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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
犯人はこの中にいる!……by子狸
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「子狸の事件簿」part9

二0三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中

 

 だんだん蒸し暑くなってきた今日この頃

 雨季が近い。湿度計が手放せない時期ですね


 さて、有力な情報を得たような気がしないでもないチームポンポコ


『領主の館にて待つ。子羊たちが訪れる頃』


 後半の内容が中途半端だ

 おそらく符丁か何かだろう


 さっそく領主の館へと急ぎたいところだが

 警戒心を新たにした子狸は

 いまさらながら自分たちの戦力に不安を抱いたらしく

 子供たちを軽くテストすることにした


子狸「じゃあ、これは?」


 遮光魔法で前足を隠し、目覚まし勇者さんにポーズをとらせている

 ようは、二人の感覚がどれほどのものかを知りたいらしい


中トロ「んー……だめだ。わからない。マヌは?」


奇跡「……わたしも。ぜんぜん」


子狸「うーん……」


 結果は芳しくない。子狸はうなった

 ひとしきり首をひねってから、ぽんと前足を打つ

 あさっての方角に向けて叫んだ


子狸「スーツを転送してくれ!」


中トロ「え?」


 ……もしかして、おれに言ってるの?

 ポンポコスーツのことだよね?

 いや、ありえないでしょ


 子狸さんはお疲れのようである

 レクイエム毒針、注射


子狸「うっ……!」


中トロ「にーちゃん?」


 不意に立ちくらみを起こした子狸さん

 心配して両腕を差し出してくるトトくんを

 前足で制する


子狸「だいじょうぶだ。……ないものねだりをしても仕方ないな。索敵……あの騎士のことはおれに任せろ。なにか気付いたことがあったら言ってくれ」


奇跡「はい!」


中トロ「……? うん。わかった」


 マヌさんの笑顔がまぶしい

 

奇跡「わたし、先生のこと誤解してました。わたしたちのこと、ちゃんと考えてくれてるんですね!」


 先生というのは子狸のことだろう


 注射、完了


 きらきらした目で見上げられて、子狸は首を傾げる


子狸「……ん? おう。よくわからないが……おれがそう言ったからには、おれに任せろ」


中トロ&奇跡「……?」


 子供には少し難しい言い回しだった


 ひとりで納得した子狸が小刻みに頷いている

 遮光魔法で再現したメッセージカードに視線を落とす


子狸「まずは、いちばん大きな家に行ってみるか……」


奇跡「領主さまのお屋敷ですね。入れてくれるかなぁ……?」


子狸「……ん?」


 もちろん子狸さんは理解していると思うが

 街でいちばん大きな家というのは、つまり領主の館だ


 暗黙の了解というやつで

 領主は大貴族よりも大きな家を建ててはいけないし

 平民より小さな家に住むことも許されない


 家の大きさは権威の象徴だからだ


 言うまでもないことだったな

 子狸さんは、しっかりと頷いた


子狸「地下が怪しいな」


 頷いて下さい


中トロ「! たしかに……」


 たしかにじゃないよ

 その発想はなかったみたいな反応されても困る


奇跡「地下に何かあるの?」


中トロ「どこかに大きな神殿があるって聞いたことがある」


子狸「……だいぶ見えてきたな」


 いや、見えてねーよ

 王都の近くって言ったでしょ?

 ていうか、真下にあるんだよ

 ここはどこ? 国境付近ですよ


 ……話し合った結果、チームポンポコは領主の館の地下が怪しいという結論に至りました

 羽のひと、助けて。おれが悪かった



二0四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 子狸班が暴走をはじめた頃

 宿屋で待機中の勇者さんは、狐娘たちの教育に励んでいた


勇者「燃えなさい。わたしはあなたに言いました。殴ってごめんなさい。でも反省はしてません」


 具体的には、おれたちの反省文(現代語訳版)を朗読していた


 ベッドの上に座っているのは、勇者さんをはじめ、狐娘A~Cの計四名

 いちばん幼い狐娘Aが、勇者さんと向かい合う配置になっている


勇者「というように……さわりの部分だけ触れたけど、この“あなた”というのは魔王のことだと言われているわ。地上では魔法を使えない魔物もいるから、魔王への報告は書面で行っていた……というのが通説」


