子狸革命
※ 火口のー! 火口のー!
王都さんをとめてー
ポーラ属さんたち全体のイメージを損なうからー
※ 無理ですよー。無理ー
もしかして、いつも河にいる海底さんですかー?
あなたがとめて下さいよー
現場にいるのわかってるんですよー?
※ おれ参上すれば済む話でしょー?
ふぬけたこと言ってる場合ですかー?
あなた、おれらのアタッカーでしょー?
※ ちょっとちょっとー
アタッカーとかやめてくれませんー?
帝国のひと(ドリル)の二の舞とでも申しますかー
三人いたら一人が割を食うみたいなー
黄金率って言うんですかー?
そういうの、そろそろ卒業しましょうよー
※ そんなこと言われたって、おれは無理ですよー
ずっと海で暮らしてましたからねー
おれ、もう立派な水棲生物ですからー
図鑑に載ったら魚介類の項目におれ参上ですからー
プールを出たら、しんじゃうかもしれないでしょー?
※ そんなこと言いはじめたら全項目におれ参上でしょー?
しまいには卒業文集で個人名を晒された元祖狸みたいになるので自重して下さいねー
というか、プールにつかってる時点で言い訳になってませんからー
両生類さんたちだって、もうちょっとクッション挟んでますからー
~ばうまふベーカリー創業秘話~
才能がないからとパン屋の夢を諦めていたお屋形さま
打ち合わせもなしに一致団結した変人たちが
お屋形さまのパンへの熱い思いを無断で書き綴る
ポンポコ(大)の名言集みたいになった
お屋形さまはどん引き
しばらく引きこもる
しかし巣穴から出てきた大きなポンポコは
迷いを捨てた良い表情をしていたという……
持つべきものは友人だ
勇者さんにも同じことが言えるのではないか
※ だが、魔物パンをもっとも多く食べているのはおれらであるという理不尽
たとえ一時のテンションに身を委ねた結果だとしても
彼女には紙袋を貸してくれるともだちがいる
それは、とても幸運なことだ
だから、お前ら星の部屋で正座するのはやめて下さい
おれたちが悪いみたいな雰囲気になるでしょ
やめて下さい
※ いや、これはもう言い逃れできないよ
※ あまりにも申し訳なくて、とても足を崩せない
※ じつはドッキリでしたとか言い出せる雰囲気じゃない……
※ だが、誰かがやらねばならないことだ
※ 山腹の、お前がやるんだ
※ プラカードは持ったか?
※ お前がやるんだ
※ お前は勇者さん担当だからな……
※ よし、おれのプラカードを貸してやる。使え
……お前ら、少しおれの話を聞いてほしい
※ だめだ
※ ほら、しっかり持って。そう、触手で、そう、きちんとね、くるむように……
※ なにを恥じる必要がある? お前は遣り遂げたんだ
※ うん……。立派だぞ、山腹のひと……
※ 晴れ姿だな。録画の用意をしておこう
※ お前ら、山腹のんに敬礼!
※ びしっ
※ びしっ
※ びしっ
だが、おれは最後まで諦めない
おれたちの子狸さんは、きっと
おれが傷つくことをよしとしないだろう
子狸さんは、おれたちの管理人だから
すべての責任は自分にあると言うはずだ
おれは子狸さんの意思を尊重するぜ
※ 欺瞞だ!
※ 往生際が悪いぞ、山腹の!
※ 都合が悪いときばかり子狸に頼るな!
すべては、一人と一匹が出会ったときにはじまった
旅路の果てにあるものを
ふたりは見つけることが出来ただろうか?
出来ていれば良いなと、この山腹さんは思うのである……
王都さん、王都さーん
エンディングが近いですよ~
そろそろ子狸さんと合流したいのですがっ
…………
王都さん?
むむっ
王都さんはお忙しいようですね
海底さん、海底さーん
実況をお願いします
※ ふむ……
さしあたって問題があるとすれば……
ポイントですか?
