第25話 鉄壁の包囲網と、ネネの『歓迎する庭』
【翌朝・第四救護団事務所】
ズズズズズズ……
地鳴りのような重低音が、アタシの幸せな二度寝を無慈悲に妨げた。枕を投げつけたい衝動を抑えていると、ルインが窓の外を見て、この世の終わりのような絶望の悲鳴を上げた。
「き、来た……!完全に包囲されています!もう終わりだ、僕の退職金も!」
アタシが気だるげにあくびをしながらカーテンをシャッと開けると、そこには笑えない、いや一周回って笑える光景が広がっていた。
ピカピカに磨かれた鎧を着た重装歩兵50名。杖を構えた魔導兵10名。そして中央には、城門を突き破るための攻城用兵器「破城槌」まで鎮座している。ここは砦か?いや、ただのボロ事務所だ。
指揮を執るのは、昨日の執事ギュンターだ。モーニング姿で指揮杖を振っている。
「……本気だな、ジジイ。朝から元気なこった」
ギュンターが拡声魔法を使って、朗々とした美声で呼びかけてくる。
『第四救護団に告ぐ。即刻、チコ様とリコ様を引き渡しなさい。抵抗するならば、そのあばら家ごと更地にします。リフォーム代は持ちませんよ』
「ひぃぃ!大砲まである!私たち、粉々になるぅぅ!」
「やっぱり帰ればよかった……!ここは墓場だ!殺される!」
双子がパニックを起こして互いに抱き合い、ガタガタと震えている。アタシは二人の頭をスパーン!とスリッパで軽く叩いた。
「落ち着け。更地にするのは向こうの方だ」
「えっ?」
アタシは白衣の袖をまくり、ニカっと不敵に笑った。
「ここはアタシらの城だ。アポ無しで勝手に入ってくる客には、第四救護団流の『最高のおもてなし』をしてやろうぜ」
アタシはパチンと指を鳴らした。
「ネネ!『庭』の準備はいいか?」
「……うん。昨夜、特製の肥料をたっぷりあげたから、みんなお腹空かせてる」
ネネが不気味にクックッと笑い、窓の外へ向かって何かの種をパラパラとばら撒いた。
【事務所前・前庭】
「突撃せよ!双子様を確保するのだ!建物は壊しても構わん!」
ギュンターの号令で、重装歩兵たちが一斉にウォー!と声を上げて庭へとなだれ込んだ。彼らの鉄のブーツが、手入れのされていない芝生を踏みしめた瞬間――。
ボコォッ!!
地面が爆発したかのように盛り上がり、土の中から無数の触手のような極太のツタが、蛇のように飛び出した。
「な、なんだこれはァ!?」
「草が……巻き付いてくる!剣で切れん!」
ネネが仕込んでおいた、異常な速度で急速成長する変異植物『絡みつく地獄草』だ。
鋼鉄の鎧すらミシミシと音を立てて締め上げるツタが、兵士たちを次々と捕獲し、逆さ吊りにしていく。前衛芸術のような光景だ。
「うわぁぁぁ! 助けてくれぇ! 締め殺される!」
「グルルゥ……!」
さらに、植え込みの陰から、ネネのペットである「元・人食い花」が飛び出し、逆さ吊りになった兵士の頭をガブリと甘噛みする。
「ギャァァ!顔が!顔が溶けるぅ!」
「な、なんだこの庭は! 植物園か!?」
「いいえ、『実験場』だね」
屋根の上から、ネネがジョウロで謎のピンク色の液体を霧のように散布した。それを浴びた植物たちが「キシャァァ!」と叫んでさらに狂暴化し、前庭は一瞬で悲鳴と絶叫がこだまする「緑の地獄」と化した。
【事務所・正面玄関】
「ええい! 庭を迂回しろ! 植物など無視して正面突破だ!」
植物の魔の手を逃れた別動隊が、巨大な破城槌を抱えて玄関ドアに突進してきた。
「開けろォォォ!!」
ドゴォォォォン!!
丸太のような破城槌が、全力の助走をつけてドアに激突する。普通なら蝶番が弾け飛び、ドアが粉砕されて突入成功となるはずだ。
だが――。
ガギィッ!!
