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アタシたち第四救護団!~頭を使う戦場の天使は回復魔法ゼロで駆け抜ける~  作者: 夕姫


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第34話 予算凍結の危機と、硝煙の聖女

 



【王立第四救護団・詰所リビング

 その日、アタシたちの詰所は、王国の公的機関とは思えないほど空気が死んでいた。


 窓の外は快晴だというのに、この部屋だけ湿度が高い。どんよりとした負のオーラが漂い、壁のシミすら泣いているように見える。


「……おい、ルイン。単刀直入に聞くぞ」


 アタシはテーブルに突っ伏したまま、呻くように問うた。


「今月の『予算』の残高は?」


「聞かないでください、アリス。数字を口にした瞬間、僕の胃壁が溶解します」


「……概算でいい。四捨五入して、夢を見させてくれ」


「……金貨3枚です」


 夢も希望もありゃしない。


 ルインが死んだ魚のような目で答えた。


「……ネネさんが研究費で高価な『竜の肝(鮮度抜群)』を勝手に購入したのが金貨20枚。そして、先日の任務でアリスが勢い余って民家を半壊させた賠償金が引かれ……現在、我々の財政は破綻寸前だ」


「アタシのはイレギュラーとして、あの根暗ブロッコリー勝手なことしやがって」


「いや、イレギュラーなのかあれは」



 我らが『王立第四救護団』。腐っても王国に所属する正規の医療部隊だ。だが、メンバーが個性的すぎる(オブラートに包んだ表現)せいで、上層部からは冷遇され、予算は常にカツカツ。いや、もはやマイナスだ。


 おかげで、アタシの今日の昼飯は「具なしスープ」だった。


 お湯に塩とコンソメを溶かし、**「これは極上のビーフシチューだ」と脳に自己暗示をかけて飲み干したのだ。ふざけんな。アタシの筋肉がタンパク質を求めて悲鳴を上げている。肉を寄越せ、肉を。


 部屋の隅では、白衣を着た小柄な少女――ネネが、怪しげな紫色の液体を王国の備品であるビーカーで混ぜている。


「……ふふ。予算不足なら、この試作薬『ポーション・改(副作用:笑いが止まらなくなる毒)』を軍の食堂に混入して、解毒剤を高値で売りつければ……」


「やめろネネ。それはマッチポンプって言うんだよ。あと実験費を節約しろ、その紫色の液体を見るだけで食欲が減退する」


 アタシが気力のないツッコミを入れた瞬間、奥の部屋からヒルダ団長が気だるげに現れた。


 寝癖がついたままの髪。眠たげな目。だが、その手には王家の紋章が入った重々しい書状が握られている。


「おい、野郎ども。死んだ顔してるんじゃないよ。シケた面だねぇ」


「団長……。今の私たちに笑顔を求めるなら、金貨をください」


「……『特別予算』のチャンスだ」


 カッ。


 その一言で、死体安置所のようなリビングに光が差した。キッチンからボーグさんが、ソファの裏から双子が、ネネがビーカーを置いて、全員が団長を見た。獲物を狙うハイエナの目だ。


「軍の上層部と教会からの『特務指令』だよ。成功すれば、来期の予算は三倍増。ボーナスも弾むってさ」


「予算三倍!?肉が食える!ステーキが食えるぞ!!」


「新しい遠心分離機が買える……」


「今月の赤字が埋まる……!」


 アタシたちが色めき立ち、ルインが電卓を叩く幻影が見える中、団長はニヤリと笑って玄関を指差した。


「ああ。国境付近の孤島へ向かう、あるVIPの護衛兼、現地医療支援だ。今回は教会との合同任務になる。入ってきな、シルヴィア・ホーリー様」


 ガチャリ。


 ドアが開いた瞬間、アタシたちの網膜が焼かれた。


 薄汚れた詰所に、物理的な「後光」が差したのだ。流れるような銀髪。宝石のように透き通る碧眼。純白の法衣に身を包み、その微笑みは春の日差しのように暖かく、慈愛に満ちている。


