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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
犯人はこの中にいる!……by子狸
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「子狸の事件簿」part3

五一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 平野部での戦闘なら速度に勝る騎士たちのほうが有利だ

 とはいえ、数が違いすぎる

 砲火に構わず前進を続ける山腹軍団が徐々に戦線を押し上げつつあった


 原種にこだわるあまり、堅陣を保ちきれなかったのが原因のひとつだ

 オリジナルを討たねば意味がないのだと

 大隊長クラスの騎士たちは思っているのだろう


 あるいはオリジナルを倒すことが一発逆転につながると考えているのか?

 だとすれば、それは甘い見通しだ

 仮に山腹軍団の将が倒れたとしても、おれたちは分身魔法の存在を認めるような真似はしない

 中途半端な情報……リークしたのは大貴族ではないらしい

 

 山腹軍団の進路上にはアリア領がある。王都は、その先だ

 自分の実家が滅ぶかもしれないというのに、勇者さんはとりたてて気にした様子がなかった


勇者「もう少しがんばれる?」


 珍しく子狸を気遣う彼女に、過剰反応した王都のん(ステルス中)が全身から生やした触手を逆立てる

 勇者さんに迫るレクイエム毒針を、同じくステルス中の山腹のんが触手で弾いた


山腹『やめろーっ!』


王都『どけ、山腹の! お前は彼女の肩を持つというのか!? そんなことは許されないんだよ!』


山腹『この子がなにをしたというんだ!? 彼女だって犠牲者なんだよ!』


 ひよこの上でじゃれ合う二人はさて置き

 勇者さんに声を掛けられた子狸は気丈に笑った


子狸「お嬢の……故郷を見せてくれるって約束だろ……?」


勇者「そんな約束はしていないし、もう通り過ぎたわ」


子狸「……コニタ、代われるか?」


 心が折れたらしい

 選手交替を希望する子狸に、狐娘Aはかぶりを振った


狐娘A「足が届かない」


 もっともな理由だった


 ならばと小さく挙手して進み出たのは

 意外にも勇者さんである


勇者「わたしが」


 どうやら彼女は、狐娘BとCに針路を預けたくないと考えているようだ

 しかし子狸は認めなかった


子狸「弱音なんて吐いてる場合じゃないよな……おれがやるしかないんだ!」


 勇者さんの脚力に関して、子狸は絶大な信頼を寄せているようだった

 最後の力を振りしぼってハンドルに縋りつく


子狸「魔物! 魔物! おれたち魔物!」


おれら『ちょっ!?』


 掛け声のつもりであったと、のちに本人は自供している


狐娘B&C「魔物?」


勇者「…………」


 そろって首を傾げる狐娘たちであったが

 勇者さんはとくに何も言わなかった


 魔属性に通じるような人間が、魔物と無関係であるはずがないのだ


 調子外れの歌声が青空に吸い込まれていく……


子狸&妖精「お前が魔物!」


 羽のひとも合唱してくれた


緑『これがっ……これがおれたちのチェンジリング☆ハイパーだ!』


 この緑は、たまに意味がわからないことを言う



五二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 空中で組み合った緑とでっかいのが火口へと降りていく


 たんじゅんな膂力では緑のほうが上だ

 のけぞった大きいのが、折り畳んだひざを緑のみぞおちに叩きこむ


緑「無駄だ……おれに物理攻撃は通用しない」


 おれミストした緑が、でっかいのんの背後をとる


巨人「はたしてそうかな?」


 前足を掻いくぐった大きいのが、肩から緑にぶつかる

 これを余裕で受けとめた緑が、巨人の肩口につめを掛ける


緑「つかまえたぞ」


巨人兵「ふっ……」


 それは狩人の笑みだった

 激しく放電する巨人に対して、緑は一歩も退かない


 組み合った二人の王種は下降を続けている

 巻き上がったマグマが、まるで意思を持つかのように二人を取り囲んだ

 巨人が、かすかに目を見開く 


巨人兵「なに……?」


緑「おれガイガーよ、とくと味わうがいい。これが真の豊穣属性だ……!」


巨人兵「アイオ、きさま……!」


 溶岩とは、読んで字のごとく高熱で溶けた岩石成分のことである

 細かく砕けた岩石は、有機物と混ざることで土壌の基礎となる

 つまりマグマは土魔法の対象になりうるのだ


緑「ド ミ ニ オ ン !」


 緑のひと、豊穣属性に開眼する――



五三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 そんな極限環境で開眼されても……


 とりあえず山腹のんは、これからずっと勇者さんについてくれるらしい

 軍団の指揮は分身に託してきたみたいです



五四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 今回の件で、よくわかった

 お前らに勇者さんは任せられない



五五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 そんなことないよ

 お前は、もっとおれたちを頼りにしていいんだ



五六、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 魔軍☆元帥アナザーがこう申しておりますが



五七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 気持ちだけはありがたくもらっておくよ

 気持ちだけね

 