 狐娘Bが挙手する


狐娘B「アレイシアンさま」


勇者「なに?」


狐娘B「燃えなさいと言ってるのに、どうして殴ったんでしょうか。べつに燃えてませんよね」


 狐娘Cも続いた


狐娘C「正しくは掛け声なのかもしれない。本当に燃えなさいと書いてあるのかな……」


 疑問を呈する部下たちに、勇者さんが答える


勇者「……魔王に対して、魔物たちは友人のように接していたとも読み取れるわ。これは現在で言うところの都市級が――」


狐娘B「アレイシアンさま」


勇者「なに」


狐娘B「…………」


勇者「…………」


 無言で見つめ合う二人


狐娘A「?」


 元祖狐娘は首を傾げて二人を見ている

 まだ幼い彼女には、正しい教育が必要だった


 勇者さんは……


勇者「……メノッドブルもそうだったけど」


 骨のことだ


勇者「どうして、あなたたちは特定の単語をわたしに言わせようとするの?」


狐娘C「……アレイシアンさま」


勇者「……なに」


 狐娘Cが、勇者さんににじり寄る


狐娘C「アレイシアンさまは、栄光ある騎士号を継ぐ方です。あなたは民を導かねばならない……」


狐娘B「あなたの言葉は重い。とても……重い。正しい言葉を歪めては、なりません」


 意地でもバーニングと言わせたい狐娘BとC


 もっともらしい台詞に、勇者さんは頷いた


勇者「そうね。わたしが間違っていたわ」


 そう言って狐娘Aに向き直る。そして彼女は――


 あれ、おれアナザーどこ行った?



二0五、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 まんまと誘い込まれたというわけか

 血沸き肉踊るとはこのことよ……


 空中回廊


 奥深くに王種の一人が鎮座する、この要塞は

 内部にありとあらゆる環境が用意されている


 順路と言うべきものはなく

 必要とされる条件を満たしたものだけが、先へと進むことができるのだ


 森から山へ、山から海へ、ステージとステージをつなぐ通路には

 地上に適応した強力な魔物たちが配置されている


 過去の激戦によるものか……?

