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呪縛の金冠

 ポンポコ騎士団の特殊性は二点に集約されるだろう


 一つは念波を相殺できる“無効”のテレパスであること

 おそらくトンちゃんの物体干渉に対しても一定の効果を望める筈だ

 ただし押し切られる可能性も高い

 あの太っちょの資質は抜きん出ている

 

 もう一つは子狸を有効に活用できるという点だ


 子狸の知覚範囲内にいる魔物は強くなる

 そうと知っていれば、べつの側面も見えてくる

 つまり、ふだんは出来ないことが出来るようになるのだ


 力場を踏んだ特装騎士たちが弾けるように加速した

 並行呪縛は沈黙している

 バウマフ家の人間が近くにいると

 高レベルの魔法は怠けはじめる


 対照的に、召喚された魔法は張りきる

 一つ一つの力場が

 まるで輝き喜ぶようだ


 魔力を撓め

 魔法を励まし

 魔物を昂じる


 それは魔王そのものではないのか


 ※ 王都さんがウォーミングアップに入りました

  ※ うっかり魔王ルート始動

   ※ お前らが、いつまで経っても魔王役を決めないから……


 ※ 諦めんなよ、王都の!

  ※ まだ二週間ある! 希望を捨てるな!

   ※ というわけで、跳ねるひと、どう?


 ※ うさみみはありですか?

  ※ ! 余裕だよ! 勇者さんねこみみだし!

   ※ そうか。前向きに善処しようかな


 ※ 王都の、聞いたか!?

  ※ 魔王候補、確保!


 ……いや、うさみみはねーよ

 うさみみは、ない


 ※ なくねーよ! 人間とは少し違うって言ったじゃん!

   紅蓮さん言ったじゃん!


 だって……

 うさみみ生えてたら遺伝子レベルで違うじゃん


 ※ 遺伝子が何だ! そんなものはささいな問題だ

  ※ 本当に大切なのは気持ちだろ! 人間であろうとする気持ちなんだよ

   ※ めっじゅ~


 ※ ほら、子狸さんもこう言ってる

  ※ 追々な

   ※ 山腹の、それやめろ! 思いのほか使い勝手が悪いぞ!


 まあ……魔王役については相談しておいてくれ

 お前らのことだから

 どうせ終盤はぐだぐだになるんだろ?

 期待しないで待ってるわ


 ※ なんという言い草だ……!

  ※ おれは蛇さんに期待してるんだけどな

   ※ ああ、うん。あのひと、レベル4のリーダーだもんね


 ※ 魔王軍の宰相と言えなくもないしな

  ※ あのひとの家が結晶の砂漠だから……

   ※ とりあえず、魔都までは保留ということで……


 ※ うむ……

  ※ うむ……


 …………


 さて、いったん分隊したポンポコ騎士団

 片や女王の説得に出向く本隊。実働騎士の八人

 片や鬼のひとたちの救出に向かう別働隊。子狸率いる特装部隊の計五人


 ※ 妖精の里と言えば、こんなエピソードがある

  ※ 突然どうした

   ※ まず名乗れよ。誰が誰だかわからん


 ※ 大きいのんです

  ※ おい。お前、緑だろ

   ※ 怖い、怖い。さも自分が本人であるかのような発言……


 ※ まあ、よしとしようや。仮に大ちゃんとしよう。で?


 ※ うむ……こほん

   あれは数年前の出来事だ

   あの日は雨が降っていた……と言いたいところだが

   妖精の里には雨が降らないからな

   まず晴れていた


 ※ その日、おれは分身たちの実態調査に出向いていたわけだよ  

   非登録のアナザー増量は基本的に禁止だからね

   一人ひとり点呼をとって、こきゅーとすの名簿と照合するんだ


 ……その話は長くなるのか?

 もしも長くなる上に

 しかも無関係なら、あとにしてもらえないか?


