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アタシたち第四救護団!~頭を使う戦場の天使は回復魔法ゼロで駆け抜ける~  作者: 夕姫


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第28話 鋼鉄の巨神と、大逆転の『ちゃぶ台返し』

 


 グググググ……!!


 ミシミシッ、パキィッ!


 鋼鉄の巨神ゴーレムの足が、双子のバリアを押し潰そうとしている。絶対防御を誇る光の壁が悲鳴を上げ、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。双子の顔色は真っ白で、限界は近い。いや、もう超えている。


「双子!バリア解除!全員、衝撃に備えろォ!!」


 アタシの号令が戦場に響いた。チコとリコが泣きながら叫ぶ。


「解除って……潰されますよぉ!ペシャンコになっちゃう!」

「嫌ぁぁ!痛いのは嫌ぁぁ!」


「信じろ!アタシが『地面』を変えてやる!」


 アタシは巨人の足元にへばりつき、それを支えている地面の一点――巨人の全体重がかかっている軸足の真下の岩盤を見据えた。


 ネネが言っていた。「中身を揺らせ」と。この巨体、支えている地盤が崩れれば、自重で倒れるしかない。物理法則は嘘をつかない!


「いっくぞオラァァァ!!」


 アタシは全身全霊、これまでの人生で食った全ての肉のカロリーを額に込め、地面に向かって頭を振り下ろした。


「『地盤沈下・強制工事グランド・クラッシュ・ヘッドバット』ォォォ!!」


 ズドォォォォォン!!


 アタシの額が大地を穿つ。


 その衝撃は、ただの穴を掘るだけではない。隕石衝突に匹敵する衝撃波が放射状に広がり、巨人の軸足を支えていた強固な岩盤を一瞬で粉砕・液状化させたのだ。


 ズズズッ……!!


 巨人の右足が、脆くなった地面にズブズブと、まるで沼地のように沈み込んだ。


『なっ!? 足元が……!?』


 肩の上にいた鉄壁伯爵が驚愕の声を上げる。バランスが崩れた。20メートル、数千トンの巨体が、右に大きく傾く。ピサの斜塔も真っ青の傾斜角だ。


「今だ!双子!全力で弾け!」 


「「は、はいぃぃ!『絶対拒絶領域・反発リジェクト』!!」」


 双子が最後の力を振り絞り、縮こまっていたバリアを外側に爆発させた。沈みかけた巨人の足裏に、下からの強烈な突き上げが加わる。


 グラァァァァン!!


 ついに、重心の限界を超えた巨神が空を仰いだ。ゆっくりと、スローモーションのように、しかし止めようのない勢いで、後ろへと倒れていく。


『馬鹿な……!機動要塞が、転倒だと……!?』


 ズシィィィィィィン!!


 大地震のような轟音と共に、巨神が背中から地面に激突した。天まで届くような砂煙が舞い上がり、衝撃波で周囲の木々がマッチ棒のように薙ぎ倒される。


「……チャンス!」


 アタシは砂煙を切り裂いて走った。倒れてもがいている巨人の胸部を駆け上がり、伯爵のいるコクピットへと一直線に向かう。


「ぐぅッ……!」


 衝撃で椅子から投げ出された伯爵と執事ギュンターが、よろよろと立ち上がろうとしていた。髪は乱れ、服は泥だらけだ。その目の前に、砂埃一つついていない純白の白衣を纏ったアタシが、ドスンと着地した。


「よぉ、パパ。高いところから降りてきて、気分はどうだ?地面の味は」


 アタシは仁王立ちで見下ろした。伯爵が鋭い眼光で睨み返す。プライドだけはまだ折れていないようだ。


「小娘……!我が伯爵家の兵器を土に塗れさせるとは……!だが、無駄だ。我々にはまだ私兵団がいる。貴様らごときに勝ち目はない。囲んで棒叩きにしてくれる!」


 伯爵が高らかに指を鳴らそうとした。


 だが――誰も来ない。


 カサリとも音がしない。


「……ギュンター?」


「も、申し訳ございません旦那様……あれを」


 執事が震える指で下を指差した。眼下の地上では、私兵団が全滅していた。ボーグが中華鍋で薙ぎ払い、ネネが毒ガスで眠らせ、ルインが半泣きで必死に拘束魔法をかけて縛り上げていたのだ。


「残念だったな。アンタの自慢の兵隊、アタシの『家族』が片付けちまったよ」


「家族だと……?」


 伯爵が鼻で笑った。


「笑わせるな。貧民街の寄せ集めの野良犬どもが。チコ、リコ!戻ってこい!お前たちは私の最高傑作だ。道具として完璧に育て直してやる!」


 巨人の脇から、双子が恐る恐る顔を出した。怯えている。まだ体は小動物のように震えている。アタシは何も言わず、ただ黙って双子を見た。


(……言えよ。アタシが教えてやっただろ? 嫌なことは嫌ってな)