 かつては平坦だった通路に、不規則な段差が刻まれていた


 深く冷たい闇の中、色とりどりのお前らが蠢く


庭園「え~……? ふつうに追ってきた……」


 友情出演の原種たちを引き連れた庭園のひとが

 おれの行く手を遮る


おれ「邪魔をしないで。火の宝剣について訊きたいことがあるの」


庭園「ん? どうしたの、急に」


 しらばっくれる青いのに、おれは言った


おれ「……最深部にあると聞いていたのに。そうではなかった……嘘だったのね」


 おれは思う

 オリジナルとアナザーは、ともに笑い、ともに泣くべきなのだ


おれ「どこにあるの? “扉”は」


 日々を生きているのだから



二0六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おれにも魔物れと仰るか



二0七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 庭園のんが罰ゲームに巻き込まれた一方その頃


 領主の館に辿りついたチームポンポコは、門前払いされて途方に暮れていた


門番A「入れるわけがないだろう」


門番B「地下なら許されるとかそういう問題じゃないから」


子狸「……? 屋上?」


門番C「だから、なんで入れる前提で話を進めようとするんだ」


 騎士に対しては何かと反抗的な子狸だが

 そうではない、ふつうの大人には丁寧口調だ

 通してもらえるよう、交渉を試みている


子狸「すごく大事なことなんです」


門番D「うーん……ふだんなら領主さまにご判断を仰ぐんだが……タイミングが悪かったなぁ」


 子供を二人も連れているからだろう、門番たちは同情的だ


 トトくんが交渉に加わる


中トロ「あの、中にいる騎士たちに話してもらえませんか? おれ、知り合いなんです」


門番A「いや、そういう問題じゃないんだ。われわれは、ここを動くなと言われているし、来客があるという話は聞いていない。そういうお仕事なんだよ」


 マヌさんも加わる


奇跡「先生、さっきの……見てもらえば。わたしたちは無理でも、伝えておいたほうがいいと思う」


子狸「ん? さっきの?」


 メッセージのことだろう


子狸「…………」


 子狸は少し悩んでから、目覚まし勇者さんを披露しはじめた


門番A~D「おお」


 門番たちがどよめいた

 尋常ならざるクォリティなのだ

 以前よりもさらに磨きが掛かっている


中トロ「にーちゃん、ちがうよ。それじゃなくて、ほら、館にて待つっていう」


子狸「そうか。さっきのだな」


奇跡「うん、さっきの」


 納得した子狸が、遮光魔法でメッセージカードを再現した

 細かいディティールまで完璧に仕上げてある


 たいていのことはすぐに忘れるのに、この手の再現性は高い

 じつに不思議な生き物である


 カードに刻まれた文字列を目にするなり、門番たちは天を仰いだ


門番D「……なぜ、それを真っ先に見せない……」


門番A「子羊……この子たちのことか」


門番B「おい。照合できる人間を連れてきてくれ」


門番C「わかった。すぐに戻る」


 対となるカードが、前もって領主に送りつけられていた、ということだろう


 符丁の役割を与えられた画像には、固有のパターンが付加されているケースが多い

 今回の場合は、端の部分に独特な文様が入っていた

 偶然の一致とは考えにくいから、ほぼ決定的な証拠になる


 招かざる客であることは変わりない

 しかし有力な手掛かりを持参したことで

 子狸さんは華麗にも容疑者へと昇格したのだ


 無事に照合を終え

 館内の一室に通された子狸を待っていたのは、騎士による尋問だった

 

騎士A「どこでこれを手に入れた?」


子狸「……それがひとに物を尋ねる態度か」


 相手を騎士と見るや、子狸さんの反骨精神に火がついた

 王都にいた頃、さんざん追い掛け回されていたので、騎士が嫌いなのだ

 

騎士A「子供だから手を上げないとでも思っているのか? つけあがるな」


騎士B「……よせ。まだ犯人と決まったわけじゃない」


子狸「使い古された手口だ」


騎士A「貴様っ……!」


騎士B「よせ!」


 一方、トトくんとマヌさんは騎士たちに歓迎されていた


騎士C「そうか。大変だったな、トト坊」


騎士D「よくやったな。もうだいじょうぶだ。おれたちがついてるぞ」


騎士E「しかし奇跡の子とはな……。関連性がある、ということか?」


騎士F「……何とも言えんな」


 使用人の居室を改装した部屋なのかもしれない

 さして広くもない角部屋に、実働騎士の一個小隊

 部屋の中央に台座が置かれていて、小隊メンバーの二人が固く守備している

 実働部隊の基本単位は八人だから、館内の警備にあたっている四名は別の小隊だろう


 部屋の窓は二つ

 外部からの侵入者に備えて、外に二人ずつ配置している

 

 つまり二個小隊による警備体制だ

 台座の上部を闇魔法で覆っているため、内部に何があるのかは不明だが

 ずいぶんと物々しい布陣である


中トロ「……あれは?」


騎士C「気にするな。近づいちゃだめだぞ。お前を疑っているわけじゃないが、おれたちは領主の依頼で動いている。中途半端なことはできん」


 マヌさんがびくりとした

 子狸を尋問していた騎士Aが、片手を机に叩きつけたのだ


騎士A「第一、その首(不適切な表現がありました)は何だ!? 見せてみろ!」


子狸「さわるな」


 無遠慮な騎士の腕を、子狸が前足で払いのける

 ひとには譲れない部分というものがある

 子狸にとっては、勇者さんからもらったマフラーがそのひとつなのだ


騎士A「……!」


騎士B「おちつけ! 頭ごなしに怒鳴っても仕方ないだろう」


 いきり立つ騎士Aを、騎士Bが抑えに回る

 そうすることで、尋問される側は心理的な味方を得ようという気持ちになる

 たしかに使い古された手口だった


騎士B「もういい! お前は配置に戻れ。あとは、おれがやる」


 理性的な一方は、立場が上であるというアピールも忘れない

 もちろん子狸さんが、この程度の寸劇に騙されるわけもなく――


子狸「……あんたは、少しは話がわかるみたいだな」


 ころっと騙された


騎士B「……悪く思わないでやってくれ。優秀なやつなんだが、頑固でな。部下には、あとで正式に謝罪させるとしよう」


 騎士Bは様子を見ている


騎士B「見たところ学生のようだが、学校は?」


 軽いジャブで揺さぶりを掛けてきた


子狸「王都にある」


 所在地



二0八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 所在地……



二0九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 所在地だな……


 ときに、王都の

 お前には見えてるんだろ? 騎士たちは何を守ってるんだ?

