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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
死霊魔哭斬だと……? byアリアパパ
100/240

「王種降臨」part10

二四一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 紅蓮さんの道案内で結界の内部を進む一行


紅蓮「よいしょ、よいしょ……」


 姑息にも牛歩戦術を用いる老将軍に

 出発して間もなく、馬上の勇者さんが物申した


勇者「……あなたは飛ばないの?」


 触手の伸縮を利用してさっさと歩けということだ

 対する紅蓮さんの態度は挑発的だった


紅蓮「お前さんたちが付いてこれるなら、そうしてもいいがのぅ」


 まず無理だろう

 レクイエム毒針・紅蓮は人間が視認できる速度を軽々と超えていた

 

子狸「紅蓮さん、まじぱねえす……」


 敬老精神を如何なく発揮する子狸


巫女「むぅ……」


 巫女さんは微妙な面持ちだ

 彼女にとって紅蓮さんは、宿敵の肉親にあたる

 複雑な心境なのだろう


 巫女さんの側近たちは

 リラックスした様子で紅蓮さんのすぐ後ろを歩いている

 隊列もばらばらだ


 先ほど披露した紅蓮さんの実力は、あきらかに従来のザ・ブルーとは一線を画していた

 口ぶりからも、原種を軽んじていることがわかる 


 原種を寄せ付けないほどの実力者が先頭に立って歩いているのだから

 彼女たちの身の安全は保障されたようなものである


 その点に関しては勇者さんも同意せざるを得なかった

 罠の存在を疑うには、紅蓮さんが強大すぎる


 あるいは当初の予定通り、羽のひとの結界で上書きしたほうが近道かもしれないが

 部隊を二つに分けるリスクを考えれば、ここは紅蓮さんに頼るのが得策だ

 合流の手間が省けるというのも大きい


 紅蓮さんの歩調に合わせて、ゆっくりとした時間が過ぎる

 その間、勇者さんはちょっとしたアイドルだった


生贄「あの~……勇者さま?」


勇者「なに?」


 敏感な反応である

 子狸で果たせなかった夢を、いま彼女は叶えたのだ


妖精「あ、サインはだめですよ~」

 

 さりげなく勇者さんの肩に移った羽のひとが

 マネージャーへと華麗なる転身を遂げた


 勇者のバリューネームは大きい

 側近たちが黄色い悲鳴を上げた


 女の子の勇者というのは史上類を見ないから

 同姓として誇らしくもあるのだろう


子狸「ああ、だめだめ。プライベートですから」


 子狸も羽のひとに続いた

 

 すっかりご満悦の勇者さんを

 ステルス中の黒いのが、ぴたりと背後をついて回っている

 

 片手でマントの端を掴み、バッとひるがえした

 とくに意味のない行動である


 転校生さながら質問攻めに遭う勇者さんであったが……


勇者「ごめんなさい。言えないの。わたし個人の問題ではないから」


 クールな答えに、巫女一味の熱狂は増すばかりだ


 長年仕えてきた狐娘も、さぞや鼻が高いことだろう……

 と思ったら、にわかとは違うのだと言わんばかりの態度である


狐娘「これだから素人は……」


子狸「隊長、どうします?」


狐娘「いい。放っておけ」


 いつの間にか子狸が狐娘の軍門に下っていた

 勇者さん親衛隊の特典に与ろうというのか

 じつに浅ましいポンポコである


 おい。古今東西、親衛隊には鉄のおきてがあるんだぞ



二四二、管理人だよ


 彼女のためなら、この命……惜しくない



二四三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 その台詞、もっとべつの場面で聞きたかったよ……



二四四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 勇者さんに付きまとう黒いのんの目尻に、きらりと光るものが浮かんだ……


 出発した当初は順調に進んでいた一行だが

 時刻が十時を回り、気温が上がって来た頃から

 だんだん遅れはじめた


 奥へ奥へと進むごとに、森は険しさを増す

 道が平坦であるとも限らない

 

