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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
名探偵くん、やってくれたな……! by怪盗アル
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「奇跡の子」part7

一四六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 見えるひとが圧縮弾を打つ間に

 実働騎士たちは殲滅魔法を最速で二発ほど叩き込める

 早すぎる。手がつけられない


 大広間に幾つもの火柱が上がった

 火の粉が舞う中

 聖☆剣を散らせた勇者さんが

 かつて愛剣だったものを両手でしっかりと握って構える


 使い慣れない武器で戦ってくれるというなら、これは願ってもないチャンスだ

 見えるひとが上体を揺さぶりながら距離を詰める

 霧状の身体は、ひと所にとどまるということがない


 勇者さんが構えを変えた

 やや半身になって、ひじを上げる

 純粋に技量で勝負する気か……?


 両者が交錯した


 姿勢を正した見えるひとが、ゆらりと振り返る


亡霊E「その程度か。元帥の足元にも及ばん」


 にやりと笑った


亡霊E「地獄で待っているぞ」


 剣術使いは、この世でもっとも効率的に魔物の力を封じることが出来る

 見えるひとは、淡い光を放ちながら昇天した


 勇者さんは振り返らなかった

 騎士剣に視線を落として独りごちる


勇者「軽い。これなら」


 安堵したような表情

 また少し変わったか……?


 勇者さんは強くなった

 彼女がまともに戦っているのを見るのは久しぶりだが

 魔軍☆元帥の技を幾つか盗んだようだ

 攻防の妙に血が通いはじめている


 一方、おれたちの子狸さんはと言うと……


子狸「おれはここだ! ここにいるぞ!」


 見えるひとたちの標的が自分に集中していることに気が付いたのだろう

 階段を飛び降りて、自ら孤高の道を歩もうとしている

 このへんは、もう矯正不能なんだろうな……


勇者「また、あの子は……!」



一四七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 勇者さんは苛立っているようだが

 そもそも子狸は人間との連携に難がある


 このポンポコは勘が良すぎる

 だれも動きについてこれないし、ふつうの人間とは魔法の構成が違いすぎる


子狸「イズ・ロッド・ブラウド!」


 そして何より魔物たちの力を最大限まで引き出してしまう


 全身から放電する子狸に、見えるひとが迫る


亡霊Z「ちからが……みなぎる……!」


 いったん分散した霧が、ふたたび人型に結実する

 際限なくあふれ出る力を

 見えるひと本人が御しきれていないようですらあった


亡霊Z「なんと豊潤な……これがバウマフ家の魔☆力か!」


 魔☆力は契約によって得られる

 退魔性が低い人間とは、つまり魔☆力の供給源でもある


 子狸を支援している羽のひとがはっとした


妖精「ブルのときもそうだった……たんに強力な個体というわけではないの……?」


 バウマフ家は、歴史の裏で魔物たちと戦ってきた一族であるらしい

 緑が余計なことを言ったせいで

 おれたちの子狸さんはパーティーのお荷物だ



一四八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 ポンポコ! ポンポコいいよ! 輝いてる!



一四九、管理人だよ


 はっはっは、よさないか

 照れるだろ……


 お楽しみはこれからだぜ

 そうだろ? 見えるひと……!



一五0、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ふっ、大きくなったな

 本当に大きくなった……


 そうとも

 おれたちの戦いはこれからだ……!