 恥ずかしがらずに言ってみろよ



二一0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なんで恥ずかしがる必要があるんだよ

 お前はおれに何を期待してるんだ


 たしかに見えているが……

 しかし、そうだな……子狸には内緒にしておいてくれるか?



二一一、管理人だよ


 おれには内緒なんだな

 わかった。任せてくれ。口は固いほうだ



二一二、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 うむ……



二一三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 うむ……


 いや、案外だいじょうぶかもしれんぞ

 本人がこう言ってるんだから、記憶には残らないかもしれん



二一四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 記憶には残らなくとも、おれの悲しみは残るだろ


 暗号でいいか? 台座の上にあるのは、7@具だ



二一五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい。もう少しひねれよ

 以前から思っていたんだが、お前は子狸さんを見くびってる


 ……お前が心配なんだよ

 あとで後悔しても遅いんだ

 悔いを残すような真似は慎んでくれ



二一六、管理人だよ


 串焼き……?



二一七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 串が残った



二一八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なんか、ごめんな



二一九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ……どういうことだ?

 @具は、緑のひとが回収してる筈だぞ



二二0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そうだな。つまり……見ていればわかる


 厳重な警備体制であったが、魔法への対策には限度がある

 原則的に、同じレベルの魔法は性質の衝突がない限り相殺し合う

 開放レベルの上限が定まっている以上、無敵の魔法は存在しないのだ


 室内の照明が落ちた

 外部から、広い範囲を闇魔法で覆ってしまえば、日差しを遮ることは難しくない


 そして、ある一定以上の力量を持つ魔法使いなら

 あらかじめ迷彩して館内に侵入することもできる


 敵は二人組みだ


 闇に閉ざされた空間に轟音が鳴り響いた

 壁を破壊した音だ

 魔法の火力があれば、侵入経路は自在に選べる


 騎士たちの対応は迅速だ


騎士A「パル!」


??「ディグ!」


 浮かび上がった光源を、すかさず放たれた圧縮弾が押しつぶした

 室内に踏み込む前に準備しておいたのだろう


 しかし、じゅうぶんだ

 一秒にも満たない時間、半秒もあれば、騎士は敵味方の位置を把握できる


 ところが、子狸にはその時間すら必要なかった

 闇の中で蠢くポンポコ……


騎士B「っ……待て!」


 騎士たちが二の足を踏んだ

 子狸の行動が予測できない


騎士A「射線を切れ! 3、5、4!」


 暗視状態で戦う場合、騎士たちはよく数字の暗号を用いる

 盾魔法の範囲を指定し、対象を閉じ込めるためだ


??「っ……」


 騎士たちの予定が狂ったので、侵入者の予定も狂った

 戦歌砲撃への対策はあったのだろう

 とっさに進路を変更し、二人の子供たちに駆け寄る

 人質にとるつもりだ


子狸「おれナックル!」


??「ぐふっ」


 子狸の前足がうなった。命中


 迎撃されたことで、奇しくも侵入者は盾魔法の範囲外に脱出できた

 子供たちを人質にとることなど、騎士たちにはお見通しだったのだ

 でも子狸さんの活躍で、予定が狂った


奇跡「パル!」


 何もしなければ、最後に打ち勝つのは騎士だったであろうが…… 

 暗中の不安にマヌさんが耐えきれなかったのは仕方ない

 彼女は、追われる身なのだ


??「ちぃっ!」


 侵入者は床に這いつくばっていた


 音源を頼りに忍び寄っていた騎士Cの腕が空を切る


 二度目の発光魔法が合図になったのか

 外部からの砲撃で壁が砕けた

 内部の人間を傷つける意図はないらしい

 被害は壁のみにとどまった


 悲鳴を上げてしゃがみ込んだマヌさんを、騎士DとEが背中でかばう

 騎士Fはトトくんの傍らから一歩も動いていなかった


騎士G「! しまった……!」


騎士H「聖木を……!」

 

 侵入者が、殴られた拍子に吹っ飛んだマスクを付け直して跳躍する

 脱出経路に足を掛けた男が高らかに笑った


??「はーっはっは! “聖木”は確かに頂いた!」


 目元をマスクで隠しているものの、この男はまさしく……!



