない


壁面に埋め込まれた蜀台に灯ってる

ろうそくの明かりが

ぼんやりと屋内を照らしてる


さっさか歩きはじめる子狸に

おっかなびっくり、歌の人が続く


子狸が扉を発見

迷わず開けて入る


歌人「ちょっ……!」


子狸「ん?」


歌人「な、なんでもない」


家捜しを続行


部屋から部屋へ移動を繰り返しては

小物を手にとり


子狸「ふむふむ……」


 とか


子狸「ほほう……」


 とか

 訳知り顔で頷く


 そのたびに歌人がびくびくするわけだが

 だんだんいらいらしてきたらしい


歌人「なに。それがどうしたの。ただのお皿でしょ」


 声に険がある


 子狸は無言でお皿をなで回している


歌人「ちょっと。なんで黙ってるの」


子狸「……さいきん使ったあとがある。だれかいるね」


歌人「ひっ……!」


 面白いくらい歌人はびびっているが

 そもそも、ろうそくに火がついてる時点で

 わかりきったことである



三四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 つまり、こういうことか


 勇者さん≧羽のひと>歌人≫子狸


 能力的にはどうなんだろうな?


 おれの中では

 勇者さんはオールラウンダーというか

 攻守のバランスが、わりと高い水準で安定してる


 羽のひとは戦闘型じゃないし


 子狸は

 だれに似たのか知らんが

 その場の気分で出来が変わるだろ

 爆発力はあるみたいだけど……


 で、歌の人はっていうと

 戦ってるの見たことないんだよな



三五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 勇者さんが見た目どおりの年齢なら

 子狸よりも一つか二つ下だろう


 歌の人は子狸と同い年か

 もしくは一つ上かな


 年齢的に学校を卒業してるとは思えないが

 卒論の資料を集めてるとしたら

 つじつまは合う……か?

 あんまり旅慣れてる感じはしないしな


 進学を狙えるということは、内申点は低くない筈

 騎士の候補生程度の実力はあるんじゃないか?



三六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ためしてみるか……



三七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 厨房を出て食堂を徘徊中


 壁際に立たされてる甲冑の置き物が

 ひとりでに動き出す


歌人「!?」


子狸「大きなテーブルだなぁ」


 不便そう……と子狸は感想を漏らしている



三八、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 え?


 おれじゃないぞ?


 見えるひと?



三九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 うんにゃ?


 おれは二階の寝室にいる



四0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 フルアーマーおれ

 推参!



四一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 タイミングおかしいだろ!

 出待ちかよ!?



