「二人目の剣士」
二一四、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
いちいち大袈裟なんだよな
ようは勇者さんを納得させようとしてるんだろ?
人間って大変だなぁ……
二一五、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
お前は、何かっつーとそうやって自分だけはわかってるみたいな顔するよね
二一六、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
そういうお前は、何かっつーと子狸と同じ側にいる自分をアピールするよね
二一七、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
そっ、そんなんじゃねーよ!
二一八、海底都市在住のごく平凡な人魚さん
やめんか、巨大生物(?)ども
同じレベル5として恥ずかしくなる
二一九、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
なんで疑問符だよ
おい。おれだって一生懸命生きてるんだぞ
この巨人兵さんはね、緑と赤が何かやらかすたびに後始末してきました
その点、人魚さんは優等生ですね
花まるをあげます
二二0、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
先生! おれもがんばったと思います!
二二一、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
緑くんは、おちつきが足りませんね。もう少しがんばりましょう
でも、いつも明るくてよろしい。花まるはあげられませんが……
――受け取れぃ! これがお前の滅びの序曲だッ!
サイバーギミック解放! 食らえっ
おれブレリュぅぅぅド!
二二二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
あんぎゃー!
二二三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
注釈
・おれブレリュード
おれガイガーに備わるサイバーギミック(自称)のひとつ
変幻自在の身体を活かして、相手の関節を全て同時にロックする荒業である
ようはイメージの悪いおれミストだ
二二四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
なんだろうな
いつも不思議に思うんだが、討伐戦争がはじまると
お前らの内輪もめは激化するよね
二二五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
まったくだ
少しは仲良くできんのかと思うね
二二六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
うん。そうだね
さて、まんまと聖☆木を頂戴した怪盗アル
世間で噂されているのは神出鬼没の義賊という話だが
じつは二人一組であるということは知られていない
魔法使いとして突出しているのは
実行犯よりも、むしろ後方支援の影使いだ
闇属性を得意とする人間は珍しい
魔物に対して有効な属性とは決して言えないからだ
なにか、こだわりでもあるのだろうか
マントをひるがえした怪盗アルが、哄笑とともに闇に抱かれて遠のいていく
怪盗「さらばだ!」
子狸「待て!」
どさくさに紛れて逃亡を図る子狸を、騎士Bが取り押さえた
結果的に、名探偵ポンポコは怪盗アルに利用されたことになる
うがった見方をすれば、協力者だ
嫌疑は晴れない
騎士B「心配いらない。私たちとはべつのチームが追跡に回る。われわれは、この館から離れるわけには行かない」
おそらく聖☆木は二本ある
どちらも贋物だから、光の宝剣を所持している勇者さんを味方につけたほうが勝つ
これは最初から仕組まれた事件だ
メリットは幾つかある
まず、勇者誕生のデモンストレーション
それから、鍛え直された勇者さんの剣を無事に運搬するためのおとりだ
騎士団が欲しているのは、剣を運んだという事実なのだろう
勇者さんは、大貴族の子女だ
歴代勇者がそうであったように平民出身ではなく
貴族出身の勇者というのは、王国にとって非常に都合のいい存在である
貴族政治の正当性を訴える、またとないチャンスなのだ
騎士たちは、怪盗アルの逮捕に消極的だった
貴族が噛んでいると見て間違いない
怪盗アルの正体は、たぶん……
いや、よそう
その謎は、きっと名探偵ポンポコが解き明かしてくれる
子狸「ツインホークは危険だ! あれは不完全な聖☆剣なんだ。暴走でもしたら……」
騎士B「……ずいぶんと詳しいな」
疑念は深まるばかりだ
暴れる子狸を、騎士Bは片腕で押さえつけている
騎士の捕縛術から素人が抜け出すのは無理だ
切なげに鳴くポンポコ
見るに見かねたマヌさんが、騎士Bに懇願した
奇跡「先生にひどいことしないで!」
騎士B「しかしだな……」
一方、トトくんは騎士Aに直談判している
騎士志望というだけあって、子狸が容疑者扱いされていることに気が付いたのだろう
師の無実を訴えるトトくんだが、しかし騎士Aは首を縦に振らない
騎士A「重要なことだ。お前たちは、どこかでやつと接触していた可能性がある」
中トロ「心当たりはないけど……」
ふつうに考えたら、メッセージカードを投げて寄越した人物がそうなのだろう
しかし、子狸よ
よく考えてみろ
怪盗アルは最低でも二人いる
やつらが騎士たちを出し抜こうとするなら
騎士団の動向を把握しておきたいと考えるのが当然だ
そのためには、不特定多数の人間が出入りして
かつ騎士たちが長居する環境が最適と言えるだろう
実行犯が情報収集を担当するとは考えにくい
背格好や声で怪しまれるだろうからな
ここまで言えばわかるな?