 少しでも隙間があれば、そこに身体をねじ込んで先に進める紅蓮さんとは違い

 人間たちは――とくにお馬さんたちを連れている勇者さんは、迂回しなければならない場面が出てくる


 本能的に最適なルートを嗅ぎ当てる子狸が暫定二位をキープするも

 後続が立ち往生するたびにずるずると順位を下げてサポートに回る


 そうして、お馬さんたちが通れるだけのスペースを確保すること数回――

 無駄を省いていった結果、気付けば勇者さんは子狸におんぶされていた

 何度か黒雲号を登り降りしているうちに、体力が尽きたのである


勇者「…………」


 後ろ足が発達している子狸にとって、勇者さんの体重はあまり苦にならない



二四五、管理人だよ


 血がたぎってきたぜ



二四六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸さんの野生が目覚めつつある

 ようやく身体があたたまってきたようだ


 勇者さんを背負ったまま巫女一味を追い越し、振り返る

 巫女さんに寄り添っている生贄さんを見て、不敵に言い放った


子狸「遅いな。どうした? その程度か。おれは、まだぜんぜん本気を出しちゃいないぜ……?」


巫女「すぐ調子に乗る……」


 森に拠点を作って生活してただけあって、巫女さんにはまだ余裕がある

 とうとつに煽りはじめた子狸を呆れた目で見ていた


 生贄さんは子狸を同志とは認めていない


生贄「……わたしは、この中だとあまり強いほうじゃないですから」


 巫女さんの護衛に徹するということだろう


 火口のんの襲撃を受けたときに、巫女さんが頼ったのはその場にいない子狸だった

 それが生贄さんにとってはショックだったのかもしれない


 自らの実力不足を嘆く生贄さんを、巫女さんが気遣っている


巫女「気にしなくていいよ。あのひと、むかしから体力だけは異常にあるんだ」


 その体力も、身体の使い方ひとつで変わる

 子狸が誰よりも遠くまで走れるのは、誰よりもたくさんの時間を費やしてきたからだ


子狸「自然界はきびしい。走れなくなったら死ぬしかない」


妖精「今日は大活躍ですねっ」


 羽のひとは、空元気を装うという新たな試みに挑戦していた

 子狸の肩の上で明るく振る舞う健気な妖精さんを

 勇者さんの感情を映さない瞳が見つめている

 

 妖精という種族の在り方そのものを問われる問題に

 勇者さんがしてやれることはあまりにも少ない


 じっさいは規定の路線なので、まったく問題ないのだが


狐娘「アレイシアンさま……」


 狐娘は勘働きが鋭い少女だ

 しかし、これは精神作用の異能全般に言えることで

 雑多な情報を最終的に処理するのは自分自身だ


 頭の中に存在しない概念を知覚することはできない

 つまり、共通した認識が不可欠なのである


 だから、まだ幼く人生経験が不足している狐娘では

 タマさんほどには異能を使いこなせない


紅蓮「人間は不便な生き物じゃのぅ……」


 一行が追いついてくるのを、紅蓮さんはのんびりと待っている


側近A「蛇だぞ~。しゃーっ」


側近B「や~め~ろ~よ~」


側近D「あんた、よく平気で触れるね……」


側近C「なんだこの蜘蛛、でっかい」


 側近たちは元気である

 森での暮らしに慣れているようで、都会の娘さんたちにはないバイタリティがある


 勇者一行は骨のひとたちと共同生活を営んだこともあったが

 あれは幽霊船という閉鎖された空間での出来事だ


 茂みからころんとまろび出た小さいのが、紅蓮さんにまとわりつく

 心なし透明度が高く、水色に近い色彩をしていた


水色A「紅蓮さま~。紅蓮さま~」


水色B「ひとりになっちゃだめなんだよ。知らないんだ~?」


 こそっと木陰に隠れている水色は、二人よりもさらに一回りほど小さい


水色C「人間? 人間?」


 好奇心を抑えられない様子で尋ねた相手は、子狸だ

 小指の先ほどしか退魔性を保持していないポンポコだから

 必然的に魔物たちの相談窓口になる

 

 子狸は言った


子狸「おれが人間かどうかは、お前が決めるといい」


 憂いを帯びた眼差しをしているところ申し訳ないが

 現時点でTANUKI以外の選択肢があるとは思えない


 小さな水色たちは、おれたちの幼生という設定である

 無邪気な笑顔の裏に、どす黒い何かが見え隠れしていた


紅蓮「……え?」


 想定外の事態に唖然とした紅蓮さんが

 年端の行かない子供たちに向けた視線は

 混乱と恐怖にまみれたものだ


 勇者さんが羽のひとに気を取られていたから良かったものの

 目撃されていたら確実にアウト判定のリアクションである


 ……べつの河から放たれた刺客か



二四六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 だれの差し金だ!? 事と次第によっては――



二四七、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 六魔天の本気が見られると聞いて



二四八、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 うむ、ご苦労


 こほん。事と次第によっては、ただでは済まさんぞ……!