一五一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 人間たちの得意属性は

 つまるところ生まれ育った環境で決まる


 外食産業に携わる人間なら火炎魔法に傾くことが多い

 行商人など、旅する人間は冷凍魔法だ

 漁業なら、まず水魔法だろう


 箱姫のあとを追って階段を下りてきた護衛の人が叫んだ


護衛「恥を知りなさい!」


 影使いがピエトロ家に仕える人間であるというなら

 護衛さんと顔見知りであっても不思議ではない


 彼女は同僚の裏切りが許せないようだった


護衛「言え! どうして裏切った!?」


影「それは追々でいいんじゃないか。タク・ロッド・ブラウド・グノ……」


 闇魔法を得意とする人間は珍しい

 なにかとくべつな生い立ちをしているか

 そうでなければ、人為的に属性を歪められた可能性が高い


護衛「ふざけるな! 裏切り者に背を預けて戦えというのか!?」


影「アルダ」


 早口でスペルを切った影使いが、周囲一帯の見えるひとたちを影で縛る

 これに応じた実働騎士たちが殲滅魔法を撃った

 氷華が咲き乱れる中、影使いは後退して護衛さんに声を掛ける


影「そう言うな。いちばん連携しやすいのはお前だ。それに」


 さらなる増援だ

 天井を突き抜けて、見えるひとたちが降ってくる


影「話し込んでいる場合でもない」



一五二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 護衛さんが影使いを問い詰めている頃

 箱姫は、勇者さんと合流しようとしていた


 剣士の弱点のひとつに、死角の多さが挙げられるだろう

 彼女たち剣術使いの共闘を許すと面倒だ


 立ちふさがる見えるひとに、箱姫は突進する

 霧状の腕を掻い潜って、素早く旋回した


亡霊R「なに……?」


 輪切りにされた見えるひとが、目を丸くする

 丸腰だった筈だ

 それなのに、箱姫の手にはいつの間にか剣が握られていた


 ピエトロ家の剣術は手品めいている


 生命とは奇跡のようなものだ

 だから、ほんの少しでも均衡が崩れれば滅びるしかない

 じゅうぶんな殺傷力があるから、意表を突けば勝てる


 くるりと反転した箱姫が、剣を構える

 背中合わせに立つ勇者さんが言った


勇者「いいの?」


箱姫「盗めるものなら盗んで御覧なさい」


 天井から降ってきた見えるひとたちが

 二人の剣士を取り囲んだ



一五三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 大まかに言って、実働騎士たちの殲滅魔法は三通り

 炎弾を周囲にばら撒く速攻型と

 一帯をまとめて凍結する必中型

 そして、敵の意識を分断するかく乱型だ


騎士A「パル!」B「タク!」C「ロッド!」D「ブラウド!」E「グノー!」


 閃光が走った

 頭上に浮かんだ光剣が、一斉に降りそそいで見えるひとたちを串刺しにする

 勇者の聖☆剣を意識した魔法であることは疑うべくもない


 しかし、あまりにも多勢に無勢だった

 仲間のしかばねを乗り越えた見えるひとたちが

 騎士たちに肉薄する


騎士F「パル!」G「ディレイ!」H「エラルド!」


 攻撃に非参加の騎士たちが防壁を張るが

 すでに見えるひとたちは攻略法を編み出していた

 いったん地中に潜行したのち、ふたたび浮上して防壁を越える


 床に亀裂が入るほどの踏み込みから、掌底を叩きこんだ


騎士B「ぐふっ」


 吹き飛んだ騎士Bが、がくりとひざを折る

 陣形が崩れた。チャンスだ



一五四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや、まだだ


 やはり本職の特装騎士はものが違う

 発光魔法で作り上げた分身に、見えるひとたちは翻弄されている

 そればかりか、すでに伝播魔法を連結されている分身は

 即席の爆弾として扱うことも出来た


 数で押し切ろうとする見えるひとたちを

 男は冷静にさばききる


みょ「――ディグ」


亡霊S「ぐあ~!」


 わきを通り抜けざまに放たれた圧縮弾が、見えるひとをしたたかに打った

 特装騎士の詠唱が止まらない


みょ「タク・ロッド・ブラウド・グノ……」


亡霊T「やらせん!」


側近「それはこちらの台詞だ」


 突進してきた見えるひとを

 タマさんの側近が怪しげな技術で投げ飛ばした


側近「ディレイ! 行け!」


 ひとつ頷いた特装騎士が力場を踏んで飛ぶ

 視界を確保してから、人差し指を振った


みょ「アイリン」


 指先に灯った淡い光が

 傷付いた実働騎士たちを照らした


 開放レベル3の全体治癒魔法だ

 言うまでもなく全快する

 むしろ半端に治すほうが難しい

 これがある限り、実働騎士は何度でも復活できる



一五五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 むろん対策はある


 ポンポコ級の退魔性でもない限り

 人間たちの魔法は目で見える範囲に限定される

 倒した人間を引きずって館のどこかに隠せばいいのだ


 タマさんの側近が怪しげな技術を披露していた頃

 狐娘とマヌさんの仁義なき争いがはじまろうとしていた


 悲嘆に暮れるマヌさんに、しゃがみ込んだ狐娘がデコピンをかましたのだ


奇跡「! な、なに……?」


 涙目で見つめてくる同年代の少女を、狐娘は鼻を鳴らして睨み返す

 マヌさんの腕を掴んで引っ張る


狐娘「立て」


奇跡「なにを……するの! 離して!」


 年齢不相応に賢い子供だったから、怒りをぶつけて良い相手かどうかを見分けることが出来た

 しかし狐娘も負けていない


狐娘「お前みたいに泣いてばかりで、何もしようとしないやつを見ると腹が立つ」


 自分を棚に上げてマヌさんを糾弾する


 マヌさんはカッとなって自ら立ち上がった


タマ「おいおい……」


 タマさんの呆れたような声を無視して、至近距離から狐娘と睨み合う

 マヌさんは言った。どこか悲鳴にも似ていた


奇跡「だって、わけわかんないんだよ! わたしは……!」


 それは、きっと本音だった

 ずっと押し隠してきた本当の表情だった


