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そして伝説へ

 お前ら、声も出ないようだな

 だが、これが現実だ

 認めるんだな


 子狸さんが……

 おれたちの子狸さんが

 ついに旅シリーズの趣旨を理解してくれた……!


 ※ 理解した? 理解したと……そう言ったのか? 

  ※ ばかな……早すぎる

   ※ くっ、やはり天才だったかッ……!


 ※ さすが子狸さん、イケメン……!


 ※ ちょっとちょっと

   お前ら……

   いくら何でも騙されないよ

   おれが本当にイケメンなら、もっと違った生き方もあったはず


 ※ 子狸さん……

   ひとの本質は内面にこそ表れるものですよ

   そうは思いませんか?


 ※ ! な、なるほど……

   つじつまが合う


 ※ 合っちゃうの? それもどうかと思うんだけど……


 謙虚な子狸さん(イケメン

 自分では気がついていないが、じつは美少年なので

 ひそかに思いを寄せる女子も……


 いや、愚問だな。火を見るよりもあきらかなことだ

 いまさら論じる価値もないだろう


 ※ さすがは、おれの孫だな


 うん。そうだね


おれ「全員、乗ったか?」


骸骨「おう」


おれ「いや、なにを当然のような顔して乗ってんの?」


 たしかに牛のひとを連れて行くとは言ったが……

 どうしてお前まで同行するんだよ


 なんなの? お前ら、子狸の近くに居ないとしぬの?

 いい歳をした魔物が……いい加減に子離れしなさい!


 ※ お兄ちゃん……


 おれはいいんだよ! おれは仕事なの

 あっ……でも、べつに仕事だから一緒にいるわけじゃないからね

 そのへんを誤解しないでほしい

 とくに子狸さんは

 

 ※ 主体性がいっさい感じられない……

  ※ 千年前のお前は、そんなんじゃなかった……

   ※ 王都のんを解き放つべきじゃなかったんだよ……


 ひとは、一人では生きていけない

 それを弱さととるか

 あるいは強さととるかは、ひとそれぞれなのではないか

 だが、もしも弱さであると断じるなら

 それは、きっと少し寂しい……


 ※ おい。はじまったぞ

  ※ 王都さんの、ちょっとイイ話

   ※ 自己正当化してるだけじゃねーか……


 子狸は、いつも一人ではなかった

 傍らには、いつだっておれがいたし

 優しく見守ってくれるお前らもいた


 そして、いまや子狸のまわりには

 子狸の“願い”を知って、なお

 ともに歩んでくれる十二人の騎士がいた


 彼らを囲んでいるのは

 人間にはない、小ぶりなつのを生やした小鬼たちと

 人間にはない、貪欲な生命力を持つ骸骨戦士たち

 そして、あらゆる面で人間を凌駕する迷宮のあるじだった


 動物たちは魔物を恐れない

 それは常識として知られた話だったが

 リラックスした様子でくつろぐ愛馬の様子に

 いまさらながら騎士たちは、大発見をしたような気持ちになった


 妖精の姫君が、豆芝さんの頭から身を乗り出している

 ちいさな身体がふるえていた

 それは歓喜だ


コアラ「原初の、ヨト……。あなたがそうだと言うの……? “銀冠”の、魔王……!」


 おっと、六魔天頂きました


 でもね、おれは過去を捨てたのね

 あんまり、そのあだ名を連呼してほしくないのね


 この黒くて小さなお嬢さんは、妖精属のエリート戦士だ

 彼女は、くるくると舞い上がって

 堪えきれないとばかりに空中で身をよじった


 二対の羽が緊張する

 光の鱗粉が、ぱっと飛散した

 彼女は、ちいさな指先をおれに突きつけて叫んだ


コアラ「わたしと戦いなさい!」


 どうしてあなたたちは、そう好戦的なのですか



おれ「だが、いいだろう……」



 ※ いや、良くねーよ!

  ※ 王都のん、時間!

   ※ 時間、時間! 時間ないよ、王都のん!


 ※ 王都さん!? ちょっ、全盛期はだめ!

   誰か! 誰か王都さんを止めて! おれたちの清純なイメージが……!