二四九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 かまくらの……

 やはり貴様とは、いずれ決着をつけねばならないようだな……



二五0、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん


 さしもの冷静沈着なおれも

 いささか焦ったぜ……



二五一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 冷静沈着な紅蓮さんは、ひとしきり硬直してから子供たちをあやしはじめた


紅蓮「お前たちは、まだ幼い。人前に現れてはいかんと習ったじゃろう」


水色B「紅蓮さまはいいの~?」


紅蓮「わしはええんじゃ。年季が違うわい」


 青いのが子連れで人前に姿を現すのは、子供たちの前でだけと決まっている

 忘れかけていた記憶を掘り起こされて、側近たちが目を輝かせた


側近A「うわっ、小さい! こんなに小さかったんだ……」


側近B「触ってもいいかな……?」


 水色を抱き上げようとする側近Bを、巫女さんが制した


巫女「あ、だめだよ。わたしたちと触れ合うのは、魔物にとって毒なんだ」


 成体の魔物なら気にならないほどの退魔性でも

 幼体への影響力に関しては未知数だ


 側近たちは巫女さんから退魔性のことを聞き知ってるのだろう

 しぶしぶと水色たちから距離をとる


 三人の水色が同行することになり、ますます大所帯になる一行


 触れ合うことは出来なくとも、言葉を交わすことは出来る

 幼い魔物たちは、側近たちの話に興味しんしんだ

 人里のこと……

 大陸のこと……


子狸「…………」


 急に大人しくなった子狸は、彼女たちを羨望の眼差しで見ている

 魔物と人間……

 バウマフ家の人間は、両者が手を取り合える世界を目指している

 千年越しの悲願だ


 ――だが、わかっているのか?

 傍目から見ると未来への展望を思わせる光景も

 少し深入りしただけで、どうすることも出来ない種族間の差を孕んでいる


 いまはまだ無邪気な水色たちも、いずれは成長して人間たちに牙を剥くことになる

 魔王軍の幹部がどれだけ息巻こうとも、末端の魔物たちが戦う理由はべつにある

 そして、それこそがもっとも雪ぎがたい、あらゆる対立の根本にあるものだ


 ……子狸、お前の親父は

 お屋形さまは……



二五二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そうだな。お屋形さまが管理人の座を子狸に譲ったのは

 自分には無理だと悟ったからだろう

 あのひとは、きちんと物事の筋道を考えることができる


紅蓮「ここじゃな」


 大きな倒木を乗り越えたところで、紅蓮さんが立ち止まった

 森の風景はまだ続いている。一見、何の変哲もない場所だが……

 ここが結界の終焉だ


 追いついてきた巫女さんが、じっと虚空を眺めている紅蓮さんの背に問いかける


巫女「? 結界の端ってこと? どうしてわかるの?」


紅蓮「わしは、お前さんの数十倍は長く生きとる。この森のことで、わしが知らんことはない」


 正確な地形を記憶しているのだから、紅蓮さんにとっては簡単な間違い探しのようなものだ


勇者「どうするの?」


 子狸の背中から降りた勇者さんが重ねて尋ねた。少しふらついている


 結界の境界を触手で探りながら紅蓮さんが答えた


紅蓮「そうじゃのぅ……幾つか方策はあるが……ここはお前さんの力を借りるとしようか」


 そう言って子狸を手招きする


子狸「とうとうおれの最終奥義が炸裂するのか……」


妖精「え? しぬの?」


子狸「え? なにそれ怖い」


 羽のひとを勇者さんに預けて、子狸が紅蓮さんの横に並ぶ

 となりで光沢を放つ青いボディに、決意の眼差しを向ける


子狸「おれの命で良かったら、好きに使ってくれ」


紅蓮「なんの儀式じゃ。お前さんは、わしに合わせるだけで構わんよ」


 それだけで子狸は理解したようだ


子狸「ん? もしかして結界を破ろうとしてるのか?」


 ようやく追いついてきてくれたようだ


 高位の魔物は、人間など及びもつかないほどの大魔法を扱える

 紅蓮将軍は魔王軍の元幹部だ

 結界の対処法を知っていたとしても不思議ではない


 ポンポコだけが納得しても仕方ないので、簡単に説明する

 

