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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
この戦いが終わったら、故郷で小さな店でも持とうと思ってるんだ……by山腹のひと
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「子狸とおれたちの戦争」part3

五七、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 巫女さんの爆破は、原理的に騎士たちの狙撃と同じだ


 射程超過の制限を解除できない人間たちは

 視認できる範囲までしか干渉できない


 だが、逆に――

 たとえ仮初のものであろうと、目に見えていたらどうなるのか


 その答えが退魔性だ


緑「ちょっ……え?」


 自宅に迫る危機に、緑のひとは呆然としている

 まさか自分に堂々と喧嘩を売ってくる人間がいるとは思わなかったのだろう


 おろおろと視線をさまよわせると、生贄さんと目が合った

 生贄さんは緑のひとに恩義を感じている

 彼女は心から申し訳なさそうに詫びた


生贄「……ごめんなさい、ディンゴ。わたしには、同志シャルロットが間違っているとは思えないのです」


 千年後の未来のために戦える人間なんて滅多にいない

 それができる巫女さんだから、生贄さんは忠誠を誓っている

 おそらく緑のひとは、千年後も生きているのだ


 生贄さんは伏し目がちに続けた


生贄「人間はどんどん増え続けている……。いずれは、だれも望まない形で、あなたの居場所を奪ってしまうかもしれない……」


 それが怖いのだと彼女は言った


 揺れる瞳で緑のひとを見上げる

 その眼差しには、決意の萌芽のようなものが宿っていた


生贄「あなたたちは、世界を変えることが出来る力を持っています。わたしたちが、どれだけ望んでも手に入らないほどの力。その力を、どうして自分のために使おうとはしないのですか?」


 緑のひとに代わって答えたのは、火口のんだった

 ただの人間でしかない少女の浅慮を笑う


火口「じゃあ、お前ら人間どもを滅ぼしてやれば満足なのかよ? そうじゃねーだろ。なにを企んでやがる……」


 生贄さんはかぶりを振った


生贄「わたしたちは人間です。人間のわたしたちが、人類の滅亡を願うのは間違っている。でも、もしも王種たちが人類と魔物の調和を願っているのなら……」


 ……巫女さんの入れ知恵か? そこに気付く人間が出てくるとは……世も末かねぇ


 目尻に涙まで浮かべて、生贄さんは呼びかけた


生贄「ディンゴ。あなたは“王”になるべきです。あなたがそうしないのは……なにか理由があるのですか? 巫女さまは、わたしに言いました。王種は“何か”を守っているのだと。たった一人で、ずっと……。わたしたちでは、力になれませんか?」


 家でのんびりしていたほうが気楽だからなぁ……


 ……そういえば、大地の精霊はどうするんだ? 登場させるのか?



五八、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 必要ないなら出さないよ


 勇者さん次第だな


 お前らの分身は、よくやってくれた


 勇者さんは、もう誰がどの精霊の守護者なのか

 おおよその見当はついているだろう

 消去法でわかることだからな


 土魔法を使えるのは、ごく一部の人間だけだ


 これを、都市級ですら手出しできない安全地帯と受け取るか

 それとも一時しのぎにしかならないと受け取るかで状況が変わってくる



五九、海底都市在住のごく平凡な人魚さん


 お前はどう思うんだ? 大きいの



六0、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 ……さあ?


 もしもおれが彼女と同じ立場だったら諦めるよ


 敵が、わざわざ逃げ道を用意してくれるなんて考え方は甘い

 遭遇戦じゃねーんだからさ

 人類はとっくのとうに詰んでるよ


 でも、勇者さんは諦めないんだろ?

 おれには想像もつかないね

 時間の無駄だし



六一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前、そういう考えだから人気がないんだぞ



六二、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 なにを言うか。少しくらい斜に構えてたほうがいいんだよ


 年寄りにはわからないんだ。いつか、おれの時代が来る……



六三、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 ちょっと!? お前ら反応薄くない!?


 おれんちの危機ですよ!



六四、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 そうは言ってもなぁ……

 ここまで踏み込まれると、へたに言及したくないんだよ


 おれなら、はっきりと断るけど

 お前は八方美人なところあるし……


 とりあえず、精霊を理由に凄んでみるか?


お前「お前らが知る必要のないことだ」


 こんな感じかな



六五、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 わかった。言ったぞ



六六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ、言っちゃったの?


 それ、認めたようなものじゃん



六七、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 !? 大きいの!?