奇跡「子供たちが泣いててっ、わたしがいちばんお姉さんだったからっ、しっかりしなくちゃって、それだけなのに!」


 港町での一幕だろう

 とくべつ勇気に恵まれていたわけではないのだ

 彼女は、ただ自分より年下の子供たちの前で失態を晒せなかっただけだ


 だが、彼女は知らない

 英雄の最初の動機など、たいていそんなものだ


中トロ「そうだなぁ……」


 トトくんは当たり障りのないことを言っている

 しょせん子狸の一番弟子である


 狐娘がマヌさんの髪を引っ張った


狐娘「アレイシアンさまは、だれよりもお前のことを真剣に考えてた! マフマフは、あれはふつうじゃない! あてになるもんか」


 マヌさんも応戦する


奇跡「先生はわたしの味方をしてくれた! 近くにいてくれないひとなんて頼れないよ!」


 トトくんが腕を組んで深く頷いた

 両者の意見を吟味して言う


中トロ「そうだなぁ……」


 子狸の一番弟子だから仕方ないね



一五六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 仕方ないね


 さて……

 お前ら、注目! 作戦会議をしますよ!



一五七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 なんでいまさらだよ


 おれ、そういうところあるね

 そういうところある



一五八、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 あるある


 放っておけば骨が何とかしてくれるみたいな甘えがある

 自覚はあるんだけど、どうにもね……



一五九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 だまらっしゃい!


 いいか、このままだとふつうにおれたちが勝つ

 一見、互角のようだが

 騎士どもの体力が尽きるからだ


 多すぎだぞ、お前ら

 いま何人いるんだ?



一六0、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ん~……AZまで行ったことは確認してる



一六一、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 でも大半は空のひとに蹴散らされてる

 このトリ、加減というものを知らんのか

 手がつけられん


 増援を! 増援を頼む



一六二、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 いや、数では駄目だ

 例のあれをやるしかあるまい



一六三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 あれか

 しかし実用に耐えるのか?



一六四、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 四の五の言っているひまはない


 おれZ! お前が核になれ! お前が最適だ



一六五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おれは子狸をしとめる


 そっちは任せた



一六六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 子狸さんはみんなの獲物だろ!?

 なにを独り占めしようとしてるんだ!



一六七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おちつけ!

 謙虚な心を忘れるな!



一六八、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 そ、そうだったな……すまない


 では改めて……こほん


 おれレボリューション!



一六九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おれレボリューション!



一七0、住所不定のどこでにもいるようなてふてふさん


 同一体だと!?



一七一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ※ 同一個体によるおれレボリューションは成功したためしがない



一七二、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 以前のおれとは違うぜ……!


 はてなき武道が、あくなき鍛錬が、おれに謙虚な心をもたらした!


 行くぞっ、お前ら!


 おれレボリューションっ!



一七三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 謙虚な心を獲得した見えるひとたちに死角はない――


 融合した見えるひとが、焼き上がるパンみたいに巨大化していく


騎士A「メノッドパルだと……!?」


 人間たちは見えるひとのことをメノゥパルと呼ぶが

 ときおり出没する巨大な個体をメノッドパルと呼ぶ


 何故エメノゥパルではいけなかったのか

 そんなことはおれたちも知らない 


 おかげさまで、たぶん発音の問題なのだろう

 とある蛇さんは名前を改造されるという憂き目に遭っている


ひよこ「小癪な……」


 すっかり勇者一行の一員と化した魔ひよこが、くちばしを打ち鳴らして威嚇している


 巨大化した見えるひとが両腕を構えた


大亡霊「じぇすてっ(鳴き声?)」


 相対する両者だが、空のひとはステルスしている

 ステルス中の魔物に意識を向ける存在は、忘れ去られる宿命にある


 人間たちの意識の外で、いま巨大な戦士たちが相まみえようとしていた


 最初に動いたのは空のひとだ


ひよこ「ケェッ!」


 前傾姿勢から、並行に立てた翼で大気を切り裂きながら迫る

 一歩ごとに自重で床が砕ける


 大きな見えるひとが、これに応じる

 首相撲だ

 両雄は一度、組み合ってから離れた

 膂力は互角……


 今度は見えるひとが仕掛けた

 地を蹴って飛び上がる

 空中で身体を水平に倒し、両足で蹴りを見舞う


 翼で迎撃しようとする空のひとを

 身体をひねった見えるひとが絡めとった


 飛びつき腕ひしぎ十字――否、羽十字だ

 完全に極まったか?

