毎日の、通勤電車。
同じドア。
同じ位置に立つ君。
俺は今日も、ただの乗客のフリをして、
同じように君のそばに立つ。
少しだけ漂ってくる、
君のシャンプーの匂い。
一緒に通う、この時間が好きだ。
……あれ?
今日は、君がいない。
ドアが開いても、
君の姿はない。
どうしたんだろう?
寝坊かな?
次の日も、君はいない。
どうして?
違う車両に乗ってしまったのかと思って、
早めに来て待っていても……
君は、来ない。
ギリッ、と。
吊り革を握る手に、
力が入る。
しまった。
俺は、君の家を知らない。
どんなに心配しても、
お見舞いに行くことすら、できないじゃないか。
(……こんなの、ダメだ)
次の日。
君は、マスクをして、
同じドアの同じ場所に立っていた。
ああ、やっぱり。
体調不良だったんだね。
少し痩せた?
目が潤んでる。
可哀想に。
もしもの時のために。
君について、
もっと深く、隅々まで知っておく必要があると思うんだ。
その日
駅を降りた君の、
少し後ろを歩く。
足音を殺して。
視線を、君の背中に固定して。
ここが毎日、
君が通っていた先か。
ランチはあの店。
うん。
美味しいね、そこ。
君の好きな味が、
またひとつ分かった。
今日もお疲れ様。
夕暮れ時、
君と一緒に駅まで歩く。
電車に揺られて、
俺たちの駅で降りる。
コンビニへ寄り道する君を、
外からじっと見つめる。
そして――
再び歩き出した君のあとをついていき……
ついに、君の家へ。
大きなマンション。
帰宅時間の人たちに合わせて、
俺は君の後ろから、音もなくセキュリティゲートを通り抜ける。
リフトで、
君が押す階層。
俺は少し離れた位置で、
ただ黙って君を見つめている。
スマホを見ながら歩いてる君は、
俺に気が付かないの?
……無防備すぎる。
歩きスマホは危ないよ?
後ろに、
どんな男がついてきているか、
分からないのに。
君の部屋の前に着く。
ガチャ、と。
君が、
無意識に鍵を開ける。
その背中に――
俺は、ゆっくりと手を伸ばした……。