ポイントをくれてやれば満足ですかこんにゃろー!
※ おいおい。傷つくぜ
ひとをポイントの亡者みたいに言うのはやめてほしい
本当に大切なのは、おれが真に必要としているのは、お前の誠意なんだ
それで、お幾らなんですか?
※ 誰もポイントの話はしてねえっつう話ですよ
困っているお前を、おれが助けたいと思う
肝心なのはそこなんだ
つまり……
5ポイントでどう?
※ 10ポイントだ。びた一文まけるつもりはない
6で
※ 9
7!
※ 9
……8!
※ 9
8でお願いします!
※ 9だ
くそがっ
ポイントの亡者め……
9ポイントだ! お願いします!
※ だが、おれとて鬼ではない……
山腹のんよ……
お前の功績を、おれは高く評価している……
5ポイントで手を打とう
か、海底さん……
※ ふっ
【誠心】海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん【誠意】
話は少し遡る……
王都のんと近衛兵の戦いは一方的なものだった
複核型は、魔法使いの最適解だ
それは術者としてのという意味であって
魔物の最適解では、ない
なにものにも縛られない
おのれの意思に依ってのみ立つ
無条件、無制限の魔物だけが至れる領域がある
おれたちが管理人の意思を尊重するのは
おれたち自身の決断によるものだ
無視することもできる
だから魔王の命を絶対とする近衛兵とは
その点において決定的な“差”が生じる
壁に磔にした近衛兵を
王都のんは無慈悲な眼差しで見つめている
嘲笑した
言葉には悪意しかない
「お前には、なにも守れない」
ぎりぎりと引きしぼった触手の向きを
微細に調整したのは
壁の向こうにいる魔王ごと刺し貫くためだ
王都のんは管理人の近衛だから
同じ役割を持つ相手に対して
どこまでも悪辣になれる
他人のふりをしたくなる光景だった
子狸さんの教育によろしくないので
おれは止めようとしたのだが
王都のんは聞く耳を持たなかった
ポーラ属は汎用性に優れた魔物だが
王都のんは極めて偏った性質を獲得している
守備に優れ、護衛に秀でる
それが王都のんという魔法の性質だ
子狸の身に危険が迫ったとき
過保護の守護魔法は、外敵をすりつぶす圧壊魔へと変貌を遂げる
「提案がある……」
全身を凶器と化した王都のんが
敵に突きつけたのは、究極の選択だ
「魔王を裏切れ。“約束”だ。意味はわかるな? お前のスペックを試してやるよ……」
「王都のひと」
「どうした?」
だが、その本質はしょせん過保護だ
即座に弛緩した王都のんがぽよよんと跳ねる
くねっと上体をひねって可愛らしさをアピールするのも忘れない
自由を取り戻した近衛兵が、たちまち反撃に転じるも
ステルスを破棄した王都のんは厭らしいほどに鉄壁だ
子狸が、王都のんの肩に前足を置く
ポーラ属に肩などないが
なだめるように前足を置かれたならば、そこが肩になる
子狸は言った
「おれ、父さんと喧嘩したことないんだ」
まったくないと言えば嘘になる
父を尊敬している子狸さんは、思い出を美化するあまり
実の父親を偽者と断じて殴りかかったことが多々ある
そういうとき、元祖狸も調子に乗って高笑いしながら去ったりするので
事態が解決を見るには、ポンポコ嫁の介入を待たねばならない
本物であると判明した時点を再会とするなら
喧嘩したことがないという理屈も通るが……
バウマフさんちのひとを基準に置くと
物事の定義はどんどん怪しくなる
認めてしまえばラクかもしれない
だが、本当にそれが子狸さんのためになるのか?
王都のんは毅然とした態度で反論した
「言われてみれば、たしかに……ないな」
真実とは何なのか
その価値とは――?