 ※ 関係あるから、いま話してるんだ

   まあ、聞きなさいって

   あとで悔やんでも遅いんだから


 ……そうか。すまなかった。続けてくれ


 ※ うん。続けるね

   点呼をとるおれ

   妖精さんの返事は、ひとそれぞれだ

   個性は大事だからな

   気分は学校の先生である


 ※ 人数が多いから、けっこう大変なんだよ

   ときどき大きいのが手伝いに来てくれるけど

   あ、ごめん。間違った。緑さんだ

   大きいのんは、おれね


 ※ ……おい。その訂正は通らねーだろ。馬脚を現したなんてレベルじゃねーぞ 


 ※ 緑さんはね

   妖精たちにも大人気なのさ

   よく見ると可愛いなんて言われる

   それが、おれは少し悔しかった……


 ※ 点呼が終わったら、次は新規登録の手続きだ

   人間が増えれば、そのぶん人手が足りなくなる

   里と里のパワーバランスも考えなくちゃならない


 ※ こきゅーとすに書き込んでいる緑さんを

   おれは後ろからぼかりとやって

   いい角度で入った……

   気絶した緑さんをお花畑まで引きずっていって

   埋めた……


 ※ そして、あろうことか

   のちに罪なき緑さんへと

   こう説明した

   居眠りしたので埋めたと


 ※ 以上が、事件の真相である

   情報提供者は、伝説の名を冠する狸さんとだけ言っておく

   申し開きがあるなら聞こうか


 ※ ……埋めたのは羽のひとだ


 ※ まじか


 ※ ああ、まじだ


 ※ ……ふむ

   羽のひとたちが、一生懸命に埋めたんだな?


 ※ きゃっきゃしてたぞ


 ※ そうか。ならば不問としよう


 ※ お前、そういうところ子狸とそっくりだな


 お前らが長々と語っている間に

 子狸さんが捕獲された


 ※ どこに行っても何をしてても

   けっきょくは捕獲されるんだな……


 ※ お、おれのせいじゃないよね?

   何があったの?


 敗因は、やはり索敵しなかったことだろうな


 特装部隊は実働小隊の耳目だ

 ただし今回は招かれた立場だったので分隊を控えた


 まず、鬼のひとたちを連行した妖精さんは二人組みだった


子狸「鬼のひとっ」


鬼ズ「ポンポコさん!」


 突進した子狸が前足を伸ばす


妖精「遅い!」


 高速で飛翔した妖精さんが

 突き出された前足を掻い潜って

 右をかぶせた

 電光石火のクロスカウンターだ


 子狸の反応は早い

 スウェーして避ける

 しかし足は止まった


 その隙をついて、もう一人の妖精さんが迫る

 小さな人差し指を突きつけると

 その指先から、ばちばちと火花が飛んだ


 妖精たちには一人につき一つの属性が設定されている

 彼女は火属性だ


妖精「ティンクル☆ブロウ!」


 連鎖した火花が子狸を弾き飛ばした


子狸「くっ……ディレイ!」


 妖精さんたちのコンビネーションに

 子狸は防戦一方だ


 しかし、この展開は想定の範囲内だった


 迂回して接近した特装部隊が

 鬼のひとたちの救出に成功する


 小人と言うわりにはでっかいとよく評される彼らだが

 その体格は人間と比べても小柄で

 小脇に抱えることもできた


 鬼のひとたちを回収した特装A~Cの三人が散開する

 子狸に加勢しようとする特装Dを

 二手に分かれた妖精の一人が制する


 彼女は、あざ笑った


妖精「ばかめ」


 魔法の働きを察知した特装Dが、片腕を突き出す


特装D「バリエ!」


 融解魔法は接近戦において有効な魔法だ

 たんじゅんな殺傷力では崩落魔法を上回る


 白熱した五指が大気を引き裂く


 だが、その一撃は通らなかった


特装D「何っ!?」


 不可視の障壁に阻まれた感触があった


 抜け目なくチェンジリングを補充した特装騎士が

 全身に力をこめて障壁に張りつく

 上位性質を弾かれたということは、盾魔法ではないということだ

 では、いったい何だというのだ?


