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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
犯人はこの中にいる!……by子狸
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「子狸の事件簿」part1

一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 出会いと別れを繰り返して

 勇者一行は旅を続ける


妖精「……どうしてもだめですか?」


巫女「うん、ごめんね。みんなを置いて行くなんて出来ないよ」


 巫女さんの獲得に執念を燃やす羽のひとだったが

 側近に抱きしめられて嗚咽を漏らす少女の姿を見てしまったから

 彼女の居場所はここなのだと理解してしまった


妖精「なんなら、代わりにノロくんを置いて行きますけど……」


子狸「!?」


生贄「ごめんなさい、ありえないです」


 それでも食い下がる羽のひと

 子狸とのトレードを申し出るが

 これは生贄さんに条件が釣り合っていないと指摘される


子狸「!?」


巫女「それに、正直……わたしは戦力にはなれないと思う。戦うの、あんまり好きじゃないんだ」


 巫女さんは、命が保証された状況でしか実力を発揮できない

 典型的な学者肌の魔法使いだ


巫女「ポンポコみたいには戦えないよ」


子狸「……べつにおれだって好きで戦ってるわけじゃないんですけど」


 戦闘狂みたいに言われて、子狸が反論した

 自分は社会不適合者ではないと主張する


 しかし巫女さんから見たポンポコは、そうではないのだ

 もう同志としてではない

 いつしか自分とは異なる道を歩んでいた狸属に、同じ哺乳類として彼女は言う


巫女「あなたは、自覚がないだけだよ。戦うしかない状況に自分を持っていくふしがある。だから、ちょっと心配だな……」


子狸「そんなことないだろ。それ、ほとんど変態じゃないか」


 子狸は、あくまでも認めようとしない

 その頑なな態度に、巫女さんは疑念を抱いたようである


巫女「……本当に自分で気付いてないの? あなたのお父さんはパン屋さんなんだよね? 騎士になりたいわけでもないんでしょ? わけがわからないよ」


 戦うということは命を賭して問い続けることだ


子狸「お前も大人になればわかる。パンは生きてる。命懸けだぞ」


 たぶん大人になってもわからないと思う


巫女「……女の子をお前呼ばわりするなって言ったよね?」


子狸「ちっ……」


 じりじりと距離を詰めてくる巫女さんに

 狸車を警戒した子狸が、すり足で一定の距離を保とうとする


 組み手の応酬をはじめた二人をよそに

 側近たちは勇者一行の三人娘と別れの挨拶を交わしていた


 勇者一行の出発を見送ってから

 巫女一味を緑のひとが送り届ける手筈になっている


 側近たちは、順々に勇者さんと狐娘を抱擁していく

 巫女さんが何と言おうと、彼女の身に危険が迫るようなら貴族を利用するべきだ


 この先、おそらく巫女一座は

 巫女さんを守ろうとする一派と、環境自然保護団体としての活動を最重要視する一派に分かれていくだろう

 そして王国を支配する大貴族は、双方にとって有益な財源になる


 ……火口の、これでいいんだな?



二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ? 知らねーよ



三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 お前、やっぱり巫女さんのこと……



四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 違うからね!? なに言ってんの、お前!? そういうんじゃねーから!


 危機感が足りねーんだよ、あのどろんこ巫女は

 どっかの国に渡すくらいなら、勇者さんに預けたほうがましだろ



五、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 そうそう。だいたいさぁ、巫女さんはうちの国民だからね

 よその国が手出ししてくるのはおかしいだろ



六、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 え? どのつら下げて言ってんの?

 お前っとこの貴族政治が巫女さんを追いつめたんだろ


 その点、うちなら実力主義だからね

 彼女も安心して研究に打ち込めんじゃないかな?



七、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 なんでお前らは、そうやっていちいちお互いを否定し合うんだ……


 巫女さんが求めてるのは、そういうのじゃないだろ

 おちつくまでは、しばらくうちで預かったほうが良さそうだな



八、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 偽善者め……



九、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 あ?



一0、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 偽善者。ふひひ

 ぴったりだな


 ていうか、王国の。いい加減、貸した金返せよ



一一、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 は? 借りてませんし



一二、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 は? 貸しましたし



一三、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 え? なにそれ。証拠はあるの?



一四、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 ああ、やっぱりそういう……?


 ふうん……なるほどね



一五、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 ふぁいっ!



一六、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 んだこらぁっ!



一七、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 てめっ、やっちゃうよ!?



一八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おーい、誰かこのひとたち隔離しておいてくれる?

 話が先に進まねーよ……



一九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 鬼ヶ島【大陸統一トーナメント】


 相応しい舞台を用意しました。遠慮なくどうぞ



二0、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 おう。悪いな


 おう、帝国の。逃げんなよ

 そろそろ決着ぅ……つけようぜ?