 チコがギュッと拳を握りしめた。


 リコが乱暴に涙を拭った。


 そして、二人は小さな体で、恐怖の対象だった巨大な父親に向かって叫んだ。


「嫌だぁぁぁ!帰りたくないぃぃ!あそこのご飯は不味いんだぁぁ!」

「道具になんかならない!私たちは人間だ!まだゴリラの方がマシだぁぁ!」

「「私たちは!ここで!美味しいご飯を食べて生きていくんだぁぁ!!」」


 魂の叫びだった。双子は、もう立派な「第四救護団員」だ。


「……なんだと?親に逆らう気か?」


「うるせぇ!」


 アタシは一歩踏み出し、伯爵の襟首をガシッと掴んで顔を近づけた。


「聞いたろ?『嫌だ』ってよ。こいつらはな、アタシの大事な盾であり、仲間であり、飯友なんだよ」


 アタシは拳を握った。殴るか? いや、このオッサンを殴っても解決しない。法的に面倒なことになるだけだ。そのまま伯爵の手を強引に掴み、無理やり「握手」をした。


「交渉成立だ、パパ」


 アタシはニカっと、極上の営業スマイルで笑った。


「これは『示談』でいいんだろ?な?」


「なっ……!?」


「この巨人、修理するのにいくらかかると思う?億単位か?これ以上アタシらに関わると、修理費に慰謝料に治療費……もっとかさむぞ?……アタシらみたいに『貧乏』になりたくなきゃ、ここで手を引くんだな」


 ミシッ……。


 アタシの握力が、伯爵の高級な手袋越しに、手の骨を軋ませる。これは握手じゃない。脅しだ。「次はお前自身の骨を砕く」という、物理的なメッセージ。


 伯爵は脂汗を流し、しばらくアタシを睨んでいたが、やがてフッと力を抜いた。


「……損益分岐点を越えたか」


 冷徹な計算。


 だが、その目はアタシではなく、アタシの腰にしがみついて震えている小さな双子に向けられていた。恐怖に歪んだ顔。ボロボロの服。そして、初めて父親に対して示した「拒絶」という意思。


 伯爵はふん、と鼻を鳴らし、呆れたように、しかしどこか憑き物が落ちたような声で言った。


 「泣く、喚く、飼い主に歯向かう……。嘆かわしい。感情などという不純物が混ざっては、もはや兵器としての強度は期待できん」


 「……あ?」


 「不良品だと言っているんだ。我が鉄壁伯爵家のブランドに傷がつく」


 伯爵は懐からハンカチを取り出し、汚れた手を拭うと、それをポイと地面に捨てた。まるで、未練を断ち切るように。


 「よかろう。……その『廃棄物』は貴様に押し付ける。こちらの処分費用が浮くというものだ」


「「……お父様?」」


 「ギュンター。王宮法務局へ連絡を。これより当該の二名を家系図より抹消、絶縁とする。……我らとは無関係の、ただの『人間』にな。それと、この問題は示談で解決したとな」


 「……!畏まりました。旦那様」


 執事が深く頭を下げる。


 それは「勘当」という名の、貴族社会からの解放宣言だった。道具としての鎖を、伯爵自らが断ち切ったのだ。


 伯爵は執事に支えられ、倒れた巨人からヨロヨロと降りていく。そして去り際、一度だけ足を止め、アタシを睨みつけた。


 「おい、金髪石頭」


 「なんだよ」


 「私が捨てたガラクタだ。……精々、『錆びつかせんよう磨いておくこと』だな」


 それだけ言い捨てると、彼は二度と振り返らなかった。


『錆びつかせんよう磨いておくこと』


 つまり、アタシたちに自分の娘たちを預けるから頼むってことだろ?素直じゃねぇなパパ。


 迎えに来た黒塗りの馬車(予備)へと乗り込む背中は、来た時よりも少しだけ小さく、けれど奇妙なほど晴れやかに見えた。



 【夕暮れ・事務所前】

 巨人の残骸スクラップが転がる庭で、アタシたちはへたり込んでいた。双子が泣きながらアタシの腰にしがみついている。


「うわぁぁぁん!アリスさぁぁん!怖かったよぉぉ!」

「もうダメかと思ったぁぁ!ありがとうぅぅ!」


 アタシは白衣が鼻水で汚れるのを諦め、二人の頭を撫でた。 


「よく言ったな。……合格だ」


「……はぁ。やっと終わった。僕の寿命が10年は縮んだ……」


 ルインが胃薬を瓶ごと飲み干しながら近づいてきた。


「アリス。あの巨人、どうするんだ? 庭にあると邪魔なんだけど。粗大ゴミで出せるサイズじゃないぞ」


「ん?ネネが『住む』って言ってたぞ」


「は?」


 見ると、ネネが巨人の残骸の中に蔦を這わせ、すでに「要塞型・植物園」へのリフォームを開始していた。ポチも中で寛いでいる。


「……鉄と植物の融合。素晴らしい住処。……家賃タダ」


 ルインが白目を剥いて倒れた。


 こうして、鉄壁伯爵家との親子喧嘩は、第四救護団の完全勝利(?)で幕を閉じた。双子は正式に実家と決別し、晴れてアタシたちの「家族」となった。

『面白い!』

『続きが気になるな』


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