 その答えを妖精だけが知っている


妖精「このわたしたちが、都市級への備えを怠っているとでも?」


 彼女は端的に言った


 結界魔法は魔力との相性が悪い

 より正確に言えば、伝播魔法と浸食魔法の組み合わせに対して脆い


 結界は空間を閉ざす魔法ではない。必ず痕跡が残る

 感染と浸食は、その痕跡を足掛かりに追跡してくる


 都市級の魔物が本気なら

 妖精の里に攻め入ることも可能なのだ


 だから対策を打ったのだと、彼女は言う


妖精「わたしたちは、里に干渉できる権限を持っている。わたしたちは、里と運命をともにするだろう。妖精の里とは、つまり妖精そのものなんだ」


 つまり、彼女が言いたいことはこうだ


 子狸の悲鳴が聞こえた


特装D「ッ……!」


 ――子狸はここで沈める

 もはや鬼のひとたちは度外視で

 彼女たちは最初から子狸さんに標的をしぼっていた


 ……なんでそういうことをするんだ


 ※ 鱗のひとは惜しいところまで行ったが……詰めが甘かったな

  ※ 子狸の冒険は、ここまでだぜ

   ※ おれたちが仕留める……!


 飛び退いた特装Dが、殲滅魔法の詠唱に入る


 騎士団が用いる中規模攻性魔法は三種類

 光刃、炎弾、氷結だ


 詠唱速度、汎用性、扱いやすさ、互いの相性を総合的に見て

 厳選された三つの上級魔法である

 さらに特装騎士は、ある程度まで構成をいじれる


 だが、前足を振り上げた子狸が叫んだ


子狸「だめだ! 使うな!」


特装D「……傷付けはしない!」


子狸「行け! おれに構うな!」


 騒ぎを聞きつけた他の衛兵たちが

 現場に急行しつつあった

 このままでは囲まれる


子狸「殲滅魔法は使うな! それは傷付けるための力だ」


 攻撃を封じた子狸が三匹に分裂した

 遮光魔法だ


 子狸にとっての発光魔法は

 自分の分身を生み出す魔法ではなかった


 詠唱は破棄した

 四つの宝剣に認められた時点で

 子狸のレベルは一つ開放されていた


 そして詠唱破棄に付随する減衰のペナルティを

 バウマフ家の人間は無視できる


 二人の妖精さんが放った魔法を

 子狸の分身が体当たりで打ち砕いた


子狸「行け! 鬼のひとたちを……頼んだ」


 跳躍した子狸を、妖精さんたちが迎え撃つ

 彼我の速度には大きな隔たりがある


 たとえ開放レベル4だろうと

 攻性魔法の縛りを自らに課した子狸に

 とうてい勝ち目はない


 時間稼ぎが関の山だ

 いや、それこそが狙いだった


特装D「……!」


 歯を噛みしめた特装騎士が、子狸に背を向けて駆け出す


子狸「ぐあ~!」


 断末魔の叫びに反応して足を止めてしまったら

 団長の犠牲が無駄になる

 特装騎士は走る


 かくして子狸の意思を継いだ騎士たちの逃走劇がはじまる……



【狙撃班】住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん【配置につきました】


 連れ去られた鬼のひとたちを救うべく

 里に点在する妖精の衛兵たちが飛び立った頃……

 黒妖精と実働騎士たちは女王との面会に臨もうとしていた


 女王はすぐに見つかった

 金色の王冠を頭に乗せているので、非常に見分けやすい

 くるぶしまで伸びる長い髪が、生まれてからの歳月を物語るようだった


 彼女は、凝縮した水球にこぶしを叩きつける妖精を指導していた


女王「力は不要です」


 そう言って、ゆるりと呼気を吐く


 他の妖精たちが見守る中

 大きくこぶしを振りかぶった女王が、空中で鋭く旋回した


女王「ぬんっ!」


 轟音とともに水柱が屹立する

 一撃で水球を破砕した女王に

 ほう……と妖精たちが感嘆の吐息をついた


 ※ どう見ても力業なんだが……

  ※ むしろパワーを追求していった極地のように思える……

   ※ お前らの濁った目では真実を写しとることは叶わないのです


 ※ 素晴らしい技術ですね。ぽよよん


 ※ ……え? なに? 王都のひとは、羽のひとに弱味でも握られてるの?

