同級生の君と。
俺はクズ男だ。
それは自覚しているし、隠すつもりもない。
抱かせてくれない女に、割く時間はない。
顔はそれなりに整っている自負があるし、身体も鍛えている。
少し甘い顔をして隙を見せれば、女なんてジャンル問わずに向こうから寄ってくる。
適当に遊んで、味がしなくなったら、わざとわかりやすい場所に女の影を残す。
香水、長い髪の毛、スマホの通知。
クズ男のムーブをかませば、女たちは勝手に絶望して、俺を振ってくれる。
泣かれたり、縋られたりする後腐れがないから、これが一番楽なんだよ。
だから、次に目星をつけた女への常套句は決まっている。
「……また俺、振られちゃった。ねぇ、慰めてくれる?」
少し伏し目がちに、自嘲するように笑う。
これだけで、女の母性本能は簡単にバグる。
今夜も、そうするつもりだった。
ツレに誘われた、ただの数合わせの合コン。
アルコールの匂いと、安っぽい香水。
調子に乗って騒ぐツレと、それに愛想笑いを浮かべる女の子たち。
……おっ。
一人、妙に目を引く可愛い子がいる。
いつも通り。
計算し尽くした角度で隣に座り、可哀想な俺を演じて警戒心を解く。
グラスを合わせ、視線を絡め――
……あれ?
この子、どこかで。
名前も、声のトーンも、どこか記憶の底を掠める。
不思議そうに俺を見つめ返した君の、その綺麗な唇が動いた。
「……もしかして、〇〇くんだよね?」
あー!!
「同級生じゃん!! え、嘘、地味子!?」
思わず、素の声が出た。
分厚い眼鏡をかけて、いつも教室の隅で本を読んでいた、あの地味な同級生。
「ふふっ、ひどいな。……でも、あかぬけてたから、わからなかったでしょ?」
悪戯っぽく、けれど柔らかく笑う君。
その瞬間だった。
――ドクンッ。
胸の奥に、グッと。
今まで感じたことのない、鋭くて熱い杭のようなものが、深く刺さった。
それから、俺たちはごく自然に連絡先を交換した。
昔話に花を咲かせ、毎日のようにやり取りが続く。
計算通りのペースだ。
そろそろ、二人きりで会って、ヤリたい。
俺のベッドで、あのあかぬけた身体がどう泣くのか、見てみたい。
そう思いながら、俺は暇つぶしで呼んだ『違う女』をベッドに組み敷いていた。
退屈なピロートーク。女の嬌声。
……ブーッ。
サイドテーブルに投げ出していたスマホが、短く震える。
画面に光る、君の名前。
俺は、女の身体から無造作に離れ、スマホを手に取った。
『きいて~! 彼が、プロポーズしてくれたの!』
……は?
画面の文字が、脳で処理できない。
プロポーズ? 彼?
俺という人間が、今、君の一番近くにいるはずなのに?
すぅっ、と。
血の気が引く音がした。
ベッドで俺を呼ぶ女の声が、ひどく耳障りなノイズに変わる。
「……帰れ」
「え……?」
「今すぐ服着て、帰れって言ってんだよ!!」
震え上がる女を追い出し、一人になった部屋で、俺はスマホを握り潰さんばかりに見つめた。
……ダメだろ。
そんなの、絶対にダメだ。
俺の獲物を、横から掠め取られたような、腹の底から湧き上がる黒い殺意。
誰かのものになる? この俺を差し置いて?
なら、その前に、俺がぐちゃぐちゃに汚してやらなきゃいけない。
それから、俺は必死にアピールした。
今まで培ってきた「女を落とす技術」のすべてを懸けて、君を誘い、甘い言葉を囁き、俺の価値を叩き込もうとした。
でも、なぜか今回は、何一つ上手くいかない。
俺がどれだけ熱を込めても、君は「昔なじみの気の置けない友人」という壁を絶対に崩さない。
困ったように笑って、ひらりとすり抜けていく。
そして、とどめの一撃。
『彼に着いていくから、来月、引っ越すの』
――ブチッ。
俺の中で、最後に残っていた「理性」という細い糸が、あっけなく千切れた。
引っ越す?
俺の手が届かない場所へ行く?
……ふざけるな。
そんなこと、俺が許すわけないだろう。
「最後に、サシ飲みしようよ。お祝い、させて」
俺の誘いに、君は少しだけ躊躇って、それでも「友人として」疑わずにやってきた。
薄暗い、隠れ家のようなバー。
「さぁ、これ。お店のおすすめだって」
君の前に、琥珀色の液体を差し出す。
果実の香りがする、甘くて、とても呑みやすいカクテル。
そう。
アルコール度数が、君の致死量を超えていることだけは、あえて言わない。
「……んっ、美味しい」
警戒心なくグラスを傾ける君の喉元を、俺は瞬きもせずに見つめていた。
一杯、また一杯。
君の白い頬が、ゆっくりと熱を帯びていく。
「……あー、なんか……」
君の焦点が、とろりと崩れる。
「……わぁ~、世界が、まわる~……」
力が抜け、テーブルに伏せそうになる君の肩を、俺はしっかりと、逃がさないように抱き寄せた。
「大丈夫だよ」
耳元で、甘く、深く囁く。
「君のことは、全部……俺に任せて」
そう。
荷造りも、新しい家も、プロポーズの返事も。
もう全部、君の代わりに俺が「終わらせて」あげるから。
……さぁ、すべて俺に任せて。
目を覚ましたら、君の「彼」が絶対に手の届かない場所で、
俺がたっぷり愛してあげる。




