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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
この戦いが終わったら、故郷で小さな店でも持とうと思ってるんだ……by山腹のひと
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「子狸とおれたちの戦争」part1

一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 これまでのあらすじ


 魔王軍の元幹部、紅蓮将軍の先導で

 無事、結界を突破した勇者&巫女一行


 いろいろと余計なのが登場したけど

 尺の都合もあり、わりとあっさり本命の緑との遭遇をはたす


 一時はシナリオの遂行を疑問視された緑のひとだが

 紅茶とお茶菓子の準備も万端に一行を出迎える


 勇者さんの横に立ってるポンポコの存在が不安だけど

 きっとおれたちの期待に応えてくれるものと


子狸「おれ、緑茶派なんだが」


緑「だまれ!」


 期待に応えてくれるものと


子狸「ちっ、出し惜しみしやがって……。あ、クッキーだ。食べていい?」


緑「お前は立ってろ!」


子狸「頂きまぁす」


 さっさと着席して紅茶に口をつける子狸に

 勇者さんもあとに続く


勇者「失礼するわね。コニタもいらっしゃい」


狐娘「うん」


 お茶菓子をむさぼりはじめる子狸の肩に、羽のひとがとまる

 ちまたで愛らしいと評判の妖精さん

 その瞳が怪しく輝き、子狸の前足に掴まれたクッキーが半分に割れた


子狸「くっ、掌握された……」


妖精「ぼーっとしてないで、かけらを寄越せ。察しろよ。まったく、このポンポコは……」


子狸「はいはい……まったくもう、この子ったら」


妖精「あ?」


 仲良くクッキーを等分する二人

 子狸が差し出した小さなかけらを、羽のひとは愛嬌たっぷりに両手で抱えた

 一口かじる


妖精「ん……手作りですか? もう少し甘いほうが、わたしの好みです」


緑「なにこのひとたち、文句たらたら……。おもに小さいのと狸一族」


 勇者さんと狐娘の二人は、文句も言わず紅茶を飲んでいる

 少しは見習ってはどうか



二、管理人だよ


 羽のひとが可愛いからどうでもいい



三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 たまにはお前も良いことを言う



四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 本当に可愛い存在は、そんなこと言わない


 さて、すっかりくつろぎモードの勇者一行であるが

 一方の巫女一味は、緑のひとの勇姿に興奮した様子だ


 緑に駆け寄った生贄さんが、大きく手を振っている


生贄「ディンゴ! お久しぶりです」


 ほとんどの人間が、緑のひとのことをディンゴと呼ぶ

 一部の魔物からアイオと呼ばれているのは、わりと知られた話だが

 長らく悪魔の化身という扱いをしてきたから、旧友のように接するのが後ろめたいのだろう


 緑のひとの対応は慎重だ


緑「また来たのか。来るなとは言わんが、動物たちを刺激するのは感心しないぞ……」


 動物たちには縄張りというものがある

 人間たちにしてみれば、留守中に他人が家に上がり込んだようなものだ

 とはいえ、人間たちに森で暮らす権利がないというわけではない

 緑のひとは語調をゆるめた


緑「まあ、長旅で疲れたろう。少し休んでいくといい」


 王種と呼ばれるひとたちは、これまで常に中立の立場を貫いてきた

 レベル5に対抗できるのは、同じレベル5しかいないからだ


 緑のひとは、静かに佇んでいる紅蓮さんを見る


緑「紅蓮も。すまなかったな、面倒を掛けた」


 動物たちにとっての人類は、さいきん少し調子に乗っている新興勢力といったところか

 動物たちの取りぶんに干渉しないおれたちは、奇妙な信仰とともに受け入れられるケースが多い

 対応するのが面倒くさい人間たちを、おれたちが率先して引き受けるせいだろう

 べつに専用の窓口というわけではないのだが……


 紅蓮さんは鷹揚に頷いた

 六魔天と王種の関係は未知数な部分がある

 活動時期が重なっていないためだ


 手探りの会話がはじまる……