子狸「! そうか、そういうことだったのか……」
ぴんと来たようである
二二七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
どうせ珍解答なんだろ
子狸に人並みの推理力を期待するのは間違いなんだって、そろそろ認めようぜ
二二八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おれは子狸さんを信じる
二二九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
山腹の……
ふっ、敵わないな、お前には
おれも信じてみるか、おれたちの……管理人を
二三0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
ああ。正直、信じきれないっていう気持ちはある
でもよ、もう一度だけ……一度だけでもいい、信じてみたいんだ
らしくねえって思われるかもしれないけどさ、賭けてみたくなっちまった
二三一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
初心に帰る、か……
いい言葉だよな
開祖は、たしかに適当なことしか言わなかったけどさ……
いまになってみれば、なにか大切なことを教えてくれた気がするんだ
なんだかんだで、あのひとは物事の本質をとらえてたんじゃないかって、さいきん思うよ
子狸も、きっと……
二三二、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おれ「ばかなっ! 原種が全滅だと!?」
コアラ「わたしがジェルよりも弱いと思っていたの? 甘く見られたものね……」
おれ「くっ、速い……!」
コアラ「あなたたち魔物とはちがうの。わたしたちの女王は、もっとも優れた戦士から選ばれる。わたしは、あのグラ・ウルーにだって勝つ自信がある」
おれ「……ふっ、惜しいな」
コアラ「なにが?」
おれ「教えてやる。お前たちが王種と呼ぶ連中は、魔界では開放レベル5と呼ばれる。魔法の最大開放は……レベル9だ」
コアラ「!」
衝撃の事実であった
あ、おれも子狸さんに清き一票を投じます
二三三、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん
そうだね。衝撃の事実だね
おれは……すまん。オリジナルと同意見だ
どうしても信じきれない……
バウマフ家の業は深すぎる
ごめんな。自分が情けないよ……
それでも、もしも……
もしも子狸さんが、そうじゃないんだってことを証明してくれたら
こんなおれでも、変われるかもしれない
二三四、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
てっふぃー……
変われるよ! お前なら、だいじょうぶだ
子狸さんなら、きっとやってくれる!
おれたちの管理人なんだから……!
二三三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
お前らの気持ちはよくわかった
だが、少し待ってくれ
子狸さんの名推理が炸裂するかと思われた、まさにそのときである
部屋のドアが、わずかに開いていることに騎士Gが気付いた
騎士G「!」
素早くひざまずいた騎士Gに、他の騎士たちも続く
遅れて、トトくんとマヌさんも彼らに習った
この国で生まれ育った人間は、誰かがひざまずいたら自分もそうするよう教えられる
もちろん子狸とて例外ではない
踊りはじめた子狸を、騎士Bが力尽くで平伏させた
??「…………」
ドアの隙間から、何者かが室内を覗き込んでいた
子狸「! だれだ!?」
元来、狸は臆病な動物である
外敵から身を守るために、野生の勘を発達させてきた
しかし、まれに
その鋭い感性をすり抜ける人間がいる
まるで捕食者のように
子狸の誰何に、天敵はびくりと震えた
いったんドアの後ろに身体を引っ込めてから
おそるおそると半身を乗り出す
少女だった
子狸よりも一つか二つ年下だろう
ちょうど勇者さんと同じ年頃に見える
子狸「この感じ……お嬢と同じ……?」
そうだ。剣術使い……しかも、こいつは……
勇者さんのときの繰り返しになるが
平民で、かつ剣士というのは、現実的ではない
現代を暮らす人々は、魔法使いであることが前提の社会を生きている
もちろん例外はいるだろうが……
騎士たちの態度が、少女の身分を物語っていた
二三四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
回りくどい。つまり、なんなの? 大貴族なの?
はっきり言えよ
二三五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
はい。大貴族です。ごめんなさい
代表して口を開いたのは、騎士A。たぶん、この人が小隊長です
騎士A「ココニエドさま。どうなさいましたか?」
ココニエド、というのが少女の名前であるらしい
お前らにわかりやすく言うと、剣術を伝える大貴族はアリア家とピエトロ家の二つしかない
緑の島で勇者さんがピエトロという偽名を使ったのは
他に選択肢がなかったからだ
剣士は、魔法使いを装うことができない
二三六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ココニエド・ピエトロというと……
ああ、箱姫か
大きくなったな。相変わらず挙動不審で嬉しいぜ
二三七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
なんだ、箱姫って
箱入り娘のこと?
二三八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
極度の人見知りなんだよ
ひとと話すとき、絶対に目を合わせようとしない
将来を危ぶんだ親父さんが社交界に連れ出したんだけど
箱をかぶって出てきたから箱のお姫さま。略して箱姫
命名したのは歩くひとだよ
懐かしいなぁ……
二三九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
いつも河にいる海底のんは何でも知ってる
親父さんの苦労もむなしく、箱姫は健在のようだ
箱姫「…………」
ぼそぼそと何か言ったが、人間の聴力で聞きとれる声量ではなかった
騎士A「……もう少し大きな声でお願いします」
騎士Aは慣れている
おれは聞きとれたけどね
箱姫は「大きな音がしたから」と言ったのだ
砲撃の音を聞きつけて駆けつけたのだろう
しかし彼女の意思が伝わることはなかった
箱姫「…………」
きょときょとと視線をさまよわせてから、箱姫は深呼吸して意を決した
……かのように見えたが、知らないひとたちがいたので断念したようである
素早く顔を引っ込めて退散しようとする彼女に、子狸が鋭く叫んだ
子狸「動くな!」
箱姫「!?」
いつになく無礼なポンポコである
いちおう、貴族に対する礼節はわきまえていると思っていたんだが……
騎士Bが小声で忠告してくれた
騎士B「やめておけ。わかるだろう。彼女は貴族だ」
しかしこのとき、子狸さんの双眸は熱く燃え盛っていた
子狸「それをいまから説明します。……ようやくわかったんですよ、この事件の真犯人がね」
そう言って名探偵ポンポコは、ぐるりと室内の面々を見渡した
騎士Bの制止を振りきって立ち上がると、のこのこと部屋の中を徘徊しはじめる
子狸「謎のメッセージ……消えたツインホーク……最初からおかしいと思ってたんだ」
ぴたりと立ち止まる
一度、なにかを堪えるように瞑目し、天井を仰いだ
ためらい、ひとはなぜ真実を求めるのか
秘めておきたい過去がある
手放したら最後、二度と戻らない今もある
悲しい結末を予感したとき
ひとは鈍感になるべきではないのか
それでもなお
探偵として生きることを
選んだのなら
探偵は、そして断言したのだ――
子狸「犯人は……!」