 その点、子狸さんは立派だった

 よく最後までがんばったな


 勇者さんが指定した目的地は、国境付近の森だった

 街ではなく森に着陸したのは、人目を避けてのことだ

 空のひとモデルは目立ちすぎる


 日差しに溶けるように消え行くひよこを

 狐娘たちが名残り惜しそうに見つめていた

 よほど乗り心地が良かったのだろう

 さすがは由緒正しき魔王の騎獣といったところだ


 ひよこが完全に消えてしまう前に

 狐娘たちはお馬さんたちを減速魔法で降ろしてあげた

 勇者さんには減速魔法の効きが悪いらしく

 念のために羽のひとが念動力でサポートする

 

 子狸は……


 緑のひとがひよこに細工していたらしい

 着陸するなり力尽きたポンポコを

 ひよこの残滓が天上へと連れ去ろうとしていた

 荘厳な鐘の音が鳴り響いていたような気もする


勇者「…………」


 召されちゃいそうになっている子狸を

 勇者さんが現世につなぎとめた


 死霊魔哭斬で天の使いを撃破

 抜き打ちだった

 刀身を形成しないでも撃てるようになっとる


 かくして無事に子狸を回収した勇者一行

 ぴくりともしないポンポコを豆芝さんに預けて

 最寄りの街へと向けて出発するのであった……


 

五八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸が大人しくしていると

 こうまでスムーズに事態が進行するものなのか


 その日の夕暮れ前には、なんの問題もなく街についていた 

 トラブルに見舞われることもなく宿屋へ直行する

 

 国境付近の街は、騎士団の出入りが激しい

 あるいは野宿になるかもしれないと思ったが

 経費が厳しいのだろう

 むしろ野宿していたのは騎士たちだった


 ……と、まあ、だいたいそんな感じだ


 鱗のひと、どう? 把握できた?


 なにか質問があればどうぞ



五九、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 そうだな……ひとついいか?



六0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん

 

 うんうん



六一、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 おれは忙しい

 朝から晩まで騎士どもの相手をしなくちゃならんからだ

 ここまではいいよな? いいとしよう


 それを踏まえた上で訊きたい


 朝っぱらに呼び出されて、なにかと思えば

 たんなる近況報告じゃないですか……


 いや、お前らの言いたいことはわかるんだ

 わかるんだが……

 なんで、いまなんだ?



六二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや、ほら……

 さいきん、あんまり話す機会もなかったしさ

 どうしてるかなって……ね?



六三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 う~ん……

 もう単刀直入に言っちゃうか


 鱗のひと

 たぶん勇者さんは、真っ先にお前のところに向かいます

 憶測ではあるけど、まず間違いないと思う


 だいじょうぶ? 対応できる?



六四、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 えっ、本当に?


 いま王国領にいるんだろ?

 そこから、いちばん近いのは牛さんじゃん

 なんで?

 


六五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おちつけ。順番に説明する


 まず、勇者さんは魔都へ向かうらしい

 そのためには、三つのゲートを経由する必要がある

 このへんは言うまでもないことだが……


 三つの門をくぐらないと、ラストダンジョンのゲートは機能しない

 つまり魔都には辿りつけない仕組みになってる


 だから勇者さんは、三つあるゲートのうち、どれか一つを目指すだろう

 合理的な人だから、いきなり牛のひとの迷宮に挑むとは考えにくい

 そこで全滅したら終わりだからな


 少しでも人類に有利な状況を作ろうとするなら

 勝率の高いゲートから開放していくのが常套手段だ

 この時点で二択ね


 んで~……まあ、なんていうの?

 あと一週間くらいで新月じゃん?


 放っておけばパワーダウン(?)するような相手のところに

 わざわざ急行するかなぁ……

 しないんじゃないかなぁ……


 というのが、おれたちの結論です

 どうでしょう?



六六、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 ……うん、そうね


 というか、いらないよね、あの設定

 月の満ち欠けで、いったいなにが変わるってんだよ

 なにも変わらねーよ……


 こう言っちゃあ何だけど

 おれたちの生態がおかしいって人間たちにバレるとしたら

 それは、ほとんどあのひとのせいだと思う

 

 うさぎぃ……



六七、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 うさぎぃ……



六八、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 うさぎぃ……



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