親孝行のチケットは君と2人で過ごしたいから
両親を送り出した玄関のドアが閉まる。
カチリ、と。
乾いた金属音が、
この家を巨大な檻に変える合図。
静まり返った廊下。
俺と、立ち尽くす君。
バイト代を全部注ぎ込んだ旅行券。
親孝行の息子の顔をして、
俺が買い取ったのは「自由」じゃない。
君を、この密室に閉じ込めるための
「時間」だ。
「……ねえ、何でそんなに震えてるの?」
一歩、踏み出す。
床が、微かに軋む。
君の背中が壁に当たり、
逃げ場がなくなる。
「好きだって言ったよね。あの日。
なのに、どうしてあんな返事をしたの?
『答えられない』なんて、
そんな選択肢、最初から用意してないんだよ」
君の肩を掴む。
指先から伝わる、
小刻みな拒絶の振動。
それが、たまらなく俺を昂ぶらせる。
「兄貴だから?
再婚同士だから?
そんなの、俺たちの血が
繋がってない証明でしかないだろ。
むしろ好都合だよ。
他人だから、
いくらでも愛し合える。……ね?」
君の頬を撫でる。
冷たくなった指先が、
君の吐息でわずかに熱を帯びる。
「今日から三日間。
誰にも邪魔されない、
俺たちだけの時間。
君の口から『はい』が出るまで、
俺、何度でも教え込んであげるよ」
首筋に顔を寄せる。
石鹸の香りと、
混ざり合う恐怖の匂い。
「……わかってるよね?」
低く囁く。
「逃げようとしても、
無駄だよ。
この家の鍵は、
全部――
俺が持ってるんだから」
リビングの隅。
大型テレビの黒い画面に、
追い詰められた君と、
それを見下ろす俺の影が映り込んでいる。
「……逃げないでよ。ねえ」
一歩、踏み出す。
君は座椅子を蹴るようにして、
背後にある窓際へ後ずさる。
カーテンが不規則に揺れ、
君の細い肩が震える。
「好きなんだ……。
狂うほど、
大好きなんだよ。
諦めろなんて、
簡単に言うなよ。
無理に決まってるだろ」
俺の声は、
自分でも驚くほど低く、
湿り気を帯びて響く。
床を這うような執着。
「愛してるんだ……っ!」
喉の奥から絞り出す。
逃げ場を塞ぐように、
君の左右の壁に両手をつく。
閉じ込めた。
この狭い空間。
君の吐息が、
俺の胸元に熱くかかる。
「本当は……わかってただろ?
俺が、
どんな目で君を見てたか。
食事の時も、
お風呂上がりの廊下でも……。
俺の視線が、
君のどこを舐めるように動いていたか」
顔を近づける。
恐怖に染まった、君の瞳。
そこに映る俺は、
もう「優しい兄貴」の顔なんてしていない。
「なぜ拒むんだ?
なぜ……っ!
血なんて一滴も繋がってない。
他人だ。
ただ親が籍を入れただけの、
赤の他人じゃないか!」
君の顎を、
強引に指先で掬い上げる。
逸らそうとする視線を、
無理やり俺の独占欲に繋ぎ止める。
「『はい』。
それか、『Yes』。
それ以外の言葉は、
全部ゴミなんだよ。
……聞かせてよ。
俺を、絶望させないでくれ。
ねえ……っ」
首筋に鼻先を押し付け、
深く、深く吸い込む。
君の香りが、
脳を焼く。
「……ねえ、もう一度、聞くよ。
俺の……ものに、なるよね?」