紅蓮「いや、なに。せがれがのぅ……何と言ったかな、あの……」


緑「原種か?」


紅蓮「それは、さいきんの呼び方じゃろ? 郷では自然なことじゃから……呼び名はないのか」


緑「さて、どうだったかな。都市級の連中は、色違いと呼んでいたが……まあ、原種で良いだろう」


 原種というのは、じつのところ正しい認識ではない

 魔軍☆元帥が変質した魔☆力を操るように

 むしろ地上に適応したことで、本来の姿を離れたのが原種と呼ばれるひとたちである


 微妙な距離感を保ったまま話し続ける二人

 二人の会話に割り込もうとして、先ほどから巫女さんがぴょんぴょんと飛び跳ねていた


巫女さん「おーい、おーい。わたしもいるよ~!」


 無視するのも億劫になったらしく、緑のひとが嫌そうな顔をして首をねじる


緑「……何度来ても同じだぞ。豊穣の巫女よ」


巫女「そんなに嫌そうにするなら、さっさと承諾してくれればいいのに」


緑「これで何度目だ。いや、何度でも言おう。おれは、特定の種族に肩入れするような真似はしない」


 巫女さんの目的は、人類の自然回帰に他ならない

 地道な活動も行っているようだが

 各地で名前が売れてしまってからは騎士団のマークが厳しいため

 ここさいきんは緑のひとのおうちに通いつめているらしい


 なぜなら、彼女の崇高な使命を果たすにあたって

 いちばんの近道は、王種を味方につけることだからだ


 巫女さんは言った


巫女「名前を貸してくれるだけでもいいんだよ?」


緑「それがだめだと言っている」


 勝手に王種の名を騙る不届きものには天罰が下る

 レベル5のひとたちは、読んで字のごとく開放レベル5の猛者たちだ

 射程超過と伝播魔法を組み合わせれば、自分の名を騙るものは即座に特定できる


 同様に、千里眼で勇者一行を見守ってきた

 千里眼というのは、発光魔法と射程超過の融合だ


 さて、ここで子狸さんに問題です

 射程超過とは、いったいどういった働きの魔法でしょうか?



五、管理人だよ


 おれの魔☆力がみなぎる



六、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 微妙に合ってるのが腹立たしい



七、海底都市在住のごく平凡な人魚さん


 いや、それを許したらぜんぶ当てはまるから


 違うだろ。そうじゃないだろ。スペルを言ってみろよ



八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


子狸「エルラルド!」


 スペルを言ってみた子狸さん。子狸は悪くない


勇者&狐娘「…………」


 またか、という目で見られている


 もはや子狸の発言は問題視されていないというのか

 悲しいことである


 しかし、ここで放置しても新たな悲劇を招くだけだ

 いかにも仕方なさそうに勇者さんが応じた


勇者「……極化魔法がどうしたの?」


 人間たちは、射程超過を極化魔法と呼ぶ

 同じ開放レベル5の並行呪縛は、その存在すら知られていないことが多いのだが

 深化魔法の上位版である射程超過は、詠唱破棄との相性が良すぎる


 たいていの場合、極化した魔法を詠唱破棄すると開放レベル6に達してしまうため

 射程超過のスペルを隠しきることはできなかった


 そこのルールを曲げてしまうと、青いのと一緒になる

 バレなければいいという考えでいるから、原種などというわけのわからない存在が生まれたのだ


 いい加減、魔界のポテンシャルに全てを託すシステムは改めたほうが良いのではないか

 なんだよ、魔界って。いったいどんな世界なんだよ、おれたちの故郷とやらは……


 勇者さんに問われて、子狸ははっとした。何かの謎が解けたようである

 椅子を蹴って立ち上がるや否や、太い前足で顔を洗っている緑のんを指差して


子狸「犯人はお前だぁぁーっ!」


 とうとつに解明編へと突入した



九、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 いや、ごめん。ちょっと待って?


 緑のひとは、なんかときどき猫みたいな仕草をするけど

 前もって、きちんとおれに許可を取って欲しい

 


一0、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 え? どういうこと?