 世間一般で毒持ちと呼ばれる個体は

 自在に触手を駆使することで驚異的な突破力を獲得した


 おもに空中回廊で活躍する原種は

 触手へと体幹を移すという新技術を導入

 平地での高速移動を可能とし、ポーラ属の新たな境地を切りひらいた


 だが、その原種ですら

 真祖の六魔天には遠く及ばない――


 地面に突き刺した触手が、どくんどくんと脈打つ


子狸「クモみたいだ」


 体幹を持ち上げて、どしんと踏み出したおれに

 気圧された黒騎士のパートナーが

 空中で、かろうじて踏みとどまった


 いまや魔王軍の頂点にまで登りつめた常夜の騎士……

 その、つの付きですら

 かつて権勢を誇った六魔将にとっては

 多少、目端のきく小間使いに過ぎなかった


 おれは言った


「「人間どもに、ちやほやされて勘違いしたか……?」」


 魔物は魔法そのものだ

 であるならば、その声も、また魔法――


コアラ「……!」


 押し寄せる荒波のごとし魔力に晒されて

 ちっぽけな妖精は、激しい闘争を予感する


 念動力で自らの制空圏を切りとるのがやっとだった

 それでも彼女は笑った

 妖精属の本能が、彼女に後退を許さなかった


 手のひらにおさまるほど小さく

 高速で飛翔する妖精属は

 人間の天敵と言っても良い資質を備えている

 それは相性の問題だ


 対するポーラ属は、究極の一端だ

 ありとあらゆる環境に適応し

 触手という万能の武器を生まれ持っている


 一つ一つの細胞が

 目であり、口であり

 果ては心臓まで、あらゆる器官の働きを兼ね備えている


 全身を鋼の筋肉と化したおれは

 びくびくと脈動する触手を交差させて咆哮したのである



「「より

   どちらが

      愛らしいか――


  火 を 見 る よ り あ き ら か ! 」」



 あまたの愛玩動物を下してきたおれに死角はない――!



子狸「…………」



 ※ おい。子狸さんが無表情になってる



【ペットは】山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん【飼い主に似る】


 さしもの子狸さんもフォロー不可能だった、一方その頃……


 最終決戦の地――

 魔都に突入した魔王討伐部隊は、脇目も振らず城内を直進していた


 王国騎士団アトン・中隊長(エウロ)指揮下

 実働部隊所属騎士80名

 特殊装備連隊派遣騎士40名

 計121名


 連合国騎士団ノイ・中隊長(エウロ)司祭(ウーラ)・パウロ指揮下

 実働部隊所属騎士80名

 特殊装備連隊派遣騎士40名

 計121名


 王国貴族アレイシアン・聖騎士(アジェステ)・アリア・認定勇者(ハロウィン)保護下

 妖精属、薬事法違反観察店主リンカー・ベル

 同、扶養家族イベルカ

 同、扶養家族サルメア

 同、扶養家族レチア

 同、扶養家族ルルイト

 同、扶養家族コニタ

 計7名


 そして――


 ……


 っ……


 ……おれ……


 総勢250名


 戦士たちは、騎馬を駆る

 いつ魔力が飛んできてもおかしくないから

 彼らは雄弁だった


「いい天気だな」


「なるほど」


「おいしそうだな」


 もはや会話が成立していなかった

 

 行く手をさえぎる魔物たちを駆逐していくのは

 戦場に咲く悲恋歌だ


 城内の廊下はひろく

 この世のものとは思えない冷気が漂っている


 視覚を光に頼る魔物はいないから

 唯一の光源と言えるのは、城外の

 分厚い雲でうねる稲妻の残滓だけだった


 母国では子供たちの喝采を浴びる英雄が

 まるで巨人の城に迷い込んだ小人のようだった


 魔物の体格は個人差が激しいから

 通路を閉ざす扉は多くない

 あるとすれば、それは……

 魔力を自在に操れる都市級の住処だ


 雷鳴がとどろき

 はるか頭上の窓から稲光が飛び込むたびに

 隊列から甲高い悲鳴が上がる


「勇者さまぁー!」


「うるさい」


 黒雲号に体重を預け、細身の長剣を振るう勇者さんが

 ぴしゃりと叱りつけた

 霧状の身体を分散して迫る亡霊を、返す刃で切って捨てる


「……?」


 初撃で仕留めきれなかったことを、彼女は不審に思っているようだった

 これまでならば、退魔性を全開にすれば、魔物の特性を封じ込めることが出来たからだ

 ――瘴気が濃いから?

