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ロストテクノロジー

【エンディングは】山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん【おれたちが決める(迫真)】


 魔都では、激しい戦闘が続いていた


 ありとあらゆる魔物が討伐部隊に牙を剥く

 出し惜しみをしている場合ではなかった

 宝剣が閃く

 重装鎧と攻性魔法がせめぎ合い火花を散らす


 飛来した圧縮弾を手甲で弾いた騎士が叫んだ


「“新種”だ!」


 歴史上、重要な局面で登場した一夜限りの魔物を

 人間たちは新種と呼ぶ

 総じて強力な個体が多いことが特徴だ

 

 立ち止まる時間を惜しむなら

 もっとも効率が良いのは、殲滅魔法を連発することだろう

 ただし、上級魔法の行使は人間にとって大きな負担になる

 

 先行していた王国騎士団の

 疲労を見てとった勇者さんが命じる


「アトン、下がりなさい! 連合騎士、前へ!」


 彼女は、史上唯一となる女子の勇者だ

 聖剣の終着点が、アリア家となることは定められていた

 だから、全ての決着をつける“最後の勇者”が

 男子と女子、どちらになるか

 これは、そのときになってみないとわからない事柄だった


 性別よりも、意識的に魔法の存在を拒む剣士であること

 そして制御系の異能持ちであることが重要だったからだ


 その二つの条件を満たしている人間は

 アリア家しかいない

 自らを罰するような生き方を選ぶ人間は少ないということだ


認定勇者(ハロウィン)”とは、もっとも古い称号名である

 元帥(マリアン)の権限を越える可能性を持った唯一の……

 最古にして最新、そして最後の称号でもある

 

 勇者の前で、全ての人間は称号を捨てる権限を持つ


 騎士は、騎士であることをやめてもいい

 彼らは、彼らの意思で

 なんのために戦うのか

 だれのために剣をとるのか

 自らに問わねばならない


 それは最古の契約だ


 勇者の号令に

 王国騎士団と連合騎士団が一斉に動く


 逸る騎馬を抑えた王国騎士団を

 連合騎士団が追い抜いて前に出る


「勇者さまぁー!」


 連合国が派遣した中隊長はともかく……

 連合騎士団の練度に勇者さんは満足している


 彼女は、アリア家の次女だった

 アテレシアという出来の良い姉がいたから

 常に比較されて育った


 実の父からは出来損ないと呼ばれて冷遇されていたから

 勇者として立派な功績を残すことが出来れば何かが変わるのだろうかと

 ずっと思っていた


 姉のことは尊敬している

 少しでも支えになれればいいと、たくさんの本を読んだ

 もしかしたら姉は覚えていないかもしれないが……


 ――アンは物知りね


 幼い頃に言われた、その一言を拠りどころにして生きてきた


 その自分が、こうして光輝の剣を振るっている

 自分は選ばれたのだ

 姉ではなく、この自分が――


 鬱屈した感情を、認めざるを得なかった

 道行くひとから勇者とたたえられ、尊敬の念を一身に浴びるのは

 アレイシアンの自負心をひどく満足させた

 愉快だった


 魔王を倒したなら、もう姉の予備という目で見られることはなくなる

 心のどこかで願っていたことを、ずっと抑え続けていた希求を

 無視することは、もう出来なかった


 前へ、と命じるのは

 感情を仕舞いこんでしまう前の自分だ


 止まっていた時間は

 あふれて

 動き出してしまった


 もう止まらない――


 黒雲号が突出する

 両手に光輝剣を顕現した勇者さんが叫んだ

 

「進め! 魔物どもを根絶やしにしろ!」


 魔王討伐部隊は、勇者を筆頭に

 破竹の勢いで進軍する


 もはや一刻の猶予もない


 だが、魔物は――

 それでもお前らならば

 きっとやってくれる……!


 おれは、そう信じているんだ……!



【え? なに?】王都在住のとるにたらない不定形生物さん【謝ればいいの?】 

 

 魔王討伐なんざ、もうどうでもいい!


 ※ おい!


 真に重要なのは、鬼のひとたちが100ポイント達成したことだっ……!