 猫みたいって……いや、べつにそんなつもりもないんだけど……



一一、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 いやいや……

 だって、ほら、おれ、にゃんこ代表みたいなところあるでしょ?

 そこ大事よ


 おれがレクイエム毒針とか撃ったら、青いひとたちは怒るよね? 怒らない?



一二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや、怒る怒らないの問題じゃないな……


 まず第一に、すごく根本的なことなんだけど、お前には触手がない



一三、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 だから、それと同じことだよ


 緑のひとには、にゃんこの要素がないじゃないか



一四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前にもないじゃないか……



一五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 ああ、それ言っちゃうんだ……


 そうか……ぎょっとしたわ。逆に……


 ちょっと、蛇さん。同じレベル4として、なんとか言ってやって下さいよ……



一六、砂漠在住の特筆すべき点もない大蛇さん(出張中


 そうだなぁ……


 あのさ、まったく関係ない話で恐縮なんだけど

 お前んちの手前に結晶の砂漠があるじゃん?

 まあ、おれんちなんだけど……


 ごつごつしてて痛いのよ

 ありえんだろ、この欠陥住宅


 何百年も暮らせば愛着わくかと思ったけど

 意外とそうでもないのよ、これが


 びっくりだよな。おれもびっくりしたわ


 引っ越します



一七、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 え!? ちょっ、どこ行くの?


 ラスダン? もしかしてラスダンなの?



一八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ※ラスダン。ラストダンジョンの略である



一九、砂漠在住の特筆すべき点もない大蛇さん(出張中


 ばか、冗談だよ

 魔人のところに遊びに行く

 遊びに行くっていうか……地下に幽閉されてることになってるから

 おれが番人っていう設定なのね


 とりあえず、これだけは言っとく


 魔都にパン工房があるのはおかしくね?



二0、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そんなことになってるの!?


 なにしてんだ、あの元祖狸……



二一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 とうとう禁断症状が出たか……



二二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おっきなポンポコの所在地が判明した一方その頃


 緑の島では、ちいさなポンポコと緑のひとの壮絶な知恵比べがはじまろうとしていた……


子狸「なんか、ずっと視線を感じると思ってたんだ。お前だったんだな!」


 千里眼のことを思い出してくれたようである


緑「よく気が付いたな」


 緑のひとは認めた


緑「さすがはバウマフ家といったところか……」


 そう言って、ちらっと勇者さんを見る

 一向に用件を切り出そうとしない彼女が不気味なので

 さっさと厄介ごとを済ませてしまいたいのだろう


勇者「こら。無理に頬張ろうとしないの」


 勇者さんは、クッキーを半分に割っていた

 となりに座っている狐娘が、破片をぽろぽろと零すので

 見るに見かねてのことだ

 身内の恥を晒したくないのだろう


 勇者さんが興味を示しているわけでもないのに

 バウマフ家について話しはじめるのは不自然だ


 ……どういうことだ?

 幽霊船では、あれほどまでに執着していたのに……

 おれたちを試しているのか?



二三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 いや、順番を守ってるだけだよ


 緑のんとは、まず最初に巫女さんが話す

 そういう手筈になってる

 約束したからな



二四、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 え!? なにそれ、初耳なんですけど!


 どうして教えてくれないの!?



二五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 もしも、そのことを知ってたら

 お前は覗き魔ということになる


 おれに、入浴中の出来事を話せというのか?



二六、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 ありがとうございました!


 あ、あぶなかった……

 これが噂の子狸トラップか……!


 しかし、どうしたらいいんだ

 巫女さんとお話するのは、ちょっときついんだよ……

 なかなか鋭いところを突いてくる



二七、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん


 それなら、標的を変えろ

 巫女さんが興味を示すよう仕向ければいい


お前「お前は、この小僧と親しかったな……」


 これでも無理なら諦めろ


 あと、巫女さんから目を離すな

 子狸が同席しているというのは

 彼女にとってとくべつなことなんだ


 子狸の異常性に気付いてるのは

 なにも勇者さんだけじゃない……


 確実に仕掛けてくるぞ

 


二八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 わかった


 言ったぞ


 巫女さんは……興味を示してくれたようだ


巫女「うん、そうだよ。同志だからね。……見てたの?」


 笑顔が怖いです……



二九、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん


 がんばれ! ひるむな



三0、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 が、がんばる……



三一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 がんばる緑のひと

 火口アナザーのエールに後押しされて、不敵に言い放つ


緑「ああ、見ていた。バウマフ家の人間は……とくべつだからな」


巫女「ふうん。どういうふうに?」


 緑のひと、わかってるよな?