紅蓮「これから、魔法を基点に干渉する。わし一人では観測がぶれる。結界は目に見えるものではないが……この小僧なら干渉できるじゃろう。バウマフ家じゃからのぅ……」


勇者「あなた、魔法が使えるの?」


 勇者さんのツッコミがあることは想定内だ


紅蓮「原種は使えるじゃろ。それは何故かと、考えたことはあるかね?」


勇者「元々は使えるから? でも、ここは地上だわ」


紅蓮「お嬢ちゃんは賢いのぅ。正解じゃ。わしらは地上では著しく力を制限される。だから、力を内部に蓄えて活用せねばならぬ。魔☆力と呼ばれる力じゃ……」


 くっと触手を引きしぼる紅蓮さんに、となりで子狸も身構える


紅蓮「魔☆力は契約により成り立つ。たとえ物質に干渉しているように見えても、それは本来の作用ではない」


 契約とは約束のこと

 かつて魔王が勇者と約定を交わしたように、約束には相手が必要だ


 紅蓮さんは意外に思ったようである


紅蓮「人間たちは、まだそこまで辿りついておらんのか? 都市級の連中は口が軽い。うっかり漏らしているとばかり思っとったが……」


 いや、けっこう漏らしている。気付く人間は気付いているだろう

 ただ、三大国家の上層部が秘匿している事柄だから、一般には知れ渡っていないだけだ


紅蓮「魔☆力は契約でのみ得られる。お前さんたちが退魔性と呼んでいるのが、それじゃ。人間たちが魔法を使う代償に、わしらは地上で活動する力を得ておる……」


 触手を放つ前に、紅蓮さんは振り返って勇者さんを見た


紅蓮「言ったじゃろう? お前さんは賢いよ。アリア家のお嬢ちゃん」


 魔法の代償は、人間たちが信じているよりもずっと重い

 失った退魔性は、生涯を通して戻ることはない


 つまり、おれたちのレクイエム毒針は、一種の魔☆力なのだ

 いや、魔物の生命活動そのものが魔☆力に依っている

 都市級の魔物は、強大な魔☆力を内包しているから外部へと干渉できる


 魔法は……魔界の自然法則だ。もともと地上に存在したものではない


 かたわらの子狸へと紅蓮さんが吠えた


紅蓮「小僧! 行くぞい!」


子狸「おう! ポーラレイ!」


 応じた子狸が前足を突き上げると、大気中の水分が凝縮されて鞭状になった

 

 視線を交わした二人が同時に頷く


紅蓮&子狸「しゅぅぅぅぅと!」


 子狸が前足を振ると共に、水の鞭がしなって紅蓮さんの触手に絡みつく

 二人の魔☆力が螺旋と化して結界を貫いた


 何もなかった空間に亀裂が走る


 紅蓮さんが叫んだ


紅蓮「崩れるぞ! 用心せい!」


 そう言われて、はじめて側近たちが巫女さんの周囲を固めた

 結界が崩壊すれば、風景が一斉に入れ替わる

 迷路の中を歩き回ったとしても、移動したという事実がなかったことになるわけではない


 狙い撃ちされるとすれば、ここだ

 ――が、狙撃はなかった


 一行は、なだらかな斜面に立っていた

 テントを発ったときは晴れ渡っていた空に、疎らな雲が浮かんでいる

 足元は踏み固められた土が草に覆われることなく露出していた

 

 動物たちの参拝コースである


 この坂を登りきった先には、大きな洞窟がある筈だ

 内部は複雑な造りになっていて、幾つも曲がりくねった道がある

 天然の要塞を踏破すると、今度は山の中腹に出る

 島を一望できる絶好のロケーション――そこが緑のひとの特等席だ


 ただし、今回は多少ひねったルートになっている


 退魔性が低い人間は、都市級の魔物と遭遇すると

 そうと知らずとも嫌な予感がするのだと言う


 これが王種ともなると、距離を隔てていても

 なんとなく存在を肌で感じ取れるらしい


 側近たちが顔を見合わせた


側近D「近い……?」


側近C「うん。近いよ、これ」


 巫女さんが子狸を見る

 子狸の退魔性は、ほとんど人類の最底辺だ


子狸「この感じ……まさか緑のひとなのか?」


 そもそも自分がどこにいるのかを知らなかったようである

 ……そういえば教えていなかった気がする


 誰ともなく歩き出した一行

 あともう少しだ……


 ここで一句


 朝、フクロウが鳴いていたよ


 ミミズクかな


 夜行性だね



二五三、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん


 突然どうした



二五四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 その淡々と事実を並べただけのポエムに、おれたちは何を感じ取ればいいんだ?