  ※ ……いや、違うな。何らかの密約を結んでいるに違いない

   ※ すべては計算尽くなんだ。おれたちの反応ですら……


 進み出た黒妖精が女王に声を掛ける


コアラ「女王」


女王「ユーリカ」


 女王が控えめに微笑んだ

 二人の面差しは、どこか似ていた


女王「戻ってきたのですね。後ろの人間たちがそうなのですか?」


 あらかじめ話は通していたらしい


 黒妖精が頷く


コアラ「はい。いま、この場にいませんが……ようやく揃いました。彼らがバウマフの騎士です」


 女王は、おだやかに頷き返す


 場所を移すよう提案したのは彼女だ


女王「護衛はいりません」


 ついてこようとする他の妖精たちに、そう告げて

 するすると宙を滑る


 妖精属の女王は、一族でもっとも優れた戦士から選出される

 それは、半ば自動的なものだ


 頭上の王冠が消えたとき、はじめて女王は自らの務めを終えたことを知る

 

 黒妖精は優秀な個体だが

 いまは、まだ女王に及ばないということだ


 そのことを女王は残念に思っているようだった


女王「ユーリカ・ベル。あなたは優秀すぎる。切磋琢磨できるものがいないことは不幸に思います」


コアラ「わたしは、里に縛られるつもりはありません」


 女王は見透かすように言った


女王「リンカー・ベルですか? あなたは、むかしからあの子に期待していましたね」


 彼女の目から見ても、羽のひとは落ちこぼれだった

 女王の務めは自分を越える個体の育成だ

 そして王冠を継承する……


 その可能性が著しく低い個体に対しては、自然と冷たくなる


 部外者が口出しできることではなかったから

 実働騎士たちは女王に挨拶をして

 それきり、押し黙るしかなかった


 黒妖精が言う


コアラ「わたしたちは、在り方を変えるべきです。ご存知でしょう。人間と魔物の王は、力で選ばれることはない。一族を率いる資質があるものが、そうするべきです」


 彼女は、羽のひとがそうなのだと言う


 しかし女王は、かぶりを振った


女王「力なきものを民が認めることはありません。魔物と人間は、王を認めているのではない。王の下につく戦士に従っているに過ぎません」


コアラ「それが社会というものです」


女王「いいえ、そうではない。ユーリカ・ベル。力を誇示するためには、敵が必要です。社会というのは、敵を作るための仕組みなのです」


 長きに渡って世界を見守る女王は、いつしか倦怠感をまとうようになる

 彼女は、過去に八代目勇者とともに旅をした人物だ

 旅が終わってから、差別のない里を作ろうと尽力してきた


 だが、燃えるような理想は、長続きしなかった

 現実を知れば知るほど、身動きがとれなくなる


 同胞を守ることと、里の変革は並び立たない

 彼女は女王として前者を選んだ


 里を出奔した個体を連れ戻さないのは、せめてもの慈悲だ

 約束を守れなかったという後ろめたさがある


 だから過去の自分と同じことを言う……

 自分を女王の務めから解放してくれるかもしれない幼い姫がまぶしかった


 頭上から強襲してきた第二の候補者は、いつ仕上がるかわからない


妖精「女王、覚悟!」


 女王を打ち倒したものは王冠を手にする権利を得る

 しかし、それは一時的なものだ

 仮に女王がわざと負けたとしても、実力で大きく劣るものを

 金の王冠は認めない

 すぐに手元に戻ってきてしまう


 女王は、片手間に刺客の相手をしながらポンポコ騎士団と向き合う


女王「ようこそ、妖精の里へ。ときに……バウマフ家の人間はどこです?」


 まさか交戦中とは言えなかった



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