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最終イベント

【愛と勇気のぽよよん戦士】王都在住のとるにたらない不定形生物さん【その名はおれ】


 特赦を持つ子狸に減衰のペナルティは適用されない

 名前を呼ぶまでもなく、魔法は子狸と共にあるということだ


 究極の魔法とはどういったものなのか?

 お屋形さまに言わせてみれば

 それは、イメージが先に立つものであるらしい


 連結魔法とは、まったく逆の発想でありながら

 似て非なるもの……


 詠唱でイメージを誘導するのではなく

 イメージで詠唱を誘導する

 極限まで細分化した性質を以って

 人間の思考力では扱いきれないほどの緻密な構成で現象を組み立てる形式を

 誘導魔法と、お屋形さまは呼んだ


 近衛兵の正体がそれだ


 それは詠唱変換の終着点

 あるいは連弾の

 そして爆破術の遥か先にある完成形……


 魔法で物理法則を再現することは不可能ではない


 魔法の内燃機関を積み

 魔法の人工筋肉で駆動し

 魔法の電子回路を搭載する


 魔力の筋道を人為的に作り上げることができれば

 その思考速度は有機生物の限界を軽々と突破するだろう


 呪われし魔法動力兵

 あれこそは、魔王が生み出した禁断の呪言兵だ


 感情などない

 心も魂も意思さえも

 あるのは、狂った歯車の軋む音だ


 人間のように振る舞うのは

 そうすれば勝率が上がると知っているからだ


 気圧されたように後ずさったのは

 そうすれば子狸が憐れむと知っているからだ


 唾棄すべき存在だ

 この世に不必要な存在だ

 誰からも祝福されない存在だ


 けれど子狸は、そうではないと言う

 それもまた命なのだと


 理屈で否定してみても

 感情論で肯定される

 物事を深く考えないバウマフ家の人間は

 途中で思考を放棄して

 綺麗事ばかり言う


 勝手にしろと言えば

 本当に勝手にする

 無論、しぬまで


 おれたちは、この奇跡のような生きものを大切にしたい……

 絶滅危惧種を保護するみたいに


「“理解”したぜ」


 それなのに、魔都で飼うには、その天才性がまぶしすぎて

 人類の損失を、おれたちは恐れたのだ


 すべてを理解した子狸さんは、前足で器用にこん棒を回した

 牛さんも顔負けのこん棒アクションだ

 偶然にもうまくいったものだから

 調子に乗って、さらなる難易度を自らに課して

 予定調和のように吹っ飛んでいったこん棒を

 物悲しそうに見つめた……


 子狸アナザーを抱えた亡霊さんが

 こん棒を拾って子狸に差し出した


 すると子狸は、ゆっくりとかぶりを振った


「いいんだ。持っていてくれ」


 諦めるくらいなら、どうして召喚したのだろう……?

 だが、このようにして52年モデルは歴史の闇に紛れていく

 まるで運命に翻弄されるように……

 宴会のどさくさに紛れて盗難の被害に遭うのだ


 かくして宿命のこん棒は、子狸の前足を離れた

 着服しようとした罪深き悪霊が

 生まれながらに白骨化していた不思議な生きものと揉めている


 争いは何も生み出さない……

 事の発端である子狸さんは

 マウントの奪い合いをしている霊界通信のアマチュア無線愛好者たちの姿を見て

 確信を深めたようだった


「めじゅっ」

「めっじゅ~……」


 召喚された子狸アナザーたちは

 子狸さんの危機に馳せ参じたお前らの手に落ちた


 すべては無駄だったのか?

 いいや、そんなことはない

 こんなこともあろうかと

 一匹はおれが捕獲しておいた


 唯一、問題があるとすれば……

 おれに手放すつもりがないということだろう

 いや、その表現には語弊がある


 おれの触手で安らいでいる子狸さんが

 オリジナルであるという可能性は

 決して無視できないということだ


 つまり、おれたちのフォーメーションは完璧ということになる


 第一、アナザーだから何だと言うのだ?

 アナザーだから見捨てるという選択肢が

 そもそも、おれたちにはない


 盲点だった


 おれたちの最終奥義は、戦わずして敗れたのだ……


 お前らがうめいた


「なんてやつだ、複核型……」


「これが誘導魔法か……」


「お屋形さまは正しかった……これがおれたちの……」


 だが、魔物としては不完全だ

 勝機はある……

 あるいは、こうも言えるかもしれない

 勝機しかない……


 しかし、いかなる状況にもジョーカーは存在する

 おれたちにとっては、子狸さんがそうだった


「お前らは手出しするな」


 そのひとことで、勝率が一気に下がった

 地獄に狸とはよく言ったものだ


「子狸。だが……」


 反駁したのは

 魔人と壮絶な戦いを繰りひろげているトンちゃんのもとに駆けつけたはずの牛さんだった

 あれだけ見栄を切っておいて、あっさりと見捨ててくるところに彼女の恐ろしさはある


 牛さんは言った


「危険だ。天文学的な確率で、お前を守りきれないかもしれない……。退くべきだ」


 勇気と無謀を取り違えてはならない

 だが、子狸は不敵に笑った

 とりあえず笑っておけば間違いないと思っている……


「おれは、お前らの管理人だからな……」


 正しくは掲示板の管理人だ


 魔物の管理人というのは方便で

 管理人さんの意思を尊重するために、そう教えてきたに過ぎない


 そんなことはお見通しだとばかりに子狸さんは言った


「けいじばんか……あれはまだ幼い。時期じゃない。いずれは、きれいな花を咲かせるだろう」


 掲示板が大変なことに


「その花を、おれは見てみたい」


 よくわからないが、子狸さんの比喩表現は詩的だ


 ずいと後ろ足を進めて、複数の核を持つ魔法動力兵に声を掛ける


「……新入り。お前は、春に咲く花だ。意味はわかるな?」


 わかるような

 わからないような……

 ……新入り?


「ふきのとうさ」


 まあ、うん……うん?


 ここで作戦会議

 子狸さん、ちょっとこっちへ

 だいぶ誤解している気がします


「おれが、なにも知らないとでも思っているのか?」


 お前、ちょくちょくトンちゃんの台詞をリスペクトしますね

 いいから、こっちへ来なさい


「お前らが、おれに隠し事をしているのはわかってるんだ」


 ようやくわかってくれたのですね……

 そのひとことを引きずり出すために、おれたちがどれだけの苦労をしたことか……


 目頭を押さえるおれに

 お前らがもらい泣きをした


「長かった……」


「がんばったね……がんばった」


「今回は、まだ魔王が生きてるよ……!」


「おれたちは成功したんだ!」


「やはり天才……子狸さんは天才だった……!」


 お前らに共感するかのように

 子狸さんは天を仰いで瞑目する


「ついに、この日がやって来たんだな……」


 うんうん……


「そう、お前らが宇宙に進出する日が!」


 まさかの宇宙エンドである


 子狸さんの天才ぶりに

 お前らが号泣した……


 そして……




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