二0九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 だれ!?


 いや、知らんぞ! みょっつ(仮)じゃない!



二一0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 義賊と名高い怪盗アルだぁーッ!



二一一、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 だれだよ!?



二一二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 あれ? これ……まったくべつの事件に巻き込まれてる!?



二一三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 うん。酔っぱらいから情報収集という時点で間違ってたな

 まあ、まったくの無関係というわけでもないから……


 怪盗アルは、手に持つ二股の枝を掲げた

 七代目勇者の聖☆剣は、ツインホークとも称される


 頬をさすりながら、高みから子狸を見下ろした


怪盗「手痛い歓迎だった。しかし、今回は私の勝ちのようだな、名探偵くん!」


子狸「くっ……怪盗アル!」


怪盗「そうとも。私は怪盗アル! 不正を暴き、不当を正す! この世に悪がある限り、私は戦う!」


 騎士たちは動かなかった

 いちおう表向きは無念を装っているが……


騎士A「なにをしている! 撃て!」


騎士B「しかし隊長! ここは危険です。いつ、また砲撃があるか……!」


 反論になっていない

 チェンジリング☆ハイパーは、攻防一体の奥義だ


 つまり、そういうことなのだろう

 健闘むなしく聖☆木を奪われる……これが彼らの今回の任務なのだ


 騎士たちが手出しして来ないのをいいことに、興が乗ってきた怪盗アルは言いたい放題である


怪盗「諸君、私は正しく怒りに燃えている! 勇者の名を借りた大貴族の傲慢にだ!」


 歴史に詳しいものなら、聖☆木が王種に返還されていることはわかる


 魔物たちは人類の天敵という位置付けだから

 魔王を討つもの、すなわち勇者は、あまねく信仰の対象たりえる

 勇者の正義を、人は認めるしかない

 

 それは神聖な約束であり、利用してはならないのだと怪盗アルは言う


 子狸は動揺していた


子狸「聖☆木……! そんなものが、なぜここにある!?」


怪盗「欺瞞だ! すべては欺瞞なのだよ、少年……。それでも、君は私を追うかね?」


 憂いを帯びた怪盗アルの声に、子狸はためらう

 迷い、しかしそれでも……名探偵ポンポコは疑うのだ

 そして問いかける


子狸「……それは、希望だ。希望は、花だよ。花は、ひとりで咲かせるものじゃない」


 なにを言いたいのか、さっぱりわからないが……

 怪盗アルは何か感じ入るものがあったらしい


怪盗「ふっ、それでこそ私のライバルだ」

 

 いつの間にかライバル認定されていた


 もしかしたら騎士たちを相手にするのが嫌なのかもしれない

 たんじゅんに命の危険を感じるのだろう


 怪盗アルが真に欲していたのは、己が魂を燃やし尽くせる終生の好敵手であった……



 注釈


・聖☆木


 歴代勇者たちが振るった光輝の剣、その基点となる聖なる枝のこと。

 聖☆剣の基礎形状は、この聖☆木の枝ぶりによって決まる。

 ツインホーク、トリプルバインダーなど、形状に応じた名称があるようだ。

 運命に選ばれた勇者以外には扱えないとされているが、じつはそのへんに落ちていたものを拾ってきただけなので、だれが持っても聖☆剣としては機能しない、完璧なセキュリティを施されている。

 なお、歴代の勇者が魔王を打ち倒し、役目を終えた聖☆木は、例外なく王種へと返却されている。

 その後、埋められて土に還っている。つまり、一つたりとて現存しない。


(作者より)

バニラ様より素敵なイラストを頂きました。

「第三回全部おれ定例会議」part2にてご覧になれます。妖精の里では、このようにたくさんの妖精たちがあたたかく出迎えてくれます。ユートピア。

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