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暗澹たる光明

王国「超空間で採掘できる鉱物に興味があった」


帝国「魔法の影響を調査しておきたかった。いまは反省している」


連合「悪いことをしているという自覚はあった。今後も繰り返すと思う」


 黒妖精さんに捕縛された鬼のひとたちは

 のちにそう述懐した


コアラ「おら。歩け」


 のろのろと歩く三人と一匹を

 黒球が取り囲んでいる

 少しでも妙な真似をしたら

 即座に叩きのめすためだ


帝国「ちっ……」


 帝国さんの反骨精神は並々ならぬものがある

 横柄な態度で舌打ちした


コアラ「あ?」


帝国「…………」


 凄まれても素知らぬ顔だ


 その点、おれたちの子狸さんは模範的な囚人だった

 肩を落として大人しく歩いている

 目線は斜め下に固定

 沈痛な面持ちが長年のキャリアを思わせる


 となりの王国小人が、ふと首を傾げて言った


王国「お前は何もしてないだろ」


 そう言われて、子狸ははっとした


子狸「冤罪だ!」


 捕まって当然という意識があったから

 気付くのが遅れた


 黒妖精さんは、にべもない


コアラ「あなたのセクハラ行為は目に余るものがある。とくに、わたしたちに対してはそう」


子狸「そっ、そんなことねーよ!」


コアラ「まあ、それだけ心を許しているということなんでしょうけど……女王に対しても同じ態度を取られると困るの」


 彼女とポンポコ騎士団の利害は一致している

 手は打っておくに越したことはなかった


 戦いを通して子狸を認めた特装Aは

 べつの視点から現状を受け入れていた


特装A「お前は団長だからな。どっしりと構えていてくれたほうがいい」


 子狸は、ポンポコと森の愉快な仲間たちの最後の砦だ

 本当の意味での切り札だから

 いないものとして扱うのがベストな判断だった


子狸「一理あるな」


 一を聞き十を知るのが

 おれたちの子狸さんだ

 余計な問答は無用だった


 ※ やはり天才だったか……

  ※ 才知が光り輝くようだ


 ここ妖精の里では

 あまたの妖精たちが技を競い合い

 日々の修練を積んでいる


 お花畑を進んでいくと

 やがて見えてくるのが

 妖精たちの居住区が立ち並ぶ、小さな集落だ


 小さいと言っても

 人間サイズに換算したら、ちょっとした都にも匹敵するだろう


 自在に宙を舞う妖精たちは

 訓練場所に事欠かない


 次代の女王候補と言うだけあって

 黒妖精さんは里の人気者だった


妖精「ユーリカさま!」


妖精「お帰りなさい、ユーリカさま!」


 黒妖精さんの名前は、ユーリカ・ベルという

 ベルというのは、苗字ではなく氏族を表す名称だ


 名前の一部とでも言えば良いのか……

 ようは、仕える女王の違いだ


 妖精属には三人の女王がいて

 一つの里につき、一人の女王が治世を敷いている


 つまり、まだ設定がふわふわしていた頃

 適当に名乗ったら引っ込みがつかなくなって

 ただし、いちいち苗字を考えるのが面倒くさかったのである


 控えめに微笑んだ黒妖精さんが

 片手を小さく振って応じる


 十二人のポンポコナイトは困惑していた

 里に足を踏み入れた人間は

 妖精たちによって悪しざまに罵られるのが恒例だからだ


 だが、考えてみれば当然なのかもしれない


 鬼のひとたちの存在感が

 あまりにも大きすぎる


 小さなポンポコは、早くも挙動が不審だ

 突入部隊に先行を許しているという焦りがそうさせたのかもしれない……

 さり気なさを装って屈伸運動をはじめたかと思えば

 黒妖精さんの目を盗んで駆け出した


子狸「ぬんっ!」


 華麗な背面飛びであった

 黒球を跳び越そうとして失敗する


子狸「ぐあ~!」


コアラ「…………」


 どしどしと黒球を打ちつけられて

 跳ね上がる子狸さん

 空中で大きく仰け反る


鬼ズ「ぽ、ポンポコさーん!」


 もはや職人芸の域に達した負け狸っぷりである


 ハードルは高かった


 ※……身を以って敵の技を知る

  生半な覚悟では、こうは行くまい……


 ※……ああ、彼女は魔軍元帥のパートナーだからな

  ※ハードル低いぞ。いったい、どこまで低くなるんだ……


 ※うむ、さすがはわしの孫じゃ

  抜け目がないのぅ….…


 ※あれっ、グランドさん?

  あなた、こきゅーとすだと

  いつもはふつうに話してましたよね?


 ※きさまっ、おれたちを差し置いてキャラクターを確立させようと!?


 ※小賢しいぞ、古狸め!

  恥を知れ、恥を!


 ※ほっほっほ……何とでも言うがいい

  おれは次のステージに進むぜ!


 ※せめて徹底しろよ!


 グランドさんが次なるステージへと進み、そして戻ってきた頃……


 ポンポコと愉快な仲間たちは

 集落の中心部に辿り着いていた


 鬼のひとたちを衛兵に引き渡した黒妖精さんが

 遠目に女王の姿を求めて浮遊する


鬼ズ「ポンポコさーん!」


子狸「鬼のひとたち……! いま行く……! ディレイ!」


コアラ「大人しくしていろと言うのがっ……ダークネス☆スフィア!」


騎士H「ちぃっ……! グレイル!」


コアラ「邪魔立てを……! なんのつもり!?」


騎士G「降りかかる火の粉は、はらうつもりだった。でも、そうじゃないんだ……!」


騎士F「おれたちは、話し合いに行くんだ。助けを求められたなら、応えるんだよ!」


コアラ「……彼らは罪をおかしたのだから、相応の罰は必要でしょう?」


騎士A「ちがう! そうじゃない。そうじゃないんだ……ようやく見えた……はっきりと!」


 ポンポコ騎士団の隊長が吠えた


騎士A「子狸! 特装を連れて行け! メノゥ……いや、彼らを……ディンを救出しろ!」


コアラ「ばかなの!?」


 それは、つまり妖精たちと敵対するということだ


子狸「鬼のひと~!」


 言われるまでもなく、子狸は駆け出していた

 そのあとを特装部隊が続く


 終わった……

 黒妖精さんは呆然としていた

 もう、絶対に間に合わない


 いや……本当にそうか?

 彼女は、すぐに考え直した


 間違っていたのは自分だ

 しかし、そんなことが可能なのか……?


 彼女は、ポンポコ騎士団の本気を見誤っていたことに気が付いた


 魔王との対談の場を設けるということは

 魔物たちの総意を得るということだ


 女王の歓心を得たいがために

 魔物を見捨てるようなことなど……

 あってはならない


 他国の法で、他種族を一方的に裁くのは公平と言えるか


 たとえば人間たちの社会では、魔物を殺害しても罪にはならない

 正当防衛だから……そうではない……

 これは、もっと根本的な問題だ


 魔物は敵だから

 敵であるという前提をもとにしているから


 正当防衛であれば魔物を殺傷することもやむを得ないという

 確固とした法律が、この世界には存在しない


 ポンポコ騎士団は、新しい秩序を作ろうとしている

 たったの十三人で……


 不可能だ。そんなことが出来る筈はない


 だが、彼らがやろうとしていることは

 整理すると、そういうことなのだ


 甘く見ていた……

 血の気が凍るとは、このことか

 青褪めている黒妖精さんに

 騎士Aが言った


騎士A「さあ、案内してくれ。妖精の女王は、おれが説得する」



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