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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
名探偵くん、やってくれたな……! by怪盗アル
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「奇跡の子」part3

二0、管理人だよ


 なるほど。つまり……

 どういうことなんだ?


 三行で頼む



二一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 三行もいらんよ


 みょっつさん、まじイケメンってことだ



二二、管理人だよ


 許さない。絶対にだ



二三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ちがうよ。そうじゃない

 マヌさんのためを思うなら、ここは身を引けと言ってるんだ



二四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや、なんの解決にもならんだろ



二五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 じゃあ、どうするんだよ



二六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 どうにもならねーよ

 原則だからな。こればかりはどうしようもない

 何とかできるとしたら勇者さんしかいないけど、あのひとは箱姫の側につくだろ



二七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんでだよ



二八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ? 当然だろ

 巫女の爆破術に、騎士団は対処できた試しがないんだから

 あれは強力な武器になる



二九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんとかしろよ



三0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 ……え? なに? 喧嘩売ってるなら買うけど



三一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 射線はおろか距離にも縛られない魔法の遠隔操作……

 条件は厳しいものの

 その有効性は、奇しくも巫女さんが証明している 


 しかし勇者さんは半信半疑だった


勇者「……魔物たちが魔法そのものだと言うの?」


箱姫「それは間違いないでしょうね。騎士の退魔性は、あきらかに同年代の平均を下回っている。魔法を使う頻度は少ないくらいなのに」


 職人の中には、朝から晩まで魔法を使い続ける人間もいる

 騎士たちはそうではない。彼らは戦士であり、訓練に割く時間を欠かすことはできない


勇者「現実的ではないわね。大隊長にも出来ないことが、他の人間に出来るとは思えないわ」


箱姫「そうね。その意見には、わたしも賛成よ。けれど」


 箱姫は、囁くように勇者さんの名前を呼んだ


箱姫「けれどね、シア……。豊穣の巫女は、じっさいにやってのけた。条件さえ揃えば、不可能ではないということね」


 だから、その条件をひとつひとつ検証していく必要があるのだと、彼女は言った

 巫女さんの論文を鵜呑みにするのは危険だが、それだけの価値はある

 術理が判明すれば、対策を立てることも出来るからだ


 箱姫は、目の前で考えこんでいる幼なじみを味方に引き入れようとしている

 いや、断られることはまずないと決めつけていた


 同じ大貴族だからこそ、同じ目線に立つことができる

 自分たち以外の……たとえば小貴族たちに渡してはならない技術だと理解できる。他国など以ての外だ

 だが、そのために最低でも人間ひとりの人生が犠牲になる


 はたして勇者さんは頷いた


勇者「いいでしょう。あなたに協力します」


箱姫「シア」


 ぱっと笑顔になる箱姫に、勇者さんは人差し指を突きつける


勇者「ただし、ひとつだけ条件があるわ」



三二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 勇者さんと箱姫が協議している頃

 ポンポコ探検隊は迷走を続けていた


子狸「罠だっ。転がれ!」


 架空のトラップを前転して回避する子狸。二人の子供たちもあとに続く


中トロ「おう!」


子狸「よし、いいぞ! マヌ、お前も来い!」


奇跡「うん!」


 楽しそうで何よりである


 さいきん大人びてきた同級生たちには「はぁ?」とか言われて冷たい目で見られるポンポコだが

 なぜか小さな子供たちとは波長が合う


 ころころと廊下を転がりながら進む三人

 壁に身をひそめた子狸隊長が二人の部下を前足で制したのは、大広間の手前での出来事だった


中トロ「どうしたんだ?」


子狸「しっ。……地下室への入口があるとしたら、あの像の下が怪しいと睨んでる」


奇跡「女神さま?」


子狸「……神か。気に入らないな」


 過激な発言である


 勇者を否定する人間など、ごくわずかだろう

 客観的に見て、魔物は人類よりも完成された生物である


 最大、最速、最強、地上のあらゆる称号は魔物たちが独占している

 そのひとつとして、かつて人類は手にしたことがない

 唯一の取り柄と言える知性さえ、長寿の魔物たちの前では怪しい

 

 その人間たちが、魔物に負けないと息巻く根拠が勇者なのだ

 ふと気付けば聖なる海獣などという謎の生命体を信仰している

 どう見てもアザラシさんである……



三三、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 ほら、大きいの

 同僚に挨拶しなくていいのか?



三四、古代遺跡のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 殴るぞ



三五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ※ 大きいひとは、そのむかし人間たちに天使と呼ばれていた



三六、海底都市在住のごく平凡な人魚さん


 どちらかと言えば、おれの同僚なんだけどね

 海中をパトロールしてると、たまについてくることがある



三七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ……まじで? おれ、たまにクラゲさんと間違えられるんだけど……



三八、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 え? よくわからないんだけど、それってショックなことなの?



三九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 まあ、ショックかな。基本コンセプトが違うからね



四0、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ……そうなのか?


 海のひとの家に遊びに行くときとか

 見てると、お前ら力尽きたクラゲさんみたいだぞ



四一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんてことを言うんだ

 脱力なくしてレクイエム毒針の深奥は語れないというのに


 そして緑と大は喧嘩してたよね?

 なんで二人仲良く休憩してるの?



四二、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 決着がつかねーんだよ

 これ、もう五目並べしたほうが早いわ



四三、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 大ちゃんは飽きっぽいからねぇ……

 将棋にしようよ、将棋



四四、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 嫌だよ。お前、負けそうになると長考するんだもん


 つーか、いつの間にか巫女一味が観戦してるし

 王種が二人そろって盤上の戦いとか正直どうなの?