ドアは開かなかった。
それどころか、破城槌の方が「何かに押し返されて」止まった。ビクともしない。
「な、なんだ!?何かに引っかかったか?押せ!もっと押すんだ!」
兵士たちが顔を真っ赤にして全力で押すが、ドアはピクリとも動かない。まるで壁だ。
ギギギ……と、ゆっくりと不気味な音を立ててドアが内側から開く。そこに立っていたのは、片手で破城槌の先端を受け止めている、フリルのエプロン姿の巨漢だった。
「あらあら、ノックもなしに入ってくるなんて。お行儀が悪いわねぇ♡ママに教わらなかったのかしら?」
ボーグだ。その太い腕には地図のような血管が浮き上がり、背後には阿修羅のような怒りのオーラが見える。
「ここは神聖な職場への入り口よ。土足厳禁!泥を持ち込まないで!」
フンッ!!
ボーグさんが軽く破城槌を押し返した。たったそれだけの動作で、その馬鹿力により、破城槌を抱えていた兵士たち10人が、ボーリングのピンのようにまとめて後ろへ吹き飛んだ。
「ギャァァァァ!?」
「人間じゃねぇ!ゴリラだ!いやオーガだ!」
【事務所内】
「くそっ、あいつら化け物か!魔導部隊、構え!建物ごと吹き飛ばせ!灰にしてしまえ!」
外でギュンターが冷静さを失って叫んでいる。10人の魔導兵が杖を掲げ、頭上に巨大な炎の球を作り出し始めた。
『集団儀式魔法・爆炎』。
あんなのを食らえば、このボロ事務所はおろか、ブロックごと消し飛ぶ。
「ひぃぃ!魔法が来る!燃やされるぅぅ!」
「終わりだ……熱いのは嫌だ……灰になる……!」
事務所の中で、双子がパニックを起こしてアタシの腰にしがみついてきた。
「アリスさん!逃げましょう!」
「私たちのバリアでも、建物ごとは守れない!範囲が足りないぞ!」
「逃げねぇよ」
アタシは窓をガラリと開け放ち、白衣をなびかせて窓枠に足をかけた。
「おい双子。お前ら、いじめられたらどうする?」
「「えっ? ……逃げます。全力で」」
「違うな……やり返すんだよ。倍にしてな」
アタシは双子の首根っこを左右の手で掴み、窓の外へ身を乗り出した。
「バリア張れ!全力でだ!死ぬ気で怖がれ!」
「えっ、えっ、ここで!?落ちるぅぅ!」
「いいから張れェェェ!」
ブォォォォン!!
双子が絶叫と共に、黄金に輝く『絶対拒絶領域』を展開する。同時に、敵の魔導兵から巨大な火球が発射された。太陽が落ちてきたかのような熱量。
ゴオオオオオッ!!
迫りくる灼熱の塊。
ルインが「アリスーッ!無茶だぁぁぁ!」と絶叫する。
アタシは逃げない。双子のバリアを盾のように構え、火球をギリギリまで引きつけた。
火球がバリアに接触するコンマ一秒前。バリアの角度を絶妙に調整し、さらに全身のバネを使って、バリアごと火球を「殴り返した」
「『魔法攻撃・物理反射・ヘッドバット』ォォォ!!」
カァァァァン!!
金属バットでボールを打ったような、甲高い音が響いた。双子のバリアは、魔法を吸収せず、その絶対的な拒絶性で完璧に弾き返した。しかも、アタシのバカげた打撃力が加わり、倍速で加速して。
「な、なんだとォォ!?」
ギュンターが見開いた目の前で、自分たちが放った倍の大きさの火球が、ご丁寧に「お返し」されて戻ってきた。
ズドォォォォォン!!
敵陣のど真ん中で大爆発が起きた。悲鳴と共に黒服たちが花火のように吹き飛ぶ。
「……ふぅ。ストライク」
腰にしがみついている双子は、口を開けて腰を抜かしている。
「は、跳ね返した……?」
「魔法を……物理で……?理論がおかしい……」
「へっ。言っただろ? お前らは最強の盾だってな」
アタシは双子の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
「さあ、陣形は崩れたぞ!ボーグ、ネネ! 『残飯処理』の時間だ!一匹残らず追い出せ!」
こうして、鉄壁伯爵家の完璧な包囲網は、アタシたちのデタラメで野蛮な防衛戦術によって、音を立てて崩壊した。
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