図書館で本を読む君。
静まり返った図書館。
古い紙の匂いと、
微かな空調の音だけが支配するこの聖域で、
君は世界から切り離されている。
……可愛い。
少しだけ火照った頬。
物語の展開に一喜一憂して、
無防備に緩む口元。
君が見つめているその活字になりたい。
君の視線を、思考を、
一秒残らず俺だけで埋め尽くしたい。
君が昨日まで読んでいたあの冒険譚、
俺も読んだよ。
手に入れたいものを手に入れるためなら、
どんな禁忌も厭わないあの魔術師。
……彼は悪役だったけれど、
俺には誰よりも純粋に見えた。
だって、目の前に「最高の宝物」があるのに、
指をくわえて見ているなんて、
俺には到底できないから。
どうやって君に近づこうか。
ずっと前から、
こうして君の後ろ姿を見てきたけれど。
……そろそろ、
その瞳に俺を映してほしい。
俺は棚から、
君が過去に借りていた本と同じタイトルを数冊抜き取った。
君の歩んできた読書の軌跡。
それを俺がなぞる。
君の座るテーブルの横を通り過ぎる、
その瞬間。
ドサッ……
バサバサッ!
わざとらしく、
足元に本をぶちまけた。
「あ、すみません……」
「大丈夫ですか?」
君が弾かれたように顔を上げ、
椅子を引く。
慌てて床に膝をつき、
俺と一緒に本を拾おうと伸ばされた
その白い手。
……捕まえた。
拾い上げる本に添えられた君の指先に、
俺の指を、逃がさないように重ねる。
熱い。
君の体温が、
俺の皮膚を通じて
脳まで痺れさせる。
「……っ」
顔を上げた君の瞳。
至近距離で、
俺の執着を孕んだ視線が、
君の戸惑いを縫い止める。
驚きに丸くなった瞳孔。
そこにはっきりと、
俺の姿が刻まれる快感。
「あ、その恋愛小説……。次に読みたいと思ってたんだ」
俺は、
君が読んでいた本を覗き込む。
……へぇ。
『背徳の檻:愛されすぎて壊される私』。
随分と、過激なタイトルだね。
「……監禁されたいの?」
俺の囁きに、
君の肩がビクッと跳ねる。
耳元まで赤く染まって、
震える唇。
そんな顔、
俺以外の男に見せたことあるの?
もしあるなら、
そいつの目、潰してやりたい。
「気が合うね。俺も、好きな人は誰にも触れさせたくない……自分だけのものにしておきたいタイプなんだ」
冗談だと思いたいのか、
君は引き攣ったような笑みを浮かべて、
俺から手を離そうとする。
でも、離さない。
掴んだ指先に力を込め、
逃げ場を塞ぐ。
「……ねぇ、俺におすすめの本、教えてくれますか?」
君の過去も、
今読んでいる願望も、
全部俺が叶えてあげる。
小説よりもずっと濃密で、
逃げられない、
俺と君だけの物語。
さて。
どうやってこの「小鳥」を、
俺の世界へ閉じ込めようかな……。