 ありなの? これ



四五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ジャンケンで雌雄を決してもいいくらいだよ

 ……お前らはいいよな


 なんかコアラさんがしつこくてさぁ

 おれの負けでいいって言ってるのに……



四六、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 お前のそういうところがむかつくんだよ!

 ちょっと強いからって調子に乗るな。ばか!



四七、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや、だから、空中回廊じゃおれには勝てねーって

 能力うんぬんじゃなくて慣れの問題だからね、これ

 仕方ねーなぁ……


 ほい、おれの勝ちね

 大人しく魔都に帰りなさいよ

 


四八、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 ……だれが一本勝負だと言った?



四九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なにぃ……?



五0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さあー! 盛り上がってまいりました!

 狸なべデスマッチ第二陣もいよいよ佳境です!

 実況のかまくらのーんです

 

 そして本日のゲストはこちら! 解説の見えるひとです!

 お久しぶりです。さいきんどうですか?


亡霊「まあまあかな」


 無難な回答ですね。ありがとうございます


 さて、前回の巫女戦では大方の……というほどではありませんが

 五人に三人くらいの予想を裏切って巫女さんに勝利をおさめた挑戦者ポンポコ

 今回も期待が持てますね


亡霊「無理じゃね? 勝てる要素が見当たらないし」


 いえいえ、そんなことないですよ

 事実、健闘しているじゃないですか


亡霊「手ぇ抜いてるからね。誘拐の実行犯はべつに用意してたから、あのトクソウは勝つつもりがなかった」


 二人の子供たちと子狸を分断するのが狙いだったと?


亡霊「うん。でも当てが外れたね。子狸は鼻がきく。あとタマさんね。あの人は、狐娘と同じタイプの異能持ちなんだ。迷彩は通用しないよ」


 では?


亡霊「そう。ここから先、遊びはないよ。勇者さんが出てくると面倒だからね」



五一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 人間たちがよく使う迷彩は、光を操作して風景に溶け込む魔法だ

 汎用性は高いものの、急激な運動にはついてこれないという欠点がある


 ゆがみ、崩れはじめる迷彩に見切りをつけて、姿を現したのはタマさんだった

 肩に引っかけている厚手の上着は、ひと目で高級品とわかる

 腕は服に隠れているが、観察力に長けた人間であれば隻腕であることは知れる


 治癒魔法は魔法によるダメージにしか適用されないから

 お屋形さまでも彼の傷を癒すことはできなかった

 タマさんの片腕を斬りおとしたのは、おそらく剣士だ


 子狸さんの輝かしい幼年時代が過ぎ去り

 どんどん生意気になる今日この頃

 再会したタマさんは、組織の幹部にのしあがっていた


子狸「タマ……」


タマ「おい。聞こえてんぞ」


 タマさんは、見上げてくる二人の子供たちを一瞥してから、横柄な態度で舌打ちした

 影使いを見る

 階段で特装騎士と相対している子狸に向かって、声を張り上げた


タマ「おい。言っとくがな、おれは弱ぇぞ。足止めとか期待されても困るぜ」


 答えたのは客Cだ


客C「……では、ここで睨み合いということかな」


 タマさんと影使い。この二人が仮にぶつかり合ったとしたら、影使いの勝利は、まず揺るがないだろう

 だから影使いが見ているものは、勝敗だけではない、何かべつのものだ


 子狸と打ち合っていた特装騎士の雰囲気が変わった


みょ「…………」


 滑るように階段を進み、光弾で先制する

 完全に死角からの一撃だったが、子狸はあっさりと首をひねってかわした

 がむしゃらに突き出した雷球は、槍剣で相殺される

 

 子狸が相殺を避けていたのは、純粋な肉弾戦では敵わないとわかっていたからだ

 虚しく宙を泳いだ前足を、男が片手で掴んで引き寄せる


 とっさに子狸は前足をひねって引き手をきった

 さらに男は歩を進める。不安定な足場で踏みとどまる子狸

 

 二人の詠唱が重なった


子狸&みょ「アバドン」


 男の腕は空をきった。その場で子狸が大きく沈み込んだからだ

 ひざをたわめて上体を旋回させると、マフラーの端が男の視界をさえぎった

 間隙を突いて、前足が跳ね上がる

 一瞬で意識を断ちきってしまえば、チェンジリングなど意味をなさない


 しかし……


 だめだ……


みょ「すまない」


 ひとこと、男は詫びた


 二人の足元が大きく揺れる 

 無理な体勢から前足を放った子狸が、踏ん張りきれずに倒れた


 足から魔法を撃ったのだと、理解する前に

 男の指先が、子狸のひたいに触れた


奇跡「先生!」


 マヌさんの悲痛な叫び声が子狸に届くことはない


 意識を刈り取られて、階段の上をごろりと転がる

 子狸は負けた

 大方の予想通りに

 わけもなく


 子供たちを守ると誓った

 祈りは届くと信じてみても

 願いは弱さに阻まれる


中トロ「っ……!」


 しかし想いは引き継がれるのだ


中トロ「……マヌ。聞いて」


 特装騎士に油断はない

 周囲の気配を探りながら、慎重に階段を降りてくる


中トロ「にーちゃんは、最後まであきらめなかった」


 ふるえる足で、トトくんが立ち上がった


中トロ「今度は、おれの番だ!」



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