 それは、もっともな理由に思えた


 長剣を鞘におさめた勇者さんの肩の上

 そわそわと身じろぎをしている白の妖精は

 勇者さんが接敵するたびに、はらはらしている

 

 王国最強の騎士、アトン・エウロがそうであるように

 リンカー・ベル。彼女もまた勇者さんの不調に察するものがあった

 二人は、意識的に目を合わせないようにしていた


 ここに来て勇者さんの退魔性に陰りが見られるなど

 魔物に悟られでもしたら一巻の終わりだ


 昇天していく亡霊を

 場違いなほど若い、まだ少年と言ってもいい年頃の騎士が

 おびえた眼差しで見ていた


 その身にまとう鈍色の鎧は、外見だけを取り繕った張りぼてだった

 金属製の重装備をまとって動けるほどの体力も

 経験も、彼にはない

 

 ――魔法の最大開放はレベル9だ

 ノイ・エウロ・ウーラ・パウロは知っている


 今日この日まで人類が生き長らえてきたのは

 魔物たちの慈悲によるものだ


 彼らは、手足を動かすのと同じ感覚で

 世界を滅ぼすことができる


 言えるわけがない、と思った

 対処法など、ないのだ


 おそろしくて仕方がなかった

 頼みの綱は管理人しかいないのに

 現在の管理人は不在で

 先々代の管理人も、いつの間にか姿を消していた

 数日前の出来事である……

 

古狸「なんだ、猫か……」


 そんなことを言って、のこのこと森の中に歩いていったまま戻ってこなかった

 あの一族には、そういうところがある

 神出鬼没と言えば聞こえは良いが、前後の脈絡がいっさいないのだ

 子狸などは、ごはんの時間になると戻ってくるぶん、遥かにまともである

 

 ※ 失礼な。おれは、可愛い孫の恋を応援してやりたいんだよ

  ※ だからってお前……勇者さんをじろじろと見るのはやめろよ。通報されても知らんぞ


 ※ アレイシアンと言ったかな……

   あの子は、おれの嫁の若い頃とよく似ている


 ※ ぜんぜん似てねーよ

   共通点を探すほうが難しいわ


 ※ 誰かの代わりなどいないということだな……

   お前の言いたいこともわかる


 ※ ……なんだろう。この噛み合わなさが、なんかほっとする

  ※ おい! ほっとしてないで、こっちを手伝え!

   ※ オーライ、オーライ!


 ※ おれの計画は完璧だった……いったい何がいけなかったのか……?

  ※ ん? お見合い企画のことか?


 ※ そうだなぁ……もしも失敗に終わった原因があるとすれば

   それは……

   本人がいなかったことかな……


 ※ いや……大切なのは当人同士の気持ちなんだ

   居る居ないは大した問題じゃない……


 ※ 限度があるだろ

  ※ 気を落とすなよ、グランドさん! 次は、もっとうまくやれるさ


 お前らの声援があたたかい


 ※ ここで、とつぜんのお知らせがあります


 追々な


 ※ おお、いつの間にか使いこなしている……



【エンディングは】王国在住の現実を生きる小人さん【おれたちが決める】


 ジャスミンです


 ※ あとにしてくれないか


 まあ、聞けよ

 あとで後悔しても遅いんだから


 ※ いつものパターンじゃねーか

   ……もぉ~……なんだよ! さっさと言えよ


 おれたちが、ポンポコ騎士団のアーマーを改造したのは知ってるよね?

 じっさいに装備してみて、とくに不備もないようだし

 満を持して発表します



 100ポイントたまりました



 ※ !?

  ※ !?


 おれ、レジィ、ユニィ、しめて300ポイントです

 本当にありがとうございました


 ※ !?

  ※ ッ……!


 ※ こ、このタイミングでか……

  ※ 鬼のひと……やってくれるじゃねーか……


 ※ 待て! おい!

   そのポイントはどこから来たんだ!?


 いやだなぁ……

 子狸さんの出世払いに決まってるじゃないですかぁ


 ※ !?


 ※ くっ……子狸さんのポイント借金生活はともかくとして……

   ルールはルールだ……!


 ※ !?


 ※ くっ、たしかに……

   世界の命運は、いったん置いておくしかあるまい!

   お前ら、祭りだ!



 おれたちの伝説が、ついに幕を開ける……!



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