六八、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 だから、それでいいんだ


 おれと赤いのが、さんざん暴れたからな

 なにかあるんじゃねーのかと疑われるのは、想定内なんだよ


 冷静になれよ、緑の


 おれの家はともかく

 赤の家なんざ宙に浮いてるんだぜ? ありえんだろ

 

 おれらの家がとくべつだから、お前んちもとくべつだと考えたんだろ

 たんじゅんな連想だ

 たしかに驚かされたが、大したことは言われてねーぞ


 どうすれば守り通せるのか

 それを考えながら動けばいいんだよ

 おれたちのライフワークみたいなもんだ



六九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 頭上に暗雲が立ち込めてきた


 日の光が遮られただけで、気温がぐっと落ち込んだように思える 


 生贄さんの主張に聞き入っていた子狸が、巫女さんへと視線を戻す

 身体をすり寄せてくるお馬さんたちを前足で制し、言う


子狸「お前たちは下がってろ」


 黒雲号と豆芝さんは、大人しく従った

 いつもお世話をしてくれるポンポコだから、心が通い合っているのだ


 巫女さんも子狸を見た。苦笑する


巫女「あの子は、まだ徹しきれてないんだよ」


 生贄さんのことだろう


巫女「でも、わたしは違う。わたしは確信してる。たとえディンゴの意に反しようと、そこに可能性があるなら何だって試してみるさ」


 そう言って彼女は、くるりと回った。大きな袖がひるがえる

 ステップを踏みながら、踊るように言う


巫女「王種の怒りを買えば無事では済まないだろう。死ぬかもね。怖いよ」


子狸「だったら!」


 やめればいい。子狸の言葉を、巫女さんは笑顔で遮った


巫女「この世には、命よりも大切なものがたくさんある。そう教えてくれたのは、あなただよ」


子狸「言ってない! そんなこと言うもんか……!」


巫女「そうだね。でも、あなたの行動は言葉とは裏腹なんだ。いつもそうだった。命を大切にしろと言うわりには、平気で無謀な真似をする」


 大きな雲が頭上を通過し、ひと差し落ちた影が

 蛍火の放つ光を際立たせた


 巫女さんはくるくると回りながら、子狸との距離を調節していた

 子狸の退魔性を利用しようとするなら、必ずしも本人の同意は必要不可欠ではないからだ


 じゅうぶんな距離を置いてから、巫女さんはつま先で舞を結んだ


 いつからだろう……?

 同じ土魔法の術者でありながら

 二人の道がまったく違えたのは


 あの頃……

 巫女さんは理想を語り、子狸は滑稽な夢を語っていた

 二人は同じ道を歩んでいる筈だった

 二人は“同志”だった


 美しく成長した巫女さんが言う


巫女「わたしは間違ってない」


 彼女の正しさに、勇者さんは反論できなかった

 彼女の言ってることは圧倒的に正しいからだ

 千年後の未来なんてわからない

 だが、おそらく方向性は大きく変わらないだろう


 子狸は……


子狸「おれが……!」


 ぽろぽろと涙を零しながら反論した


子狸「きみが爆破魔とか呼ばれてっ……なにも感じないと思ってるのか!?」


 たしかに巫女さんは“間違っていない”

 でも、子狸からしてみれば“間違っている”

 

 剥き出しの感情をぶつけられて、巫女さんはかすかに笑った

 ちいさくつぶやく


巫女「……変わったのは、わたしのほうか」


 変わらない人間なんていない

 しかし巫女さんは、勇者一行に混ざっている子狸を見て

 少しショックを受けていたのかもしれない


 口元を引き結んだ巫女さんが、両手を打ち鳴らした


巫女「わたしは先に進む。お前はどうするんだ、同志?」


 子狸は涙をぬぐって、重心を落とした


子狸「とめるよ。力尽くでも」


 身構える側近たちを、巫女さんが制した


巫女「一対一だ。それ以外はないんだ」


 彼女は戦士ではない。しかし人類史上屈指の魔法使いだ


 子狸に勝ち目があるとは思えんが……



七0、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 まあ、いいんじゃないか?


 子狸が巫女さんから得るものは大きいよ


 一対一というなら、おれは手出ししないさ


 おれが勇者さんのほうに戻ると

 緑のひとが不安そうにしていた


緑「……いいのか?」


 たぶん子狸は巫女さんには勝てない

 しかし勇者さんなら

 聖☆剣と退魔性をあわせ持つ彼女なら

 おそらく巫女さんに勝てる


 勇者さんは紅茶に口をつけている


勇者「…………」


 カップをテーブルに置いて、つぶやく

 

勇者「……どこまで聞いてる?」


緑「ん?」


 巫女さんの話が終わったなら、次は勇者さんの番だ

 

 あの有名な豊穣の巫女が王種に話があるというなら

 その目的を推測するのは、そう難しくなかった


 もしも緑のひとが首を縦に振った場合

 勇者さんの用事に支障をきたす可能性がある


 優先権を巫女さんに譲ったのは、それが理由だ


 芳しくない反応を示した緑のひとに

 勇者さんは嘆息した


勇者「……そう、なにも聞いてないのね」


 聞いて……? なんだ? 雲行きが怪しくなってきたぞ


 勇者さんが顔を上げて、緑のひとを見つめた


勇者「王種に会うこと。それが、わたしが勇者として公認される条件なの」


 お前らならわかってくれると思う


 このとき、おれの脳裏をかすめたのは

 とある男の口癖だった


 そうは思わないかね――



七一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 本当にどうしようもねえな、あのどう思うかねは……



七二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ぜんぶ宰相が仕組んだ罠か……


 いったい何のために……


 ! 勇者一行はおとりか!?


 いかん! 山腹の――



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