「子狸さんが巣穴を探しているようです」part2
三二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸……さん?
三三、かまらく在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸!
気をしっかり持て!
三四、管理人だよ
え? なに?
三五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
お前にはつらいかもしれんが……
現実を受け止めるんだ
いいな?
三六、管理人だよ
いやいや
勝手にひとの心情を決めつけるのは
やめてくれませんか?
おれはべつに気にしてないよ
同じところに泊まれって言われてもさ
逆に困るし
おれ「……でも、黒雲号はおれと一緒にいたいよね?」
三七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
未練たらたらじゃねーか
三八、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
というか、お前は馬小屋に泊まる気なのか?
三九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
名前を呼ばれて子狸にすり寄る黒雲号(子狸命名
愛馬の満更でもない様子に危機感を覚えたのか
勇者さんが重ねて言う
勇者「だから、へんな名前で呼ばないで。くせになったらどうするの」
子狸「え~……。じゃあ本名はなんていうの?」
勇者「……え、知らないけど」
子狸「知らない?」
そんなことがあるのかと訊き返す子狸に
勇者さんはため息をひとつ
勇者「好きになさい。もう……。馬と波長が合うのって、人としてどうなの?」
子狸「? 好きに? なるほど……」
おや、子狸さんの様子が……?
四0、管理人だよ
はちょう
はちょうとは
なんだ
四一、王国在住の現実を生きる小人さん
考えることを放棄しやがった……
お前、たまに単語がすっぽ抜けてるなぁ
波長な
ウマが合うってことだよ
四二、管理人だよ
馬だけに?(笑
四三、王国在住の現実を生きる小人さん
たまに善意で教えてやったら
これだよ
四四、帝国在住の現実を生きる小人さん
いや、いまのはお前が悪いと思うぞ
読みが甘い
気ぃ抜きすぎだろ
どうした?
四五、王国在住の現実を生きる小人さん
どうしたもこうしたも
ふつうに会話したいんです……
いけないことでしょうか?
四六、連合国在住の現実を生きる小人さん
王国のは子狸に甘いからなぁ……
四七、王国在住の現実を生きる小人さん
いや、おれから言わせれば
お前らの放任主義は度を過ぎている
これだけは言うまいと思っていたが……
子狸があんなんになっちゃったのは
お前らのせいなんじゃないか?
四八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
おいおい
いくら鬼のひとでも聞き捨てならないな……
人間同士の問題におれたちは干渉しない
そういう決まりだろ?
四九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
そうだな
おれたちの力はあまりにも強大すぎる
まあ、そんな決まりないんですけどね……
五0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
ああ。人間の歴史は人間が紡いでいけばいい
おれたちは手を出すべきじゃない
干渉しまくってますけどね……
五一、連合国在住の現実を生きる小人さん
というか子狸に英才教育とか無駄の極みだよ
まず才能がない
五二、王国在住の現実を生きる小人さん
努力に勝る才能なんてない
無駄な努力など
この世にあるものか……!
五三、帝国在住の現実を生きる小人さん
さっき言ってたことと話が違うじゃねーか……
五四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
議論が白熱してきたようですが……
とりあえず勇者さんは
子狸をこき使う算段のようです
勇者「わかった振りしてもだめ。いいから、受付に行って部屋を取ってきなさい。あなたの名前で記帳して、ダブルの部屋でって言えばそれでいいわ。……自分の名前、書ける?」
子狸「いちおう書けます……。だぶるね、だぶるだぶる……。なるほど……そういうことか……」
勇者「……念のために訊くけど。あなた今日の宿はどうするつもりなの?」
子狸「ん? あとで決めるよ」
勇者「…………」
子狸に行間を読めという方が無理な注文
五五、王国在住の現実を生きる小人さん
努力では
どうにもならないことも
世の中にはある
お前ら
すまなかったな
五六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
いや
気にするな
おれも熱くなりすぎた
五七、帝国在住の現実を生きる小人さん
まあ……
なんだ
子狸は、人間にしてはそこそこ使えるほうだと思うぜ
これも努力の賜物だろう
五八、連合国在住の現実を生きる小人さん
おう
レベル1とはいえ
とっさに連射できるよう構成しておくんだから
立派なもんだ
いつだったか
学校の実習で教官には怒られてたけどな
五九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
発想が、いちいち血生臭いんだよ
想像力はあるんだけどな……
六0、管理人だよ
いやいや
このほうが実戦的だからとか言って
おれの構成をいじくったのは
お前らですよね?
六一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
え?
そうですけど……
六二、管理人だよ
ちょっとちょっと
またそうやって
おれを悪者にするの?
今度という今度は
だまされないよ!
六二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
はいはい
いいから、さっさとサインして来なさいよ
とはいえ、いつも野宿だったしな
困ったことがあれば言え
六三、管理人だよ
おう
いつもありがとうございます
六四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
こうして、瞬く間に丸め込まれた子狸さん
自分の行動に疑問を覚えることもなく
ベッドが二つある部屋を予約しに行きます
宿屋「ダブルのお部屋でよろしいのですね?」
子狸「だぶるのお部屋でよろしいです」
敬語に発音
ダブルで怪しい場面もありましたが
無事に巣穴を押さえました
宿屋「ご朝食はどうなされますか?」
子狸「食べてきました」
宿屋「え?」
子狸「え?」
ボケも健在です
本当に
どこで育て方を間違えたのやら……
注釈
・魔法使い
魔法を使う人間のこと。
ごく少数の魔法を「使わない」人間がいるだけで、基本的にこの世界の人間は子供から大人まで全員が魔法使いであると言える。
それはつまり、ちょっとした教育で少なからぬ戦力になるということだ。
したがって、どこの国でも学校に子供を通わせて魔法を習わせるという体制をとっている。
騎士団を動かすとお金がかかるため、国としては自警力に期待している面もあるのだが、こちらはなかなかうまく行っていない。
魔物たちの強さは、じつはその場の気分次第で決まるからだ。
・構成
魔法で大切なのは、イメージだとよく言われる。
この「イメージ」を、どこまで緻密に描けるか、また効果的に使い分けるかで、魔法使いの力量は決まる。
たとえば以前に子狸が使った「圧縮」と「固定」からなる投射魔法を例に挙げれば、複数の圧縮弾をあらかじめ作っておけば連射ができる。
こうした一連の短期的あるいは長期的な魔法の連なりを指して、「構成」と呼ぶ。