二五五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 あんなの卑怯だろ……


 おれだってボケたいよ



二五六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや、王都の

 お前は最後の砦みたいなところあるしさ……な?


 ほら、かき氷でも食えよ。天然モノだぜ



二五七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おふっ、頭がきーんとする



二五八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 青いのが親睦を深めている一方その頃……


 目の前にひろがった光景に、一行は圧倒されていた

 とつぜん岩山が出現したようなものだ


 遅れて斜面を登りきった紅蓮さんが、触手を振って自己の存在をアピールした


紅蓮「おお、アイオ」


 アイオとは緑色のことである

 

 古い名で呼ばれて、洞窟の手前を陣取った岩山が身じろぎをした

 これが生物と言われてもぴんと来ない気持ちはわかる


緑「紅蓮か……?」


 頑健な鱗は、苔生した岩石の質感と似通っていた

 こちらに背中を向けて、猫みたいに後ろ足を畳んで座っている

 少し尾を引きずっただけで足元が揺れた


 太く強靭な前足は、驚くほどしなやかに動く

 鋭い爪の先端に引っかかっているのは、人間たちが使う水差しだ

 その縮尺の違いに、軽く引くほどである


 頭上から降ってきた声の発生源を辿ると、頬まで裂けた大きな口が閉められるところだった

 ちらりと覗いた牙は、何かを噛み砕くというより殺傷を目的としたものだと言われたほうがしっくり来る

 頭の横に生えてるつのとか、あれ何か意味あんのか? 用途が不明すぎる


 はるか高みから縦に裂けた瞳孔に順に見下されて、ふるふると水色たちが震えた


水色A「アイオさま! ぼくたちもいるよ!」


水色B「いるの~」


 緑のがにやりと口角を吊り上げると、びっくりするくらい邪悪な存在に見える


緑「そうか。そうだな……」


 スケールの違いで気付くのが遅れたけど

 緑のんの足元にはテーブルが置いてある

 人間用のサイズだ


 テーブルの上に、ティーカップが幾つか

 いそいそと作業に戻った緑のんが、器用に前足を動かして紅茶を注いでいく


 ふたたび背を向けた緑のひとが言った


緑「どうした? 座れ。客人はもてなすものだろう……」


 小刻みに震える水差しが不安だ……



二五九、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 はわわっ

 また零れちゃったよぅ……



 登場人物紹介


・火トカゲさん


 わざわざ山のふもとで一行を出迎えてくれた陸上最強の生物。

 大きいひとに続いて登場したレベル5の一人である。海に浮かぶ孤島の火山在住。

 巨大な魔獣種を優に上回る体格の持ち主で、その巨体から繰り出される前足は、一撃で巨木をなぎ倒すほどの剛腕ぶり。

 その名の通り、全体的にトカゲと酷似している。

 全身が頑健な鱗で覆われている一方、ネコ科の猛獣を彷彿とさせるしなやかな身体つきをしている。

 巨体に見合うだけの太い牙と爪を具える。側頭部から生えているつのは、あまり活用されていないようだ。

 翼はない。なくても飛べるからである。ただし飛行速度はそれほどでもなく、走ったほうが速い。


 他の魔物たちからは「緑のひと」と呼ばれるが、「ディーン(悪魔)」「ディンゴ(竜)」などさまざまな呼称がある。

 一部の魔物からは「アイオ(古代言語で緑色の意)」と呼ばれているようだ。

 無制限の変化魔法を使えることは有名で、仮にダメージを受けても瞬時に再生する。

 また自在に質量を変化させることができるため、地上のありとあらゆる動物に化けることが可能。おもに回避に用いる。

 ふだんの姿は、単に「ぼくの最強の魔物」を目指した結果であるらしい。

 ごく短い期間に目撃された光の大蛇や海の大蛇は、緑のひとの仮の姿であると思われている。

 

 たびたび魔王討伐の旅シリーズに登場しては、勇者に聖☆剣を与えるなど重要な役どころを担う。

 大きいひとが粗野な言動で株を落とし続ける一方で、対照的に株を上げ続けたひとである。

 じっさい見た目に反して繊細なところがあるようだ。

 よく大きいひとと喧嘩するが、王種は不死性に特化した存在なので勝敗がついた試しはない。

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