 子狸は、勇者を探して旅をしていたという設定になってる

 魔軍☆元帥は、バウマフ家の人間を宝剣の運び手だと言った

 それは何故だ?


 バウマフ家の人間が、勇者の末裔だからだ

 聖☆剣は、最後の最後にはアリア家に辿りつくよう仕組まれていた

 彼女たちが持つ退魔性だけが、魔王を完全に滅ぼしうるとわかっていたからだ


 光の精霊には、もうあとがないんだ

 魔王を滅ぼすのは、自分の半身を失うようなものだからな

 それほどまでに追いつめられている



三二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 巫女のことは気にするな

 度が過ぎるようなら、おれが出る


 気楽にな



三三、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 おう!



三四、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 緑のひとは百獣の王とも称される存在だ

 見下ろす人間の、なんとちっぽけなことか


 視線を合わせるために

 巫女さんは、ほとんど仰け反る必要があった


 健気なことだ

 緑のひとは目を細めた 


緑「お前たちが知る討伐戦争は、歴史の一面に過ぎない。バウマフ家は、歴史の裏で魔物たちと戦ってきた一族だ」


 嘘ではない。おれたちを悩ませてきたのは、いつだってバウマフ家の人間だった


緑「なぜバウマフ家なのか? それはわからない。運命だろうな……そうとしか言えん」


 ん? おい、どうした? 偶然で片付けるつもりなのか?



三五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんだ? 予定と違うぞ? 緑のひと?



三六、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 すまん。予定を変更する


 じっさいに会ってみて、わかった


 勇者さんは、おれを観察してる

 おれの動機を探ってる

 

 光の精霊について言及するのはまずい

 つじつまを合わせようとしてるのがバレる



三七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 うん、いいんじゃないか?


 緑のひとは、そういう方面に鋭いからな


 いいぞ。いよいよ本調子になってきたな


 

三八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 でも子狸さんが黙ってなかった


子狸「ちがう」


 いつになく厳しい表情だ

 頭上を見上げる視線が、緑のひとを非難していた


子狸「どうして嘘をつくんだ? 人間たちは、なにもわかってないじゃないか。魔王の魂は――」

 

緑「!? お前は、なにを……。知っていたのか!? よせ!」


 緑のひとの巨腕がうなった

 太い前足で鷲掴みにされても、子狸は止まらなかった



子狸「……魔王の魂は、おれの中にも残ってるんじゃないか?」



 九代目勇者、つまり勇者さんの前任者は、魔王が転生した人間だった

 それが第九次討伐戦争の真実だ――



 注釈


・射程超過


 人間たちは「極化魔法」と呼ぶ。

 並行呪縛と同様、王種しか扱えないとされる魔法である。開放レベルは「5」。スペルは「エルラルド」。

 深化魔法エラルドの上位版にあたり、認識の外に働きかけることができる。

 この魔法の術者は、「どこまでも飛んでいく投射魔法」などの概念的なイメージを実現できる。

 裏を返せば、この魔法が存在するために人間たちの魔法は認識している範囲でしか機能しない。

 座標起点(魔法の起点を移動する)、並行呪縛(魔法の条件付けをする)に関しても同様である。


 なお、発光魔法と射程超過を連結すれば、千里眼と呼ばれる透視が可能になる。

 魔物たちは千里眼が標準装備であるため、ふだんは「視力」に制限を課して過ごしているようだ。

 拡大ラルド系の魔法は詠唱破棄との相性が良すぎる(レベルが上がりやすい)ので、人前での使用は注意を要する。

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