二一、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 上等ぉ……



二二、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中


 喧嘩するくらいならお金の貸し借りしなければいいのに……

 いつまで経っても成長しないやつらだ

 本当にね……


 じゃ、ちょっと行ってくるわ



二三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 ……天下をとるのは連合国かもしれないな



二四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ああ、おれもそう思ったよ

 あの国には得体の知れない凄みを感じる



二五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 蛇さんが言うには、連合国は求心力が弱いらしいよ

 王国と帝国が滅んだら、必然的に自壊するとか何とか……

 だから連合国の準備が整うまでは三強体制が続くらしい 

 


二六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ……新大陸か


 子狸は、巫女さんを本気で投げようとはしない

 それが、巫女さんにとっては少し悲しい


 じゃれ合っていた二人にも、等しく別れのときは訪れる


 突き出された巫女さんの手をかわして

 子狸が三人娘の待つ光の巨鳥に避難する

 お馬さんたちと見慣れない二人組も一緒だ


子狸「おっと! へへっ……またな、ユニ!」


 サドルに腰掛けた子狸がハンドルを握る


 巫女さんが大声で言う


巫女「無理しちゃだめだよ! わたしよりも弱いんだから!」


子狸「よく言うぜ!」


 子狸は勝者の余裕をにじませる


子狸「……ユニ! おれ、友達が出来たんだ! 次に会うときは自慢し合おう!」


 そして憐みの目で見られるのだろう


 ただ、このときは巫女さんも大きく頷いた


巫女「うん!」


 子狸が後ろ足でペダルを回す


 遠ざかっていく巨鳥の背に、生贄さんが声を張り上げた


生贄「……あの! どうして生贄なんて!?」


 彼女は、ポンポコデーモンの正体が子狸であると確信していた

 あるいは誘導尋問だったのかもしれない


 全力でペダルを漕ぎはじめた子狸が、背を向けたまま答えた


子狸「ひとりになるのは、だれだって嫌だろ! 神さまじゃないんだ!」


 勇者一行を乗せたひよこが坂道を下りはじめる

 滑走路にはぴったりだった

 ぐんぐんと加速する光の毛玉が、大きく翼をひろげた

 地面を蹴って跳躍する


 ぴんと翼をひろげた空のひとモデルが

 風に乗って空高く舞い上がる


 ちいさくなっていく緑の島を見つめる子狸が

 ふと視界に入った見慣れない二人組にぎょっとする


子狸「え!? だれ!?」


 狐娘を、そのまま大きくしたような二人組である

 当然のように居座っている狐面たちは

 子狸を無視して、かたわらの勇者さんを一心に見つめている


 ひよこの背中で寝そべっているお馬さんたちが

 子狸の質問に答えてあげてと勇者さんの背をつつく


 勇者さんは仕方なさそうに応じた


勇者「……分身の術よ」


子狸「え!? なにそのシステム!? おれじゃだめなの!? ていうか、そんなの通るわけないでしょ!? なに言ってるの、お嬢!」


 子狸に正気を問い質される勇者さんであった


勇者「……通らないの?」


 約束が違うと狐娘を見れば、ちいさな狐面が冷たい視線を子狸に浴びせてくる


狐娘A「ちがう。アレイシアンさまの分身じゃなくて、わたしの分身」


子狸「ああ、なんだ」


 子狸は納得した


子狸「便利だなぁ、忍法」


 お面と性別くらいしか共通点のない狐娘BとCを目の当たりにした子狸さんの感想である


 便利だなぁ、忍法


 狐娘たちに包囲されている勇者さんが苦言を呈した


勇者「少し……近いわ。離れなさい」


狐娘B&C「…………」


 狐娘BとCは聞こえなかったふりをした


勇者「…………」


 それならばと自分から離れようとする勇者さんを

 狐娘BとCが片方ずつ腕を掴んで座らせる


 一定の高度に達したひよこが羽ばたく


 目の前にひろがったのは世界だった


妖精「回せ! もっとだ!」


子狸「っ……方角は!?」


妖精「そのまま、まっすぐ!」

 

 大陸が見えた

 北に帝国、南に王国、東に連合国という問題児を抱える激戦区だ


 そのさらに先――

 海を越えた先にぼんやりと見えるのが新大陸である

 おそらく数年以内に三大国家による入植がはじまるだろう


 勇者さんに世界はどう見えているのだろう

 もしかしたら南極大陸も見えているのかもしれない

 あるいは海の果てとやらが見えているのか


 おれたちと、人間たちでは、目に見える世界の在り方が違う

 これは二番回路の働きによるものだ


 だからなのか

 風になびく髪を片手で撫でつけながら、勇者さんが言った


勇者「魔都へ――」


 その声は、子狸には届かなかったけれど


 緑の島を飛び立つ直前、火口のんが触手を振っていたのを彼女は見ていた

 ずっと、ずっと、見えなくなるまで


 八代目勇者は、魔物の命を惜しんだ


 九代目勇者は、魔物の友を惜しんだ


 勇者さんは……


勇者「人間と魔物は、となり合って歩くことは出来ない」


 それが、彼女の結論だった



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