「潜るぞ! 振り落とされるなよ!」


 ぐっと体幹を沈めたおれが

 触手を大地に突き刺して高速で這う


 とつぜんの高速移動に

 血相を変えてしがみついた騎士が悲鳴を上げた


「潜る!? お前は、なにを――」


「おれたちをどこへ連れて行くつもりなんだ!?」


「……魔都へ行くという話ではなかったのか?」


 何を言っているのか

 いまから走って間に合う筈がないだろうが……


 仕方ないので、おれは助走しながら教えてあげた


「この世界には、得体の知れない建造物が幾つかある。その一つが、古代遺跡だ」


 おれガイガーとかいうひとの家だ

 あれは、魔法で歴史を遡ってみても、建造された年代が特定できない

 歴史を遡ろうにも、限界があるからだ

 ある特定の時代まで遡ると、それ以上は進めなくなる


 魔法は“魔界の法則”だから

 この世界に流入してくる以前のことまでは

 調べようがないということだ


「お前らは知らんだろうが……地表に出ている遺跡は全体の一部なんだよ」


 長い歳月を経て、地層に埋もれていったのだろう

 古代遺跡の地下には、信じられないほど巨大な船が埋まっている

 その船を、おれたちは“方舟”と呼ぶ


「さっき言った“抜け道”というのは、各地から遺跡へと伸びる地下通路を利用したものだ」


「そんなものが……」


 つまり、その連絡通路を知る魔王軍は、いつでも王都を襲撃することが可能だったのだ

 騎士たちは衝撃を受けている様子だった

 しかし本題はここからだ


「地上へと渡ってきたおれは、さっそくその通路を利用することにした。だが、一方で、封印するべきだと言った連中もいた……」


 子狸さんは、おとなしい

 無理もない

 管理人にも内緒にしていた事柄だ


「お前らが、王種と呼んでいる連中がそうだ」


 王種は最高位の魔物だ

 魔王すら手出しできないほどの

 圧倒的な力を持つ


 つまり、おれがポンポコ騎士団を放り込もうとしているのは

 王種が守護する四つの重要拠点なのだ


 おれは笑った


「グラ・ウルーめ、うまくやったものだ! やつならば、王種を出し抜くことも可能だろう!」


 ※ 事実とは異なります

  ※ スターズを舌先三寸で丸めこんだのは元祖狸です

   ※ もう魔人はそっとしておいてやれよ……


 ※ 都合のいい特性を持っていたばかりに……

  ※ お前って、本当に便利だよな

   ※ お屋形さま……


 伝説の名を冠する狸が

 最強の魔獣の肩を軽く叩いた頃……


 天高く跳ねたおれは、早口でスペルを唱える

 じつは、とくに意味のない絶叫コースだ

 ぐんぐんと近付いてくる地表に、騎士たちの悲鳴は最高潮に達する


「待ってくれ! お前は魔王なのか!? ならば、おれたちは――」


 ん? ああ、そうか

 緑の島での出来事を、こいつらは知らないのか

 コアラさん、説明をよろしく


 ユーリカ・ベルと名乗る黒妖精は

 魔軍元帥のパートナーだ

 魔王軍の内部事情に通じている


 おれとの対決を渇望していた妖精の姫が

 しぶしぶと口を開いた


「……彼は、銀冠の魔王。現在の魔王とは別人なの。けれど、諸悪の根源であることは確かね」


 おっと、予想以上の高評価……


 彼女の声を打ち消すように、おれは叫んだ


「まずは海底都市だ! 子狸よ、水の宝剣は持っているな!?」


子狸「え?」


おれ「え?」


 そういえば、さいきんの子狸さんは

 宝剣を持っていなかったような……?


 いや、待て

 おちつくんだ、おれ


 たしか妖精の里では持っていたような気が……

 ……いや? 本当にそうか?

 思い出すんだ


子狸「……?」


 ……あれ? おかしいな?

 ずっと手ぶらだったような記憶しかない……

 いったい、どういうことなんだ?


 ※ あのぉ……


 ん? だれだ?


 ※ 鱗のんです。言いにくいんですけど……


 心当たりがあるんだな? 言ってくれ


 ※ あの、違ったらごめんね

   手掛かりになればいいんだけど……

   なんか、おれの家にずっと放置されてるのがあるんだけど……


 ※ 手掛かりって言うか……

  ※ そのもの、ずばり現物じゃないですか……


 ! そうだ

 精霊と戦ったとき……


 たしかに、あのとき子狸は

 宝剣を放り投げていた……!


 ※ え? その時点で?


 ※ おい。なんだよ、それ

   おれ、女王に手土産になるとか力説しちゃっただろ


 ※ え~……?

   宝剣って収納できるんじゃないの?

   おれ、てっきり隠し持ってるんだと思ってたんだけど……


 ※ 王都のん! お前がついていながら、なんてざまだ!

  ※ 子狸さん、イベントアイテムっぽいとか言ってたじゃん! なんで放置してくるの!?

   ※ そうだそうだ! イベントアイテムは忘れる。そんなの初歩の初歩だろ!


 ならば正直に言おう


 おれは宝剣に興味がなかった

 本当にどうでもいいわ……


 ※ お、お前というやつは……

  ※ 勇者さんに謝れ!

   ※ 土下座しろ!


 ふん、なにが精霊の宝剣だ

 そんな都合のいいものがあってたまるか

 子狸さんに、そんな質の低い欺瞞が通用すると思ったら大間違いなんだよ!

 ばーか、ばーか!

 悔しかったら――

 

子狸「あ、出た」


 子狸の前足に顕現したのは水の宝剣だ

 精霊の加護を受けた秘鍵が、陽光を反射してきらめいた


 ※ おい


 何も問題はないな

 さあ、行こう。目指すは海底都市――


 ※ おい


 おれたちの宴会会場だ

 盛大に鬼のひとたちを祝おうじゃないか、お前ら!

 ぽよよん!



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