四二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いやぁ……

 スルーされたらどうしようかと思ったわ


 庭園のにも声を掛けようとしたんだけど

 あいつ、鬼のひとにつかまっちゃってるから



四三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ああ……

 当然そうなるよね



四四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 つくづく不憫な……


 そうと知りつつ

 モニターを買って出るあたりがよくわからん……

 責任感があるのはけっこうなことだと思うが



四五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


子狸「お嬢は、こういうのが好きなのかなぁ……?」


 貴族御用達の大きな円卓に興味を示している子狸の

 服の袖を、歌人が小刻みに引っ張る


歌人「ののっ、ののっ……!」


子狸「ノロです」


 ぎこちなく歩み寄ってくる甲冑に

 子狸さんはひとこと


子狸「ほう……。さいきんの鎧は動くのか……」


歌人「違っ、ちがう! こっち来る、こっち来てる……!」


子狸「どうかな……。お腹が減ってるのかもしれない。……そういえば」


 子狸は歌人を見つめる


子狸「朝から、なにも食べていない。どうしよう」


歌人「どうでもいい! わっ、来た! 逃げっ……!」


 言うが早いか、歌の人は子狸を置いて逃げ出す

 追う甲冑。子狸の横を通過


歌人「ボク!? なんでぇ!?」


子狸「猫みたいだ」


歌人「ぜんっぜん似てない!」


 部屋の中で追いかけっこをはじめる歌人と甲冑

 子狸がぼんやりとそれを見つめる


歌人「見てないでっ、助けてっ」


子狸「あい。チク・タク・ディグ」


 歌人の救助要請を受けて

 子狸が甲冑の背中に圧縮弾を撃ち込むも

 さすがに金属板を貫通するような威力はない


 たたらを踏む甲冑


 追われている歌人からすれば

 突撃してきたように見えるわけで……


歌人「のわっ!?」


 闘牛士さながらスピンして回避しようとするも

 無駄に終わる


子狸「ディグ」


 時間差で投射された圧縮弾が

 甲冑の横っ面を張る


 倒れまいと踏ん張る甲冑


子狸「だめか。なら……チク・タク・ディグ」


 子狸は容赦がない


子狸「ディグ。ディグ。ディグ」


 てくてくと無造作に歩み寄りつつ

 甲冑の関節部に次々と圧縮弾を撃ち込む



四六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 てめっ

 子狸ぃ……


おれ「ウオオオオオオッ!」


 子狸への怨嗟の念が

 おれを吠えさせるのさ


歌人「ひっ!?」


 あら。涙目


 うるんだ瞳から、ぽろりとこぼれるひとすじの涙


 やべ……

 やりすぎたか


歌人「!」


 さて。そろそろ緑のひとの手伝いに戻るとしますかね……



四七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そうは問屋がおろさない


 歌の人が、はっとして子狸を見る


子狸「…………」


 子狸は気まずそうに視線を逸らす

 その反応に歌の人は顔を真っ赤にする


歌人「こんっの……!」


 羞恥心が恐怖を上回った瞬間である


歌人「チクぅ!」


 圧縮した空気を手のひらに凝縮

 甲冑の頬に猛烈なビンタが炸裂しました


甲冑「おふっ!」


 吹っ飛んだヘルムが子狸の足元に転がる


歌人「確保!」


子狸「あ、はい」


 子狸に拒否権はない

 両手で床におさえつける


甲冑「頭、頭~……」


 ヘルムを捜して、うろつく甲冑


歌人「そのまま!」


子狸「え?」


 子狸の返事を待たずして

 円卓に飛び乗った歌人が

 こぶしを固めて跳躍する


歌人「アバドン!」


 重力を乗せて加速したこぶしが

 甲冑の大事な部分を貫く


 ついでに床も貫く


 いかん

 老朽化に加え加重に耐えきれなかった床が

 沈む……!


歌人「わっ!?」


子狸「あぶなっ」


 子狸がとっさに歌人の肩を抱き

 引き寄せようとする


 だめだ。落ちる


歌人「しっ、シエル!」


 歌人の減速魔法に


子狸「ドロー!」


 子狸が加速を追加


歌人「ちょっ……!」


 歌の人は相殺を危惧するが

 子狸の加速魔法は正統なものだから

 包括的な事象に干渉できる

 反重力を加速したことで無事に着地する二人


 つまり……わかるな?



四八、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 地下かよっ



四九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 直行かよっ



 注釈


・魔界


 魔物たちの故郷ということになっている世界。

 なんとなく、じめっとした印象がある。

 こきゅーとす内では、さも実在しないような口ぶりだが、本当のところはわからない。

 少なくとも、魔物が発生する以前から魔法が存在したことは確かであり、「そもそも魔法とは何なのか?」という疑問が残る。

 しかしながら、「実在しない」と言い張っておきながら、「本当は実在するんじゃないか」と疑わせるのは、魔物たちの常套手段のひとつでもある……。



・卒論


 王国民の職業は、ほぼ世襲制であるため、たいていの人間は学校を卒業したあと家業を継ぐ。

 しかし中には高等学校(高校)への進学を志すものもいる。

 高校は義務教育ではないため、進学を志望するものは、何かしらの成果を学府に提出せねばならない。

 その「成果」にあたるのが、この世界における「卒業論文(卒論)」と呼ばれるものである。

 ただし、在学中に極めて優秀な成績を収めた生徒が、学府から誘われることもある。

 また、「高校」は政府と密接に関わる「研究所」としての側面が強いため、機密漏洩の観点から主要な都市にしかない。

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