論旨は鋭く、言葉の刃が胸をえぐる
それでも、いつかは誰かが問わねばならないことだ
お前は間違っているのだと
子狸にもっとも多く接する王都のんだからこそ糾さねばならない
答えは、きっと真実の向こう側にあると信じている
事実は、正しいという、ただそれだけで力を持つのだから
「けど、珍しいことじゃないだろ? お前は、家族を大事にしているんだ。それは良いことだ」
「そうじゃないんだ」
だが、子狸は認めようとしない
命は大切なのだと叫び続けてきた
争いを捨てようと呼び掛けてきた
答えを見つけたつもりでいたのに
ぶつかり合いは避けられなくて――
失われた誇りはどこへ向かえばいい?
ころしたくないと言えるのは傲慢ではないのか?
ころすなと叫べば許されるのか?
それが原因で失われるものがあったとしても?
子狸は、迷っている
力を振るうことを恐れている
だから――
「おれ、小さい頃は魔改造の実を食べなかっただろ? あれさ、味とかじゃないんだよ」
食べるということは、生きるということだ
生きるということは、奪うということだ
生きとし生けるものは、奪い合いと無縁ではいられない
「なんか、見てると悲しくて……。父さんに言われて食べるようになったけど、あのとき喧嘩しておけば良かったなって、ときどき思うんだ」
……ん?
つまり……どういうことなんだ?
子狸は、にっこりと笑って締めくくった
「おしまい」
いやいや……
言いたいことがさっぱりわかんねーよ!
ああ、いつも通りか……
※ いつも通りの子狸さんで安心した
※ 最後まで変わらない安心の子狸さん
うんと万歳して伸びをした安心の子狸さんが
無駄な抵抗を続ける近衛兵を見る
前足を差し伸べて、叫んだ
「ドミニオン!」
土魔法は、二番回路から生まれた魔法だ
二番は無意識の領域を司る魔法回路だった
三つの魔法回線を通して、魔法は現世に召喚される
子狸が呼び出したのは、52年モデルと称されるこん棒だった
豊穣属性は、魔法の果実に干渉することができる
果実は、木々になるものだ
だが、魔改造の実がどこからやって来るのか知るものはいない
子狸は、答えに辿りついていた
予言は、種子になる
果実は、未来から落ちてくる――
三つの門、四つの試練、六つの鍵……
暗号を完全に解読することはできなかった
魔法に数量の制限はない
何故なのか?
おれたちの推測では、こうだ
魔法から魔物が生まれた歴史と
魔物から魔法が生まれた歴史は重複している
どちらかが正解ということはなく
二つの歴史があって、はじめて魔法は生まれる
52年モデルとは、果実のなる枝だ
おれたちの子狸さんが
その前足に――
ついに運命のこん棒を握る
近衛兵が、声なき叫びを上げた
魔王の側近には、52年モデルとの浅からぬ因縁がある
逆算魔法の施行を阻止しようとして誕生したのが――
治癒魔法の反面――逆算“減衰特赦”だからだ
魔法に数量の制限はない
魔王の近衛は際限なく増殖する
数量に制限を設けたなら、魔法は破綻する
人間に座標起点ベースの分身魔法は使えないが――
「全部おれ!」
その限界を、子狸は超える
後ろ足で器用に立った子狸たちが一斉に鳴いた
「めっじゅ~!」
これは見事なTANUKI……
※ なんと見事なTANUKI……
※ ちょっと待ってろ。超光速で現場に向かう
※ 同じく、急行中
※ ついに完成したか!
※ 待ってたぜ、このときを……!
※ そう、これが……!
――これが、おれたちのチェンジリングだ!
「えっ……」
思っていたのと少し違ったらしい
オリジナル子狸がぎょっとしていた
だが、心配するな
見分けはつかない
しっぽをぴんと立てた子狸ズが
前足を突き上げて鳴く
「めじゅ~」
うんうん……
※ 完全一致です
※ 本当にありがとうございました
※ 本当に……本当にありがとうございました