 背景に薔薇の花が咲き乱れ、天使がラッパを吹く幻覚が見えるほどの、圧倒的な美少女だった。なんだこいつ。画質が違うぞ。ここだけ解像度が4Kになってやがる。


「ごきげんよう、皆様。教会から派遣されました、シルヴィア・ホーリーと申します」


 彼女が優雅にスカートをつまんで挨拶する。そのあまりの神々しさに、団員たちの反応が真っ二つに分かれた。


「お、おおっ……!本物の聖女様だ!なんて清らかな……!」


「あらぁ♡ むさ苦しいウチの部隊には勿体ない美しさねぇ! お肌ツヤツヤ!」


 ルインとボーグさんは感激して直立不動の敬礼をしている。純粋な善人たちめ。一方で、闇属性の住人たちは――。


「……ヒィッ! 眩しい! 直視できない! 権力者のオーラだ!」

「……見ちゃダメ。あれは『王道』の主人公よ。私たちみたいな日陰者は存在ごと浄化されて消されるわ」


 双子はガタガタ震えてソファの裏に隠れた。気持ちは分かる。アタシもちょっと目が痛い。この眩しさは、深夜明けの目に朝日を浴びた時のダメージに近い。


 そして、マッドサイエンティストのネネは――。


「……ほう。左右対称の黄金比。でも……瞳孔の奥に、何か『危険な数値』が見える。……ねえ、解剖許可は?」


「下りるかバカ。外交問題になるわ」


 アタシがネネの頭を小突いて止めつつ、団長の方を向く。


「今回の任務は、彼女を護衛しつつ、軍艦で最前線の孤島へ向かうことだ。現地での負傷兵の治療が、彼女の……そして我々の任務だ」


 団長の説明に、シルヴィアが鈴を転がすような声で補足する。


「ええ。戦場で傷ついた兵士たちに、安らぎと癒やしを届けるのがわたくしの使命ですわ。同じ国に仕える身として、仲良く協力いたしましょう?」


「へぇ、立派な心がけだな」


 アタシは感心しつつ、彼女の足元にある巨大な黒い物体に目を向けた。さっきから気になって仕方がないのだ。聖女の輝きを相殺するほど、禍々しい存在感を放っているアレが。


「……で。その後ろにある、鋼鉄の棺桶みたいなデカいのはなんだ?」


 シルヴィアの足元には、自分の身長ほどもある巨大な金属製のトランクケースが鎮座していた。


 黒光りする鉄の塊。四隅は厳重に補強され、厳重な鎖でぐるぐる巻きにされている。表面には「取扱注意」「猛獣注意」みたいなステッカーまで貼ってある気がする。


 どう見ても「聖女」の持ち物ではない。武器商人の荷物か、あるいは封印された魔王でも入っているのか。


「ああ、これですか?これはわたくしの『救急セット』ですわ」


「救急セット?それが?」


「ええ。包帯とか、お薬とか、聖水とか……。戦場では何があるか分かりませんから、念のために少し多めに持ってきましたの」


 シルヴィアはニコニコしながら、そのトランクの取っ手を掴み、


 ズズズ……ッ。


 少し位置をずらそうとした。


 メキメキメキッ!!! バキィッ!!!


 不吉な音が響き、詰所の床板が悲鳴を上げた。


 トランクのキャスターが床を突き破り、そのままズブズブとめり込んでいく。


「「「…………」」」


 全員の動きが止まった。時が止まった。


 アタシの思考回路が一瞬ショートした。


「……おい」


 アタシは引きつった顔で指差した。


「床、抜けたぞ。ボロいけど、腐っても木の床だぞ?キャスターの接触面積だけで床板をぶち抜く『救急セット』ってなんだ?中身、鉛の延べ棒か? それとも小型のブラックホールか中性子星でも入ってんのか?」


 ネネがスッと近づき、床の惨状を観察する。


「……推定重量、100キロオーバー。この質量密度……おそらく『超高密度のタングステン合金』の塊。もしくは、圧縮された『破壊への執念』が詰まってる」


「嫌ですわ、アリス様、ネネ様。乙女の荷物を詮索するなんて」


 シルヴィアは「あらあら」と口元に手を当て、困ったように微笑んだ。床に大穴を開けた自覚がないらしい。天然か? それとも計算か?


 そして、ふぅ、と額の汗を拭う仕草をした。


「ここ、少し暑いですわね。ハンカチ、ハンカチ……」


 彼女が法衣のポケットに無造作に手を突っ込み、何かを取り出した。


 ポロッ。


 ハンカチと一緒に、「深緑色の鉄の球」がこぼれ落ちた。


 それは床を転がり、ご丁寧に安全ピンがカランと抜けて、アリスの足元で止まった。


 カチン。シューーーーーッ……。


 白煙を上げるその物体。


 アタシは見覚えがありすぎた。どう見ても、軍用破砕手榴弾パイナップルだった。


「あら?」


 シルヴィアが可愛らしく小首をかしげる。


 アタシの脳内コンピュータが、緊急戦闘モードで起動し、0.1秒で状況を解析した。


 物体名称:聖女の手榴弾。

 致死半径:5メートル。

 被害予測:詰所の全壊、及びアタシたちのミンチ化。

 爆発まで、あと2秒。


「バカ野郎ォォォォォッ!!!」


 アタシの右足が閃いた。


 思考より先に、生存本能が身体を動かした。


 ドゴォォォォッ!!


 アタシの渾身のインステップ・キックが、手榴弾を芯で捉える。


 鉄球は弾丸のような速度でかっ飛び、開け放たれた窓の隙間を針の穴を通す精度で通過し、はるか上空の彼方へと消えていった。


 その直後。


 ズドォォォォォォン!!!!


 窓の外、はるか遠くの空中で、盛大な爆発音が響き渡り、衝撃波で窓ガラスがビリビリと震えた。


 近所のカラスが驚いて墜落するレベルの爆音だ。見事なロングシュート。今すぐサッカー代表に呼ばれてもおかしくない。


「……っぶねぇ!殺す気かテメェ!」


 アタシが肩で息をしながら怒鳴ると、シルヴィアは目をキラキラさせてパチパチと拍手していた。


「すごいですわアリス様!ナァイス・シュート!今のはMk-2破砕手榴弾。爆発遅延時間は4秒。それを完璧な放物線でクリアするなんて……わたくし、感動しましたわっ!」


「感動してんじゃねぇ!なんで聖女のポケットに手榴弾が入ってんだよ!」


「あら? ハンカチと間違えてしまいましたの。形が似てますし」


「似てねぇよ!丸と四角だぞ!布と鉄だぞ!重さと手触りで気付け!」


 シルヴィアは「テヘッ♡」と舌を出して誤魔化すと、優雅にウインクを飛ばしてきた。


 特務指令。予算三倍。


 だが、その対価はあまりにも高そうだ。


 こうして、予算不足にあえぐ王立第四救護団に舞い込んだ、起死回生のチャンス。「硝煙の聖女」との出会いは、床板の破壊と爆風と共に幕を開けた。

『面白い!』

『続きが気になるな』


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