 いや、ここは空のひとが上回った


 逆らうことなく倒れ込んで、見えるひとごと前転する

 押しつぶされる前に脱出しようとした見えるひとを

 空のひとが背後から覆いかぶさる


大亡霊「はふんっ」


 てっ、手羽先ロックだぁーっ!



一七四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 注釈


・手羽先ロック


 空のひとの必殺技

 妖精さんたちが雌雄を決する際に使われるチョークスリーパーのひよこバージョンであるらしい

 ふつうに腕(翼)の長さが足りないので、たんにおぶさっているようにも見えるが、その羽毛の感触がとらえたものを離さない魔性の技である



一七五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 魔物と騎士の戦いは激化の一途を辿っている

 殲滅魔法が大気を焦がし、あるいは凍て付かせ

 光剣が降りそそぐ


 タマさんが持ち前の勘で不意打ちに備え

 勇者さんと箱姫が鉄壁の防御を敷く


 見えるひとたちは騎士を一人ずつ隠そうとするが

 即席の特装部隊がそれを許さない


 狐娘とマヌさんの言い争いに

 トトくんが相槌を打っている


 一方その頃、子狸は……


亡霊AA「バウマフだと? バウマフ家の人間が、なぜこんなところにいる?」


亡霊AB「歴史の節目に、必ずと言っていいほど絡んでくる。なんなんだ、お前らは……?」


亡霊AC「まして勇者の供とはな。恐れ入る。とうとう歴史の表側に出てきたか……」


亡霊AD「そうか。今回は間に合ったのか」


 影のように伸び上がる亡霊たちを、一人の見えるひとが手振りで制した


亡霊Z「ビックゲストだ。楽にしねると思うな。魂をばらばらにひきさいてくれよう……」


子狸「たましい……?」


 魂というキーワードに子狸が反応した

 得たりと見えるひとが頷く


亡霊Z「王が眠り続けているのは、魂が欠けているからではないのか? われわれはそう考えている……」


子狸「王だと?」


亡霊Z「魔王のことだ」


子狸「はっきりしろ! どっちなんだ?」


妖精「魔王のことだって言ってるぞ」


 魔物たちは魔軍☆元帥のことをたんに元帥と呼ぶし

 魔王のことを王と呼ぶ

 自軍のトップに、余計な形容詞は必要ないからだ


亡霊Z「きさまの魂をひきさいて、魔王の御霊をとりあげる。心当たりがないとは言わせん」


子狸「……! そうはさせない! パンの精霊たちはおれが守る!」


 返答が怪しい。だれもパンの話なんてしてない


亡霊Z「そのためには」


 見えるひとは推し進めた


亡霊Z「魔界の決闘しかあるまい! 決闘だ!」


 魂に干渉するためには儀式が必要とされる


亡霊AA~AH「決闘! 決闘!」


 子狸を取り囲む八人の見えるひとたちが唱和した

 見えるひとZが手を上げると、彼らはぴたりと歓声を止める


亡霊Z「ちょうどこの場に九人いる。バウマフ家の末裔よ、冥土の土産に教えてやる。きさまをほうむりさるのは、もっとも邪悪とされる秘術だ」


 そう言って、見えるひとは床に片手を這わせた


亡霊Z「ロッド・ラルド・アバドン!」


 轟音とともに、床の一部が崩落する

 穿たれた穴は九つ

 穴の一つ一つに見えるひとたちが飛び込んだ


 決闘とはルールだ

 ルールが決闘なのだ


子狸「ナンバー9か……」


 驚くべきことに子狸は理解していた

 羽のひとがびっくりして問いかける


妖精「ノロくん、知ってるんですか!?」


子狸「ああ。おれの家は、なんかそういうことに詳しいんだ」


妖精「あいまい……」


子狸「預かっていてくれ」


 そう言って、子狸は魔どんぐりを羽のひとに預けた


妖精「……どうして作ったんですか?」


子狸「どうして? 愚問だな……」


 苦笑らしきものを浮かべると、瞑目して精神を集中する

 大きく前足を振って、叫んだ


子狸「チク・タク・ラルド!」


妖精「おい。答えろよ」


 圧縮した空気が大きな槌を成形した

 ポンポコハンマーだ


亡霊Z「はじめるぞ」


子狸「来いっ!」


 魂を賭けた闇のゲームが幕を開ける……


 はたして子狸は生き残れるのか



 注釈


・ナンバー9


 この世の万物は地脈により形を成し、また転じるのだという。

 地脈を走るものを、魔物たちは土竜と言い、その力を取り入れたのが「ナンバー9」と呼ばれる、もっとも邪悪な秘術だ。

 土竜の力を得て打ち出されたものを、秘術の対象者は封じねばならない。

 別名「もぐら叩き」とも呼ばれる儀式である……。

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